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生徒会室にて
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「あんな奴と婚約解消できて良かったわね、ジュリー。今日はお祝いよ!」
ブーケは満面の笑みで、私の婚約解消を喜んでくれた。
深緑色の髪と瞳を持つ彼女は、悪役令嬢だと誤解されがちな私と親しくしてくれる唯一無二の親友だ。
ブーケは貴族じゃないから夜会での出来事は知らない。だからこそ、婚約破棄の件は『私が振った』ということで何とか誤魔化すことができた。
正直、婚約破棄されたことについては複雑な気持ちではある。
ダドリーに好意はないものの、不貞をされたことに関しては不快だ。
それに婚約破棄の醜聞は社交界に広まっているから、新たな婚約者を探すのは難しいでしょうね。
だけど、ブーケが悪魔憑きにならずに済んだことだけは良かったと思える。
「そうと決まれば、今日は生徒会室でパーティよ!」
「ブーケ、何度も言ってるけど生徒会室は原則部外者立入禁止よ?ましてや私用で使うなんて....。」
「いいじゃない、今日くらい。そんなこと未だに言うの、ユミル殿下とジュリーくらいよ?」
ブーケは『融通の効かない人達だな』と言わんばかりに、私の小言を鼻であしらった。
私とユミル殿下が融通が効かないのではなく、他のメンバーが緩すぎるだけだ。
「それにウチの商会の新作スイーツを今日は用意しているの!生徒会のメンバーの分も持ってきたから、一緒に食べましょうよ♪」
『ウチの商会』というのは、ブーケのお祖父様が会長を務める国一番の大商会・ジュエルリック商会のことだ。
ジュエルリック商会の新作スイーツ、ねぇ。
......少し...いや、かなり気になる。
「......わかったわ。」
私は根負けして、ブーケと一緒に生徒会室へ行くことにした。
◆◆◆
「失礼しまーす!」
ブーケが勢いよく生徒会室の扉を開ける。
すると先に室内にいたジャズ先輩が椅子に座ったままこちらを見た。
ジャズ先輩は生徒会副会長で、平民出身の男性だ。茶色の髪と瞳で、扉の上枠に頭が当たるくらい背が高いから、遠くにいても存在感がある。
今はジャズ先輩だけか。
ユミル殿下が来る前に帰れば、怒られなさそうね。
「おう、ブーケ。今日はお前もいるのか。」
「えぇ。なんせ今日はジュリーの婚約解消記念のパーティを開くつもりですから。もちろん、ジャズ先輩も強制参加ですからね!」
「えっ?!ジュリー、婚約解消ってマジか?っつーか、お前ら友達だろ?友達の婚約解消を喜ぶって、どういう神経してるんだ?」
「相手がジャズ先輩みたいに素敵な人だったら、喜んでいませんよ。でもジュリーの元・婚約者はクズ中のクズなんで、むしろ婚約解消できて心から安心しました。」
「そういうもんか?まぁ、確かにジュリーの結婚相手だったやつ、評判良くなかったもんな。確かダドリー、だっけ?」
「そう!そのダドリーです。あんなアホ貴族と縁が切れたんですから、盛大に祝うべきです!とりあえず手土産を持ってきたんで、みんなで一緒に食べましょ!」
ブーケは持ってきたスイーツを取り出すと、お皿に置いて机に並べた。
お皿に入っているのは、毒々しく感じるほどに奇天烈な色をしたワッフルだった。
「今日持ってきたのは、新作のワッフルだよ。賢者様達をイメージして作ったワッフルなの。白と緑と青があるけど、二人はどれにする?」
賢者をイメージしたのだと言われると、不思議な色合いのワッフルも食べてみたくなる。
「だったら、私は緑にするわ。」
風の賢者様モチーフのワッフル。そう考えただけで、このワッフルが少し美味しそうに見えてきた。
「俺は当然、光の賢者ワッフルな!」
「ジャズ先輩、相変わらずフィーネ様が好きですね。」
「まぁな。フィーネは俺の心の癒しだ。」
その心の癒しは、ここにいるんですけどね。
ジャズ先輩は根っからのフィーネファンだ。
街で売られているフィーネグッズはひととおり全て買い揃えるくらいの、熱狂的なファンだ。
何かにつけて「フィーネに会いたい」と言う彼を見ていると、たまに『フィーネに変身して会ってあげようかな?』と思ってしまう。
「はぁ。フィーネと結婚したい。」
その要望には応えてあげられないわ。
ジャズ先輩は好きだけど、それはあくまで『先輩』としてだ。
百歩譲って私が先輩を好きだとしても、私は家のためにもお父様が決めた相手と結婚すると決めている。
「どこの誰かも分からないのに、結婚したいのですか?もしかしたら彼女の素顔は醜女かもしれませんよ?」
「そんなはずない!絶対に!あの子は見た目だけじゃなくて性格も良いから、絶っっっ対に素顔も美人だ!」
ジャズ先輩の気持ちは嬉しいが、妄信的でちょっと重い。
...もし私がフィーネだと知ったら、幻滅するんだろうなぁ。
「それに先輩が知らないだけで、フィーネ様には既に恋人がいるかもしれませんよ?」
すると先輩は、雷に打たれたかのように目を見開いて固まった。
「いや......絶対、あの二人は恋人じゃない!」
「あの二人?」
「フィーネとウインだよ!」
「っ?!」
な、な、何で私とウイン様が?!
ジャズ先輩の突拍子もない発言に、私は大声が出そうになった。
ワッフルを食べている時じゃなくて良かった。食べていたら、驚いてワッフルを喉に詰まらせていたかもしれない。
「せ、先輩はなぜそう思われるのですか?」
「だってフィーネを見てたらわかるだろ?明らかにウインに気がある。気づいてないのは鈍感なウインくらいじゃね?」
私、そんなにわかりやすい態度を取っていたの?
...ジャズ先輩に見抜かれていたなんて。
私は恥ずかしくて消えたくなった。
「でもさ、フィーネ様とウイン様が付き合ってるんだったら、ジャズ先輩の入る余地なくない?」
「そんなことねぇ!あの二人はまだ付き合ってない!絶対の、絶対にフィーネの片想いに決まってる!」
確かにその通りだけど、ジャズ先輩の入る余地が無いことには変わりないわよ?
そんな他愛もない会話をしていると、突然、扉の開く音が聞こえた。
生徒会室に入ってきたのは、ユミル殿下だった。
ユミル殿下はこの国の第二王子で、生徒会長でもある。
輝くような金色の髪と銀色の瞳はカイル殿下と同じだけど、ユミル殿下はカイル殿下と違って中世的な顔立ちをしている。
「みんな楽しそうだね。何を話しているの?....って、ブーケ・ジュエルリックさん。また君か。」
ユミル殿下はブーケを見るなり、呆れて小さくため息をついた。
「ユミル殿下、申し訳ありません。」
「いいよ。どうせまたブーケさんが勝手に来たんでしょ?」
勝手に来たのではなく連れてきてしまったのだけれど、それを話すとユミル殿下に呆れられそうなので、言うのを躊躇った。
「まあまあ、別にいいじゃねえか。ブーケがいて困ることもないんだしさ。あんまりお堅いと、みんなに嫌われるぜ?」
「僕がお堅いんじゃなくて、みんなが緩すぎるだけだよ。」
私もそう思う。
「それに今日はジュリーの婚約解消祝いをしているんですよ?ほら、殿下の分の手土産も用意してありますよ♪」
「婚約解消祝い?!夜会で振られて傷心の彼女を、お祝いするの?」
あっ!殿下、なんてことを言うの!
