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あの方にそっくり
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僕を抱き抱えて助けてくれたフィーネ様は、ゆっくりと僕を下ろした。
「カィ……お嬢さん、お怪我はありませんか?」
「はい。フィーネ様のおかげで無事です。ありがとうございます」
一瞬、名前を呼ばれたように感じたけど、気のせいかな?
何はともあれ、フィーネ様とレディーナ様が早速来てくれて良かった。
「貴方はここから逃げてください。悪魔憑きは、私達が倒します」
彼女は悪魔憑きとなったロックくんを睨みつけながら、僕を庇うように手を広げた。
『逃げろ』と言われても、ロックくんに男に戻してもらわないといけないから離れられない。
どうやって戻してもらおうか考えていると、ふとフィーネ様の腕が震えているのに気がついた。
「フィーネ様、どうしましたか?」
彼女の顔を覗くと、初めて悪魔憑きと戦った時のように顔から血の気が引いていた。
「もしかして…怖いのですか?」
すると僕の言葉に反応してビクリと動いた後、凍ったように固まった。
どうやら図星のようだけど、彼女は一体、何に怖がっているのだろう?
「フィーネフィーネ~♪ 会いたかったよマイ・スウィート・レディー!」
ロックくんに叩きつけられたレディーナ様は、いつの間にか起き上がっていたようだ。
フィーネ様に気づいた彼女は、固まっている彼女に強く抱きついた。
「フィーネ、気をつけて! アイツの出す潮にかかると、男にされちゃうから!」
「え、えぇ。わかったわ」
「…ん? どうしたの?」
レディーナ様もフィーネ様が怯えているのを察して、心配そうに顔を見つめる。
「ごめんなさい、レディーナ。実は、その……」
フィーネ様は躊躇うように言いあぐねていると、やがて意を決したように話し始めた。
「私、実は…泳げないの!」
まさかフィーネ様も!?
ユミル兄上といい、ジュリー嬢といい、泳げない人って結構いるんだ。
「だから、湖に入るのが怖くて…怖くて……」
「なーんだ! そういうことか! だったらここは私に任せて! アイツは私一人で充分だから!」
レディーナ様は自信満々に言い切ると、ロックくんに向かって飛びかかった。
だけどロックくんは、飛んできたレディーナ様を大きな口で湖水と一緒に丸呑みし、湖の奥の方へと泳いでいってしまった。
「そんな…レディーナ!」
これは、いよいよマズイぞ。
レディーナ様も僕も戦えない今、戦えるのはフィーネ様しかいない。
だけど肝心のフィーネ様が泳げないとなると、ロックくんを止められる人が誰もいない。
「…行かないと!」
フィーネ様は自分に言い聞かせるように、何度もそう言っているものの、足は一歩も動いていない。
そんな彼女を見ていると、初めて会った時のことを思い出した。
あの日、彼女は初めて賢者として戦おうとしていたけど、悪魔憑きに怯えて動けなくなっていた。
それが今では、当時の彼女からは想像できないくらい果敢に立ち向かっているのだから不思議だ。
「フィーネ様!」
僕は強引に手を掴むと、彼女の目をじっと見つめる。彼女は戸惑いながらも、僕と目を合わせた。
「とりあえず、深呼吸して」
言われるがままに深呼吸をした彼女は、少しだけ表情が柔らかくなった。
「フィーネ様、誰にだって怖くて動けなくなることはあります。それは仕方のないことです。なので自分を責めないでください。そういう時は無理せず、仲間に頼ればいいのです。フィーネ様は一人ではありません」
すると彼女は目が点になり、呆然と僕を見つめた。
「…ですが、そうは言っていられません! レディーナが戦闘不能でウイン様も来れない以上、私しか悪魔憑きを倒せないのですから」
こういうところは、初めて会った時と変わらないな。
「だったら僕が、悪魔憑きを岸まで誘き寄せます。そしたらフィーネ様でも戦えるはずです」
「いけません! なんの力もない一般人が、悪魔憑きに近づくのは危険すぎます」
「確かに、僕は頼りにならないかもしれません。それでも貴女を守りたいのです。それに、貴女ならきっと戦いにきてくれると信じていますし」
するとフィーネ様は一瞬、言葉を失った後、さっきまでの緊張が嘘のように思えるくらいの朗らかな笑みを浮かべた。
「フフフ。貴方の言葉は、まるであの方にそっくりですね」
「あの方?」
僕と同じように彼女を励ました人が、他にもいたのか。
「あの方も、初めて悪魔憑きと戦う時に、そう言ってくださりました。自分だって初陣なのに、一人で戦うと言ってくださいました。いつか私が戦えるようになると信じて」
そうか、思い出した。
彼女が言っているのはウインのことだ。
あの時は正直、僕も怖かったけれど、僕以上に怖がっている彼女を見て冷静になれたのは覚えている。
「今の貴方はあの方に似ていて、思わず惚れてしまいそうでした」
「ははは、惚れそうだなんて大袈裟ですね」
「いいえ。本当に、順番が違えば惚れていたかもしれません。だって私は、あの方のことが…」
それ以上の言葉は出てこなかったが、言わなくても伝わった。
と同時に、照れ臭さが入り混じったような緊張感が僕の中に湧き上がった。
まさか彼女が、本当に僕のことが好きだったなんて。
前まで恥ずかしそうにしていたのは、てっきり悪魔憑きの能力のせいだと思っていたけど…理由はそれだけじゃなかったんだ。
「それより! 貴方が励ましてくださったお陰で、少しは怖くなくなりました。…そうよ。水中の生物なんて、みんな悪魔憑きだと思えばいいのよ!」
水中の生き物が悪魔憑きだったら、尚更恐ろしいのでは?
