140 / 145
第28話:世界大戦
【140】世界大戦(4)
しおりを挟む
何でライラに正体がバレた?
「フレイくんが宮藤くんだったなんて、盲点だったわ。」
「でも逆に納得だな。よく考えりゃ、フレイとクドージンの共通点って結構あるし。」
ライラどころか、タクトやカタリーナまで気づいてやがる。
「お前ら、それって...?!」
話しかけようとして、自分の声がフレイに戻っていることに気づいた。
手足の感覚も厄災の魔王の時とは違う。
最悪だ。
変身が解けてしまったんだ。
この吐き気を伴う脱力感はきっと、魔力切れによる症状なのだろう。
「フレイくん、このブレスレットって...!」
ライラは俺の右手を掴んで、まじまじと見つめた。
そういえば、誕生日パーティの前につけて外すのを忘れていた。
「大事に持っててくれたんだね。」
「そんなんじゃねぇよ。今日つけてたのは、たまたまだ。」
みんなから貰った、最初で最後のプレゼント。
クソダサいけど、今更外すのも面倒だ。
それに、つけ心地は悪くない。
「厄災の魔王がこんな身近に転生していたとは。ライトニング公爵は、お前の正体を知っているのか?」
「知ってた。でも、あの人達は関係ねぇ。悪いのは俺だけだ。だから、俺があの人達の家族だって、言わないでくれ。俺があの家の人間だって知られたら、あの人達に迷惑がかかる。」
俺みたいなクズですら家族だと受け入れてくれたあの人達に、最後まで迷惑をかけたくない。
「....わからない。さっきまでのお前の言動は違和感しかなかったが、今のお前の言葉は本音のように思える。
結局、お前は世界を巻き込んで何がしたかったんだ?」
またその質問かよ、勇者サマ。
でも、今はもう疲れて誤魔化す気力も起きない。
「簡単な話だ。伝説の勇者サマが、再び現れた厄災の魔王を討伐して、世界にまた平和が戻る。今、世界中の誰もが望んでいるシナリオを、勇者サマに実現して欲しいんだよ。」
「お前、まさか...俺に殺されるつもりなのか?」
「ふざけんな!そんなの、なんの意味があんだよ!」
「そうだよ!なんでお父さんが、フレイくんを殺さなきゃいけないの?」
「タクトもライラも、ぎゃあぎゃあうるせぇな。後は俺が死ぬだけで、この戦争は終わるんだよ。世界を滅ぼしかけた厄災の魔王がまた復活したとなれば、『厄災の魔王は何度でも蘇って、世界を滅ぼそうとしている』って誰もが思うはずだ。厄災の魔王が何度も蘇るとなれば、いくら国のトップがアホでも、戦争している場合じゃねえって気づくだろ。」
「でもだからって、なんでフレイくんが死なないといけないの?嫌だよ、死んじゃ....。」
「死なねぇと意味ないだろ。これは俺の贖罪なんだからな。」
「贖罪?」
「....俺は、面白半分で龍脈を封印して、世界中の人間を殺した。だから『世界のために俺が死ぬ』くらいのことをしねぇと、罪滅ぼしにならねえだろ。」
「今更罪滅ぼしって、お前そういうガラじゃねえだろ。いい加減冗談はやめろって!」
「ハッ!俺らしくない?だろうな。今までの俺は馬鹿だったから、当たり前のことに気づきもしないで、のうのうと生きてこれた。馬鹿だから、人一人の人生を奪うことの重さも、人を殺したら一生その罪を背負って生きることも、今の今まで気づこうとしなかった。」
「そりゃあ.....お前の場合、仕方ないだろ!お前の前世も、そのまた前世でも、そんなの気付ける環境じゃなかった。むしろお前の置かれた境遇で、誰も殺さずに真っ当に生きるなんざ無理がある。」
「そうだよ!今まで苦しい思いをしてきたんだから、今世くらい幸せに生きてもいいじゃん!それに、龍脈を封印した罰は16年前にお父さん達に倒された時点で受けてるよ。今更贖罪で死ぬなんて、おかしいよ!」
「ハハハハッ!勇者サマの子どもは2人揃ってアホだな!
