悪役令嬢と名高い私ですが、巷で人気の『光の賢者様』の正体は私です

サトウミ

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また会いましょう

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「ウイン様…!?」

カフェに現れたウイン様の姿を見て、私は開いた口が塞がらない。

「なぜ、こちらに…?」
思わず言葉にしたのは、そんな下らない質問だった。
ウイン様がここに来る理由は考えるまでもない。
タマモ様を悪魔祓いするためだ。
そもそも悪魔憑きが出なかったとしても、カフェで会う約束をしていたのだから来るのは当然だ。

「待たせてごめん。今日は熱が出たせいで、来るのが遅くなっちゃった。」

ウイン様は大きな咳をしながら話す。
ユミル殿下ウイン様が遅れた理由は、恐らくタマモ様を歓待していたからだ。
だけど本当の理由が言いづらいから、あえて熱が出たということにしたのだろう。

「いえ、お気になさらず。それより、体調は大丈夫ですか?」
ここで心配しないのは不自然なので、私は形式的に体調を気にかけた。

「大丈夫。寝たら随分回復したから。」
「それなら、安心しました。」
「ところで、さっき言っていたことって、本当?」
「えっ…?」

私は少し前の自分の言動を振り返る。

───ウイン様に会いたくてドタキャンしてしまい、すみませんでした!

瞬間、私は恥ずかしさのあまり顔が火照った。

「あれは! その、違うのです! いえ、違うことはないのですが、ウイン様の大ファンという意味でして、決して深い意味はありません!」

慌てて誤魔化すように喋るも、うまく話せない。
私はそんな自分が恥ずかしくて、自己嫌悪に陥りそうになった。

「あはは! 僕の大ファンか、嬉しいよ。」
照れるように笑うウイン様。
その笑顔が、何よりも尊い。

「ところで、今日は別の用事があったの?」
「はい、実は。私のことを待っている友人には申し訳ないことをしました。」
「そうだね。僕は会えて嬉しかったけれど、その人には悪いことをしちゃったね。…ちなみに、その友人って誰なの?」
「え?」

どうしてそんなことを聞くのかしら?
誰かと聞かれても、レディーナだとは口が裂けても言えない。

「すみません、それは秘密です。」
「そっか。ついでに聞くけど、その友人は、君のことを『友達』として好きなの?」
「それは…。」

もちろん、と言いかけた口の動きが止まった。
レディーナは本当に、私のことを『友達』だと思っているのよね?
彼女と一緒にいる時、たまに『百合』の二文字が頭に浮かぶ。
だけどジャズ先輩が好きなのだから、彼女が百合なはずはないか。

「そうか、わかったよ。」

私がなかなか答えなかったからか、ウイン様は残念そうに眉を下げた。
それほど気になる話だったのかしら?

あぁ。もっとゆっくりウイン様とお話ししたい。
この時間がいつまでも続けばいいのに。
だけど、今は駄目だ。

「それよりウイン様。今は悠長に話している場合ではありませんでした。悪魔憑きになったタマモ様を止めなければ、世界樹が悪魔王に奪われてしまいます!」

こうして話している間にも、タマモ様は刻一刻と世界樹に近づいている。
ウイン様とお話しするのは、タマモ様を倒してからにしよう。

「えぇ?! 悪魔憑きが出たの? そっか、どおりでカフェが街が大変なことに...。でもタマモ様がどうして悪魔憑きに?」

ウイン様は知らないフリが上手ね。
もしかして、ウイン様は本当に知らないのかしら?
どちらにせよ、一刻も早く悪魔憑きタマモ様のところへ行ってもらおう。

「すみません、詳しい説明はレディーナ様に聞いてください。今はフィーネ様がいないので、急いで合流してください!」

「わかった、とにかく急いで倒してくるよ! とりあえず君はそこで待っててね!」

ウイン様はひと足先に店を出て悪魔憑きタマモ様のもとへと向かった。
私もその後を追うように、変身して悪魔憑きを倒しに行った。

外を出て走ること数分。
逃げ惑う人々と反対方向へと進んでいくと、そこには街を破壊する黒い狐、もとい悪魔憑きタマモ様がいた。
その周りにはクッションの餌食となって跪く人々の姿もあった。

先に来ていた二人は、タマモ様の投げるクッションをかわしながら、飛び蹴りやパンチで攻撃していた。
だけど攻撃が当たる前に尻尾で払いのけられて、なかなか当たらない。

「二人とも、遅くなってすみません!」
「あぁ! フィーネ!」

現場に駆けつけた私に気づいたレディーナは、戦闘を放棄して一直線に私に抱きついた。

「あぁ~フィーネ! 会えて超・超嬉しいよ! 今日は会えないんじゃないかって心配したんだよ?」
「ごめんなさいね、レディーナ。ちょっと急用ができてしまって、なかなか来れなかったの。それより、今は悪魔憑きを倒しましょう。」
「了解!」

私は光の精霊の力で、タマモ様の目に強烈な光を放ち、目くらましをする。

「うわぁ! な、なんじゃ?!」
「二人とも、今です!」

私の合図とともに、二人は一斉にタマモ様へ飛びかかった。
タマモ様は混乱して身を屈めながら、警戒するように尻尾を大きく振る。だけど無造作に振るわれた尻尾が二人に当たることはなかった。
レディーナの飛び蹴りとウイン様のパンチを同時に頭に喰らったタマモ様は、一瞬で悪魔祓いされ、元の獣人族の姿へと戻った。

「よーし! これで一見落着だな!」

私達3人は手を重ねて、精霊の力を手に込める。
そして手を上げて精霊の力を放つと、タマモ様によって破壊された街は一瞬にして元通りになった。

「悪魔憑きは倒したことだし、あとはゆっくり、みんなで遊ぼう!」
私に会えて上機嫌の彼女を見ていると、帰り辛いわね。

「そうだね。ジュリー嬢を待たせてるし、早くカフェに……ゴホッ!」
風邪という設定だからか、ウイン様はこれみよがしに何度も咳をする。
タマモ様を歓待している途中だから、体良く帰る口実を作りたいのだろう。

「あっ!?」
しまった!
ウイン様は悪魔憑きを倒したら帰る予定なのだから、どのみちウイン様とカフェに行けないのだった。
あぁ、それならさっきお会いした時に、もう少しゆっくりお話しすれば良かった。
非常事態だったから仕方ないとはいえ、私は後悔の念に駆られた。

「どうしたフィーネ?」
「い、いえ、なんでもないわ! それよりウイン様、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫! 熱はもう引いたから…ゴホッ! ゴホッ!」
「お前それ全然大丈夫じゃねえだろ。」

「いや、本当に大丈夫だから! 急いでカフェに行こう!」
「ウイン様、無理は禁物ですわ。熱があるのでしたら、日を改めてお会いしましょう。実は私も、急用があるのを思い出しました。3分の2がカフェに行けないのですから、今日はお開きにした方がいいと思います。」

「だけど…!」
「えぇ~! フィーネ、もう帰っちゃうの? ヤダヤダ!」
「ごめんねレディーナ。私も本当は、みんなと一緒にいたいわ。ウイン様も、今日はご自宅に帰って養生してください。風邪が長引くと悪魔憑きと戦えなくなります。」

「本当に、大丈夫だから!」
「ウインが大丈夫でも、フィーネが用事があるんだよ。フィーネも帰るしウインも熱だったら、もう今日は無理だ。…はぁ~。フィーネともっといたかったなぁ~。」

レディーナもウイン様も、もちろん私も、解散する流れに落胆する。

「あぁ…せっかくジュリー嬢と…」
「ジュリー嬢?」
「…いや、なんでもないよ!」
ウイン様にジュリーわたしの名前を呼ばれた気がするけど、気のせいかしら?

「そういやジュリーがカフェで待ってるんだった。」
「えっ、そうなの?」
私はわざとらしく驚く。

「そーそー! ウインが今日、私達があのカフェに行くことを教えたらしいよ。フィーネのサインが欲しくて待ってたんだけど、サインだけでもいけそう?」
むしろ、それだけは絶対に不可能だ。

「ごめんなさい。私は急いでいるから、彼女へのサインはまたいつかあげると伝えておいて。」
「わかった。」

「待って! 僕からも彼女に伝えて欲しいことがあるんだ!」
「なんだ?」
ウイン様がジュリーわたしに?
私とレディーナは黙って聞いていたが、ウイン様は慌てふためくだけで一向に喋らない。

「おーい、まだか?」
「もうちょっと待って、もう少しで思いつきそうなんだ。」
そこまでして私に何かを伝えたいの?
よほど大事なことなのかもしれない。

「おせーな、ウイン。だったら今度、ジュリーに会いに行って直接話せよ。ジュリーにはそう伝えておいてやるからさ。」
「えっ?」

ジュリーわたしに直接言うってことは…また私はウイン様と会えるってこと?
ナイスよレディーナ!
本当なら今すぐにでも彼女の手を取って、感謝したいくらいだわ。

「あ、ちなみにジュリーは王立アスタリア魔導学園の生徒会室か2年の教室にいるらしいよ。フィーネも今度、会いに行ってあげて。」
「えぇ、もちろんよ。」

今度二人にサインのことを聞かれたら『フィーネはすでにジュリーにサインを渡した』と説明しよう。

「じゃあ、ジュリー嬢には今度会いにいくって伝えておいて! よろしく、レディーナ様。」

ウイン様はそう言うと、ゴホゴホと咳をしながら帰るふりをした。
私もその場を離れて帰るフリをしながら、レディーナに気づかれないようにカフェに行き、ジュリーの姿へ戻って彼女と合流した。

…ウイン様が私に伝えたかったことって、何だろう?
そのことを考えながら、私はウイン様が来てくださるのを心待ちにした。
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