せっかく秘密にしていたのに。
「夜会で振られた?どういうことですか?」
「ブーケ、それはね...」
「知らないのかい?ジュリー嬢が夜会でダドリー卿に婚約破棄を突きつけられたって話。しかもダドリー卿は、ミーナ嬢と心を通わせていたらしいよ。酷い話だよね。」
私が誤魔化すよりも先に、殿下は夜会でのことを全部話してしまった。
殿下の話を聞いたブーケは、みるみるうちに顔が真っ赤になった。
「ねぇ、ジュリー。今の話、本当なの?」
ブーケは目を吊り上がらせて、私に尋ねる。
怒りの矛先はダドリーとはいえ、ここまでキレていると普通に怖い。
「ブーケ、落ち着いて。無事に婚約解...」
「えぇ、わかってるわ。ジュリーは私が怒って悪魔憑きにならないように黙ってくれてたのよね?そのことは、いいの。でもダドリーは別。アイツはボコボコにしないと許せない!」
ブーケは生徒会室の扉を勢いよく開けると、拳を握りしめて地団駄を踏むように歩きながら、ダドリーを探し始めた。
せっかく上手く誤魔化せていたのに、結局こうなるのね。
ブーケが悪魔憑きになるのも時間の問題だわ。
私はブーケを追いかけるフリをして生徒会室を出た後、女子トイレに隠れて光の賢者・フィーネへと変身した。
ブーケは満面の笑みで、私の婚約解消を喜んでくれた。
深緑色の髪と瞳を持つ彼女は、悪役令嬢だと誤解されがちな私と親しくしてくれる唯一無二の親友だ。
ブーケは貴族じゃないから夜会での出来事は知らない。だからこそ、婚約破棄の件は『私が振った』ということで何とか誤魔化すことができた。
正直、婚約破棄されたことについては複雑な気持ちではある。
ダドリーに好意はないものの、不貞をされたことに関しては不快だ。
それに婚約破棄の醜聞は社交界に広まっているから、新たな婚約者を探すのは難しいでしょうね。
だけど、ブーケが悪魔憑きにならずに済んだことだけは良かったと思える。
「そうと決まれば、今日は生徒会室でパーティよ!」
「ブーケ、何度も言ってるけど生徒会室は原則部外者立入禁止よ?ましてや私用で使うなんて....。」
「いいじゃない、今日くらい。そんなこと未だに言うの、ユミル殿下とジュリーくらいよ?」
ブーケは『融通の効かない人達だな』と言わんばかりに、私の小言を鼻であしらった。
私とユミル殿下が融通が効かないのではなく、他のメンバーが緩すぎるだけだ。
「それにウチの商会の新作スイーツを今日は用意しているの!生徒会のメンバーの分も持ってきたから、一緒に食べましょうよ♪」
『ウチの商会』というのは、ブーケのお祖父様が会長を務める国一番の大商会・ジュエルリック商会のことだ。
ジュエルリック商会の新作スイーツ、ねぇ。
......少し...いや、かなり気になる。
「......わかったわ。」
私は根負けして、ブーケと一緒に生徒会室へ行くことにした。
◆◆◆
「失礼しまーす!」
ブーケが勢いよく生徒会室の扉を開ける。
すると先に室内にいたジャズ先輩が椅子に座ったままこちらを見た。
ジャズ先輩は生徒会副会長で、平民出身の男性だ。茶色の髪と瞳で、扉の上枠に頭が当たるくらい背が高いから、遠くにいても存在感がある。
今はジャズ先輩だけか。
ユミル殿下が来る前に帰れば、怒られなさそうね。
「おう、ブーケ。今日はお前もいるのか。」
「えぇ。なんせ今日はジュリーの婚約解消記念のパーティを開くつもりですから。もちろん、ジャズ先輩も強制参加ですからね!」
「えっ?!ジュリー、婚約解消ってマジか?っつーか、お前ら友達だろ?友達の婚約解消を喜ぶって、どういう神経してるんだ?」
「相手がジャズ先輩みたいに素敵な人だったら、喜んでいませんよ。でもジュリーの元・婚約者はクズ中のクズなんで、むしろ婚約解消できて心から安心しました。」
「そういうもんか?まぁ、確かにジュリーの結婚相手だったやつ、評判良くなかったもんな。確かダドリー、だっけ?」
「そう!そのダドリーです。あんなアホ貴族と縁が切れたんですから、盛大に祝うべきです!とりあえず手土産を持ってきたんで、みんなで一緒に食べましょ!」
ブーケは持ってきたスイーツを取り出すと、お皿に置いて机に並べた。
お皿に入っているのは、毒々しく感じるほどに奇天烈な色をしたワッフルだった。
「今日持ってきたのは、新作のワッフルだよ。賢者様達をイメージして作ったワッフルなの。白と緑と青があるけど、二人はどれにする?」
賢者をイメージしたのだと言われると、不思議な色合いのワッフルも食べてみたくなる。
「だったら、私は緑にするわ。」
風の賢者様モチーフのワッフル。そう考えただけで、このワッフルが少し美味しそうに見えてきた。
「俺は当然、光の賢者ワッフルな!」
「ジャズ先輩、相変わらずフィーネ様が好きですね。」
「まぁな。フィーネは俺の心の癒しだ。」
その心の癒しは、ここにいるんですけどね。
ジャズ先輩は根っからのフィーネファンだ。
街で売られているフィーネグッズはひととおり全て買い揃えるくらいの、熱狂的なファンだ。
何かにつけて「フィーネに会いたい」と言う彼を見ていると、たまに『フィーネに変身して会ってあげようかな?』と思ってしまう。
「はぁ。フィーネと結婚したい。」
その要望には応えてあげられないわ。
ジャズ先輩は好きだけど、それはあくまで『先輩』としてだ。
百歩譲って私が先輩を好きだとしても、私は家のためにもお父様が決めた相手と結婚すると決めている。
「どこの誰かも分からないのに、結婚したいのですか?もしかしたら彼女の素顔は醜女かもしれませんよ?」
「そんなはずない!絶対に!あの子は見た目だけじゃなくて性格も良いから、絶っっっ対に素顔も美人だ!」
ジャズ先輩の気持ちは嬉しいが、妄信的でちょっと重い。
...もし私がフィーネだと知ったら、幻滅するんだろうなぁ。
「それに先輩が知らないだけで、フィーネ様には既に恋人がいるかもしれませんよ?」
すると先輩は、雷に打たれたかのように目を見開いて固まった。
「いや......絶対、あの二人は恋人じゃない!」
「あの二人?」
「フィーネとウインだよ!」
「っ?!」
な、な、何で私とウイン様が?!
