10 / 21
9
しおりを挟む
ダンテさんと一緒に、住居棟と宿泊棟の間にあるお店にやって来た。ここは宿泊者の宿泊受付や、冒険者のために回復アイテムなどを取り扱っているらしい。
「客室の清掃は午前中に終わっているから、店の掃除をする」
「はい」
私が声を上げると、ダンテさんがサクさんが作ったという特製のはたきを手に取った。
「まずは棚の埃取りだけど……サクの作ったマスク持ってる?」
「マスク? いえ……」
「そっか、ちょっとこっち来て」
「はい」
手を繋いだままダンテさんはお店のカウンターに入ると、なにやら紐のついた小さな布を取り出した。
「これ、口に付けるんだけど……手も繋いでるし、俺が付けてもいい?」
「はい」
私が返事をすると、マスクを持ったダンテさんの手が私の髪に触れた。
「うわ……サラサラ……道理でサクが触ってるわけだ」
「え?」
思わず声を上げると、ダンテさんが顔を真っ赤にした。
「あ、悪い……」
さらにダンテさんの魔力が止まった。
「あの……魔力も」
「あ、本当に悪い」
そして再びあたたかな魔力に包まれた。
「じゃあ、気を取り直してマスク付けるよ?」
「はい」
顔を上げて付けやすくすると、ダンテさんが顔を赤くした。そしてはっとしたように、私の耳付近の髪を撫でて、耳に手をかけた。耳をくすぐるように動く指先に耐えられなくて声を上げた。
「ふふふ、くすぐったい」
「あ、ごめん!!」
ダンテさんが慌てて手を離して後ろに下がったので、魔力も切れて手も離された。
そしてダンテさんが、「ああ~~本当に、何やってんだ、俺~~」と言って地面にしゃがみ込んで頭を両手で覆った。
耳や首まで真っ赤で心配になって私も一緒にしゃがみ込んで尋ねた。
「あの……大丈夫ですか?」
しばらくするとダンテさんが凄い勢いで立ち上がった。
「これは訓練だ。訓練なんだ!! しっかりしろ!! 邪念は捨てろ」
そう言って大きく息を吐くと、しゃがんでいる私に手を差し出した。
「ごめん。手、つなごう。もう大丈夫だから」
「はい」
私が手を取ると、ダンテさんが私を引っ張って立たせてくれた。
そして、「魔素の構成分子はシュナー原子と……」と何かと唱えながら、私の耳に手を持っていき素早くマスクを付けてくれた。
「よし、できた……じゃあ、掃除を始めよう。俺が埃を取る間はついてきて」
「はい!!」
こうして私たちはお店の掃除をやり遂げた。
◇
「それで、どうだった?」
食事の時間はさすがに手を離して食事を済ませた。
そして再び手をつないで、食後のお茶を飲んでいるとサクさんに楽しそうに尋ねられた。
「なんとか……」
ダンテさんは疲れた顔で答えた。やっぱり魔力を流す方が負担が大きいのかもしれない。
「負担ですよね……すみません」
「あ、君が気にすることじゃないから……」
気を遣ってくれるダンテさんに、私はずっと気になっていたことを尋ねた。
「あの……お風呂はどうしますか?」
「ゴホッゲホ、ゲホ」
「ブハーー!!」
するとダンテさんは急に咳き込んで、サクさんは飲んでいたお茶を噴き出した。前に座っていたクレアさんのほうに飛んだが、クレアさんは魔法で防御したので無事だった。
「大丈夫ですか!?」
私がサクさんのこぼしたお茶を拭いていると、クレアさんが冷静に言った。
「お風呂は別で構わないわ」
「わかりました」
サクさんが、「ライラ、拭いてくれてありがとな」と言った後に、私はもう一つ気になっていたことを尋ねた。
「クレアさん、では寝る時はどうしましょう?」
すると再びダンテさんが「ゴホゴホ」と咳き込んで、サクさんがゴクリと息を呑んだ。
そしてクレアさんが、真剣に悩んだ後に答えた。
「そうね………………判断は任せるわ。一緒に寝てほしいけど……」
「任せちゃうんか~~い!! しかも本音こぼれてるし!! もう、この研究バカ!!」
サクさんが大きな声を挙げた。そして私を見ながら真剣な顔で言った。