今までどんな境遇だったかなんて、大勢の人を殺していい理由にはならねぇだろ。百歩譲って、龍脈封印した後にクソみたいな出来事が起こったんだとしたら、それ相応の報いにはなるかもしれねぇけどさ。逆は違うだろ。『今までの過去がクソだった』って、そんな言い訳で龍脈封印して許されるわけがねぇよ。
それに16年前、俺が勇者サマ達から受けた罰とやらで、死の大地にいる人間は生き返ったか?誰も生き返ってないだろ。どれだけ罰を受けようが、俺がしでかしたことは取り返しがつかねぇんだよ。だから俺の罪も、永遠に『無かったこと』にはできねぇよ。
それにな、俺には幸せになる権利なんざ、初めから無かったんだよ。
俺みたいなクズには、優しくて愛情溢れるライトニング家の家族になる権利も、俺の気持ちに本気で向き合ってくれるお前らと友達になる権利も、何もかも初めから無かった。
俺は前世で、その権利を全部捨てたんだよ!
全部。全部、俺の自業自得じゃないか。
アッハハハハ!」
勇者サマ達は口を閉ざし、俺の笑い声だけが周囲に響いた。
「....よくわかった。」
勇者サマは口を開いたかと思うと、再び剣を構えて俺の前に突き立てた。
「待てよ父さん!なんのつもりだ!」
「お父さん、やめて!」
「放せ。これが、厄災の魔王にしてやれる唯一の慈悲だ。」
その通りだ。
だからタクト、ライラ、止めないでくれ。
「コイツを罪から解放するには、殺すしかない。」
「そんなことっ...!」
「せめて来世では、今までの記憶を全部忘れて生きろ。」
勇者サマが剣を高く振り上げて俺の胸に突き刺そうとしたその時、ライラの後ろから何かが勢いよく飛んでくるのが見えた。
「危ないっ!」
俺は咄嗟に、重い身体を無理矢理起こして、ライラを飛んでくるものから庇った。
飛んできたのはクロノ総裁だと気づいた時には、俺の腹に奴の拳が貫通していた。
「やはり、戦闘中に貴方の魔力を分解し続けていて正解でした。こうもあっさり、倒せるとは。」
分解?
よくわからなが、俺の魔力が切れたのはコイツの仕業だったのか。
そんなことを呑気に分析しているうちに、意識が朦朧としてきた。
「嫌っ!フレイくん、死なないで!」
「テメェ!何てことをしやがる!」
俺が再び倒れると、周りの連中が慌ただしく騒ぎ始めた。
これだけ騒いでいたらうるさいはずなのに、なぜか海の中にいる時のように、音が響かず聞こえにくい。
目の前も、寝ぼけている時のように視界がボヤっとする。
あぁ、もう死ぬんだな、俺。
その事実をすんなりと受け入れた俺は、そっと目を閉じて死を迎え入れた。
◆◆◆
「.....んぁ...」
ここは...?
ぼんやりとした意識の中、周りを見渡す。
石の壁に囲われた薄暗い部屋に、質素なベッドが一つ。
そして部屋の一面は鉄格子で覆われている。
どうやら、今いる場所は牢屋らしい。
俺は目が覚める前の出来事を思い出す。
....確か俺、死んだんだっけ?
ってことは、ここは地獄か?
死んで早々、牢屋に入れられるなんて俺らしいな。
俺はこれから、どうなるのだろう。
外の様子を見ながらしばらく待っていると、誰かがこっちに近づいてきているのが見えた。
あれは、まさかアランか?!
なんでここに?
....ってことは、もしかしてここはキメイラ帝国の牢屋か何かか?
じゃあ俺、まだ死んでいなかったのか?