ジャズ先輩の突拍子もない発言に、私は大声が出そうになった。
ワッフルを食べている時じゃなくて良かった。食べていたら、驚いてワッフルを喉に詰まらせていたかもしれない。
「せ、先輩はなぜそう思われるのですか?」
「だってフィーネを見てたらわかるだろ?明らかにウインに気がある。気づいてないのは鈍感なウインくらいじゃね?」
私、そんなにわかりやすい態度を取っていたの?
...ジャズ先輩に見抜かれていたなんて。
私は恥ずかしくて消えたくなった。
「でもさ、フィーネ様とウイン様が付き合ってるんだったら、ジャズ先輩の入る余地なくない?」
「そんなことねぇ!あの二人はまだ付き合ってない!絶対の、絶対にフィーネの片想いに決まってる!」
確かにその通りだけど、ジャズ先輩の入る余地が無いことには変わりないわよ?
そんな他愛もない会話をしていると、突然、扉の開く音が聞こえた。
生徒会室に入ってきたのは、ユミル殿下だった。
ユミル殿下はこの国の第二王子で、生徒会長でもある。
輝くような金色の髪と銀色の瞳はカイル殿下と同じだけど、ユミル殿下はカイル殿下と違って中世的な顔立ちをしている。
「みんな楽しそうだね。何を話しているの?....って、ブーケ・ジュエルリックさん。また君か。」
ユミル殿下はブーケを見るなり、呆れて小さくため息をついた。
「ユミル殿下、申し訳ありません。」
「いいよ。どうせまたブーケさんが勝手に来たんでしょ?」
勝手に来たのではなく連れてきてしまったのだけれど、それを話すとユミル殿下に呆れられそうなので、言うのを躊躇った。
「まあまあ、別にいいじゃねえか。ブーケがいて困ることもないんだしさ。あんまりお堅いと、みんなに嫌われるぜ?」
「僕がお堅いんじゃなくて、みんなが緩すぎるだけだよ。」
私もそう思う。
「それに今日はジュリーの婚約解消祝いをしているんですよ?ほら、殿下の分の手土産も用意してありますよ♪」
「婚約解消祝い?!夜会で振られて傷心の彼女を、お祝いするの?」
あっ!殿下、なんてことを言うの!
せっかく秘密にしていたのに。
「夜会で振られた?どういうことですか?」
「ブーケ、それはね...」
「知らないのかい?ジュリー嬢が夜会でダドリー卿に婚約破棄を突きつけられたって話。しかもダドリー卿は、ミーナ嬢と心を通わせていたらしいよ。酷い話だよね。」
私が誤魔化すよりも先に、殿下は夜会でのことを全部話してしまった。
殿下の話を聞いたブーケは、みるみるうちに顔が真っ赤になった。
「ねぇ、ジュリー。今の話、本当なの?」
ブーケは目を吊り上がらせて、私に尋ねる。
怒りの矛先はダドリーとはいえ、ここまでキレていると普通に怖い。
「ブーケ、落ち着いて。無事に婚約解...」
「えぇ、わかってるわ。ジュリーは私が怒って悪魔憑きにならないように黙ってくれてたのよね?そのことは、いいの。でもダドリーは別。アイツはボコボコにしないと許せない!」
ブーケは生徒会室の扉を勢いよく開けると、拳を握りしめて地団駄を踏むように歩きながら、ダドリーを探し始めた。
せっかく上手く誤魔化せていたのに、結局こうなるのね。
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