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しおりを挟むダンテさんもダンジョンから戻り、宿泊者の方々の食事を配り終えて食事の時間になった。
「サク、明日『黒猫』休息日にするって、ゲオルグが『昼も頼めるだろうか?』って言っていたぞ?」
『黒猫』というのは高位も冒険者パーティーの名前だ。そしてその冒険者パーティーのリーダーがゲオルグさんだ。
私はほとんど冒険者の方々の前には出ないので他にどんな方がいるのか、詳しく知らない。
サクさんがダンテさんを見ながら言った。
「りょうか~~い。昼か、昼ね……どうするかな~~」
サクさんは、パンをかじるともぐもぐと口の中で咀嚼していると、ベルが鳴った。
ダンテさんが立ち上がって魔伝を取ると、「はい」と言って魔伝を切った。
「風呂の戸が外れたらしい……ガカール、バカ力だからな……すぐに直してくる」
ダンテさんは慣れた様子で工具箱を手に持つと素早く住居棟を出て言った。
「は~~やっぱりこっちの世界にスライドドアは馴染みがねぇのかな」
サクさんが首を傾けると、クレアさんが言った。
「そんなことないわ。いいじゃない、スライドドア。お風呂はスライドドアの方がいいわ」
そう言えば、あまり横に動かす扉は見ないが、ないわけではないし、加減がわからないと思ったこともないので、冒険者の方の力が強いのだろう。
「まぁそうだな。そんなことより、昼~~昼な~~昼~~」
サクさんはしばらく考えた後に言った。
「よし!! 明日の昼はさ、ホットドックの屋台にするわ。ダンテもダンジョンだからさ、ライラ頼める?」
「お引き受けしたいのはやまやまですが、ホットドックとは一体どのような食べ物ですか?」
聞いたことのない料理名に首を傾けていると、サクさんが困った顔をしながら言った。
「あ~~大丈夫。朝のうちに作り方教えるから。あんまり冒険者の前にライラを出したくはないんだけど、俺、どうしても行きたいところあるんだわ」
サクさんに教えてもらえるなら作れるかもしれない。何より料理を覚えられるかもしれない。
「わかりました!」
「ありがとう、ライラ。頼むな」
こうして私は明日は、ホットドックの屋台をすることになった。
◇
次の日の朝。ダンテさんと一緒に洗濯を終わらせると、ダンテさんはダンジョンに向かい、私はサクさんからホットドックの指導を受けることになった。クレアさんは今日は王宮に行くらしい。
「こうやって作る。いい?」
サクさんが作って見せてくれたが、作り方は簡単だった。
切り込みを入れたパンの中に野菜と、焼いたソーセージ。
「ケチャップとマスタードは、勝手に使ってくれと書いておくから。ライラはソーセージを焼いてパンに具財を挟んでくれるか?」
「わかりました!!」
指導を受けると、出来る気がした。
「じゃあ、外で焼けるように準備するな」
ここは店の前に屋台用のコンロやテーブルなどが置いてある。
「あと、これ付ければ服が汚れないから」
サクさんは私にエプロンを渡してくれた。
「ありがとうございます」
それと大きな布をもらった。
「こうやって頭に着けるんだ」
私は早速サクさんの真似をして布を頭に着けた。
「うん、いいな。外のコンロ、火の入れ方わかるか?」
「はい! ダンテさんから聞いています」
「そうか。じゃあ、お昼前になったら頼むな」
「はい」
私がうなずくと、サクさんは住居棟に戻って囲いのついた木の椅子を持ってやってきた。もしかして椅子に浮遊魔法を付与して、乗って飛ぶのだろうか?
(すごい、自分が浮遊魔法を使わなくても空を飛べるなんて……サクさん頭いい……)
画期的な方法に目を丸くしていると、サクさんが言った。
「やっぱりさ、ほうきよりも椅子の方が楽なんだよな~~」
「ほうき??」
なぜ空を飛ぶ道具にほうきを選んだのか、わからずに首を傾けると、サクさんが真剣な顔で言った。
「ライラ、ほうきに乗って空を飛ぶとな」
ほうきに乗って空を飛ぶという突拍子もない言葉に思わず引き込まれた。
「ほうきに乗って空を飛ぶと?」
サクさんが真剣な顔で言った。
「……尻が痛い」
「なるほど……確かに痛そうです。椅子の方がいいですよね」
「そうなんだよ。だからまぁ、カッコ悪いけど椅子で行くわ。じゃあな~~夕方には戻るな~~」
サクさんは椅子で空に浮かび上がると、町の方に飛んで言った。
ほうきの方がかっこいい??
私は首を傾けたが、空を飛ぶサクさんを眺めながら呟いた。
「クレアさんの付与魔法かな~~私も空を飛びたいな~~」
そう呟いて、私は息を吐いた。
「今日は屋台がある。美味しいホットドックを作れるようにしなきゃ!!」
私は厨房に入って、パンに切り込みを入れる作業をすることにした。
◇
「よし、そろそろお昼だ!!」
私は材料を外に全部運ぶと、外の魔コンロに火を入れてソーセージを焼いた。
「おお~~いい匂いだな~~」
しばらくすると、冒険者の方々がやってきた。
「お~~今日はライラちゃんが作ってくれるのか」
休息日だという『黒猫』のリーダーのゲオルグさんが最初にやってきた。
「はい。よろしくお願いします。こちらが本日の昼食のホットドックになります」
私はサクさんの作ってくれたガラスケースの中に入った見本を見せた。
「ホットドックか……へぇ~~旨そうだな~~。じゃあ、とりあえず5個くれ」
「……5個……はい!!」
私は5と書くと急いで作り始めた。もうソーセージは焼いてある。
だが、まさかいきなりみんなの分を注文されるとは思わなかった。するとローブの男性が歩いてきた。
「ああ、今日はサクさんではないのですね……ホットドックですか、お代はふむふむ。では私は3個ください」
「……3個……はい!!」
(あれ? もしかしてホットドックって一人一個じゃなくて、一人でいくつも食べるのかな?)
てっきりサクさんが念のために多く用意したのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
次に来た女性も4個注文した。
私は必死でソーセージを焼きながらホットドックを作った。
(ひぇ~~忙しい~~~)
私はひたすらホットドックを作った。
◇
ホットドックをひたすら作り続けて随分時間が経ったが、おかわりも多く休むヒマがない。
(サクさん、いつもこんなことを一人で……いつもありがとうございます)
サクさんに感謝しながら、必死でホットドックを作っていると、人影が見えた。よく顔を見ることもなく私は声を上げた。
「いらしゃいませ~~」
「え? ライラ? サクは??」
顔を上げると、ダンテさんが立っていた。知っている顔を見てほっとして頬が緩んだ。
「用事ができたそうで、サクさんは町にお出かけになりました。代わりにホットドックを販売しています」
「へぇ~~美味しそうだな。5個くれ!!」
ダンテさんの後ろから冒険者が覗き込みながら言った。
「……5個……お待ちください!!」
大慌てで準備をすると、後ろから別の冒険者の男性がさらに大きな声が聞こえた。
「じゃあ、俺はとりあえず10個な」
「とりあえず……10個……少々お待ちください」
私が慌てていると、ダンテさんが手を洗い、中に入って来た。
「ホットドック作ってくれるか? 俺はソーセージを焼くよ」
「はい!! ありがとうございます!!」
こうして私はダンテさんと一緒にお昼を乗り切った。
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