悪役令嬢と名高い私ですが、巷で人気の『光の賢者様』の正体は私です

サトウミ

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ジャズとフィーネ、初対面

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「フィーネ、お待たせ~! 会いたかったよ!」

レディーナに変身した俺は、カフェの前で待っていたフィーネに、会って早々抱きついた。
そして店の中に入り、酒屋の様子が見える窓際の席へと座った。
カフェ『ココル』は、昼過ぎということもあってか、ほどよく賑わっていた。

「それにしても、このカフェって本当に雰囲気いいよな~。あっ、ほらフィーネ、ケーキきたよ! ほら、口開けて!」
「えっ、いえ、自分で食べられるわよ。」
「あーんしてくれたら嬉しいのにー。」

少し照れたように頬を赤くするフィーネ。
あぁ、そんなフィーネも可愛い。癒しだ。至福だ。
けれど、そんな時間も長くは続かない。酒屋を手伝いに行く時間が刻一刻と迫ってきている。

「えっと……フィーネ? 悪いんだけど、ちょっとお腹の調子が……ト、トイレ、行ってくるね!」

「だ、大丈夫? お腹痛いの?」

「たいしたことないって! ちょっと催しただけだから! すぐ戻る!」

とりあえずトイレの扉を閉め、変身を解除すると、そのままトイレの窓から外に出て酒屋に向かった。

「おいジャズ! オメェ、どこほっつき歩いてんだ! さっさと手伝え!」
「悪ぃ、叔父さん! 今、手伝う!」

俺は窓からフィーネの様子を伺いつつ、叔父さんの手伝いをする。
フィーネは、なかなか帰ってこないレディーナが心配なのか、ちょくちょくトイレの方を覗いていた。
あまり放っておいたら、諦めて帰ってしまいそうだ。

さっさと切り上げて会いに行きたいけど、予約していた団体客の注文に追われて、なかなか時間が取れない。
するとフィーネが席から立ち上がる姿が見えた。
これは、まずい!

「叔父さん、ごめん! ちょっとトイレ!」
「おいジャズ、待て!」
引き止めようとする叔父さんを無視して、俺はトイレへ駆け込んだ。
そして気づかれないようトイレの窓から外に出ると、全速力でカフェにいるフィーネに会いにいった。

「待って、フィーネ!」
俺は店から出ようとしていたフィーネの腕を掴んだ。
全速力で走ったせいで呼吸が乱れたので、俺は項垂れながら呼吸を整える。

「えっと...ジャズ、さん?」
フィーネは戸惑いながら、俺の顔を下から覗く。
上目遣いのフィーネも、マジで可愛い。
俺を見つめるその瞳に、吸い込まれそうになる。

...ん、ちょっと待て?
さっき、俺のことを『ジャズ』って言ったか?
俺は冷静に自分の姿を確認する。

「あっ!?」
そこで俺は、変身し忘れたことに気づいた。

だけど、まぁいいか。
やっと本当の姿で会えたんだから、このままフィーネに俺のことをアピールしよう。

「あの、どうかしましたか?」
「俺、ジャズって言うんだ。王立アスタリア魔導学園の3年で、副会長やってる。」

「え、あ、はい。」
「俺、ずっと前からフィーネが好きだったんだ! だからさ、ちょっとでいいから、俺と一緒に話そうぜ。」

俺の頼みに、フィーネはしばらく黙っていた。
もしかして、駄目だったか?
俺が内心で焦っていると、やがてフィーネは静かに口を開いた。

「......少しだけ、でしたら。」
フィーネは戸惑いながらも、俺を受け入れてくれた。

「よしっ!」
半分諦めていただけに、俺は思わずガッツポーズをする。

「ただ、私は今レディーナを待っているので、彼女が帰ってくるまでの間だけでもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。ってかフィーネ、カフェここから出て行こうとしていたんじゃないのか?」

「いえ? 私は、隣の席の人の忘れ物を受付に届けただけですけれども?」

「え?」
そうだったのか。
なんだ。俺の早とちりか。
フィーネはまだレディーナおれのことを待っていてくれるのか。
優しい子だなぁ。そういうところも好きだ。

「それにしても、レディーナったら遅いわね。トイレの中で倒れているんじゃないかしら?」
「っ?!」
今トイレの中を調べられたらまずい。
俺は慌ててトイレの前に立ち塞がった。

「大丈夫だって。きっと腹でも下しているだけだろ。」
「それは大丈夫ではないのでは?」
「ま、まぁレディーナなら平気だって! あいつ、意外とタフだから腹下すくらいどうってことないさ。それより、俺と一緒に話そうぜ。何なら、好きなケーキがあれば奢るし!」

怪訝な顔をしながらトイレを覗くフィーネを、強引にUターンさせて、元いた席へと誘導させた。
そしてレディーナとして座っていた場所に俺は座り、フィーネと一緒に喋りながらレディーナを待つ。
...まぁ、レディーナは俺だから帰ってくることはないけど。

フィーネは席につくなり、少しそわそわしながら窓やトイレの方を交互に目をやっていた。
トイレが気になるのは分かるけど、窓の外が気になっているのは何でだ?

「...あの、ジャズさん。」
「ん? なんだ?」
フィーネは遠慮がちに俺に尋ねる。

「その...今日は、予定とか、なかったのですか?」
フィーネの言葉で一瞬、酒屋の叔父さんの顔が頭をよぎったが、すぐに頭から振り払った。

「ないない、そんなの! フィーネと喋れる以上の用事なんて、この世にないから!」
「ですか...。」

「それと、俺の事はジャズでいいぜ。あと敬語もいらねぇ。」
俺がそう言うとフィーネは躊躇しながらも、フランクに話し始めた。

「ジャズ。貴方、本当に予定はなかったの?...さっき、あそこにある酒屋さんで、貴方がせわしなく働いていたのが見えたんだけど...?」

まさかフィーネにバレていたとは。
というかフィーネ、俺のことを見ていたのか。
少しは俺に興味があったりして...?

「へへ、照れるな。フィーネに働いてるところを見られてたとは。」
「ここで悠長に私とお喋りしてて、本当に大丈夫なの? ほら、他の店員さんも、忙しそうにしているわよ?」

フィーネが窓の外を指さすと、その先には叔父さんの姿があった。
団体客の対応に追われ、調理と配膳で、厨房と客席を交互に移動していた。

...ありゃ、相当まずいな。
絶対、後で叔父さんにこっ酷く叱られる。
だけど、せっかくのフィーネと話せる機会を無駄にしたくない。

「...もし良かったら、私も手伝いましょうか?」
「えっ?」

予想だにしない提案がフィーネから出てきて、俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。 
フィーネが、酒屋を手伝うって?
 いやいや、それはマズい。

「いや、大丈夫だって! ほら、フィーネはレディーナを待ってるんだろ? 酒屋の手伝いなんかより、レディーナの方が大事だって!」

俺は慌てて誤魔化そうとすると、フィーネは優しく微笑んだ。

「大丈夫よ。カフェの店員さんに、レディーナがトイレから帰ってきたら『私は向かいの酒屋にいる』って伝えるようにお願いするから。それにジャズだって、やるべきことを終わらせてからの方が、私とゆっくりお話ができていいでしょ?」

ああもう、この子は本当に優しいなぁ!
フィーネは見た目だけじゃなく性格も美人だ。

「まぁ、そうかもしれないけどさ…」
「ねぇ、ジャズ。お願い、私にも手伝わせて?」

フィーネはまっすぐに俺を見ていた。 
その瞳が、本気なのを訴えてくる。
ああもう!
断れるわけがねぇだろ、そんな顔されたら。

「……わかった。じゃあ、ちょっとだけ、手伝ってくれる?」
「うん!」

俺はフィーネを連れてカフェを出ると、恐る恐る叔父さんの酒屋へと戻った。
叔父さんは今にも殴りかかるんじゃないかというくらい、カンカンに怒っていた。

「コルァ! ジャズ、テメェ忙しい時にどこ行ってたんだ...って、その娘は?」
「叔父さん、マジでごめん! 実はフィーネが向こうのカフェにいたから、いてもたってもいられずに、つい...。」
「何ィ?!」

すると叔父さんは怒りを鎮めて、フィーネを頭のてっぺんから足の爪先までを舐めるように見た。
そんな叔父さんに、フィーネは困惑して苦笑いする。

「...まさかこの娘、マジモンのフィーネ様か?」
「は、はい。私は、フィーネと申します。」
引き気味にフィーネが答えた瞬間、叔父さんは雄叫びのような歓喜の声をあげた。

「すげぇ! フィーネ様がウチみたいな酒臭い店に来るとは驚きだ!」
「ジャズさんから忙しいと聞いて、手伝いに来ました。」
そう言ってにこやかに微笑むフィーネに、酒屋にいた客達がどよめく。

「マジかよ……あのフィーネ様が、酒を注いでくれるのか?」 
「こりゃあ今日飲まなきゃバチが当たるな!」 
「フィーネ様に注がれた酒は、きっと運気が上がるぞ!」

フィーネ効果で店内は一気に盛り上がった。
その後、フィーネが手伝ってくれたおかげで客は皆満足し、仕事も一段落ついた。
俺とフィーネは空いた席に腰をかけて休憩する。

「二人ともお疲れさん。今日はありがとな。特にフィーネ様のおかげで、店は大盛り上がりだった。よかったらまた手伝ってくれよな。これは今日のお礼だ。」
そう言って、叔父さんは俺達の前にカクテル...に見立てたソフトドリンクとおつまみのチーズを差し出した。

「わぁ! いいのですか? ありがとうございます。」
「おかわりは遠慮なく言ってくれ!」
「叔父さん、サンキューな!」

俺とフィーネはチーズを手に取って、口へ運ぶ。
仕事終わりのチーズは格別にうまい。

「へへっ、まさかジャズの彼女がフィーネ様だったとはな。」
「「っ!?」」

叔父さんから出た言葉に、俺もフィーネも口に含んだチームを吹き出しそうになった。

「ちょっ、なに言いだすんだよ、叔父さん!」
「そうですよ! 私とジャズさんは恋人ではありません!」

力強く必死に否定するフィーネを見て、ショックで一瞬、固まりそうになる。

「ありゃ? 違ったのか。じゃあ、おジャズの片想いか?」
「......まぁ、今のところはな。」

、な!

「ガハハハ! なんだい、おジャズ。振られてやんの!」
「うるせぇ!」

「ハハ、そう怒るなって。いやぁ~、青春だねぇ。おジャズにも、とうとう春が来たか。」
「からかうなって!」

「からかってねぇよ。おジャズの成長を感じているだけさ。あのやんちゃ坊主だったおジャズが、色気付くとはなぁ。」

あぁ、もうやめてくれ!
フィーネの前で茶化さないで欲しい。

「そういえばフィーネ様、アクアマンって覚えてますか? 前の水の賢者だったヤツなんですけど。」
「なっ?! 叔父さん、その話は...!」

止めようとする俺を差し退けて、叔父さんは話を続けた。

「アクアマンの正体って、実はおジャズだったんですよ。」
「えっ?」

フィーネは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で俺に目をやる。

「おい叔父さん! それは言うなって!」
「へっ? 別に、いいじゃねえか。」

俺が以前、賢者になっていたことをフィーネが知ったら、今の賢者レディーナの正体も俺かもしれないと勘付かれる可能性が出てくる。
性別が違うとはいえ、レディーナの正体が俺であると思わせるような情報は徹底的に伏せたい。

「アクアマンのことは覚えています。強くて、逞しくて、頼りになる人でした。」

フィーネは俺をじっと見つめながら、微笑んだ。
彼女に面と向かって褒められると、照れるな。
俺は思わず笑い声が出た。

「へへ、そうだろ?」
「えぇ。それにアクアマンの正体がジャズなのも納得だわ。背格好も性格も似ていたし、何より私と初めて会った時、開口一番に『好きだー! 付き合ってくれー!』って言い寄ってきたもの。」

