悪役令嬢と名高い私ですが、巷で人気の『光の賢者様』の正体は私です

サトウミ

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ダブルブッキング

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ジャズ先輩からスケジュールを聞いた日から数日後。

その日、また街に悪魔憑きが現れたので、倒した後レディーナに話しかけた。
彼女のスケジュールを聞いて、ジャズ先輩と引き合わせる日を決めるためだ。

初めはジャズ先輩とレディーナの空いている日に、ジュリーとフィーネの姿で、それぞれ同じ日の同じ場所で会う予定を入れようと考えた。
そして、機を見て私がいなくなることで二人きりにさせようかと思ったのだけど、この案は駄目だ。
ジャズ先輩とレディーナに、ジュリーとフィーネわたしが二人を引き合わせようとしたことに気づかれる。
それだけならまだしも、それをキッカケに『ジュリーとフィーネは知り合いなのか?』という疑念を持たれて、最悪、二人に正体がバレてしまう。

誰かに代理で二人と会う約束をして当日ドタキャンしてもらおうかとも考えたけれども、それだと今度は代理の人に正体がバレる可能性が出てくる。

そこで私は、ジャズ先輩の予定が入っている日に、レディーナを先輩のもとへと連れて行く作戦を考えた。
ジャズ先輩に迷惑のかからない範囲で、偶然を装って出会い、機を見て私が消えることで二人きりにする。
これなら正体がバレることなく二人を引き合わせられる。

「なになに? フィーネ、まさか『またデートに行こう』って話だったりする?」
期待を寄せるような目で私を見つめるレディーナ。

「その『まさか』よ。」
デートするのはジャズ先輩とレディーナだけど。

すると彼女は大きくガッツポーズをして、街中に響くくらいの雄叫びを上げながら喜んだ。

「よっしゃぁ! またフィーネとデートだ! ねぇねぇ、次はいつデートする?」
彼女はテンションが舞い上がって、衝動のままに私に飛びついてきた。

「じゃあ、直近だと...23日はどうかしら?」
23日は、ジャズ先輩が親戚の結婚式に出席する日だ。
レディーナを結婚式場の近くに呼び出すことで、ジャズ先輩と鉢合わせる。

「あぁ~...ゴメン。その日は用事があるんだ。」
残念。この日はレディーナも用事があったのね。
さっきまで嬉しそうだった彼女も、これには苦い顔をした。

「だったら、26日の午後は?」
「ゴメン、その日も無理かも。」
「じゃあ、30日は?」
「その日も予定があって...。」
「来月の8日は?」
「その日も、ゴメン。」
「14日は?」
「...本っ当に、ゴメン!」

私が日にちを確認するたびに、レディーナは縮こまって小さくなっていく。
ここまでジャズ先輩と予定が重なるとは思ってもみなかった。
レディーナは想像以上に、忙しい子なのかもしれない。

「それじゃあ、仕方ないわね。また別の機会に改めましょう。」
私が諦めかけたその時、レディーナは慌てて引き留めた。

「ちょ、待って! 今すぐ予定考え直すから! 絶対、どこか空けるから待ってくれ!」
「無理しなくてもいいのよ? 急ぐようなことでもないし。」
「いいや! フィーネとのデートは最重要事項だ! 意地でも予定を空ける!」

当日、私は消える予定なのだから、そこまで無理に予定を空けられると申し訳なくなる。

「ねぇ、二人とも。何の話をしているの?」
「っ?!」
突然、後ろからウイン様に話しかけられて、思わず顔が赤くなる。

あの日以来、ずっとウイン様の顔をまともに見ることができない。
このままだと駄目なのは分かっているのに、前以上にウイン様を意識してしまって、どう接したらいいのか分からない。

「ウイン、お前には関係ねぇよ! あっちに行け! シッシ!」
レディーナは露骨にウイン様へ威嚇する。

「だけど...。」
「口答えするな! 百合の間に挟まる男は邪道なんだよ! わかったらどっかに行け!」
私、百合になった覚えはないのだけれども?
レディーナったら、まるでキャリーみたいなことを言うわね。

レディーナに凄まれたウイン様は、渋々去ってしまった。
ウイン様と話すのは気まずかったから、今に限ってはレディーナに少し感謝しないとね。

「それとフィーネ! 今、都合のいい日を思いついたよ。30日は大丈夫だから、一緒に遊びに行こう♪」
「だけど、本当に大丈夫なの?」
「いいって、いいって。絶対、大丈夫だから。ってか、大丈夫にするから!」

あまりレディーナに無理をさせたくないけれど、そこまでして彼女が調整してくれるのなら、お言葉に甘えよう。
...でも、当日に途中でいなくなることに罪悪感が湧いてきた。
30日はジャズ先輩と引き合わせるのを諦めて、その日はレディーナと普通にお出かけしようかしら?

「ただ、30日は王都にある『ココル』ってカフェで一緒にお茶しない?」
「えっ?」

30日に会う場合はカフェ『ココル』に行こうと思っていたけど、まさかレディーナからあのカフェに行く話を持ちかけてくれるとは思ってもみなかった。

あそこのカフェは、ジャズ先輩の叔父さんが営む酒屋の近くだ。
30日はジャズ先輩が叔父さんの店の手伝いをする日だから、頑張れば二人を引き合わせそうね。
これはきっと、二人を会わせるべきだという神様の思し召しだ。
二人を会わせてみて、雰囲気が良さそうなら、やっぱりその日は空気を読んで消えよう。

「もしかして、違う場所の方がいい?」
「そんなことはないわ。30日は、カフェ『ココル』でティータイムをしましょう。」

ひとまず私は、30日にレディーナと一緒に遊ぶ約束をした。


◆◆◆


「ジャズさん、本当に大丈夫ですか? ジャズさんとレディーナの一人二役をしつつ酒屋のお手伝いをするのは、かなりハードだと思うのですが。」
「大丈夫だって! 心配するな。何とかなるって。」

父方の叔父が営む酒屋の厨房で、俺はブルと二人きりで話していた。

今日は叔父の手伝いで、一日中酒屋で働く予定だった。
が、急用ができた。
フィーネが俺を誘ってきたのだ。

またのデートの約束に歓喜したのも束の間、ピンポイントで俺の用事がある日ばかりを言ってきた時は、運命に邪魔をされているのではと疑いたくなった。

そんな運命に負けてたまるかと、意地でも2度目のデートに漕ぎ着けたが、逆にこれはチャンスだと後々になって気づいた。

今日はフィーネと、酒屋の近くにあるカフェでティータイムを過ごす予定だ。
だからタイミングを見てレディーナから元の姿に戻り、素知らぬ顔をしてカフェに行けば、元の姿でフィーネと接点が持てる。

そのことに気づいた俺は、何としてでもこのチャンスを逃すまいと意気込んでいた。

「レディーナの姿とジャズさんの姿を頻繁に切り替えていたら、流石にフィーネ様に怪しまれませんか? 『あれ? レディーナがいない時に限ってジャズさんが現れるし、ジャズさんがいない時に限ってレディーナが現れる。まさか二人は同一人物?!』......と、ならなければ良いのですが。」

「心配性だなブルは。百歩譲って、男のまま変身していた時だったら怪しまれたかもしれねぇけど、今は背格好どころか性別すら違うんだぜ? 俺がレディーナに変身しているだなんて、フィーネどころか世界中、誰もそう思わないだろ。」

「そうだといいのですが。」

「第一、歴代賢者で俺みたいに性別を変えて戦っていた奴はゼロなんだろ? だったらフィーネも『レディーナは性別を変えているかも』なんて思いもしないはずさ。」

「私の知る限りでは、性別を偽った賢者はジャズさんが初めてです。しかし、他の賢者に関しては私は知りません。私が性別を偽って変身させることができたくらいですから、他の賢者も性別を偽っている可能性はゼロではありません。」

「ちょ、ちょっと待てよ。じゃあ、もしかしたらフィーネも男の可能性があるのか?!」

フィーネが、もし男だったら?
やっぱり可愛いから、男の娘だったりするのか?
それとも、中年のおっさんとか。
実はああ見えて、ムキムキのゴリマッチョとか?

仮に中身が男だったら、俺は男相手に毎回抱きついていたのか?
少し想像しただけで、激しい嫌悪感と後悔に苛まれる。

「...いいや、あの子は絶対、女だ! そうに決まってる!」
フィーネが男だなんて、絶対に信じたくない!

「でしたら、念のためにフィーネ様に確認してみますか?」

「アホ! もし仮にフィーネが性別を変えれることを知らなかったら『賢者って変身する時に性別を変えれたんだ。だけどレディーナは何故そんなことを知ってるの? もしかしてレディーナも、性別を変えていたんじゃ?!』ってなるだろ!」

そうなったらフィーネに嫌われるどころか、最悪殺される。
というより、男とバレた時点でレディーナおれが社会的に抹殺される。

「それに仮に性別を変えていたとしても、正直に『性別変えてます』って言うワケがねぇし。」

「確かに、そうですね。でしたら、彼女が女性であることを祈りましょう。もしくは正体もわからない女性との恋を諦める、という選択肢も考えてみてはいかがでしょう? 女性かどうかもわからない相手に恋をするより、身近な女性に目を向ける方が確実ではないでしょうか?」

「嫌だ。フィーネを諦めたくない。それにフィーネは絶対、元の姿も美少女に決まってる!」

「それはジャズさんの願望ではありませんか。」
ブルはそんな俺に、呆れてため息をついた。

「それに、ジャズさんの身近にも美しい女性はいるじゃないですか? 例えばジュリー嬢はどうですか? 彼女はとても美しい女性だと思いますし、フィーネ様に似ていると思うのですが。」

「確かにジュリーは、よく見たら美人だよ? だけどな、フィーネは特別なんだ。フィーネとジュリーは、全然違うんだよ!」

フィーネの可愛いさは規格外だから、他の女と比べること自体がおこがましい。

「とにかく、フィーネ以外の女なんて考えられない! 俺が好きなのは、フィーネだけだ!」

「...でしたら、とことんジャズさんを応援しますよ。悲しい結果にならないよう、祈ります。」

呆れて半ば投げやりになっているブルを尻目に、俺はカフェ『ココル』へと向かった。
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