「やっと目が覚めたか、厄災。いや、今はフレイ・ライトニングか。」
アランは牢屋越しに俺の目の前に立って、睨んできた。
コイツも、俺の正体に気づいているのか。
「何でこんなところに?俺は死んだはずじゃなかったのか?」
「貴様はキメイラ軍の医療班の手で一命をとりとめた。とはいえ、キメイラ軍がトワイライト山に着くまで貴様の仲間が応急処置をしていなかったら、命は無かっただろう。お仲間に感謝するんだな。」
応急処置なんざ、しなくても良かったのに。
そう思う反面、みんなが俺を助けようとしてくれたことが嬉しかった。
「キメイラ軍がわざわざトワイライト山まで行って俺を治療するなんざ、どんな魂胆だ?」
「貴様を我々の手で裁く。それだけだ。」
「裁く?処刑でもするつもりか?」
「よく分かっているじゃないか。」
なんだ。結局、俺はこの後死ぬんじゃないか。
勇者サマに殺されるにしろ、キメイラ帝国で処刑されるにしろ、それで戦争が終わって世界が平和になるんだったら、どっちでも良い。
「だけど処刑台に立つのは貴様ではない。ゼル・ポーレイという名の貴様の仲間だ。」
「はぁ?アイツは関係ねぇだろ!」
俺が殺される分には構わないが、無関係の奴を巻き込まれるのは癪だ。
「ゼルは元々、厄災の肉体だった。あの者を処刑すれば、皆が『厄災は死んだ』と錯覚するだろう。それにあの者は不死身だ。処刑しても本当に死ぬことはない。貴様の代わりに処刑することは、あの者も同意している。」
「そんなことしなくても、普通に俺を処刑にすれば良いだろ。ゼルを使ってまで俺を助ける意味がわかんねぇ。」
「助ける?勘違いするな!」
アランは牢屋の扉を開けて中に入ると、何度も俺の腹目掛けて勢いよく蹴りを喰らわした。
「俺が貴様如きを助けるわけがないだろう!父上を殺した、貴様なんかを!」
病み上がりなこともあって、反撃する気力も起きない。
気が収まって蹴るのをやめた後、アランは淡々と理由を話し始めた。
「お前を死なせなかったのは、あんな無意味な贖罪で死に逃げされたくなかったからだ。」
「あぁ?!無意味だ?」
「そうだろ。貴様は貴様自身の命と、龍脈を封印されて死んだ人々の命が同等とでも思っているのか?思い上がるな。貴様の命は蟻より小さく価値がない。貴様が何千回死のうとも、貴様が殺した人々の1人の命にも値しない。」
「....うるせぇ。そんなこと、わかってる。」
「そもそも貴様の罪は、貴様如きがどう足掻こうが、贖罪できるほど軽くはない。」
「わかってる!だったら、どうすれば良いんだよ!今まで通り、何も考えずにのうのうと生きればいいのかよ?」
「そっちの方が100倍マシだ。貴様の謝罪も贖罪もいらない。貴様への罰は、俺達が勝手に決める。お前は一生、俺達の復讐に怯えながら惨めに生き続けろ。」
復讐に怯えながら惨めに生き続けろ、か。
アランの言うことは厳しすぎて泣けてくる。
...また、父さん達やみんなと一緒に生きていけるのか。
ハハハ。俺、全然反省してねぇな。
こんな状況でも『生きたい』と思っているんだから。
俺は、間違いなく大馬鹿野郎だ。
「せいぜい偽りの幸せでも噛み締めてろ。その方が復讐し甲斐がある。」
捨て台詞を残して、アランは牢屋から去った。
それから数日後、厄災の魔王の公開処刑が終わり、俺は秘密裏に釈放されてライトニング領へと帰された。
「フレイくんが宮藤くんだったなんて、盲点だったわ。」
「でも逆に納得だな。よく考えりゃ、フレイとクドージンの共通点って結構あるし。」
ライラどころか、タクトやカタリーナまで気づいてやがる。
「お前ら、それって...?!」
話しかけようとして、自分の声がフレイに戻っていることに気づいた。
手足の感覚も厄災の魔王の時とは違う。
最悪だ。
変身が解けてしまったんだ。
この吐き気を伴う脱力感はきっと、魔力切れによる症状なのだろう。
「フレイくん、このブレスレットって...!」
ライラは俺の右手を掴んで、まじまじと見つめた。
そういえば、誕生日パーティの前につけて外すのを忘れていた。
「大事に持っててくれたんだね。」
「そんなんじゃねぇよ。今日つけてたのは、たまたまだ。」
みんなから貰った、最初で最後のプレゼント。
クソダサいけど、今更外すのも面倒だ。
それに、つけ心地は悪くない。
「厄災の魔王がこんな身近に転生していたとは。ライトニング公爵は、お前の正体を知っているのか?」
「知ってた。でも、あの人達は関係ねぇ。悪いのは俺だけだ。だから、俺があの人達の家族だって、言わないでくれ。俺があの家の人間だって知られたら、あの人達に迷惑がかかる。」
俺みたいなクズですら家族だと受け入れてくれたあの人達に、最後まで迷惑をかけたくない。
「....わからない。さっきまでのお前の言動は違和感しかなかったが、今のお前の言葉は本音のように思える。