そんなことも、あったな。
賢者として初めて戦ったあの日、フィーネに出会って一目惚れしたのを今でも覚えている。

「ハハハ! おジャズ、その頃からフィーネ様が好きだったのかよ。お前の親父が正体に気づかなかったら、今頃フィーネ様と一緒に戦えていたのにな。残念だったな。」

全くだ。
正体さえバレていなければ、今頃男の賢者アクアマンとしてフィーネの側に居れたのに。
まぁ、女の賢者レディーナとして一緒に戦うのも悪くはないけど。

「え? じゃあ、アクアマンが水の賢者を辞めた理由って、お父様に正体がバレてしまったからなのですか?」

「ああ。ウチはご先祖様に水の賢者をやっていた人が何人かいたんだ。だから水の賢者が現れた時『絶対にウチの家系の誰かだろ!』って親族一同で犯人探しならぬ賢者探しが始まったんだ。で、背格好と顔がジャズに似ているから問い詰めたら白状したってワケだ。」

問い詰めるも何も、俺がどんだけ否定しても『アクアマンの正体はジャズだ』の一点張りで聞く耳持たなかったじゃねえか。
挙句、悪魔憑きが出たら俺の変身するところを見ようとするわ、俺のことをアクアマン呼びしてくるわで、賢者を辞めざるを得なくなったんだろうが。
先祖に何人か賢者がいたんだったら、賢者の嫌がることくらい考えてくれ。

「でしたらおじ様達が正体に気づかなければ、水の賢者はアクアマンのままで、レディーナが現れることもなかったのですか?」
「あぁ! 今の水の賢者レディーナ様も悪くねぇが、やっぱり身内としては、アクアマンの活躍が見たかったなぁ。」

レディーナも一応、身内だぞ。
というか、ブルが『水の賢者の素養があるのは世界中探しても俺しかいないから変装して戦ってくれ』と泣きついてこなけりゃ、レディーナすら現れることもなかったけどな!

「賢者の期間は短かったけど、アクアマンは一族の誇りだ。」

いま俺がレディーナになっていることを知ったら『一族の恥』呼ばわりされるんだろうな。

「アクアマンが一族の誇りだと思う気持ち、よく分かります。賢者として戦うジャズさんは、本当に格好よかったですから。初陣でも怖気付くことなく果敢に悪魔憑きに立ち向かって、とても頼もしかったです。」

「...えへへ。」

フィーネにべた褒めされて、思わず顔の筋肉が緩んでくるのを感じた。
ヤバい、にやけるッ!

「……ふっふっふ。おジャズ、お前いま、顔ゆるんでるぞ~?」
「緩んでねぇし! むしろ引き締まってるし!」

「鏡見てこい鏡。ほら、ほっぺがふにゃってなってんぞ、ふにゃって!」
「ふにゃって言うな!」

全力で頬を手で押さえる俺の姿に、フィーネがくすくすと笑う。

「そういえばレディーナになりそうな人は、ジャズさん達の身内には、いないのですか?」

「残念ながら、ウチにはレディーナ様くらいの年頃の娘はいないんスよ。まぁ、おジャズのこともあるので、いたとしても詮索しなかったと思いますが。」
アクアマンおれの時にそう思って欲しかった。

「そうなのですね。レディーナって、どことなくジャズさんに似ているので、もしかしたら彼女もジャズさん達の身内なのかと思いました。」

「なっ?!」

核心を突く憶測を言ってきたせいで、誤って口に含んだ飲み物をフィーネに吹きかけるところだった。
ま、ま、まさか正体を勘づいていないよな?
額から変な汗がじわじわと出てくる。