だけど彼女がそれで怖くなくなるのだったら、それでいいか。
フィーネ様は恐る恐る湖に入る。
最初は身を縮こませながら目をギュッと瞑っていたけど、徐々に身体中の力が抜けていき、目をそっと開いた。
「……入れる。私、入れるわ!」
彼女はまるで無邪気な子供のように、どんどん湖の奥の方まで行って泳ぎ始めた。
「なんで私、あんなに怯えていたのかしら? 泳ぐのって、最高だわ!」
彼女は少し泳いだ後、再び僕のそばに来て話しだした。
「ありがとうございます。貴方のおかげで、なんとかなりそうです。だから貴方は、ここにいてください。悪魔憑きは私が倒しに行きますから」
そう言い残して、彼女は悪魔憑きのいる湖の奥へと泳いでいった。
僕が男に戻るのに、そう時間はかからなかった。
(まさか、フィーネにまで好かれているなんてなぁ~。モテる男は辛いねぇ~)
(茶化さないでよ、グーリン様)
フィーネ様には悪いけど、僕には好きな人がいる。
だから、その気持ちには応えられない。
……せめて、惚れてくれたのがジュリー嬢だったらなぁ。
「カィ……お嬢さん、お怪我はありませんか?」
「はい。フィーネ様のおかげで無事です。ありがとうございます」
一瞬、名前を呼ばれたように感じたけど、気のせいかな?
何はともあれ、フィーネ様とレディーナ様が早速来てくれて良かった。
「貴方はここから逃げてください。悪魔憑きは、私達が倒します」
彼女は悪魔憑きとなったロックくんを睨みつけながら、僕を庇うように手を広げた。
『逃げろ』と言われても、ロックくんに男に戻してもらわないといけないから離れられない。
どうやって戻してもらおうか考えていると、ふとフィーネ様の腕が震えているのに気がついた。
「フィーネ様、どうしましたか?」
彼女の顔を覗くと、初めて悪魔憑きと戦った時のように顔から血の気が引いていた。
「もしかして…怖いのですか?」
すると僕の言葉に反応してビクリと動いた後、凍ったように固まった。
どうやら図星のようだけど、彼女は一体、何に怖がっているのだろう?
「フィーネフィーネ~♪ 会いたかったよマイ・スウィート・レディー!」
ロックくんに叩きつけられたレディーナ様は、いつの間にか起き上がっていたようだ。
フィーネ様に気づいた彼女は、固まっている彼女に強く抱きついた。
「フィーネ、気をつけて! アイツの出す潮にかかると、男にされちゃうから!」
「え、えぇ。わかったわ」
「…ん? どうしたの?」
レディーナ様もフィーネ様が怯えているのを察して、心配そうに顔を見つめる。
「ごめんなさい、レディーナ。実は、その……」
フィーネ様は躊躇うように言いあぐねていると、やがて意を決したように話し始めた。
「私、実は…泳げないの!」
まさかフィーネ様も!?