「ライラ、寝る時は別でいい。この研究バカはすでに頭の中の天秤が研究に大きく傾き、倫理観が消失しつつある」
するとダンテさんが呟いた。
「賢者クレアを研究バカ扱い……サク、恐れ多いな……」
私はよく考えた。
長くつないだ方がいいのはわかる。しかも寝ている時なら動きもないので魔力も馴染みやすいのだろう。現に一緒に掃除をしていた時より、こうしてゆったりとして手を繋いでいる方が魔力を感じる。でもダンテさんも疲れているのだ。夜くらいはゆっくりと休んでほしい。
私は、ダンテさんを見ながら言った。
「では、お風呂は別に入って、寝る直前まで手をつないでもらえませんか? 寝る時までご迷惑はかけられません」
「別に迷惑と言う訳ではないけど、寝るのは別にしよう」
ダンテさんも大きくうなずいた。
ようやく気になっていたことが解決してほっとしていると、ダンテさんの手をつないでいない方の手が私の口元に触れた。
「え?」
驚いてダンテさんを見ると、クッキーの破片を見せて、小さく笑いながら言った。
「ついてた」
そしてそのままそれを自分の口にパクンと入れた。
何をされたのか、一瞬わからなくて呆然としていると、サクさんが大きな声を上げた。
「こら、天然!! 今のはアウトだろう!! ったく、これだからイケメンは……」
「??」
「??」
アウト? イケメン?
私は意味がわからなくて戸惑っていたが、ダンテさんもよくわかっていなかった。
「あ~~もう、とにかく。風呂とベッドは別!! わかりましたか?」
「はい」
「わかった」
私たちが返事をすると、サクさんはほっとした顔をした。
こうして魔法訓練の一日目が終わった。
「客室の清掃は午前中に終わっているから、店の掃除をする」
「はい」
私が声を上げると、ダンテさんがサクさんが作ったという特製のはたきを手に取った。
「まずは棚の埃取りだけど……サクの作ったマスク持ってる?」
「マスク? いえ……」
「そっか、ちょっとこっち来て」
「はい」
手を繋いだままダンテさんはお店のカウンターに入ると、なにやら紐のついた小さな布を取り出した。
「これ、口に付けるんだけど……手も繋いでるし、俺が付けてもいい?」
「はい」
私が返事をすると、マスクを持ったダンテさんの手が私の髪に触れた。
「うわ……サラサラ……道理でサクが触ってるわけだ」
「え?」
思わず声を上げると、ダンテさんが顔を真っ赤にした。
「あ、悪い……」
さらにダンテさんの魔力が止まった。
「あの……魔力も」
「あ、本当に悪い」
そして再びあたたかな魔力に包まれた。
「じゃあ、気を取り直してマスク付けるよ?」
「はい」
顔を上げて付けやすくすると、ダンテさんが顔を赤くした。そしてはっとしたように、私の耳付近の髪を撫でて、耳に手をかけた。耳をくすぐるように動く指先に耐えられなくて声を上げた。
「ふふふ、くすぐったい」
「あ、ごめん!!」
ダンテさんが慌てて手を離して後ろに下がったので、魔力も切れて手も離された。
そしてダンテさんが、「ああ~~本当に、何やってんだ、俺~~」と言って地面にしゃがみ込んで頭を両手で覆った。
耳や首まで真っ赤で心配になって私も一緒にしゃがみ込んで尋ねた。
「あの……大丈夫ですか?」
しばらくするとダンテさんが凄い勢いで立ち上がった。
「これは訓練だ。訓練なんだ!! しっかりしろ!! 邪念は捨てろ」
そう言って大きく息を吐くと、しゃがんでいる私に手を差し出した。
「ごめん。手、つなごう。もう大丈夫だから」
「はい」
私が手を取ると、ダンテさんが私を引っ張って立たせてくれた。
そして、「魔素の構成分子はシュナー原子と……」と何かと唱えながら、私の耳に手を持っていき素早くマスクを付けてくれた。
「よし、できた……じゃあ、掃除を始めよう。俺が埃を取る間はついてきて」
「はい!!」
こうして私たちはお店の掃除をやり遂げた。
◇
「それで、どうだった?」
食事の時間はさすがに手を離して食事を済ませた。