「お、お、俺とレディーナが似てるって、どういう意味だ?!」
「そのままの意味よ? ジャズもレディーナも、陽気で頼もしくて、優しいもの。」

本当に、それだけか?
不安で心臓がドキドキする。

「それに『私のことが大好き』っていうところもね!」
屈託のない笑顔でフィーネは言い切る。
...きっと俺の考えすぎ、だよな?
勘づいていたら、こんな笑顔を俺に見せるわけがない。
だからフィーネは勘づいていないはずだ。
俺は自分にそう言い聞かせた。

「ところで、おじ様。レディーナはまだ、こちらに来ていませんか?」
「へ? レディーナ様ですか?」

「はい。彼女とはさっきまで向こうのカフェにいたのですが、トイレに行ったきりなかなか帰ってこないので、待っている間にジャズさんのお手伝いをしに来ました。彼女には私がここにいることを伝えているの筈なのですが、見ませんでしたか?」

やべぇ。
レディーナのこと、すっかり忘れてた!
トイレに行って消えてからだいぶ経つし、流石に怪しまれるよな?

「レディーナ様は、ウチの店に来てませんよ?」
「そう、ですか...。私、心配なので彼女の様子を見てきます!」
「フィーネ、待って!」

やっぱり、そうなるよな!
俺は、酒屋から出て行くフィーネを追いかけるフリをしながら外に出た。
そして誰にも気づかれないように、こっそりカフェのトイレの窓を開けて、中に入ってレディーナに変身した。

何とかフィーネが来る前にトイレに戻れたのも束の間、言い訳を考える暇なく、トイレの扉をノックする音が響いた。

「ねぇレディーナ、大丈夫? まだいるわよね?」

どうする?
なんて誤魔化すのが正解だ?
早く答えないと、余計に怪しまれる。

「レディーナ? ...もう帰っちゃったのかしら?」
「ま、待ってフィーネ! 私ならいるよ!」

フィーネが帰りそうな気配を感じ、俺は慌ててトイレから出た。

「レディーナ!」
「ごめん、トイレが長引いて。」

「いいのよ、気にしないで。それより体調は大丈夫? 今日はもう帰って、家で安静にしましょう。」
「大丈夫大丈夫! 私はもう平気だから。それよりティータイムの続きをしよ!」

「駄目よ、無理したら。それに私達はお互いの正体を知らないんだから、レディーナが倒れても家まで運んであげられないわ。」

怪しまれていないのは良いものの、このままじゃ帰る流れになっちまう。

「本当に大丈夫だから! 実はさ、お腹が痛いっていうのは嘘で、本当はこっそり抜け出して家の手伝いをしていたんだ。フィーネ、ごめん!」

...しまった!
引き止めるのに必死で、咄嗟に本当のことを言っちまった。
レディーナがジャズと同じ場所とタイミングで『家の手伝い』って、どう考えても怪しすぎるだろ!

俺は額に汗を掻きながらフィーネの様子を伺う。
フィーネは俺を疑うどころか、どこかバツの悪そうな顔をした。

「...こちらこそ、ごめんなさい。」
「え? なんでフィーネが謝るの?」

「だって、貴女が忙しいのを知っていたのに、誘っちゃったから。無理させちゃったわね。」
「なんだ。そんなこと、気にしなくていいのに。」

フィーネの優しさに、胸がじんわり温かくなる。
けど同時に、妙な罪悪感も襲ってきて落ち着かない。

「それよりティータイムの続きしよ♪  待たせちゃったし、私がケーキを奢るからフィーネはじゃんじゃん頼みなよ!」

「フフ、そんなに奢ってくれるの? じゃあ遠慮なく...って言いたいけど、私はお腹がいっぱいだし、紅茶だけで充分よ。ありがとう、レディーナ。」

にっこり微笑んでそう言うフィーネを見て、俺は心の中で思わず頭を抱えた。
あぁもう、何でこの子はこんなに可愛いんだよ!

「じゃあ、戻ろっか?」
「うん!」

そう言って俺達は、カフェの窓際の席へと戻り、再び二人で午後のひとときを楽しんだ。
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