ユミル兄上といい、ジュリー嬢といい、泳げない人って結構いるんだ。
「だから、湖に入るのが怖くて…怖くて……」
「なーんだ! そういうことか! だったらここは私に任せて! アイツは私一人で充分だから!」
レディーナ様は自信満々に言い切ると、ロックくんに向かって飛びかかった。
だけどロックくんは、飛んできたレディーナ様を大きな口で湖水と一緒に丸呑みし、湖の奥の方へと泳いでいってしまった。
「そんな…レディーナ!」
これは、いよいよマズイぞ。
レディーナ様も僕も戦えない今、戦えるのはフィーネ様しかいない。
だけど肝心のフィーネ様が泳げないとなると、ロックくんを止められる人が誰もいない。
「…行かないと!」
フィーネ様は自分に言い聞かせるように、何度もそう言っているものの、足は一歩も動いていない。
そんな彼女を見ていると、初めて会った時のことを思い出した。
あの日、彼女は初めて賢者として戦おうとしていたけど、悪魔憑きに怯えて動けなくなっていた。
それが今では、当時の彼女からは想像できないくらい果敢に立ち向かっているのだから不思議だ。
「フィーネ様!」
僕は強引に手を掴むと、彼女の目をじっと見つめる。彼女は戸惑いながらも、僕と目を合わせた。
「とりあえず、深呼吸して」
言われるがままに深呼吸をした彼女は、少しだけ表情が柔らかくなった。
「フィーネ様、誰にだって怖くて動けなくなることはあります。それは仕方のないことです。なので自分を責めないでください。そういう時は無理せず、仲間に頼ればいいのです。フィーネ様は一人ではありません」
すると彼女は目が点になり、呆然と僕を見つめた。
「…ですが、そうは言っていられません! レディーナが戦闘不能でウイン様も来れない以上、私しか悪魔憑きを倒せないのですから」
こういうところは、初めて会った時と変わらないな。
「だったら僕が、悪魔憑きを岸まで誘き寄せます。そしたらフィーネ様でも戦えるはずです」
「いけません! なんの力もない一般人が、悪魔憑きに近づくのは危険すぎます」
「確かに、僕は頼りにならないかもしれません。それでも貴女を守りたいのです。それに、貴女ならきっと戦いにきてくれると信じていますし」
するとフィーネ様は一瞬、言葉を失った後、さっきまでの緊張が嘘のように思えるくらいの朗らかな笑みを浮かべた。
「フフフ。貴方の言葉は、まるであの方にそっくりですね」
「あの方?」
僕と同じように彼女を励ました人が、他にもいたのか。
「あの方も、初めて悪魔憑きと戦う時に、そう言ってくださりました。自分だって初陣なのに、一人で戦うと言ってくださいました。いつか私が戦えるようになると信じて」
そうか、思い出した。
彼女が言っているのはウインのことだ。
あの時は正直、僕も怖かったけれど、僕以上に怖がっている彼女を見て冷静になれたのは覚えている。
「今の貴方はあの方に似ていて、思わず惚れてしまいそうでした」
「ははは、惚れそうだなんて大袈裟ですね」
「いいえ。本当に、順番が違えば惚れていたかもしれません。だって私は、あの方のことが…」
それ以上の言葉は出てこなかったが、言わなくても伝わった。
と同時に、照れ臭さが入り混じったような緊張感が僕の中に湧き上がった。
まさか彼女が、本当に僕のことが好きだったなんて。
前まで恥ずかしそうにしていたのは、てっきり悪魔憑きの能力のせいだと思っていたけど…理由はそれだけじゃなかったんだ。
「それより! 貴方が励ましてくださったお陰で、少しは怖くなくなりました。…そうよ。水中の生物なんて、みんな悪魔憑きだと思えばいいのよ!」
水中の生き物が悪魔憑きだったら、尚更恐ろしいのでは?
だけど彼女がそれで怖くなくなるのだったら、それでいいか。
フィーネ様は恐る恐る湖に入る。
最初は身を縮こませながら目をギュッと瞑っていたけど、徐々に身体中の力が抜けていき、目をそっと開いた。
「……入れる。私、入れるわ!」
彼女はまるで無邪気な子供のように、どんどん湖の奥の方まで行って泳ぎ始めた。
「なんで私、あんなに怯えていたのかしら? 泳ぐのって、最高だわ!」
彼女は少し泳いだ後、再び僕のそばに来て話しだした。
「ありがとうございます。貴方のおかげで、なんとかなりそうです。だから貴方は、ここにいてください。悪魔憑きは私が倒しに行きますから」
そう言い残して、彼女は悪魔憑きのいる湖の奥へと泳いでいった。
僕が男に戻るのに、そう時間はかからなかった。
(まさか、フィーネにまで好かれているなんてなぁ~。モテる男は辛いねぇ~)
(茶化さないでよ、グーリン様)
フィーネ様には悪いけど、僕には好きな人がいる。
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……せめて、惚れてくれたのがジュリー嬢だったらなぁ。
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