そして再び手をつないで、食後のお茶を飲んでいるとサクさんに楽しそうに尋ねられた。
「なんとか……」
ダンテさんは疲れた顔で答えた。やっぱり魔力を流す方が負担が大きいのかもしれない。
「負担ですよね……すみません」
「あ、君が気にすることじゃないから……」
気を遣ってくれるダンテさんに、私はずっと気になっていたことを尋ねた。
「あの……お風呂はどうしますか?」
「ゴホッゲホ、ゲホ」
「ブハーー!!」
するとダンテさんは急に咳き込んで、サクさんは飲んでいたお茶を噴き出した。前に座っていたクレアさんのほうに飛んだが、クレアさんは魔法で防御したので無事だった。
「大丈夫ですか!?」
私がサクさんのこぼしたお茶を拭いていると、クレアさんが冷静に言った。
「お風呂は別で構わないわ」
「わかりました」
サクさんが、「ライラ、拭いてくれてありがとな」と言った後に、私はもう一つ気になっていたことを尋ねた。
「クレアさん、では寝る時はどうしましょう?」
すると再びダンテさんが「ゴホゴホ」と咳き込んで、サクさんがゴクリと息を呑んだ。
そしてクレアさんが、真剣に悩んだ後に答えた。
「そうね………………判断は任せるわ。一緒に寝てほしいけど……」
「任せちゃうんか~~い!! しかも本音こぼれてるし!! もう、この研究バカ!!」
サクさんが大きな声を挙げた。そして私を見ながら真剣な顔で言った。
「ライラ、寝る時は別でいい。この研究バカはすでに頭の中の天秤が研究に大きく傾き、倫理観が消失しつつある」
するとダンテさんが呟いた。
「賢者クレアを研究バカ扱い……サク、恐れ多いな……」
私はよく考えた。
長くつないだ方がいいのはわかる。しかも寝ている時なら動きもないので魔力も馴染みやすいのだろう。現に一緒に掃除をしていた時より、こうしてゆったりとして手を繋いでいる方が魔力を感じる。でもダンテさんも疲れているのだ。夜くらいはゆっくりと休んでほしい。
私は、ダンテさんを見ながら言った。
「では、お風呂は別に入って、寝る直前まで手をつないでもらえませんか? 寝る時までご迷惑はかけられません」
「別に迷惑と言う訳ではないけど、寝るのは別にしよう」
ダンテさんも大きくうなずいた。
ようやく気になっていたことが解決してほっとしていると、ダンテさんの手をつないでいない方の手が私の口元に触れた。
「え?」
驚いてダンテさんを見ると、クッキーの破片を見せて、小さく笑いながら言った。
「ついてた」
そしてそのままそれを自分の口にパクンと入れた。
何をされたのか、一瞬わからなくて呆然としていると、サクさんが大きな声を上げた。
「こら、天然!! 今のはアウトだろう!! ったく、これだからイケメンは……」
「??」
「??」
アウト? イケメン?
私は意味がわからなくて戸惑っていたが、ダンテさんもよくわかっていなかった。
「あ~~もう、とにかく。風呂とベッドは別!! わかりましたか?」
「はい」
「わかった」
私たちが返事をすると、サクさんはほっとした顔をした。
こうして魔法訓練の一日目が終わった。
530
あなたにおすすめの小説
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?
あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。
理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。
レイアは妹への処罰を伝える。
「あなたも婚約解消しなさい」
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する
satomi
恋愛
醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。
もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる