転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

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最終話:龍脈復活

【143】龍脈復活(2)

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ホリーに案内されて乗ったのは、ワゴン車のような縦長で四角い車だった。
車の中には着ぐるみかと思うくらいにゴツい衣装が置いてある。
その衣装は背中に太い管のようなものが繋がっているから、きっとホリーが言っていたのはこの服のことだろう。

「こっちの白い服がフレイくん用で、グレーの服が僕達が着る服だよ。服の背中に繋がっている管が痛むと、最悪僕達が死ぬから気をつけてね。」

「俺には何か影響は出るのか?」
「フレイくんは大丈夫だよ。最悪、この時期がズタボロになってもフレイくんから魔力を供給できなくなるだけで、身体に影響はないから安心して。」

「俺はともかく、よくお前らそんなリスクを負って死の大地に行けるな。」

「飛行機だって墜落するリスクはあるし、船だって沈没する可能性はあるけど、皆乗るでしょ?それと同じだよ。それにもし僕らが死にそうになっても、フレイくんが助けてくれるから、より安心だね。」

「俺をあてにする気かよ。」
「違うよ。フレイくんを信じているんだよ。」
ものは言いようだな。

俺達3人は服を着て車に乗ると、死の大地へと進み出した。
運転はミラがするようだ。

「やはり君の魔力量は凄いね。想像以上だ。これなら最高速度マッハ100で移動しても3日間以上持つよ。」
「だったら、さっさとやること終わらせようぜ。」

ミラがアクセルを踏むと、車は勢いよく空に向かって飛んだ。
車は空中に浮いた状態で、目にも止まらぬ速さで真っ直ぐ移動する。

「おいホリー!これ車じゃなかったのかよ!」
「車だよ。空飛ぶ車!」
ミラはマッハ100で真っ直ぐ移動すると、1分も経たないうちに龍脈へと辿り着いた。

「じゃあ、ちょっと龍脈を解放してくるよ。」
そう言ってミラは車から降りると、キメイラ帝国が設置したであろう龍脈抑制装置らしきものをいじり始めた。

「よし。これで、ここの龍脈は復活した。」
龍脈を復活させると、今度はワゴンに積んであった機材を取り出し、龍脈付近に組み立てた。
ミラが機材を組み立て終えると、それらは一瞬で視認できなくなった。
きっとコレが異界穴を開ける装置なんだろう。

「ここの龍脈は、僕の世界とも君達の世界とも繋がらないみたいだ。」
「ちょっと待て。それじゃあ、さっき取り付けた機材は何だったんだ?てっきり異界穴を開ける装置だと思っていたが?」

「フレイくんの言う通り、アレは異界穴に関係する装置だよ。」
「ダイフクが『異界穴は開けても、元の世界に戻るのは死んでからにして欲しい』だとか無茶なリクエストをしてきたから、それに応えるためにあの装置を置いているのさ。」

「あの装置は定期的にこの世界を彷徨っている魂をチェックして、この世界の魂かどうかを判断するんだ。で、この世界の魂でない場合、どの世界の魂かを判断した後、その世界の異界穴が開く龍脈へと転送されるんだ。そして異界穴を開いたタイミングで、転送された魂を元の世界に帰す仕組みになっているんだよ。