結局、お前は世界を巻き込んで何がしたかったんだ?」
またその質問かよ、勇者サマ。
でも、今はもう疲れて誤魔化す気力も起きない。
「簡単な話だ。伝説の勇者サマが、再び現れた厄災の魔王を討伐して、世界にまた平和が戻る。今、世界中の誰もが望んでいるシナリオを、勇者サマに実現して欲しいんだよ。」
「お前、まさか...俺に殺されるつもりなのか?」
「ふざけんな!そんなの、なんの意味があんだよ!」
「そうだよ!なんでお父さんが、フレイくんを殺さなきゃいけないの?」
「タクトもライラも、ぎゃあぎゃあうるせぇな。後は俺が死ぬだけで、この戦争は終わるんだよ。世界を滅ぼしかけた厄災の魔王がまた復活したとなれば、『厄災の魔王は何度でも蘇って、世界を滅ぼそうとしている』って誰もが思うはずだ。厄災の魔王が何度も蘇るとなれば、いくら国のトップがアホでも、戦争している場合じゃねえって気づくだろ。」
「でもだからって、なんでフレイくんが死なないといけないの?嫌だよ、死んじゃ....。」
「死なねぇと意味ないだろ。これは俺の贖罪なんだからな。」
「贖罪?」
「....俺は、面白半分で龍脈を封印して、世界中の人間を殺した。だから『世界のために俺が死ぬ』くらいのことをしねぇと、罪滅ぼしにならねえだろ。」
「今更罪滅ぼしって、お前そういうガラじゃねえだろ。いい加減冗談はやめろって!」
「ハッ!俺らしくない?だろうな。今までの俺は馬鹿だったから、当たり前のことに気づきもしないで、のうのうと生きてこれた。馬鹿だから、人一人の人生を奪うことの重さも、人を殺したら一生その罪を背負って生きることも、今の今まで気づこうとしなかった。」
「そりゃあ.....お前の場合、仕方ないだろ!お前の前世も、そのまた前世でも、そんなの気付ける環境じゃなかった。むしろお前の置かれた境遇で、誰も殺さずに真っ当に生きるなんざ無理がある。」
「そうだよ!今まで苦しい思いをしてきたんだから、今世くらい幸せに生きてもいいじゃん!それに、龍脈を封印した罰は16年前にお父さん達に倒された時点で受けてるよ。今更贖罪で死ぬなんて、おかしいよ!」
「ハハハハッ!勇者サマの子どもは2人揃ってアホだな!
今までどんな境遇だったかなんて、大勢の人を殺していい理由にはならねぇだろ。百歩譲って、龍脈封印した後にクソみたいな出来事が起こったんだとしたら、それ相応の報いにはなるかもしれねぇけどさ。逆は違うだろ。『今までの過去がクソだった』って、そんな言い訳で龍脈封印して許されるわけがねぇよ。
それに16年前、俺が勇者サマ達から受けた罰とやらで、死の大地にいる人間は生き返ったか?誰も生き返ってないだろ。どれだけ罰を受けようが、俺がしでかしたことは取り返しがつかねぇんだよ。だから俺の罪も、永遠に『無かったこと』にはできねぇよ。
それにな、俺には幸せになる権利なんざ、初めから無かったんだよ。
俺みたいなクズには、優しくて愛情溢れるライトニング家の家族になる権利も、俺の気持ちに本気で向き合ってくれるお前らと友達になる権利も、何もかも初めから無かった。
俺は前世で、その権利を全部捨てたんだよ!
全部。全部、俺の自業自得じゃないか。
アッハハハハ!」
勇者サマ達は口を閉ざし、俺の笑い声だけが周囲に響いた。
「....よくわかった。」
勇者サマは口を開いたかと思うと、再び剣を構えて俺の前に突き立てた。
「待てよ父さん!なんのつもりだ!」
「お父さん、やめて!」
「放せ。これが、厄災の魔王にしてやれる唯一の慈悲だ。」
その通りだ。
だからタクト、ライラ、止めないでくれ。
「コイツを罪から解放するには、殺すしかない。」
「そんなことっ...!」
「せめて来世では、今までの記憶を全部忘れて生きろ。」
勇者サマが剣を高く振り上げて俺の胸に突き刺そうとしたその時、ライラの後ろから何かが勢いよく飛んでくるのが見えた。
「危ないっ!」
俺は咄嗟に、重い身体を無理矢理起こして、ライラを飛んでくるものから庇った。
飛んできたのはクロノ総裁だと気づいた時には、俺の腹に奴の拳が貫通していた。
「やはり、戦闘中に貴方の魔力を分解し続けていて正解でした。こうもあっさり、倒せるとは。」
分解?
よくわからなが、俺の魔力が切れたのはコイツの仕業だったのか。
そんなことを呑気に分析しているうちに、意識が朦朧としてきた。
「嫌っ!フレイくん、死なないで!」
「テメェ!何てことをしやがる!」
俺が再び倒れると、周りの連中が慌ただしく騒ぎ始めた。
これだけ騒いでいたらうるさいはずなのに、なぜか海の中にいる時のように、音が響かず聞こえにくい。
目の前も、寝ぼけている時のように視界がボヤっとする。
あぁ、もう死ぬんだな、俺。
その事実をすんなりと受け入れた俺は、そっと目を閉じて死を迎え入れた。
◆◆◆
「.....んぁ...」
ここは...?
