悪役令嬢と名高い私ですが、巷で人気の『光の賢者様』の正体は私です

サトウミ

文字の大きさ
20 / 44

緊張を乗り越えて

しおりを挟む
ウインに変身して、再びロザリア嬢のもとへ駆けつけると、フィーネ様とレディーナ様が既にロザリア嬢と戦っていた。

「二人とも、お待たせ!」
「ウイン様!」
「遅いぞ、ウイン!」

僕はロザリア嬢へ近づいて、武器の剣で斬りかかる。

「また厄介な賢者が増えたわね。邪魔よ! 消えなさい!」
彼女は持っていた鞭で、振り翳した剣を叩いた。
鞭の能力のせいで、剣は消えてしまう。
あの能力、僕には効かなくても、僕の持ち物には効くのか。

「ウイン様、気をつけて! あの鞭に当たってしまうと、彼女の命令に逆らえなくなります!」
「了解、フィーネ様!」

僕はふと、フィーネ様を見ると、彼女と目が合った。
彼女は相変わらず、恥ずかしそうに顔を逸らす。
カフェでの一件で解決したかと思っていたけど、まだ改善には時間がかかりそうだな。

「あら、よそ見? 随分、余裕そうじゃない。」
おっと危ない。
ロザリア嬢が振り回した鞭を、間一髪で避ける。
僕の場合、当たっても効果はないとはいえ、当たらないに越したことはない。

「そっちこそ油断してない? 私もいるよ!」
ロザリア嬢の背後からレディーナ様が殴りかかる。
だけどロザリア嬢は、殴りかかったレディーナ様の拳を片手でキャッチすると、彼女を地面に叩きつけた。

「油断しているのはアンタよ。」
「あっ! レディーナ避けて!」
...しまった。
ロザリア嬢は地面に叩きつけたレディーナ様を鞭で叩いた。

「賢者レディーナ。お手。」
「やるかよ! クソッ!」
レディーナ様は苦悶の表情を浮かべて、必死に抵抗する。
だけど、まるで操られているかのように、ロザリア嬢が差し出した手の上に右手を置いた。

「お座り。」
今度は彼女の前でひざまずく。

「...うん。今度は大丈夫みたいね。」
ロザリア嬢は何かを確信したかのように、満足そうな笑顔を浮かべた。

「この能力、尊敬している相手には通じないみたいだけど、貴方達には通じるみたい。私ったら、貴方達のことは大して尊敬していなかったみたいね。」

だから僕には効かなかったのか。
...ということは、賢者いまの僕が当たったらまずそうだ。

「そうだわ。たまにはポンコツ悪魔王のお願いでも聞いてあげようかしら?」
悪魔王の願い?
まさか!

「賢者レディーナ。貴方の正体を教えなさい!」
「レディーナ様、言っちゃ駄目だ!」

僕は急いで彼女のもとへ駆け寄り、彼女の口を強引に手で塞いだ。

「ン~!」
レディーナ様も真っ青な顔をしながら、必死に口をつむぐ。

「邪魔なのよ、貴方!」
ロザリア嬢は、今度は僕に鞭を振るう。
僕はレディーナ様を抱き抱えながら、鞭を避けた。

「もう! すばしっこい男ね!」
僕がレディーナ様を抱えて逃げ回っている間に、フィーネ様がロザリア嬢に殴りかかる。
ロザリア嬢も彼女に負けじと鞭や蹴りで応戦する。

「鬱陶しい賢者達ね! 賢者レディーナ、賢者ウインを捕まえなさい!」
「なっ!?」

すると命令に応じるように、抱き抱えていたレディーナ様が上体を起こして立ち上がった。
そして強く抱きついてきて、僕は身動きが取れなくなった。

「あっ、ウイン様っ!」
「貴方も私の奴隷になりなさいっ!」

しまった!
と思った時には遅かった。
僕は無惨にも彼女の鞭の餌食となった。
鞭を喰らった瞬間、全身に静電気が走ったかのような痺れを感じた。
...今回こそは彼女の命令に逆らえなさそうだ。

「ウイン様!」
「アハハハハ! 二人の賢者は私の奴隷よっ!」

今までで一番、まずい展開だ。
僕とレディーナ様が正体を言わされたら、賢者が一気に二人もいなくなってしまう。
うっかり喋らないよう口を塞ぎつつ、次の命令が来る前に倒そう!

