転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

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第28話:世界大戦

【138】世界大戦(2)

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ライトニング領・国境付近。

キメイラ帝国・キョウシュー帝国・ディシュメイン王国の3国の国境が集まる地点を中心に、沢山の兵士たちが戦い、殺し合っていた。
キメイラ帝国が築いていた国境壁はとっくに破壊されていて、そこから外に出て人間を襲う亜人兵士や、逆に中へ入って亜人達を襲う人間の兵士で入り乱れていた。

この戦争を止める方法は、もう考えてある。

俺は厄災の魔王の姿になり、戦地の中心に降り立った。
すると、亜人も人間も関係なく、一斉に俺に注目した。
俺は全世界の奴らに警告するために、魔法で俺の姿と声を世界中に届けた。

「おいおい、楽しそうな祭りが始まっているじゃねえか。この戦争に、俺も混ぜてくれよ。」

そう言って、俺は戦地にいた兵士はもちろん、奥に控えている兵士たちも含めて、どこの国かに関係なく魔法で全員石化した。
この石化の魔法は、石化状態でも見たり聞いたりもできるようしている上に、2~3日で元に戻るように調整している。

「あーあ。情けねぇ。もう誰も動けねぇのかよ。やっぱり、この俺・厄災の魔王と張り合えるのは、伝説の勇者サマしか居ねぇか。

おーい、勇者サマ。聞いているかー?
ここにいる雑魚兵士を元に戻して欲しかったら、俺と勝負しろ。
16年前のリベンジだ。今度こそお前らをぶっ殺してやる。ライトニング領にあるトワイライト山の山頂で待っているからさっさと来い。
でないと、雑魚兵士どもの命はないと思え。
今度こそ、こんな世界、滅ぼしてやるよ!」

勇者サマへの宣戦布告が終わると、俺は全世界へ発信していた魔法を切断した。
これで勇者サマは、俺を殺しにトワイライト山へ来るはずだ。

さっきの宣戦布告で、世界中の奴らは分かったはずだ。
今は戦争をしている場合じゃない、って。
俺を殺さないと、今度こそ本当に世界が滅亡するって、嫌でも気づいたはずだ。

そこで勇者サマが俺を殺せば、人類の敵は消えて、世界は再び平和に戻る。
これが俺が考えた中で最善の方法であり、俺の贖罪でもある。
世界の大半を滅ぼした罪は、世界を救って死ぬことぐらいでしか償えない。
いや、それでも全然足りないくらいだ。

だから俺は殺されるために、勇者サマと戦いに行くことにした。

おっと、その前に戦地で既に死んでいた奴らも蘇生しておくか。
戦地で誰かが殺されたとなったら、それがまた戦争の火種になりかねない。
俺は死んだ奴らを蘇生した上で、兵士達と同じように石化して動けないようにした。

そして俺はトワイライト山の山頂へ移動し、勇者サマ達が来るのを待った。


◆◆◆

トワイライト山・山頂。
子どもの頃、母さんとこの山でよく散歩をしたっけ。
でも山頂に来たのは今日が初めてだ。
そして、今日で最後になる。

今から贖罪のために死ぬのだと考えると、妙な緊張感で全身の血が冷たくなるのを感じた。
死ぬのは今更、怖くない。
だけど、ライトニング家や学校のみんなと過ごした日々を振り返ると、決意が鈍りそうになる。

山頂でしばらく待っていると、勇者サマ達が転移魔術で現れた。
来たのは勇者サマと女格闘家のロイン、それと魔法使いのリファルだった。
3人は来て早々、殺意を込めた渾身の一撃を俺にぶつけようとした。
が、俺は条件反射でそれを避けてしまった。

「おいおい、聖女サマとシヴァはどうした?」
「....お前如きに答える筋合いはない。」
「二人がいなくても、アンタなんか私達で十分よ!」
「今度こそ貴様を、完全に葬る!」
「ハッ!そうかよ。できるもんならやってみな!」

俺は16年前と同じように、爆発魔法をバンバン使って勇者サマ達を攻撃した。
正直、カタリーナの圧縮魔法を3人に対して使えば、一瞬で肩がつく。
でも、それじゃあ駄目だ。
俺が倒されなければ意味がない。
勇者サマ達に手を抜いていることを悟られないように戦うには、昔と同じように戦うのが一番良い。

リファルは最上級の雷魔法・氷結魔法・闇魔法を同時に俺にぶつけてきた。
俺はありったけの爆発魔法で、それらを相殺する。

それに気を取られている間に、ロインは後ろから炎を纏った蹴りを仕掛けてきた。
この蹴り、タクトの火炎連脚かえんれんきゃくに似ている。
そういえばアイツの火炎連脚かえんれんきゃくは、この女から教わったんだっけ?

俺は蹴りを躱したついでに足を掴み、そのままロインを勢いよくリファルに目掛けてぶつける。
それと同時に、視界の端から迫ってきていた勇者サマが、雷と風と炎を纏った剣を、大きく振りかぶって俺に斬りかかった。
その剣を片手で受け止めようとしたが、威力が凄まじく、俺の左手は左腕まで縦に真っ二つになった。

「クッ!」
勇者サマにお返しに爆発魔法を喰らわせようとしたが、俺の攻撃を完全に見切った勇者サマに全て避けられてしまった。

「....どうした、厄災の魔王。俺達を舐めているのか?」
「はぁ?何言ってんだ、勇者サマ。」
「お前の力はその程度じゃないはずだろ。それに16年前に戦った時はもっと.....何というか、殺気が漲っていた。」
コイツ、妙なところで勘がいいじゃねえか。

「そりゃ16年も経ったら誰でも変わるだろ。お前らがジジイとババアになったように、俺だって誰かさんに転生させられたせいで不死身で最強の身体じゃなくなったんだよ。」

「誤魔化すな!お前の本当の目的は何だ?」
「だからさっきも言ったろ。お前らと本気の殺し合いをすることだよ。」

「さっきのがお前の本気なわけがない!それにお前は俺達を蘇生できる程に回復魔法も得意だろ。なのに今もその腕に回復魔法を使わないのは変だ。」
「....はぁ~。」
面倒くさい勇者サマだ。
俺は世界に害をなす魔王なんだから、勇者は勇者らしく、何も考えずに俺を倒せばいいものを。

するとその時、転移魔法で誰かが来るのが見えた。
現れたのは、シヴァと学校のみんな、それにセンガだった。

みんなは俺を見つけるや否や、俺の前まで駆けつけた。
ゼルに至っては、勇者サマ達にあからさまな敵意を向けていた。

「お父さんお母さん、待って!クドージンさんと争わないで!」
「そうだぜ父さん!せめてコイツの話を聞いてからにしてくれよ!」

「....おい、シヴァ。これはどういうことだ?さっき言っていた『用事』というのは、タクト達をここに連れてくることか?」
「えへへ~。ごめんね、ユシャくん達。タクトくん達がここに来たそうだな~って思ったから連れて来ちゃった♪あ、センガちゃんは留守番させるのが心配だから、オマケで連れて来たの♪」

悪びれることなくヘラヘラ笑って答えるその態度に、勇者サマは大きなため息をついた。
こんな時でもシヴァは相変わらずだな。

「おい、クドージン。どうして、あんなことをした?なんで父さん達と戦う必要がある?」
「クドージンさんが、理由もなく世界を滅ぼすなんて言うと思えないよ!きっと、私達の知らない事情があるんだよね?」
「第一、宮藤くんはチートなんだから、あんな宣戦布告なんかしなくても本気出せば世界滅亡なんて朝飯前でしょ?なーんか、らしくないというか...。」

みんなは会って早々、面倒なことを言い出しやがった。
勇者サマもみんなも、余計なこと考えなくてもいいのに。

「お前ら、どいつもコイツも考えすぎだ。俺はただ16年前の続きをしたいだけだ。それ以上でも、以下でもねぇ。」
「そんなの、絶対嘘だよ!じゃあどうしてクドージンさんは今、楽しそうにしていないの?どうして、辛そうなの?」

「....お前のそういうところ、マジでうざい。」

ライラはいつも変なところに拘る。
勝手に俺を信じて、期待して、感謝して。
なんでそこまで俺に好意的に接してくるのかが、わからない。
初めてこの姿で会った時もそうだった。

なんでコイツは、いつも積極的に俺に関わろうとしてくるんだ...?

すると突然、頭上から何かが勢いよく落ちてくるのに気づいた。
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