転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

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第27話:断罪劇

【134】断罪劇(8)

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「嘘よ....嘘よぉぉ!!」

鑑定結果を見たスイ王妃は発狂して、そのまま気を失った。
そして護衛達によって運び出される形で退廷した。

「え....?お父様?」
その結果にショックを受けたのはスイ王妃だけではなかった。
アリーシャ様はフォージー侯爵に答えを求めるように、目を見開いて侯爵を眺めていた。

「母上とフォージー夫人は偶然、同じタイミングで産気づいた。先に産まれた僕を見たフォージー侯爵は、僕とアリーシャ嬢を入れ替える作戦を思いついたのでしょう。僕が第一王子となれば、いずれ王位を継ぐ。そのタイミングで実の親であるとカミングアウトすれば、僕を操って実権を握ることができる、と考えたのではありませんか?」

侯爵は黙ったまま、否定も肯定もしない。

「取り替えられたアリーシャ嬢は、そのままフォージー家の娘として育てられた。人質としてなのか、育てることのできなかった我が子の代わりなのかは、わかりませんが。そして2年後に弟のレックスが生まれたことで、第二の作戦を決行した。それが、アリーシャ嬢をレックスの婚約者にすることです。それによって万が一、僕が王位継承できなかった場合、アリーシャ嬢と結婚しているレックスが王位を継ぐことになる。
つまり、どちらが王位を継いでも実権を握れるようになるのです。」

そこまでして実権を握りたかったの?
侯爵は一体、何を企んでいるの?


「しかし、ここで想定外のことが2つ起きた。
一つ目は、僕がブルッグリン症候群であること。それによって僕が父上と母上の子どもではないと、気づかれてしまうのは時間の問題だった。

そしてもう一つは、カタリーナ嬢が生まれたことです。彼女が生まれるまでは、レックスの婚約者として最も有力だったのはアリーシャ嬢でした。しかし彼女が生まれた以上、レックスの婚約者は必然的にカタリーナ嬢になってしまった。

この事で焦ったフォージー侯爵は、僕が王位を継げないことを見越して、アリーシャ嬢を力ずくでレックスの婚約者にしようと考えたのでしょう。」


だからフォージー侯爵は私を殺そうと躍起になっていたのね。
侯爵は話を聞き終えると、余裕そうに笑い始めた。

「面白い推理ですね、ショーン殿下。先程の話には、一切根拠がありませんよ。それに先程使われた血縁関係特定機ですが、噂によると5%の確率で外れるそうですよ?たまたまショーン殿下の望むような間違った結果が出てしまっただけではないでしょうか?」

「証拠なら揃えてあります。ですが、実際にこの目で確かめる方が納得できるでしょう。先程、血縁関係特定機を使用したところ、フォージー侯爵は魔人・夫人はエルフ、という鑑定結果が出ました。もし違うと仰るのであれば、あなた方の目と耳を、今この場で見せてくださいませんか?」

ショーン殿下の指摘で気づいた。
フォージー侯爵が盲目の家系で、常にアイマスクをつけていたことに。
髪に隠れた夫人の耳を、一度も見たことがないことに。
お二人が亜人だとすれば、納得がいく。

フォージー侯爵と夫人は、大人しく目と耳を見せた。
だけど、そこには目も耳も無かった。

「ショーン殿下。残念ですが私は生まれつき盲目のため、眼球そのものが存在しません。」
「私は幼い頃、魔物に襲われて両耳を失いました。」

絶対、嘘でしょ。
かなり怪しいけど、これじゃあ亜人だと断定できない。
するとショーン殿下は、それを見越していたかのようにクスリと笑った。

「そうですか。でしたら僕が治して差し上げましょう。」
ショーン殿下が取り出したのは、小さな水晶石だった。
アレって、舞踏会の時に売ってたフレイくんの水晶石じゃない?

「この水晶石は『奇跡の水晶石』と呼ばれ、通常の流通ルートには存在しない希少な水晶石です。死んでさえいなければ、ありとあらゆる病気や怪我を治せることから、非常に高額な値段で売買されています。」

アレ、そんなに凄い水晶石だったんだ。
2、3個買っておけば良かった。

「この水晶石を使えば、夫人の失った耳を再生できるでしょう。先天的な病であっても治せるそうなので、侯爵が代々続く盲目の家系であっても、目が見えるようになりますよ。」

それを聞いたフォージー侯爵は狼狽えていたけど、もう遅い。
ショーン殿下が水晶石を使って2人に回復魔法をかけると、亜人特有の目と耳が再生された。

「ご覧ください。これが、血縁関係特定機が正しい証拠です。
彼らはキメイラ帝国の工作員だったのです。彼らは我が国の貴族社会に溶け込みながら、この国を亜人の国にすべく画策していました。彼らが買った亜人奴隷をキメイラ帝国で見たという目撃情報や、15年前のキメイラ帝国の龍脈抑制計画に関与していた証拠も挙がっています。」

フォージー侯爵が奴隷好きだったのも、本当は奴隷になった同胞を救うためにやっていたことだったのね。
だいぶ昔に亜人奴隷を買おうとしていた侯爵に、偉そうに説教したことがあったけど、今思うと恥ずかしいわ。

「そんな彼らだからこそ、この国の実権を握り、第二の亜人の国にしようと画策していたのです。フォージー侯爵、なにか弁明はありますか?」
「....ありません。」

フォージー侯爵はがくりと項垂れて全てを認めた。

「フォージー侯爵の動機は以上です。」
「弁護人、ご苦労様です。お陰で、今回の事件の全貌が明らかになりました。」

裁判長は今回の事件を整理して説明した。

「本件発生のきっかけは、2つの計画が関係していました。
1件目は聖ソラトリク教団とコーキナル公爵による、レックス殿下抹消計画。
そしてもう1件はフォージー侯爵によるカタリーナ嬢暗殺計画。

事前にカタリーナ嬢暗殺計画を知った聖ソラトリク教団とコーキナル公爵は、その計画を利用し、レックス殿下をカタリーナ嬢殺しの犯人に仕立て上げる予定でした。

ですがカタリーナ嬢暗殺計画を知ったのは、彼らだけではありません。
レオン卿とアリーシャ嬢も知っていました。
恐らく2人は両親経由で計画の件を知ってしまったのでしょう。

2人はカタリーナ嬢を救うため、アリーシャ嬢はカタリーナ嬢に成り代わって殺され、レオン卿はカタリーナ嬢を救出しに薬草室へ赴きました。その際、フォージー侯爵を告発する証拠を掴むべく、動画も撮影していたため、これが本件の重要な証拠となりました。

フォージー侯爵の間者は、薬草室にいたアリーシャ嬢をカタリーナ嬢と勘違いし、その場にいたレオン卿もまとめて転生魔術で殺害。
その後、聖ソラトリク教団の工作員であるルイズ氏が薬草室に到着。
現場にハンカクランの香炉を置く・死体にナイフを突き立てる等の偽装工作を行いました。

その後レックス殿下を書庫へ連れてきて、図書管理の役員の手伝いをさせつつ、薬草室へ1人で向かわせました。

しかしレックス殿下が途中でシヴァ氏と合流したことで、当初の計画が狂いました。
シヴァ氏と殿下を引き離そうとするも失敗し、三人で薬草室へ向かうことになります。
ですが薬草室へ到着したところ、たまたまカタリーナ嬢がナイフを握って死体の近くにいたため、急遽カタリーナ嬢を犯人に仕立て上げることになりました。

....以上が、本事件の全体像であるという解釈です。
この内容に異議のある方はいますか?」

裁判長の語った説明に、陪審員も、フォージー侯爵も、コーキナル公爵ですら異議を唱えなかった。

「それでは長くなりましたが、陪審員の意見も一致しましたので、上位貴族令息令嬢殺害事件の被告人に判決を言い渡します。」

裁判長の口から出たのは、当然、無罪判決だった。
私は数日ぶりに、晴れて被疑者ではなくなった。
これも全部、ショーン殿下のお陰ね。

でも、もう『殿下』ではなくなるのかしら。
ショーン殿下のお陰で色んな問題が明るみになった。
けど殿下自身は、亜人な上にフォージー夫妻の実子なのよね。
もしかしたら、それだけでこの国から追放される可能性だってある。

今思えば、殿下が裁判前にほとんど何も教えてくれなかった理由は、殿下自身の出自のせいでしょうね。
もし裁判前にその事が明るみになっていたら、私の弁護人になるどころではなくなっていたわ。
自分が不利になってでもこの事を公表したのは、殿下自身が正義を貫き通したかったから、なのかも。

今回の裁判で気になるのは、それだけじゃないわ。
コーキナル公爵が捕まるってことは、レオンも最悪、平民になるかもしれないのよね。
私のことを助けようとしてくれたのに、そんな結果はあんまりだわ。

アリーシャ様も、今後どう扱われるのかしら。
国王陛下とスイ王妃の娘だったワケだし、やっぱり第一王女として王室に加わるのだろう。
でも侯爵とはいえ亜人に育てられたアリーシャ様が、王妃様やコーキナル派の貴族に受け入れてもらえるのかしら。

私の中では、無罪放免となった清々しさ以上に、今後の行く末に対する懸念のほうが上回っていた。
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