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しおりを挟む【ダンテ:人間】
体力:185
魔力量:620
魔法維持力:Sランク
魔法操作:Sランク
魔力回復速度:Aランク
能力(発現):強化・浮遊
能力(未発現):風・火・探査・圧縮
「おお!! 浮遊魔法が発現してる!!」
サクさんが声を上げると、空間に文字が浮かび上がった。
「本当に発現してる……」
ダンテさんが唖然としながら呟いた。
私はサクさんを見て手を差し出した。
「お願いします!!」
「はは、いいよ」
サクさんは私の手を取って解析してくれた。
【ライラ・イルミ:人間】
体力:34
魔力量:103
魔法維持力:Bランク
魔法操作:Cランク
魔力回復速度:Cランク
能力(発現):雷・分解
能力(未発現):退魔・修復
「ライラ、何があった!? 全体的に能力が上がってる!!」
「すごい!!」
私が上を見上げて、いるとクレアさんが呟いた。
「魔石加工で魔法操作が随分と上がったわね……分解も発現してる。未発現に退魔と修復か……」
そしてダンテさんが呟いた。
「退魔も滅多にない。もしも冒険者に知られたら、すぐに連れて行かれそうな能力ばかりだな」
「分解なんて持っていたら、宮廷魔導士からもお誘いがくるわ」
そしてクレアさんが私を見ながら尋ねた。
「もう一度聞いてもいい? ダンテに魔力を流した時の状況を詳しく」
「え? 詳しく? ダンテさんと片手をつないだ時は全体に魔力が行き渡らなかったので、両手で魔力を流していたら、身体の中にどうても魔力が通らない場所があって、通ってほしいと強く思っていたら……流れ出して……それと同時に私の身体が浮いて」
「……つまり、両手をつないだ状態で、ダンテの魔力溜まりを発見。そしてその魔力溜まりの解消を願うことでライラさんの分解能力が発現。ん~~元々発現しそうだったダンテの浮遊魔法がライラさんに分解されたことで一気に開花したってわけか……」
クレアさんはそう言った後、私に両手を差し出した。
「ライラさん、ダンテにしたことを私にもしてくれる?」
「はい!!」
私はクレアさんと両手の指を絡めて胸の前に持って行った。
「ダンテ……これを、ライラとしてたの?」
「ああ」
「そっかぁ~~」
ダンテさんとサクさんが話をしているが、私は魔力を流すことに集中した。
クレアさんに魔力を流すのは信じられないくらい楽だった。
勝手に魔力が引き出されてこちらの魔力まで整っていくようだ。だが、誘導されているようで、自分が流していているのか不安になって尋ねた。
「どうですか?」
「問題ないわ。均一に魔力が流れてる。私に魔力が溜まっているところはある?」
再び集中したが、どこも高速に流れてまるで滞りなど感じない。
「いえ、感じ取れません」
「そう……」
そしてクレアさんは手を離した。
「分解が全ての能力の開花を助けることができるわけではないのね……」
クレアさんはじっと私を見つめた後に言った。
「ライラさん、悪いけど……シンに会ってくれない?」
「シン……?」
そう言えば、その言葉は前にも聞いた。
私が首を傾けていると、クレアさんが真剣な顔で言った。
「ええ。もしかしたら、怖がらせてしまうかもしれないけど……絶対にライラさんに危害は与えないから」
「わかりました」
クレアさんは、ゆっくりと歩き出した。
「こっちに来て」
するとサクさんが慌てて声を上げた。
「クレア、今から行くのか?」
「ええ」
クレアさんは真剣な顔で答えた。すると、サクさんが頭を掻きながら言った。
「はぁ~~、仕方ねぇな。俺も行くからな」
サクさんの後にダンテさんも声を上げた。
「俺も行く」
クレアさんは凪いだ目で答えた。
「そう。では4人で行きましょう」
そして私たちは4人でシンという人のいる場所に向かうことになった。
住居棟を出て裏の崖に向かった。
(この先には難易度の高いダンジョンがあるんじゃ……)
不思議に思ったが、クレアさんは迷うことなく歩いて行く。
「暗いから足元気をつけて」
クレアさんの注意を聞いた後に、ダンテさんが手を差し出した。
「手、つなごうか?」
「はい」
「手が冷たい。緊張してる? ついでに魔力も流す」
「ありがとうございます、お願いします」
ダンテさんと手をつないで住居棟の裏側に向かうと、クレアさんが木に手を当てた。すると岩が開いた。
「岩が動いた……」
岩の一部が動いて思わず足がすくむ。
「こっちよ」
クレアさんは迷いなく入って行くが、足が動かない。
「大丈夫。怖くないから」
ダンテさんが声をかけてくれた。
「はい」
そして4人で中に入ると、クレアさんが岩に触れると岩が動いた。
扉が閉まった瞬間に、私は目を細めた。
「眩しい!」
そしてしばらくして見えるようになると、陽の光が咲き込む草原が見えた。風が草原を渡って心地いい。
「あれ? さっきまで夜だったのに!?」
私は声を上げると、クレアさんが「これは幻術よ」と言った。
私は足元の草に触れたが、現実の物と違いがわからないほどだった。頬に当たる風もとても幻術だとは思えない。
「これが……幻術……」
「俺も初めて来た時は驚いた」
ダンテさんが呟いた。すると黒い尻尾の大きな魔物が見えた。魔物は大きな身体で白と黒が混じっていた。
クレアさんは、魔物に躊躇することなく触れた。
「ライラさん。フェンリルのシンよ」
フェンリルは魔物だというのは知っていた。確かドラゴンと並ぶほどの魔物だったと記憶している。
「はじめまして、ライラと申します。こんなに大きな魔物さんに初めてお会いしました。シンさんとお呼びしてもよろしいですか?」
あいさつをすると、シンさんが声を上げて笑った。
「はは、我のこの姿を見ても怖がらぬか、我が名はシン。さんはいらぬ」
さんつはいらないと言われてしまって困ったが、別の呼び名を思いつく。
「はい。では……せめてシン君とお呼びしてもいいですか?」
「シン君? はは。まぁいい。ほう、分解か……お主、珍しい能力を持っておるな。分解は魔物が決して使うことの出来ぬ人の子だけが持つ能力だ」
シン君が目を細めた後に言った。もしかしたら私の能力を解析したのかもしれない。
クレアさんも私たちに触れることなく解析しているので、シン君も触れなくても解析できるのだろう。
私がシン君を見ていると、クレアさんが少し遠慮しがちに言った。
「ライラさん、お願いがあるの。シンの耳に触れて魔力を流してくれないかしら?」
するとシン君が声を上げた。
「クレア。人の子に無理を言うな。魔物に触れるなど、クレアだけだ」
そう言ったシン君の瞳が切なげで、私は声を上げた。
「あの……私で良ければ魔力を流します」
「ありがとう!!」
クレアさんが珍しく大きな声を上げた。
シン君が少し迷いながらも頭を下げて耳に触れれるようにしてくれた。
「わかった、それではこちらへ」
「はい」
私はダンテさんと手を離した。ダンテさんは心配そうな顔で私を見ていた。
私はシン君に近づいて耳に触れた。
「うわ~~ふわふわできもちいい……」
想像以上に耳が柔らかくで癒される。これまで触れたどんな動物よりも柔らかくて心地いい。
「はは、そうか……クレアもそう言っていたな」
シン君が笑ったので、私も安心した。
「では流します」
魔力を流すと耳の中に二カ所ほど魔力が固まった場所があった。
「二カ所固まっているところがあるので解かすように念じます」
「分解できそうなのね! お願い!!」
クレアさんがすがるように声を上げた。私はまず一箇所を分解するように念じた。
(解けて、解けて、解けて!!)
そしてダンテさんの時のように、魔力が流れ出した瞬間。
ヒヒーン!!
大きな声を共に大型の魔物が姿を現した。
「な!! これは、一角獣!? 難易度Aランクの魔物だ!!」
ダンテさんが声を上げると、クレアさんがバチバチと開いた空間に手を入れると長い杖を取り出した。
「みんな、下がって! 仕留めるわ」
クレアさんが杖を振り上げた瞬間、一角獣が氷の像のように固まった。
そしてクレアさんは、魔物に向かて指を鳴らしながら呟いた。
「破壊」
するとパリンと一角獣が砕け散って、大きな青色の魔石が転がった。
「一角獣を一撃!? さすが賢者クレアだ」
ダンテさんが声を上げた。するとクレアさんが私を見ながら言った。
「なるほど、シンの瘴気を分解すると魔物になるのね……ライラさん続きをお願い」
「はい!!」
そして私は再びシン君の耳に触れ、もう一つの魔力の塊に魔力を流しながら念じた。
(解けて、解けて、解けて!!)