ちなみに、ここの龍脈は僕達やソラさん達の世界と繋がらないみたいだから、異界穴は開けない予定だよ。」

「手の込んだ仕組みだな。」
「全くだ。異界穴が開いた時点で素直に元の世界へ帰れば、ここまで面倒なものを作らなくて済んだものを。とりあえず、次だ次。」

その後、俺達は同じ要領で他の龍脈も復活させていった。

「よし。ここで最後だ。」
ミラは異界穴の装置をつけ終えると、感無量の表情で車と繋がっていた服を脱いだ。

その服を脱いでも死なない、ということは、もうこの辺も龍脈から出る魔力で満たされている証拠だ。
俺とホリーも、脱いで外の空気を吸う。
清々しい気分だ。

「お疲れ様。ソラさんのおかげで龍脈も異界穴の問題も解決したよ。ありがとう。フレイくんも、龍脈を復活させるのに協力してくれてありがとうね。」

「礼はいらねぇよ。元々龍脈を封印してしまったのは俺なんだし、むしろやって当然のことをしただけだ。」

「全くその通りだね。」
相変わらずクソ女は一言多くて、ぶん殴りたくなる。

「とりあえず、ダイフクには感謝するよ。君のお陰で元の世界へ帰れそうだ。今までありがとう。」

「はは、滅多にお礼とか言わないソラさんに、素直にお礼を言われると嬉しいね。とりあえずの目標は達成したけど、これからもダイフク商会の研究員として働いてくれて良いからね。」

「そのつもりはないよ。もうすぐ僕は、元の世界に帰るしね。」

「えっ?それって、どういうこと?」

「そのままの意味だよ。この世界への置き土産が無事に完遂したら、そのまま元の世界に帰るつもりだ。」

「そんな話、聞いてないよ!今世くらいはこの世界にいてくれると思ったのに。それに、帰るにしても事前に言ってくれたらお別れ会とかできたのにさ。」

「フフ、僕みたいな変わり者にそんなことを言ってくれるのはシヴァとダイフクくらいだ。」
だろうな。
むしろ俺は、さっさと元の世界に帰って二度と戻ってくるなとすら思っている。

「おいミラ。ところで置き土産とやらは一体何のことだ?」

「あぁ、それなら今発動中だよ。簡潔に言うと、この世界を僕達がいた世界と同じにするんだ。」

「はぁ?何言ってやがる?」

「僕達がいた世界は、差別も貧困も奴隷も存在しない、誰もが幸せになれる素晴らしい世界だったんだ。

だから、この世界に転移した時は驚いたよ。旧時代の差別や奴隷って、こんなにも惨めで辛い気持ちだったんだって。旧時代にはどうして貧富の差があったのかも、身をもって知った。
正直、酷い目に遭うことの方が多かったけど、僕のいた世界では学べないことも沢山あった。
それに、この世界には何だかんだで1万年近くお世話になった。

そのお礼に、この世界を僕達の世界みたいに皆が幸せになれる世界へ作り変えてあげようと思ったわけだよ。」

「世界を作り変えるって、どうやって?人とか建物とか、国とかは、どうなっちゃうの?」

「もちろん、今あるものは一旦全て無になるよ。建物も国も全て無くした上で新しく作られるし、今いる人々も一旦消された上で、新しく生まれ変わる。その時、当然人々の記憶もリセットするよ。今の旧時代の価値観を新世界に引き継いでしまったら、それが差別の温床になるかもしれないからね。」

「はぁ?!...テメェ、それどういう意味か分かってて言ってんのか!」

「どういう意味も何も、さっき説明した通りだよ。それとも、もう一回説明した方がいい?」

「ふざけんな!テメェの都合で勝手にこの世界の奴らを殺すんじゃねえよ!」
俺はミラの胸ぐらを掴むと、ミラは大きなため息をついた。

「もしかして邪魔するつもり?君、面倒臭いね。」
すると突然、足元に魔法陣が浮かび上がった。
間一髪で避けると、ミラは小さく舌打ちをした。

「あーあ。今の、避けちゃうか。」

「ソラさん、今フレイくんに何をしようとしたの!?」
「シンプルな即死魔術だよ。邪魔する気なら、即死魔術でさっさとこの世界から退場してもらおうと思ってね。」

「....ソラさんの気持ちはよく分かったよ。ところで、この世界を作り変えるって、具体的にどんな魔術とか装置とかを使って実行するつもりなの?」

「簡単なことさ。さっき龍脈抑制装置をいじった時、ついでに僕の世界を参考に世界を作り変える術式を組み込んでおいたのさ。龍脈のエネルギーを使って実行するから、あまり時間はかからないと思うよ。世界が置き換わるまでにかかる時間は、せいぜい30分くらいかな?」

「フレイくん、今の聞いた?止めるには龍脈の抑制装置を壊せば良いみたいだよ!」
「わかった!」

俺は龍脈抑制装置を壊そうと近づくと、ミラが魔術で俺を拘束してきた。

「やれやれ、ダイフクも邪魔する気?だったら仕方ないね。」
するとホリーの足元に魔術が浮き上がって。
これはさっき俺を殺そうとした即死魔術じゃないか!

