悪役令嬢と名高い私ですが、巷で人気の『光の賢者様』の正体は私です

サトウミ

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風の賢者様

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「ムカつく!ムカつく!ムカつく!」

悪魔憑きになったロザリアは、教室で暴れ回り、机や壁を穴だらけにしている。

「あの女、今日こそ殺してやるわ!出てきなさい、ジュリー・オルティス!」

もう、ここにいるのだけれど?
とは言わないが、ロザリアは光の賢者わたしには興味がなさそうね。

すると遅れて、他の賢者様達も教室に到着した。

「お待たせ、愛しのフィーネ!今日も会えて最っ高に嬉しいよ~♪」

来て早々に私に抱きついてきたのは、水の賢者・レディーナだ。
彼女は、空のように明るい青色の髪と瞳の、麗しい少女だ。
冒険者のような身軽な服装は、快活な彼女にぴったりだ。

「ってか、またロザリアが悪魔憑きになったの?悪魔王も懲りないな。」

「ジュリー嬢は大丈夫かな。....とにかく、ロザリア嬢がジュリー嬢を見つける前に、早く悪魔祓いしよう!」

ジュリーわたしの身を案じてくれるのは、風の賢者・ウイン様だ。
ウイン様は、草原のような黄緑色の髪に翡翠のような瞳を持つ、眉目秀麗な男性だ。
緑色を基調とした騎士のような姿は、勇ましい彼に相応しい。

ウイン様がジュリーわたしを心配してくれている。それだけで私は嬉しくてニヤけてしまいそう。

....って、駄目よ私!
公爵令嬢の娘として、私はお父様が決めた相手と添い遂げる責務がある。
婚約者がいなくなったとはいえ、恋にうつつを抜かすのは厳禁だ。
それより今はロザリアを悪魔祓いすることに集中しないと。

「どきなさい、賢者達!邪魔するなら、貴方達も消すから!」
ロザリアは両手を大きく広げると、雷の球のようなものを幾つも作り出した。
そして両手を私達へ向けた途端、雷の球は一気に私達へ襲いかかった。

私達はその球を全て間一髪で避ける。
だけどその代わりに、教室がボロボロになって崩れてしまい、私達は崩れた壁の下敷きになった。

「痛ぇぇ...。ロザリア、相変わらず私らに容赦ないな。」
「だけど彼女とは戦い慣れているし、早く倒して元通りにしましょう!」
「了解!」

ロザリアは再び両手を広げて、雷の球を作り出す。
彼女が再びそれらを私達へ放つ前に、レディーナが彼女に殴りかかろうとした。
するとロザリアはレディーナに向けて雷の球を全て放った。

その隙にウイン様が死角からロザリアに近づき、彼が手に持っていた剣を振り翳した。
ロザリアがウイン様の攻撃を喰らって怯んだ隙に、私は彼女のお腹に目掛けて勢いよく蹴りを入れた。

蹴りを喰らったロザリアは、家一軒分くらいの高さまで吹っ飛んだ後、そのまま勢いよく地面に叩きつけられた。
地面に倒れ込んだ彼女は、気絶すると同時に元の姿へと戻り、今回も無事に悪魔祓いは終わった。

「全く、朝からお騒がせな女だ。」
「とりあえず、建物を元通りにして彼女を医務室に連れていこう。」
「そうですね!」

私達3人は手を重ねて、精霊の力を手に込める。
そして手を上げて精霊の力を放つと、ロザリアが破壊した教室は一瞬で元通りになった。

「それじゃあ、僕がロザリア嬢を医務室へ運んでおくよ。二人とも、またね。」
「あっ、ウイン様待ってください!」
私は思わず、用もないのにウイン様を引き留めてしまった。

「何だい、フィーネ様?」
「すみません、特に用事はないのです。ただ、一緒にお話ししたくて....。」
要領を得ない私の要望に、ウイン様は戸惑ったように、愛想笑いをする。

