転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

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第27話:断罪劇

【135】断罪劇(9)

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数日後。
あれから色んな人達に対する判決が下った。

まずはショーン殿下。
彼は臣籍降下されたものの、国王直属の秘書官に抜擢された。
この国では基本的に、亜人は奴隷として扱われるか、仮に市民権を持っていても、貴族にはなれないし王宮でも働けない。

だけど今回の件で国王陛下に能力を認められて、異例の大抜擢となった。
まぁ、血は繋がっていないとはいえ、息子に対する情が働いたからっていうのもあるのかも。

ショーン殿下が臣籍降下、ということで必然的にレックス殿下が次期国王になる。
ということは、その婚約者である私も必然的に次期王妃なわけで...。
....はぁ、荷が重いわ。
私に王妃が務まるのかしら。

続いて、聖ソラトリク教団は、事件の煽りを受けて国外へ撤退した。
教会の信者も大幅に減ったみたい。
しかも、それだけには留まらずに、教団を排斥する運動が各地で起こり、教団は出て行かざるを得なくなったらしい。

それからコーキナル公爵は裁判の結果、国外追放になった。
処刑にならないあたり、司法は王族に甘いわよね。
コーキナル家は多額の賠償金を国に支払った上で、子爵に降爵。
平民落ちしなかったのが、不幸中の幸いってところね。
もちろんコーキナル派閥も解体。
公爵が捕まったことが直接の原因だけど、公爵がいなくなったことで派閥がまとまらずに内部分裂して、解体する他なかったらしい。

そういえばレオンは、何で公爵を裏切ってまで私を助けようとしてくれたのかしら?
直接聞いても「ずっとお前が好きだったからだ」と茶化した答えしか返ってこなかった。
しかも「いつか絶対にお前を振り向かせる」とか、冗談が大袈裟すぎて、逆にこっちが恥ずかしくなった。
そのせいでお礼を言いそびれちゃったし、ホント、ヒトを揶揄うのもいい加減にして欲しい。


....あれ?
でも、よく考えれば彼は宮藤くんなのよね。宮藤くんには今まで何度も蘇生してもらっていたから、今更私を助けるなんて、何も不思議じゃないわ。
きっと今回の事件についても、公爵を追及するつもりがなかったのよ。
案外、彼にとっては、いつものように私を助けようとしてくれただけなのかも。

そして、アリーシャ様はやっぱり第一王女として王室に迎え入れられた。
でもあの後1度お会いした時、今までに見たこともない程に陰鬱とした表情をしていた。
そんな表情を見て、今にも消えてしまうのではと心配になった。

.....きっとアリーシャ様があんな表情をされていたのは、今日フォージー夫妻が処刑されるからなのかもしれない。


私は今、学校の友達と一緒にフォージー夫妻の処刑場に来ている。
人を殺す現場なんて悪趣味だし、正直見たくない。
でも、フォージー夫妻には何度もお世話になったし、何より私は一番の被害者だ。
フォージー夫妻の最期に立ち会うのは、一種の使命感によるものが大きい。

処刑場には国王陛下とスイ王妃、それにアリーシャ様もいた。
国王陛下もアリーシャ様も暗い顔をしていたけど、それ以上に見ていられないくらいに憔悴していたのはスイ王妃だった。

つい数ヶ月前までスイ王妃は、艶やかな髪に凛とした表情で、背筋もピシッと伸びて、とても若々しかった。
でも今の王妃様は、真っ白になって艶やかさが無くなった髪に、弱々しく萎んだような表情、背筋も項垂れるように若干曲がっている。
まるで玉手箱を開けてしまったかのように、一気に老けたような印象だった。

よほど、ショーン元殿下とアリーシャ様が入れ替わっていたことがショックだったのね。

そしてとうとう、処刑が始まろうとしていた。
処刑場へと現れたフォージー夫妻は、まるで奴隷のように見窄らしい服を着せられ、頭に布袋を被されていた。
2人が亜人でキメイラ帝国の工作員だったこともあり、彼らに罵声を浴びせたり石を投げたりする見物人が多かった。

なぜかしら。
私は何度も殺されそうになったのに、彼らに対してそういった憎しみがほとんどない。
むしろ今の彼らを憐れむ気持ちすらある。

2人が処刑場の中央に来ると、死刑執行人が彼らの頭の布を外した。
2人の顔を見ていると、パーティや舞踏会で楽しく会話した日々のことを思い出した。
あの日々を懐かしく思う反面、あの日々の裏で私を殺そうとしていたと考えるとゾッとする。

執行人は2人の頭を断頭台に固定する。
もうすぐあの頭が胴体と離れるのかと想像しただけで、吐き気を催しそう。
これで、本当に最後なんだ。

......そう覚悟した時、2人の前に突如、何者かが現れた。
処刑を止めに入ったのは、アリーシャ様だった。
さっきまで罵声したり石を投げたりしていた見物人は、アリーシャ様が出てきた途端、ピタリとそれらを止めた。

アリーシャ様は目を潤ませながら、国王陛下達に向かって土下座をした。


「お願いします、国王陛下!王妃様!
私をお父様達と.....フォージー侯爵達と同様に罰してください。フォージー侯爵達の罪を考えれば、処刑は妥当な判決です。なので許しを乞うことはしません。

ですが2人は、フォージー侯爵は、たとえ血が繋がってなくとも大切なお父様とお母様なのです!
どうかお願いします。私を、お父様達と一緒に死なせてください。お父様達のいない世界で、私だけのうのうと生きたくありません。離れ離れになるくらいなら、お父様達と一緒に処刑にして欲しいのです。」

懇願するアリーシャ様の声は、涙で震えていた。

アリーシャ様からすれば、フォージー夫妻は育ての親とはいえ、実の親と引き離した張本人だ。
それでも今も『お父様達』と慕う気持ちがあることから、いかにフォージー夫妻がアリーシャ様にとって大切な存在だったのかが伝わってくる。

思えばフォージー侯爵も、血の繋がりのないアリーシャ様が殺された時、鬼の形相で怒っていた。
そんなアリーシャ様とフォージー夫妻の行動を見ていると、血の繋がり以上の親子の絆を感じる。

アリーシャ様の必死の懇願に、死刑執行人は戸惑って殺すのを躊躇した。
死刑が執行されないまま、長い沈黙が続いた。

「....質問、よろしいでしょうか?」
その沈黙を破るように口を開いたのは、スイ王妃だった。

「はい。何でしょうか?」
「その娘の行動は、処刑を妨害する行為かと思いますが、彼女の行動は罪にならないのでしょうか?」

「つ、罪、でしょうか?強いていえば....犯人幇助罪に該当すると思われます。」
「でしたら彼女を犯人幇助罪で捕えるべきではありませんか?」

「えぇ?!で、ですがアリーシャ王女殿下は王妃様の....。」
「私の実の娘だと、何か問題があるのですか?それともこの国は、王族であれば罰しないのでしょうか?」
「そ、そのようなことはありません!今すぐに王女殿下をとらえ、起訴します!」

「....ちなみに、彼女が犯人幇助罪となる場合、どのような処分が下されるのでしょうか。」
「犯人幇助罪は庇った犯人の量刑を等分する形となりますので......恐らくは、良くても国外追放かと思われます。」

「量刑を等分、ですか。良かったですね、アリーシャ嬢。貴女の大好きな両親と、同じ罪を背負えるのですから。」
そう言い残すと、スイ王妃は立ち上がってその場から去ってしまった。

スイ王妃は一体、どんな気持ちでアリーシャ様に追及したのかしら。

放心しているかのようなその表情からは、スイ王妃の意図を読み取ることはできなかった。
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