ぼんやりとした意識の中、周りを見渡す。
石の壁に囲われた薄暗い部屋に、質素なベッドが一つ。
そして部屋の一面は鉄格子で覆われている。
どうやら、今いる場所は牢屋らしい。
俺は目が覚める前の出来事を思い出す。
....確か俺、死んだんだっけ?
ってことは、ここは地獄か?
死んで早々、牢屋に入れられるなんて俺らしいな。
俺はこれから、どうなるのだろう。
外の様子を見ながらしばらく待っていると、誰かがこっちに近づいてきているのが見えた。
あれは、まさかアランか?!
なんでここに?
....ってことは、もしかしてここはキメイラ帝国の牢屋か何かか?
じゃあ俺、まだ死んでいなかったのか?
「やっと目が覚めたか、厄災。いや、今はフレイ・ライトニングか。」
アランは牢屋越しに俺の目の前に立って、睨んできた。
コイツも、俺の正体に気づいているのか。
「何でこんなところに?俺は死んだはずじゃなかったのか?」
「貴様はキメイラ軍の医療班の手で一命をとりとめた。とはいえ、キメイラ軍がトワイライト山に着くまで貴様の仲間が応急処置をしていなかったら、命は無かっただろう。お仲間に感謝するんだな。」
応急処置なんざ、しなくても良かったのに。
そう思う反面、みんなが俺を助けようとしてくれたことが嬉しかった。
「キメイラ軍がわざわざトワイライト山まで行って俺を治療するなんざ、どんな魂胆だ?」
「貴様を我々の手で裁く。それだけだ。」
「裁く?処刑でもするつもりか?」
「よく分かっているじゃないか。」
なんだ。結局、俺はこの後死ぬんじゃないか。
勇者サマに殺されるにしろ、キメイラ帝国で処刑されるにしろ、それで戦争が終わって世界が平和になるんだったら、どっちでも良い。
「だけど処刑台に立つのは貴様ではない。ゼル・ポーレイという名の貴様の仲間だ。」
「はぁ?アイツは関係ねぇだろ!」
俺が殺される分には構わないが、無関係の奴を巻き込まれるのは癪だ。
「ゼルは元々、厄災の肉体だった。あの者を処刑すれば、皆が『厄災は死んだ』と錯覚するだろう。それにあの者は不死身だ。処刑しても本当に死ぬことはない。貴様の代わりに処刑することは、あの者も同意している。」
「そんなことしなくても、普通に俺を処刑にすれば良いだろ。ゼルを使ってまで俺を助ける意味がわかんねぇ。」
「助ける?勘違いするな!」
アランは牢屋の扉を開けて中に入ると、何度も俺の腹目掛けて勢いよく蹴りを喰らわした。
「俺が貴様如きを助けるわけがないだろう!父上を殺した、貴様なんかを!」
病み上がりなこともあって、反撃する気力も起きない。
気が収まって蹴るのをやめた後、アランは淡々と理由を話し始めた。
「お前を死なせなかったのは、あんな無意味な贖罪で死に逃げされたくなかったからだ。」
「あぁ?!無意味だ?」
「そうだろ。貴様は貴様自身の命と、龍脈を封印されて死んだ人々の命が同等とでも思っているのか?思い上がるな。貴様の命は蟻より小さく価値がない。貴様が何千回死のうとも、貴様が殺した人々の1人の命にも値しない。」
「....うるせぇ。そんなこと、わかってる。」
「そもそも貴様の罪は、貴様如きがどう足掻こうが、贖罪できるほど軽くはない。」
「わかってる!だったら、どうすれば良いんだよ!今まで通り、何も考えずにのうのうと生きればいいのかよ?」
「そっちの方が100倍マシだ。貴様の謝罪も贖罪もいらない。貴様への罰は、俺達が勝手に決める。お前は一生、俺達の復讐に怯えながら惨めに生き続けろ。」
復讐に怯えながら惨めに生き続けろ、か。
アランの言うことは厳しすぎて泣けてくる。
...また、父さん達やみんなと一緒に生きていけるのか。
ハハハ。俺、全然反省してねぇな。
こんな状況でも『生きたい』と思っているんだから。
俺は、間違いなく大馬鹿野郎だ。
「せいぜい偽りの幸せでも噛み締めてろ。その方が復讐し甲斐がある。」
捨て台詞を残して、アランは牢屋から去った。
それから数日後、厄災の魔王の公開処刑が終わり、俺は秘密裏に釈放されてライトニング領へと帰された。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました
Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる