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しおりを挟むゆっくりと瞳を開けると見たこともない天井が見えた。
「ここは……」
「気が付いた?」
声が聞こえて、声のした方に顔を向けると綺麗な女性が歩いて来た。
「はい。助けていただきありがとうございます」
そして私の横になっているソファーの隣の椅子に座ると私にお茶を差し出した。
「ゆっくりと飲んで。ふふふ、私が助けたわけじゃないけど、無事でよかった」
私は身体を起こすと、凄い色のお茶を一口飲んだ。
「苦い……」
「あなたは魔力が切れて倒れたみたいね、魔力が回復するから飲んで」
「はい」
私が一気に飲むと、女性が「よくできました」と言って微笑んでくれた。
するとバタバタと音がして、男性が二人、入って来た。
私はそのうちの一人を見て声を上げた。
「サク様!!」
殺伐とした王宮で出会った笑顔の素敵な男の子で、彼の明るい声と笑顔に癒された私はもう一度会いたいと思っていたのだ。
サク様は、私の寝ていたソファーの前に座りながら言った。
「久しぶりだな、ライラ。こんなところでどうした?? あのチャラ王子に何か言われたのか?」
サク様の優しい声にこれまで張り詰めていた……糸が切れたように涙が流れた。
「ザーイル王太子殿下に……婚約を破棄されました」
「……は? なんで??」
サク様は眉を寄せて、身を乗り出しながら尋ねた。
「聖女様……乙女ゲームの主人公様と……結婚されるそうです」
サク様が困ったように言った。
「あ~~あの子……メンヘラちゃんっぽかったけど……チャラ王子が相手で大丈夫かな? なんか束縛加速しそうなスリリングな二人だけど……まぁ、一応言うけど……それ、たぶんあの子の名前じゃないけど……本名は知らんけど」
サク様の口からは理解不能な言葉が次々に飛び出した。
じっとサク様の話を聞いていると、私を助けてくれた男性が口を開いた。
「それで……どうして君は森に? まさか物理的に家から追い出されて捨てられたのか??」
「デキュラ伯爵の後妻になれと言われて逃げてきました」
するとすぐ綺麗な女性が声を上げた。
「こんないい子が、あの男に嫁ぐなんてあり得ない!! しばらくここにいなさい」
サク様が首を傾けた。私も後妻になれと言われただけでどんな人物かは聞いていなかった。
「その人、どんな人なの?」
「ライラとダンテは確か18歳だったね?」
女性に尋ねられたので、私は男性と顔を見合わせた後にうなずいた。
「うん」
「はい」
すると「二人にはまだ早いかな」と言った後にサク様の耳に口を寄せて何かを言った。その途端、サク様の顔がこれまで見たことないほど凶悪な顔になった。
「なんだと!?」
そして私の両手を包み込みながら、凄い迫力で言った。
「ライラをそんな変態親父に嫁に出すわけにはいかない!! ちゃんとした男に嫁に出すまでは俺が面倒を見てやる!! 大丈夫、そのくらいの甲斐性はある!!」
私は戸惑いながらも「よろしくお願いします」と言ったのだった。
そしてサク様は鼻息荒くしながら立ち上がった。
「とにかく、腹減ってるだろう? ご飯作るから。後、『様』は禁止な」
「サクさん?」
「ん、それでよろしく」
そしてサクさんが男性を見ながら言った。
「ダンテはライラに建物を案内しながら、料理を運んでくれ!! 今日は人数多いから何回か往復しなきゃいけないと思う」
サクさんがいなくなった後に、女性が私に向かって言った。
「クレアよ。よろしくね」
「私はライラと申します。こちらこそよろしくお願いいたします」
頭を下げると、男性が口を開いた。
「俺は、ダンテ。よろしく」
「ライラです。よろしくお願いします」
二人に自己紹介を済ませると、ダンテ様が優しく目を細めながら言った。
「まずは、この建物を案内するな」
「よろしくお願いします」
誰かにこんなにやさしい瞳を向けられるのは本当に久しぶりで泣きたくなった。
◇
この建物は広く、さらに建物を出ると廊下で繋がっており、奥にさらに大きな建物がある。
「広いですね」
「ああ、ここは冒険者を相手にした宿なんだ」
「宿!? 冒険者?」
思わず声を上げると、ダンテ様が困ったように言った。
「そう、そして……あの崖の向こうにはかなり難易度の高いダンジョンがある」
「えええ~~!? では、ここはダンジョンに行かれる方のためにお宿なのですね。なるほど、なるほど」
まさかダンジョンのすぐ近くに宿があるとは驚いてしまった。
「そして、俺はここで働かせてもらってる」
「ダンテ様は、宿で働いておいででしたのね」
「ぶっ!! あのさ、その『様』っていうの止めてくれないか?」
「では……ダンテさん?」
「呼び捨てでいいんだけど……」
「え? それはちょっと……ですが、ダンテさんは私を呼び捨てでいいですよ」
ダンテさんに案内してもらっていると、サクさんの声が聞こえた。
「ダンテ~~できた~~」
ダンテさんはサクさんの方に歩いて行ったので私もついて行った。
どうやら、これから宿に宿泊されているお客様のお部屋に料理を運ぶようだ。
(一緒に行ってもいいのかな?)
不安に思っていると、ダンテさんが「行く?」と言ったので「はい」と答えた。
ダンテさんはとても落ち着いていて大人びていた。
(どのくらいここで働けばこんなにかっこよく落ち着いた雰囲気になるのかな?)
「あの……ダンテさんはこちらにお勤めしてもう長いのですか?」
「俺は昨日から世話になってる」
「え? 昨日?」
予想外の答えに私はとても驚いた。その後、ダンテさんに建物の中を案内してもらったが、とても昨日から働いているとは思えないほど熟知しているように思えた。
(私にできるかな……)
ずっと王妃教育しかしていなかった自分にダンテさんと同じように働くことができるのか不安に思った。
食事を配り終えた私は、ダンテさんを見ながら言った。
「あの……危ないところを助けていただき本当にありがとうございました。私、まだしっかりとお礼をお伝えしていませんでしたよね……」
ダンテさんは頭の後ろに片手を当てて困ったように言った。
「いや、結局俺も君がいなきゃ何もできなかったんだから、気にしないでくれ」
「それでも……ありがとうございました」
するとダンテさんは照れたように顔を赤くして笑った。その顔を見て私は心臓が早くなるのを感じた。
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