すると再び、一角獣が現われた。
それもクレアさんが一撃で魔石に戻してしまった。
「クレアさん、すごい……」
私がクレアさんに見とれていると、クレアさんが声を上げた。
「シン!! 左耳が白に戻っているわ……」
そう言われてみると、先ほどまで黒かったシン君の左耳が黒から白になっていた。
「ってことは、シンのこの黒い部分は全て、魔物ってこと?」
サクさんが驚いた声を上げた。
「そうなるわね……」
納得した様子の二人を見てダンテさんが声を上げた。
「あの、どういうことですか?」
するとクレアさんが説明してくれた。
・魔物は瘴気から生まれること
・シン君のように人語を操る高い能力を持った魔物は、自分の意思を持つ代わりに瘴気を身体に集めやすいこと
・身体が成長すると、体内に取り込んだ瘴気を吐き出して自分の意志を保つためにダンジョンを作ること
・だが、それでも身体に瘴気を溜め込んで最後はダンジョンと共に魔に落ちてしまうこと
「古のドラゴンや、フェンリルが暴れたというのはダンジョンを作らずに魔に落ちたからよ」
クレアさんの言葉を聞いて、私は王妃教育で学んだことを思い出した。
ダンジョンが出来ると少し離れたその周辺の町は大きくなる傾向があるのだ。
冒険者たちがダンジョンに潜るから彼らのおかげで発展するのかと思ったが、魔物がいなくなって安全になったからかもしれない。
「ああ、シン君が瘴気を集める……それでダンジョンの近くの村は安全だと言われるのですね」
私がうなずくと、クレアさんが笑った。
「ふふふ、吞み込みが早いわね。その通りよ。シンが周辺の瘴気を集めているから、この周辺の町や村は魔物に襲われることが減って安全なの。シンの集めた瘴気はダンジョン内に魔物を生むことでバランスを保っている」
サクさんが感心したように言った。
「へぇ~~なるほど、なるほど。ダンジョンにそんな機能があったのか。領主もそんな感じのこと言ってた気がするな~~」
サクさんは領主様との知り合いのようだ。
(サクさんはお顔が広いのね……)
私がサクさんの交友関係の広さに感心していると、クレアさんが言った。
「ライラさん、次は右耳を……」
私がシン君に触れようとした時だった。
「待ってくれ、クレア。ライラの顔色が悪い」
するとダンテさんが声を上げた。
「え? 魔力を調べるわ ……13。分解は随分と魔力を使うのね」
クレアさんが慌てて解析をしてくれた。どうやら分解という力は、かなり魔力を消費するようだ。
「彼女はここに来る前に俺の分解もしている」
ダンテさんの言葉にクレアさんが呟くように言った。
「そうよね……分解は高度な魔法だし、もう少し魔法操作と魔法回復を上げる必要があるわね……」
するとサクさんが優し気に言った。
「はぁ~~でも、ライラが瘴気を分解できることが出来てよかったな。シンも楽しみだろ?」
サクさんがシン君の頭を撫でながら言った。
「ああ、そうだな。ライラ、感謝する」
「いえ!!」
お礼を言われて戸惑っていると、クレアさんが私を見て笑った。
「ありがとう、これでシンを助られるわ!!」
クレアさんの心からの笑顔に私まで嬉しくなった。
「お役に立てるのならよかった」
サクさんがシン君から離れて今度は私の頭を撫でてくれた。
「家に帰ったら、魔力回復ジュース作ってやるからな。試作品の魔力回復クッキーもあるぞ」
「ふふふ、サクさんありがとうございます」
私がお礼をいうと、ダンテさんが再び手を差し出してくれた。
「ここは明るいけど、外は暗いから」
「はい。ありがとうございます」
こうして私たちは家に戻ることにした。
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