僕とレディーナ様が飛びかかろうとした瞬間、ロザリア嬢は『動くな』と命令して僕達を止めた。
頼みの綱はフィーネ様だけだ。

「残りは貴女だけね。前から思っていたけど、貴女のその顔、ずっと気に食わなかったのよ!」
「そうなのですか? 私はロザリア嬢のお顔は好きですよ。」

「お顔『は』って言ってくるところも不愉快ね! ...そんな貴女に、とびっきりの素敵な命令をしてあげる。」
素敵な命令?
嫌な予感しかしない。
だけど今の僕には、フィーネ様が鞭の餌食にならないよう祈ることしかできなかった。

「賢者ウイン! 賢者レディーナ!」
ロザリア嬢の命令がくる!
僕を呼ぶ声が聞こえると同時に、口を強く食いしばって必死に抵抗する。

「貴方達...キスしなさい。」
「はぁ?!」
「えっ!」

意図のわからない命令に、一瞬、頭が真っ白になる。
だけど身体は命令に忠実で、僕の意思とは関係なくレディーナ様に近づいた。

「誰が野郎なんかとキスするかーっ!」
「僕も、それは嫌だ!」
レディーナ様から必死に顔を逸らそうとするも、頭は誰がにがっちり掴まれているかのように、思い通りに動かない。

「そんなの、駄目っ!」
「アハハハハ! 貴女のその顔を見たかったのよ。どう? が他の女とキスする瞬間が見れて、楽しいでしょう?」
「全然、楽しくないわ!」

フィーネ様、お願いだ。
彼女の唇が当たる前に、倒してください!
僕とレディーナ様は命令の効力に抗うも、徐々に互いの唇が近づいていく。
彼女の唇が近づくにつれて、僕はジュリー嬢の顔を思い浮かべる。
ジュリー嬢以外の女性とキスをしたくない。

「ウイン様がキ、キ、キスだなんて! 絶っ対に、駄目ー!」

フィーネ様、早く! 早く!
僕は目前にまで迫ったレディーナ様の唇に抗うように、歯を食いしばり、目をギュッと瞑る。

それと同時に、目を瞑っていても分かるくらいに眩しい光が差し込んだ。
その光が消えたのを感じた頃には命令の効力がなくなり、僕とレディーナ様は自由に動けるようになっていた。
よかった。フィーネ様、ロザリア嬢を無事倒してくれたみたいだ。

「ウイン様、大丈夫ですか!? レディーナとキス、していないですよね?」
フィーネ様は颯爽と僕のもとへ駆けつけると、困惑しながらも僕の目を真っ直ぐ見て尋ねた。

...あれ?
真っ直ぐ見て、話せてる!
彼女と目を見てちゃんと話したのは久しぶりだからか、嬉しくて思わず笑みが溢れた。

「フフ。やっと話してくれたね。」
「っ?!」

話しかけた途端に、フィーネ様は顔を赤くして僕から逸らす。
折角話せたと思ったけど、やっぱりまだ時間がかかるのかな?
と思っていたら、フィーネ様は顔を真っ赤にしながらも、再び僕と顔を合わせてくれた。

「...ウ、ウイン様、今まで、その...素っ気ない態度をして、ごめんなさい。」
フィーネ様はまだ、恥ずかしそうだ。
あの日のことを引きずっているみたい。
だけど頬を赤くしながらも、真剣に僕と向き合おうとしてくれている。

「いいよ、全然気にしてないから。」
彼女なりに頑張って元の関係に戻ろうとしてくれているのを感じて、嬉しくてつい照れ笑いをした。

「まだ変に意識してしまって、うまく話せないかもしれませんが、許してくださいますか?」
「勿論だよ。」
すると彼女も、安心したように笑顔になった。
フィーネ様は健気で可愛らしい人だ。

緊張しても頑張って話そうとしてくれている彼女を見ていると、僕も頑張ってジュリー嬢にアプローチしようと思えてくる。

「...僕も負けてられないな。」
「え? どうしましたか?」
「いや、何でもないよ。君みたいな女の子に好かれる人は、きっと幸せ者なんだろうなって思っただけさ。」

何気なく放った言葉はフィーネ様を惑わせたようで、僕の言葉を聞いた彼女は頭から湯気を出しながら倒れてしまった。

面白い娘だな、フィーネ様は。
彼女の頑張りに勇気をもらった僕は、明日からジュリー嬢に話しかけようと意気込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。 このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる! それは、悪役教授ネクロセフ。 顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。 「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」 ……のはずが。 「夢小説とは何だ?」 「殿下、私の夢小説を読まないでください!」 完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。 破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ! 小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処理中です...