「クソッ!」
俺は咄嗟に、ホリーを魔法でドーワ侯国へ帰した。
これでミラもホリーを殺せないだろう。

「あっ。逃げられた。」
ミラが呆気に取られている隙に拘束魔術を解いて、魔法で身体能力を最大まで上げて龍脈抑制装置に近づく。

「全く、君も懲りないね。」
そんな俺に、ミラは魔術で全方向から無数の針を出して、全身を貫いた。

まずい。
ここで死んだらコイツを止められない。
その時、俺はふと前世で不死身の肉体にしたことを思い出した。
ここなら龍脈の近くだし、成功するはずだ。
俺は魔法で自分の身体を不死身にした。

「仕方ない。面倒な魔法を使ってこられる前に、先手を打つか。」
ミラがまた妙な魔術を四方八方から出し、俺は全てを回避することはできず喰らってしまった。

「あぁ!もうウゼェ!お前いっぺん死んでろよ!」
俺は魔法でミラを圧縮して殺そうとした。
だけど魔法が使えない。
なぜだ?!

「さっきの魔術で、君をしばらく魔法が使えないようにしたよ。」
「チッ!」
俺の疑問を見透かしたように答えるミラに、余計に苛立つ。

だったら力づくで止めてやる。
ミラはひたすら俺に魔術で攻撃を仕掛け、俺はそれを力技で跳ね除けながら龍脈抑制装置に近づく。

「君はなぜそこまで反対する?君だってこの世界で散々、理不尽な目に遭ったはずじゃないか。」

「確かにそうだな。でも、俺はそれでもこの世界で、まだまだ生きたいんだよ!お前の独りよがりな理想に付き合ってられるか!」

「だったら君の魂だけ、死後もこの世界に居続けられるように設定し直すよ。それで良いだろ?」

「よくねーよ!お前がこの世界を作り変えたら、今いる人間も、国も、何もかも無くなるんだろ?それじゃあ意味ねえよ!」

「だけど作り変えた後の世界だと、来世も、そのまた来世も幸せを享受できる。たった一回の死を受け入れるだけで、幸福な人生が未来永劫続くんだよ?それのどこが悪いんだい?」

「未来永劫幸福だぁ?聞こえのいいこと言ってるけど、お前の理想論には致命的な欠点があるんだよ?」

「欠点?」

「記憶を消して、全く別の世界で、別の人間として生きる?それ、もはや俺じゃねーよ!魂だけが同じの赤の他人だ!俺は、赤の他人の幸福じゃなくて、今の俺自身が幸せになりてぇんだよ!」

「それこそ不可能だ。君はどう足掻いても幸せになんかなれない。君の価値観は最早一般社会に溶け込むのが不可能な程に歪んでしまっているし、君のような人を受け入れられる人間もほぼいない。それに第一、世界の大半を滅ぼした罪を背負っている時点で、幸せになれない人生は確定している。」

「ンなもん、生きてみねぇとわかんねぇだろ!」

「....これだから感情論で語る馬鹿は嫌いだ。」

ミラに足止めを喰らっていたが、もうすぐ龍脈抑制装置に辿り着く。
これでようやく装置をぶっ壊せる。
そんな俺を止めようと、あらゆる魔術を使って対抗してくるが無駄だ。
不死身になった俺に効くはずがない。

「そこまで言うなら、証明してみせてよ。君が幸せになれるって。」
「はぁ?」

すると突然、急激な睡魔に襲われた。

そうか、ミラのやつ永久睡眠エターナルスリープをかけやがったか。
こんな魔術、無駄だ。
過去にシヴァに何度もかけられたが、自力で起きれたからな。
今回もさっさと起きて、ミラを止めてやる。

そう決意しながら、俺は深い眠りについた。
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