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ジャズとレディーナをくっつけたい
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放課後の生徒会室。
私は、ジャズ先輩にレディーナの話題を振るタイミングを見計らっていた。
いつもは勝手に入るブーケに困っていたけど、今回に限っては会話を盛り上げるためにも、いてくれた方がありがたい。
「みなさ~ん! 今日はマカロンを持ってきました♪ 一緒に食べましょ!」
ブーケは色とりどりのマカロンをお皿に盛り付け、紅茶と一緒に机の上に出した。
私はペンを置き、黄緑色のマカロンに手を伸ばす。
「うわ、美味しい。これ、どこの?」
「王都の『カフェ・リュミエール』ってお店の限定商品よ! 見た目も可愛いし、美味しくて色んな味もあって良いでしょ?」
ブーケは誇らしげに胸を張る。
「だけど白色は無ぇのか。センスのない店だな。」
「白いマカロンは人気で売り切れだったんです。みんなフィーネ様が好きですからね。だけど黄緑と水色は死守しましたよ♪」
黄緑があるのは嬉しい。
黄緑色のマカロンを見ていると、ウイン様のことを思い出した。
それと同時に、ウイン様にお姫様抱っこをされた時のことを思い出して......。
「はぁ。」
恥ずかしさのあまり、思わずため息が出てしまう。
「ジュリー、どうしたの?」
「別に、なんでもないわ。」
ブーケにあの日のことを聞かれたくなかった私は、強引に話題を変えた。
「それよりジャズ先輩、以前生徒会室の机に置いてあった小説はその後、持ち主は見つかったのでしょうか?」
「いーや。結局誰のか分からず終いだ。生徒会室の落とし物入れに今も入ってるぜ。」
落とし物入れを見てみると、確かに、ブックカバーのついた本が置いてあった。
ブックカバーを外すと、表紙には『男爵令嬢の午後7』と書かれていた。
最新巻の7巻まで読んでいるということは、この本の落とし主はよほど男爵令嬢の午後が好きだったのね。
「念のために聞くけどさ、本当にジュリーとブーケのじゃねえんだよな?」
「「はい。」」
私たち二人は口を揃えて頷く。
「当然、ユミルのでも、アンサムのでもないよな?」
違うとは思いつつも、ジャズ先輩は男性二人にも尋ねた。
「うん。残念ながら、僕のじゃないよ。」
ユミル殿下は苦笑いしながら否定する。
「俺がロマンス小説なんか、読むように見えます?」
アンサム様に至っては、聞いただけであからさまに不機嫌になった。
「だよな? 当然、俺のでもない。ってことは、普段ここに出入りしない人間のってことになる。」
ジャズ先輩は腕を組み『う~ん』と難しそうな顔をして考え込む。
「......ふと思ったんだけどさ、もしかしてあの小説って、キャリーのだったりして。だってアイツ、前までジュリーを追って生徒会室を覗いてただろ?その延長で、実は隠れてこっそり生徒会室に入ってたんじゃねぇか?」
「そんなこと、してません!」
すると突然、生徒会室の扉の前から声が聞こえた。
この声、もしかして...!
私は立ち上がって生徒会室の扉を開けると、そこには案の定、キャリーが気まずそうに立っていた。
「ご、ご機嫌よう。ジュリーちゃん。」
キャリーは苦笑いをしながら挨拶する。
生徒会室は部外者立入禁止とはいえ、扉の前で聞き耳を立てていたなんて。
私は呆れてため息が出た。
「お前なぁ、全然懲りてねぇじゃねえか。」
「すすす、すみません!」
「っつーか、もうジュリーとは和解して友達になったんだろ?だったら普通に入ってくりゃ、いいじゃん。」
「えっ?」
いいの?
というような目で、キャリーが見つめてくる。
部外者のブーケがいる今、『駄目だ』とは言いにくい。
「ジャズ先輩の言う通りだよ。こんなところで聞き耳を立てるくらいなら、中に入って一緒にお話ししようよ。今ならマカロンもあるわよ!」
「ジャズ先輩。ブーケちゃん...! ありがとう!」
キャリーは目をうるうるさせて、感激している。
生徒会室は部外者でも入っていいと勘違いして欲しくない。
だけどキャリーの潤んだ瞳と、満面の笑みを浮かべるブーケの顔を見ていると、これ以上水を差すのも大人げない気がしてしまう。
私は助けを求めるように、ちらりとユミル殿下に目をやった。
けれど殿下は遠い目をして、諦めるように傍観していた。
生徒会長である殿下が何も言わない以上、私がとやかく言うのも気が引ける。
私は、心の中で小さくため息をつきながら、彼女が入ってくるのを黙認した。
「わぁ! 美味しそうなマカロン♪ 」
キャリーは生徒会室に入ってくるや否や、マカロンに釘付けになった。
そしてマカロンをじっと見つめたまま、そっと水色のマカロンに手を伸ばす。
ぱくりと口に運ぶと、目を丸くして小さく感嘆の声を漏らした。
「このマカロン、最っ高!」
「でしょ? 見た目も可愛いけど、味もしっかりしてるのよ。」
「うん! しかもこのマカロン、レディーナ様みたいに、可愛いだけじゃなくて味にパンチがある!」
マカロンなのに、味にパンチがあるの?
ウイン様マカロンは優しい味わいだったから、パンチのある味のマカロンが想像できない。
「へぇ。レディーナマカロンも悪くねぇじゃねえか。」
ジャズ先輩が、マカロンとはいえレディーナを褒めている。
今がレディーナの話題を振るチャンスかも!
「ねぇ。ジャズ先輩はレディーナ様のことは好きじゃないのですか? レディーナ様も、フィーネ様と同じ賢者様ですよね?」
「え?」
ジャズ先輩は、鳩が豆鉄砲を喰らったかのように目を丸くした。
「ん~、そうだなぁ。レディーナは、別に...普通だ。」
渋い表情をしながら答えるジャズ先輩を見るに、今のところレディーナには興味が無さそうね。
だけど嫌ってもいないから、今からアピールすれば可能性はゼロじゃない。
「レディーナ様も凄く可愛らしいですよね? それにレディーナ様もフィーネ様が好きですから、ジャズ先輩と気が合いそうな気がするのですが...?」
「いやいや、ねーよ。だってアイツのこと、女として見れねぇし。」
「それはなぜですか?」
「なぜ? って言われてもなぁ...。」
ジャズ先輩は頭を抱えて真剣に悩んでいる。
よほどレディーナのことを異性として見れないようね。
これは相当厄介だわ。
「でも、ジャズ先輩の気持ち、少し分かります。」
不意にそう言ったのは、キャリーだった。
「レディーナ様って、可愛らしい見た目に反して豪快で男勝りで、女の子というより男の娘って感じがしますから。」
「っ!?」
するとジャズ先輩は、何も口に含んでいないにも関わらず、急に咽せるように咳をした。
「ちょ、な、なに言ってんだお前!? 今の、どういう意味だ?」
いつになく取り乱した声を上げて、椅子から身を乗り出すジャズ先輩。
顔は一気に青くなり、目が泳いでいる。
「えっ? そんなに驚くようなこと言いました?」
キャリーが小首を傾げて、きょとんと見上げる。
「いやいやいやいや……『男の娘』って……いや、違ぇし! アイツはどう見ても女だろ! あんな小柄で可愛い男がいるかよ! ってか、なんでそんな発想になるんだ?」
可愛いとは思っているのね。
なら、まだ可能性はありそうかしら?
...いえ、可愛いことを認めた上で『女として見れない』と言っているのだから、むしろ非常に厄介かもしれないわ。
「チッチッチ! 先輩、甘いですよ! 世の中には、まるで女の子にしか見えないくらいに可憐な男子はごまんといますから。先輩はブーケさんの弟のロックくんに会ったことはありますか?」
「あぁ、あのチビか。」
「あの子だって、小柄で可愛いから、メイクして可愛い服を着せれば立派な男の娘になりますよ♪」
確かにロックは背も低いし、よく見たら女の子っぽい顔立ちだから、女装させたらかなりの美女になりそうね。
「ちょっとキャリー! 勝手にヒトの弟を女装させないで!」
「ブーケちゃん、あくまで仮定の話だよ。...今は。」
「『今は』ってことは、そのうち女装させるつもりね!?」
「さぁ、どうだろうね♪」
キャリーの、この態度。
女装させる気満々だ。
だけどロックが女装するところを少し見てみたい気もする。
...って、なぜレディーナの話から女装の話へすり替わっているの?
「とにかく! レディーナは女に決まってる! 男のはずがない!」
私がレディーナの話に戻そうとする前に、ジャズ先輩が話を戻してくれた。
「誰もレディーナ様が男だなんて言っていませんよ。男の娘っぽいって言っただけで。」
男だと言っているようなものでしょ。
「それに百合は百合で美味しいですから。フィーネ様とレディーナ様がイチャイチャしている姿は目の保養です。」
勝手に私とレディーナを百合にしないで欲しい。
私達は決して、そんな関係じゃない。
......少なくとも、私は。
レディーナも、きっとそうよね?
「へへっ、なんだよキャリー。わかってるじゃねえか。」
するとなぜか、ジャズ先輩は嬉しそうに、はにかんだ。
少し意外な展開に、若干戸惑う。
「えっ? ジャズ先輩、フィーネ様とレディーナ様が結ばれても良いのですか?」
てっきり、ジャズ先輩はフィーネと付き合いたいのかと思っていた。
「別にいい......じゃねぇ! いいわけがねぇだろ! ただ、それはそれとして、あの二人が一緒にいるのは最高というか、何というか...」
結局、どっちなの?
「つまり、レディーナ様とフィーネ様の間に挟まりたいってことですか? そんなの邪道ですよ! 百合の間に挟まる男は邪道です!」
キャリー、お願いだからこれ以上話を逸らさないで!
「いやレディーナはいらん。邪魔だ。フィーネだけでいい。」
ジャズ先輩、酷いわ。
真顔でレディーナを否定するなんて。
あぁ、レディーナ。
きっとジャズ先輩の今の気持ちを知ったら、ショックを受けるでしょうね。
だけど同じ賢者仲間として、彼女の恋を応援したい。
ジャズ先輩にレディーナをアピールするのは効果が薄そうだし、アプローチを変えた方が良いわね。
今度はジャズ先輩とレディーナを二人きりにしてみよう。
男女で二人きりになれば、ジャズ先輩に心境の変化が起こるかもしれないしね。
そのためにも、まずはジャズ先輩の予定を聞いてみよう。
なるべく自然な形で聞き出す方法はないかしら?
「ねぇ二人とも、さっきから何の話をしているの?」
ブーケはキャリーとジャズ先輩の話に呆れて、ため息をついた。
「レディーナ様とフィーネ様が可愛いって話だよ♪」
微妙に違う。
「あとロックくんも!」
それは絶対に違う。
「キャリー、あんたまだロックを女装させたいの? あの子、絶対に嫌がるから諦めな。」
「えぇ~! そこはブーケちゃん、一緒に説得してよ! お願い!」
またキャリーのせいで、話がどんどん変な方向にいった。
「そうだ! 今度ブーケちゃんとロックくんと一緒にお出かけしに行こうよ♪ ふふふ、まずは親睦を深めて、そのうち徐々に女装の魅力に気づかせていくの。」
下心丸出しね。
...ん? 待てよ。
この話、利用できるかも。
「キャリー、それなら私も一緒にお出かけしてもいいかしら?」
「えっ! ジュリーちゃん、いいの?!」
「勿論よ。だって、前から私もみんなとお出かけしたいと思っていたもの。」
少し強引だったかしら?
だけど誰も怪しんでないわよね。
「ジャズ先輩、ユミル殿下、それからアンサム様も。たまには一緒にみんなでお出かけしませんか?」
この流れならジャズ先輩の予定を聞いてもおかしくない。
「いいぜ! 面白そうじゃねえか。」
「僕も。みんなと一緒だと楽しそうだしね。」
よし。話に乗ってくれたし、これでジャズ先輩の予定が確認できるわね。
「アンサム様は、どうですか?」
「俺は遠慮します。」
気を遣ってアンサム様にも聞いたけど、やっぱり断られた。
アンサム様は馴れ合いは嫌いそうだし、聞く前から断られるのは目に見えていたから当然の結果ね。
「いえ、待ってください。」
するとアンサム様は、私の顔をまじまじと見つめながら、何かを考えるように話しだした。
「......やはり参加します。」
「えっ?」
どういう風の吹き回しかしら?
参加しないだろうと思っていただけに、意表を突かれた気分だわ。
「ただ、俺の友人も連れてきていいですか? 皆さんの知っている人物なのですが。」
アンサム様の友人で私達の知人、ということは、もしかしてカイル殿下かしら?
というか、アンサム様の友人はカイル殿下くらいしか知らない。
「それって、カイルのことかい?」
爽やかな笑顔でユミル殿下が尋ねると、アンサム様は眉間に皺を寄せた。
「カイル殿下だったら、いけませんか?」
「いいや。別に構わないよ。ただ聞いてみただけさ。」
なぜかしら。二人が互いに牽制しあっているかのような、ただならない雰囲気を感じる。
最近、二人の関係は妙にギクシャクしているように思えるけど、気のせいかしら?
「とりあえず、カイル殿下も誘われるということで宜しいでしょうか?」
「はい。ジュリー嬢はカイル殿下がご一緒でも構いませんか?」
「勿論です。」
むしろカイル殿下を拒む人は、この国にはいないだろう。
「やったー♪ 生徒会の皆さんや殿下達と一緒にお出かけができるなんて、最・高! です!」
キャリーはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねて大喜びする。
「じゃあ皆さん、いつ遊びに行けるかスケジュールを確認させてくださいね。あっ、言っておきますが、ドタキャンは無しでお願いしますよ。」
何はともあれ、これでジャズ先輩のスケジュールを確認できるわね。
後日、みんなでお出かけする日程を調整する過程で、私はジャズ先輩の予定を把握した。
これで後はレディーナのスケジュールを確認するだけね。
『偶然を装って二人を引き合わせる』作戦、開始よ!
私は、ジャズ先輩にレディーナの話題を振るタイミングを見計らっていた。
いつもは勝手に入るブーケに困っていたけど、今回に限っては会話を盛り上げるためにも、いてくれた方がありがたい。
「みなさ~ん! 今日はマカロンを持ってきました♪ 一緒に食べましょ!」
ブーケは色とりどりのマカロンをお皿に盛り付け、紅茶と一緒に机の上に出した。
私はペンを置き、黄緑色のマカロンに手を伸ばす。
「うわ、美味しい。これ、どこの?」
「王都の『カフェ・リュミエール』ってお店の限定商品よ! 見た目も可愛いし、美味しくて色んな味もあって良いでしょ?」
ブーケは誇らしげに胸を張る。
「だけど白色は無ぇのか。センスのない店だな。」
「白いマカロンは人気で売り切れだったんです。みんなフィーネ様が好きですからね。だけど黄緑と水色は死守しましたよ♪」
黄緑があるのは嬉しい。
黄緑色のマカロンを見ていると、ウイン様のことを思い出した。
それと同時に、ウイン様にお姫様抱っこをされた時のことを思い出して......。
「はぁ。」
恥ずかしさのあまり、思わずため息が出てしまう。
「ジュリー、どうしたの?」
「別に、なんでもないわ。」
ブーケにあの日のことを聞かれたくなかった私は、強引に話題を変えた。
「それよりジャズ先輩、以前生徒会室の机に置いてあった小説はその後、持ち主は見つかったのでしょうか?」
「いーや。結局誰のか分からず終いだ。生徒会室の落とし物入れに今も入ってるぜ。」
落とし物入れを見てみると、確かに、ブックカバーのついた本が置いてあった。
ブックカバーを外すと、表紙には『男爵令嬢の午後7』と書かれていた。
最新巻の7巻まで読んでいるということは、この本の落とし主はよほど男爵令嬢の午後が好きだったのね。
「念のために聞くけどさ、本当にジュリーとブーケのじゃねえんだよな?」
「「はい。」」
私たち二人は口を揃えて頷く。
「当然、ユミルのでも、アンサムのでもないよな?」
違うとは思いつつも、ジャズ先輩は男性二人にも尋ねた。
「うん。残念ながら、僕のじゃないよ。」
ユミル殿下は苦笑いしながら否定する。
「俺がロマンス小説なんか、読むように見えます?」
アンサム様に至っては、聞いただけであからさまに不機嫌になった。
「だよな? 当然、俺のでもない。ってことは、普段ここに出入りしない人間のってことになる。」
ジャズ先輩は腕を組み『う~ん』と難しそうな顔をして考え込む。
「......ふと思ったんだけどさ、もしかしてあの小説って、キャリーのだったりして。だってアイツ、前までジュリーを追って生徒会室を覗いてただろ?その延長で、実は隠れてこっそり生徒会室に入ってたんじゃねぇか?」
「そんなこと、してません!」
すると突然、生徒会室の扉の前から声が聞こえた。
この声、もしかして...!
私は立ち上がって生徒会室の扉を開けると、そこには案の定、キャリーが気まずそうに立っていた。
「ご、ご機嫌よう。ジュリーちゃん。」
キャリーは苦笑いをしながら挨拶する。
生徒会室は部外者立入禁止とはいえ、扉の前で聞き耳を立てていたなんて。
私は呆れてため息が出た。
「お前なぁ、全然懲りてねぇじゃねえか。」
「すすす、すみません!」
「っつーか、もうジュリーとは和解して友達になったんだろ?だったら普通に入ってくりゃ、いいじゃん。」
「えっ?」
いいの?
というような目で、キャリーが見つめてくる。
部外者のブーケがいる今、『駄目だ』とは言いにくい。
「ジャズ先輩の言う通りだよ。こんなところで聞き耳を立てるくらいなら、中に入って一緒にお話ししようよ。今ならマカロンもあるわよ!」
「ジャズ先輩。ブーケちゃん...! ありがとう!」
キャリーは目をうるうるさせて、感激している。
生徒会室は部外者でも入っていいと勘違いして欲しくない。
だけどキャリーの潤んだ瞳と、満面の笑みを浮かべるブーケの顔を見ていると、これ以上水を差すのも大人げない気がしてしまう。
私は助けを求めるように、ちらりとユミル殿下に目をやった。
けれど殿下は遠い目をして、諦めるように傍観していた。
生徒会長である殿下が何も言わない以上、私がとやかく言うのも気が引ける。
私は、心の中で小さくため息をつきながら、彼女が入ってくるのを黙認した。
「わぁ! 美味しそうなマカロン♪ 」
キャリーは生徒会室に入ってくるや否や、マカロンに釘付けになった。
そしてマカロンをじっと見つめたまま、そっと水色のマカロンに手を伸ばす。
ぱくりと口に運ぶと、目を丸くして小さく感嘆の声を漏らした。
「このマカロン、最っ高!」
「でしょ? 見た目も可愛いけど、味もしっかりしてるのよ。」
「うん! しかもこのマカロン、レディーナ様みたいに、可愛いだけじゃなくて味にパンチがある!」
マカロンなのに、味にパンチがあるの?
ウイン様マカロンは優しい味わいだったから、パンチのある味のマカロンが想像できない。
「へぇ。レディーナマカロンも悪くねぇじゃねえか。」
ジャズ先輩が、マカロンとはいえレディーナを褒めている。
今がレディーナの話題を振るチャンスかも!
「ねぇ。ジャズ先輩はレディーナ様のことは好きじゃないのですか? レディーナ様も、フィーネ様と同じ賢者様ですよね?」
「え?」
ジャズ先輩は、鳩が豆鉄砲を喰らったかのように目を丸くした。
「ん~、そうだなぁ。レディーナは、別に...普通だ。」
渋い表情をしながら答えるジャズ先輩を見るに、今のところレディーナには興味が無さそうね。
だけど嫌ってもいないから、今からアピールすれば可能性はゼロじゃない。
「レディーナ様も凄く可愛らしいですよね? それにレディーナ様もフィーネ様が好きですから、ジャズ先輩と気が合いそうな気がするのですが...?」
「いやいや、ねーよ。だってアイツのこと、女として見れねぇし。」
「それはなぜですか?」
「なぜ? って言われてもなぁ...。」
ジャズ先輩は頭を抱えて真剣に悩んでいる。
よほどレディーナのことを異性として見れないようね。
これは相当厄介だわ。
「でも、ジャズ先輩の気持ち、少し分かります。」
不意にそう言ったのは、キャリーだった。
「レディーナ様って、可愛らしい見た目に反して豪快で男勝りで、女の子というより男の娘って感じがしますから。」
「っ!?」
するとジャズ先輩は、何も口に含んでいないにも関わらず、急に咽せるように咳をした。
「ちょ、な、なに言ってんだお前!? 今の、どういう意味だ?」
いつになく取り乱した声を上げて、椅子から身を乗り出すジャズ先輩。
顔は一気に青くなり、目が泳いでいる。
「えっ? そんなに驚くようなこと言いました?」
キャリーが小首を傾げて、きょとんと見上げる。
「いやいやいやいや……『男の娘』って……いや、違ぇし! アイツはどう見ても女だろ! あんな小柄で可愛い男がいるかよ! ってか、なんでそんな発想になるんだ?」
可愛いとは思っているのね。
なら、まだ可能性はありそうかしら?
...いえ、可愛いことを認めた上で『女として見れない』と言っているのだから、むしろ非常に厄介かもしれないわ。
「チッチッチ! 先輩、甘いですよ! 世の中には、まるで女の子にしか見えないくらいに可憐な男子はごまんといますから。先輩はブーケさんの弟のロックくんに会ったことはありますか?」
「あぁ、あのチビか。」
「あの子だって、小柄で可愛いから、メイクして可愛い服を着せれば立派な男の娘になりますよ♪」
確かにロックは背も低いし、よく見たら女の子っぽい顔立ちだから、女装させたらかなりの美女になりそうね。
「ちょっとキャリー! 勝手にヒトの弟を女装させないで!」
「ブーケちゃん、あくまで仮定の話だよ。...今は。」
「『今は』ってことは、そのうち女装させるつもりね!?」
「さぁ、どうだろうね♪」
キャリーの、この態度。
女装させる気満々だ。
だけどロックが女装するところを少し見てみたい気もする。
...って、なぜレディーナの話から女装の話へすり替わっているの?
「とにかく! レディーナは女に決まってる! 男のはずがない!」
私がレディーナの話に戻そうとする前に、ジャズ先輩が話を戻してくれた。
「誰もレディーナ様が男だなんて言っていませんよ。男の娘っぽいって言っただけで。」
男だと言っているようなものでしょ。
「それに百合は百合で美味しいですから。フィーネ様とレディーナ様がイチャイチャしている姿は目の保養です。」
勝手に私とレディーナを百合にしないで欲しい。
私達は決して、そんな関係じゃない。
......少なくとも、私は。
レディーナも、きっとそうよね?
「へへっ、なんだよキャリー。わかってるじゃねえか。」
するとなぜか、ジャズ先輩は嬉しそうに、はにかんだ。
少し意外な展開に、若干戸惑う。
「えっ? ジャズ先輩、フィーネ様とレディーナ様が結ばれても良いのですか?」
てっきり、ジャズ先輩はフィーネと付き合いたいのかと思っていた。
「別にいい......じゃねぇ! いいわけがねぇだろ! ただ、それはそれとして、あの二人が一緒にいるのは最高というか、何というか...」
結局、どっちなの?
「つまり、レディーナ様とフィーネ様の間に挟まりたいってことですか? そんなの邪道ですよ! 百合の間に挟まる男は邪道です!」
キャリー、お願いだからこれ以上話を逸らさないで!
「いやレディーナはいらん。邪魔だ。フィーネだけでいい。」
ジャズ先輩、酷いわ。
真顔でレディーナを否定するなんて。
あぁ、レディーナ。
きっとジャズ先輩の今の気持ちを知ったら、ショックを受けるでしょうね。
だけど同じ賢者仲間として、彼女の恋を応援したい。
ジャズ先輩にレディーナをアピールするのは効果が薄そうだし、アプローチを変えた方が良いわね。
今度はジャズ先輩とレディーナを二人きりにしてみよう。
男女で二人きりになれば、ジャズ先輩に心境の変化が起こるかもしれないしね。
そのためにも、まずはジャズ先輩の予定を聞いてみよう。
なるべく自然な形で聞き出す方法はないかしら?
「ねぇ二人とも、さっきから何の話をしているの?」
ブーケはキャリーとジャズ先輩の話に呆れて、ため息をついた。
「レディーナ様とフィーネ様が可愛いって話だよ♪」
微妙に違う。
「あとロックくんも!」
それは絶対に違う。
「キャリー、あんたまだロックを女装させたいの? あの子、絶対に嫌がるから諦めな。」
「えぇ~! そこはブーケちゃん、一緒に説得してよ! お願い!」
またキャリーのせいで、話がどんどん変な方向にいった。
「そうだ! 今度ブーケちゃんとロックくんと一緒にお出かけしに行こうよ♪ ふふふ、まずは親睦を深めて、そのうち徐々に女装の魅力に気づかせていくの。」
下心丸出しね。
...ん? 待てよ。
この話、利用できるかも。
「キャリー、それなら私も一緒にお出かけしてもいいかしら?」
「えっ! ジュリーちゃん、いいの?!」
「勿論よ。だって、前から私もみんなとお出かけしたいと思っていたもの。」
少し強引だったかしら?
だけど誰も怪しんでないわよね。
「ジャズ先輩、ユミル殿下、それからアンサム様も。たまには一緒にみんなでお出かけしませんか?」
この流れならジャズ先輩の予定を聞いてもおかしくない。
「いいぜ! 面白そうじゃねえか。」
「僕も。みんなと一緒だと楽しそうだしね。」
よし。話に乗ってくれたし、これでジャズ先輩の予定が確認できるわね。
「アンサム様は、どうですか?」
「俺は遠慮します。」
気を遣ってアンサム様にも聞いたけど、やっぱり断られた。
アンサム様は馴れ合いは嫌いそうだし、聞く前から断られるのは目に見えていたから当然の結果ね。
「いえ、待ってください。」
するとアンサム様は、私の顔をまじまじと見つめながら、何かを考えるように話しだした。
「......やはり参加します。」
「えっ?」
どういう風の吹き回しかしら?
参加しないだろうと思っていただけに、意表を突かれた気分だわ。
「ただ、俺の友人も連れてきていいですか? 皆さんの知っている人物なのですが。」
アンサム様の友人で私達の知人、ということは、もしかしてカイル殿下かしら?
というか、アンサム様の友人はカイル殿下くらいしか知らない。
「それって、カイルのことかい?」
爽やかな笑顔でユミル殿下が尋ねると、アンサム様は眉間に皺を寄せた。
「カイル殿下だったら、いけませんか?」
「いいや。別に構わないよ。ただ聞いてみただけさ。」
なぜかしら。二人が互いに牽制しあっているかのような、ただならない雰囲気を感じる。
最近、二人の関係は妙にギクシャクしているように思えるけど、気のせいかしら?
「とりあえず、カイル殿下も誘われるということで宜しいでしょうか?」
「はい。ジュリー嬢はカイル殿下がご一緒でも構いませんか?」
「勿論です。」
むしろカイル殿下を拒む人は、この国にはいないだろう。
「やったー♪ 生徒会の皆さんや殿下達と一緒にお出かけができるなんて、最・高! です!」
キャリーはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねて大喜びする。
「じゃあ皆さん、いつ遊びに行けるかスケジュールを確認させてくださいね。あっ、言っておきますが、ドタキャンは無しでお願いしますよ。」
何はともあれ、これでジャズ先輩のスケジュールを確認できるわね。
後日、みんなでお出かけする日程を調整する過程で、私はジャズ先輩の予定を把握した。
これで後はレディーナのスケジュールを確認するだけね。
『偶然を装って二人を引き合わせる』作戦、開始よ!
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