「そっか。でも、彼女を医務室に運んだ後も用事があるから、また今度でもいい?」
「あ、はい。そうですよね。」

私は何をしているのだろう。
ウイン様を戸惑わせるようなことを言って、自分で自分が嫌になる。
それに、この後授業用事があるのは私も同じだ。
私は自己嫌悪に陥りながら、ウイン様がロザリアを運ぶのを見送った。

「フィーネ、元気出しなよ。」
落ち込む私を、レディーナは優しく励ましてくれた。

「この際、思い切ってウインに正体聞いてみる?そしたら、こっちから会いに行けるぜ?」
「駄目よ。私達はお互いの正体を知ってはいけないもの。もし私が悪魔王に捕まってウイン様の正体を言わされたら、ウイン様まで悪魔王に捕まってしまうわ。」

私は自分に言い聞かせるように、そう言った。
だけどウイン様がどこの誰なのか、知りたい気持ちは少しはある。
きっとウイン様のことだから、正体は素敵な殿方に違いないわ。だからわざわざ知る必要もない。

その後、私は物陰に隠れて元の姿に戻り、教室へ行って授業が始まるのを待った。


◆◆◆


「はぁ。時間を戻したい。」
僕はロザリア嬢を医務室へ運ぶと、教室にいた時のことを思い出して自己嫌悪に陥っていた。
変身を解くと、風の精霊・グーリン様は僕を励ますどころか窘めた。

「反省会は王宮に帰ってからにしろよ、このヘタレ王子!」
グーリン様は相変わらず僕に厳しい。

「あぁ、情けない。好きな子に『可愛い』すらハッキリ言えないヘタレが、この国の第三王子だなんて。涙がちょちょぎれるぜ。
大体、さっきのはなんだ?『か、かわ』って。お前、ジュリーの皮でもひん剥くつもりか?」

「違うよ!でも.....。あぁ、絶対さっきので嫌われた。穴があったら入りたいよ。」

「そうだな。確かにアレは確実に好感度が下がった。なんせ、お前がジュリーを庇ったせいでロザリアが悪魔憑きになって、逆に彼女に迷惑をかけたんだからな。
それに比べて彼女はイイ奴だよ。あれだけ自分を罵倒してくる相手に対して、悪魔憑きにならないように気を遣えるんだからさ。しかもそのために『自分を罵ってくれ』ってお前に頼むくらいだ。
好きな子のことしか見れていない誰かさんとは大違い。」

「わかってるよ、そんなこと。僕が彼女を庇っても迷惑をかけるだけなのは知ってる。でも今日のは見ていられなかった。婚約破棄されたばかりの彼女の心の傷を抉るようなことを言うなんて、酷すぎる。」

「.....まぁ、お前のその気持ちはジュリーにも伝わっているんじゃないか?優しいあの子のことだ。きっと庇ってくれたこと自体は嬉しいと思ってくれてるさ。」

「本当?!」

「ああ。確実に好感度は下がったけど、気持ちは伝わってるさ。」

「.....だよねぇ。」
僕は意気消沈して、大きなため息をついた。

「好感度なんて、これから上げていけばいいじゃないか。それに彼女が婚約破棄したことは、お前とってチャンスだ。この際、王様の権限使って彼女と結婚させてもらいなよ!」

「そんなこと、できないよ!彼女の気持ちを蔑ろにするようなこと、したくない。それに父上も、僕の気持ちだけで結婚相手を決めてくれるほど甘くはないよ。」

せめて彼女も僕のことが好きだったら、父上も納得して下さるだろう。
彼女が、僕のことを好きになってくれたらなぁ....。

「あ~、もう!いつまでもナヨナヨするな!お前はもう少し自信を持て。お前はイケメンで、優しくて、優秀で、そして何よりこの国の王子様だ。この国でお前に惚れない女はいないって!」

「...ありがとう、グーリン様。」
グーリン様が励ましてくれたお陰で、落ち込んでいた気分が少しはマシになった。

「グーリン様の言う通り、婚約者がいない今が、彼女にアプローチするチャンスだ!これから彼女と仲良くなればいいんだよ!」

「よーし、その意気だ!頑張れ-!お前ならできる!」

僕は気を取り直して、教室へと戻った。
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