婚約者は聖女様と結婚するそうですが、森の中に逃げ込んだ私は最高の生活と出会っちゃいました!

たぬきち25番

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「髪がつやつやになりました。教えていただいてありがとうございます」

 お風呂から上がった私は、火照る肌に当たる心地よい夜風を感じながらクレアさんにお礼を言った。

「ふふふ、どういたしまして」

 私は、部屋に戻ろうとするクレアさんに向かって言った。

「クレアさん、少し夜風に当たって戻ってもいいですか?」

 やはり2度もお風呂に入ると、頬の火照りが収まらないので、少し身体の熱を冷まして部屋に戻ろうと思った。

「構わないわ、敷地から出ないようにね。おやすみ」

「はい。おやすみなさい」

 クレアさんにあいさつをすると、私はさっき一人で座ろうと思っていたベンチに向かうと、人影が見えた。

(こんな時間に……まさか不審者!?)
 
「そこにいるのは誰ですか!?」

 私が光を当てると、声が聞こえた。

「眩しっ!!」

 よく見ると、ダンテさんが目を押さえていた。私は急いでランプを下げた。

「ダンテさん? すみません、不審者かと……こんなところでどうされたのですか?」

 ダンテさんは困ったように言った。

「どうしたのかと言われると困るな……え~~と、眠れなくて……星を見てた。確かに不審者だな。すまない」

「いえ!! こちらこそ、ゆっくりと星を眺めていたのに邪魔してすみません」

 星を見ていたのに光を当てるなんて邪魔以外の何者でもない。

「いや……」

 なんとなくまだダンテさんと話がしたくて、声をかけた。
 
「灯りを消すのでご一緒してもよろしいですか?」

「ああ」

 私はダンテさんの隣に座ると灯りを消した。
 そして月を眺めていると、ダンテさんが口を開いた。

「君は、魔法って興味ないのか? 雷魔法の適性があるんだろう?」

 私はダンテさんの方を見ながら言った。

「あります!! 実はずっと魔法を学びたかったんです!! これまでずっと機会がなくて……ですが、クレアさんが魔法指導の資格をお持ちらしいので、教えていただくことになりました」

 ダンテさんは目を大きく開けて興奮したように言った。

「え!? それは凄いな!! 俺も一緒に教わってもいいかな?」

 私は慌てて声を上げた。

「明日クレアさんに聞いてます!」

「あ、そうだよな……俺も聞いてみるよ……でもそうか~~あの方から直々に基礎から学べるなんて……俺もせめて訓練を見学したいな……」

 ダンテさんがいつも以上に嬉しそうに目を細めるので、私はますます楽しみになって尋ねた。

「あの、魔法の修行ってどんなことをするのですか?」

「修行? はは、悪い。ずっと訓練って言っていたから、修行って言葉に慣れてなくて……ええと、始めは魔力を感じるために魔法操作Bランク以上の人と手を繋いで魔力を流してもらって全身に魔力を行き渡らせるんだ」

「手を……」

 私が思わずダンテさんの手を見つめるとダンテさんが慌てて言った。

「あ、悪い。今の無し。魔法の訓練は必ず、自分のレベルを鑑定して、魔法指導の資格を持った魔導士立ち合いのもと、自分に合ったレベルから始める決まりがあるんだ。だから、絶対にクレアの言う通りに始めないと暴走したりして危険だ」

 魔法を魔法学院に行かなければ学べない理由が、魔法を学ぶ時は暴走して周囲に悪影響を及ぼさないように指導を受ける必要があるからだ。

「だから、今のは俺のただの経験談として頭に入れて」

「はい、わかりました」

 私が声を上げると、ダンテさんは、ほっとしたように言った。

「焦らなくていい。君は最高の先生に出会ったと思う。みんな彼女の教えを乞いたくて仕方ないんだ」

「そんなに凄い方なのですね」

 私は本当に全く魔法については学んでいないので、クレアさんがどれだけ凄い人なのかわからない。

「ああ、偉大な方だよ」

 ダンテはそう言って目を細めた。
 しばらく私たちは無言で月を見上げた。
 そして月を見ていると、隣でダンテさんが呟いた。

「綺麗だな……」

「本当ですね。月がとてもきれいです……」

 ダンテさんは月を見ながら黙ってしまった。でもそれも心地よくて思わず呟いた。

「ふふ、これまで王妃になるための勉強で寝る時間を確保することも難しかったので、こんなにゆっくりと食事を楽しんで、お風呂にもゆっくりと入れて……月を眺められるなんて……贅沢な感じです」

 すると綺麗な顔で微笑むダンテさんの顔が見えた。

「実は、俺もそう思ってた……星や月なんて、これまで本当に空に浮かんでいたのか疑問に思うくらい……こんなゆっくりと見てなかったから……」

「ふふ、ダンテさんもですか?」

「ああ。月って本当に……綺麗だな……」

「ええ」

 私たちは十分に空に浮かぶ月を堪能した。

 

 ◇


 その後、私はダンテさんと一緒に中に入った。
 私の部屋は、二階だと言われたので、ダンテさんと一緒に二階に上がった。

「ここが君の部屋。一通りそろえて寝られるようにしてあるから」

「ありがとうございます」

 私がお礼を言うと、ダンテさんが困ったように言った。

「いいって、それじゃあ。疲れているだろう? ゆっくりと休みなよ。おやすみ、また明日」

「はい。おやすみなさい。また明日」

 いつも孤独だったので、誰かにこんな風にあいさつをして眠るのは初めてだったかもしれない。
 私はくすぐったさを感じながらベッドに潜り込んだ。
 シーツからはお日様のいい匂いがした。

「ふふふ、いい匂い」

 目を閉じれば、さらにお日様の匂いを感じた。あたたかくて心地よくて……
 私はその日、久しぶりにぐっすりと眠れたのだった。
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