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青年篇
57 side ディール
しおりを挟む見るからに薬屋と併設された不用心な民家。奥の部屋から漂ってくる濃い薬の匂い。
セイの服からも薬の匂いはしてたが、ここがセイの家。
俺から自分の荷物を受け取るセイ。
礼を言って、社交辞令な感情の乗ってない笑みを浮かべ、荷物を受け取るが、視線が合わない。
「…………」
帰り道では興味津々といった表情で黒曜石の瞳を輝かせ、真っ直ぐ俺を見上げていたのに?
湖では足を絡ませてまで俺にしがみつき、快楽に乱れていても、熱で潤んだその視線は俺の方を追い縋っていたのに?
不穏な気配を引き連れて、焦った様子で森から飛び出して来た瞬間から、コイツの目はずっと俺を捉えていた。
今はそれが無い。
その事が無性に、面白くない──
セイの家は粗末ではないが素朴だ。
居間に応接セットはあっても、クッションの効いたファブリック製のソファではなく、上質とはいえ木製の長椅子。しかもかなりの年季が入っている。
他の家具もそうだ。落ち着きがあり、上質で木製の物を使用しているが決して華美じゃない。
どう見ても贅沢や遊楽とは程遠く、生活感のある家屋は、セイが〖古い文献〗や〖愛し子の噂〗にある様な驕奢を尽くし、奢侈好む〖愛し子〗では無いと理解したが──〖聖者〗なのに何故こんなに質素な暮らしなのか。
クルホ村の〖聖者〗が作ったとされる薬はあんなに高額だというのに。益々、セイの事が分からない。
しかも座席が足りないからと何処からか持ってきたボロい踏み台に平然と座る始末。
踏み台に座る事を譲る気の無い様子に、俺が野宿で愛用しているスノウラットラビットの敷物を出してやれば──満足そうに無邪気に微笑んだその顔は、媚びることのない自然な笑顔。
……俺はコイツに求められなかった事が──線引きされた態度が──面白くなかった。
俺はコイツの純粋な笑顔が欲しい。
──なあ、セイ。俺が欲しいなら手を伸ばして来いよ。あの湖で、俺にしがみついたみたいにさ。そしたら俺は────
護衛の男、ガルシオンが言う「事情聴取」とやらは思いの他、公平を期していた。
護衛の姉さんは俺への敵対心を隠そうともしなかったし、ガルシオンも面には出さないが、ゾッとする程の殺気を内に隠していたからてっきり”信者”かと思ったが、そういう訳でもなさそうだ。
「──で、湖の中で口づけたんだよ」
「セイ様から?」
「ううん、彼から」
「無理やりですか?」
「……では、……なかったかな……?」
「他には?」
「身体の、触れ合い。……ねえ、そういうの訊くの良くないよっ、下品だってシャロンが言ってた」
「し、シャロンがっ? や、……これは事情聴取ですから、全部話して貰います」
「むぅ、口づけして気持ちよくなって、教会の図書室にある物語小説みたいに触れ合ったの! 入れた側が責任を取るんだってシャロンが言ってたから、僕達はどうするのか聞きたかっただけ! ハイ、もうおしまいっ!」
一気に捲し立て、この話は終いだとばかりに締め括ったセイ。
俺が誤解していたというのもあったが、セイの色事に対する知識が偏っている事が分かり、セイが指二本の挿入で情交成立だと勘違いしている事が発覚した時は、向かいに座る護衛二人から「うちの子がすみません」という空気が流れた。
この二人は”信者”ではなく”保護者”だ。
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