婚約者は聖女様と結婚するそうですが、森の中に逃げ込んだ私は最高の生活と出会っちゃいました!

たぬきち25番

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「シンを助けてほしいの。お願いします」

 朝食の時にクレアさんにお願いをされた。するとサクさんも頭を下げた。

「俺からも頼む」

 二人にお願いされて、私とダンテさんは慌ててしまった。

「サク、頭なんて下げるなよ、協力するって言っただろう?」

 ダンテさんの後に私も言葉を続けた。

「そうですよ! 協力します。私もシン君を助けたいです」

 シン君は、この辺り一帯の瘴気をその身に吸収し、ダンジョンを作ることで意識を保っている。そのため、絶対にダンジョンから出られないだけではなく、身体が段々と瘴気に侵されている。
 もともとは真っ白なフェンリルだったらしいが、黒くなっているらしい。
 ダンジョンを作ることで、周辺からは魔物が減り、冒険者は効率よくレベルを上げることができる。つまりみんなにとってダンジョンは有難いものなのだ。

「ありがとう、じゃあ、早速どうするのか説明するわ」

 クレアさんの言葉に私たちはうなずいた。クレアさんは、空間の裂けを作り、中から古びた杖と、サクさんが持ってた首輪を2つ取り出した。

「その首輪、2つあったんだ」

 ダンテさんの言葉にサクさんがうなずいた。

「ああ、2つ作ってもらった」

 クレアさんが、首輪を指差しながら言った。

「これは、私が魔導士長だった時に討伐したドラゴンが持っていた爪が練り込んであるの」

 私はドラゴンの爪とはどんなアイテムなのかわらなかった。

「ドラゴンの爪って、具体的にどんな物なんだ?」

 ダンテさんの問いかけにクレアさんが答えてくれた。

「ドラゴンの爪はとにかく頑丈になるの。破壊や破損は不可能と言えるほど強靭よ」

 そして、クレアさんが杖を手に取りながら言った。

「そして、この『隠者の杖』は『代替』という能力が使われているわ。本来の使い方はこの杖は、魔物から魔力を奪って自分の魔力として使っていたようね」

 私は驚いて声を上げた。

「魔物から魔力を奪う? そうすれば自分の魔力は消費せずに魔法攻撃が可能なのですね」

 ダンテさんがゴクリと息を呑んだ。

「そんな貴重な杖をよく、譲ってくれたな……」

「この杖はもうその『代替』の能力に耐えられなかったのよ。もう、使えないわ。でも、代替の能力はこの杖の中に確実に眠っている」

 そしてクレアさんが私を見た。

「だからライラさんの分解で、この杖の能力を復活させてほしいの」

「え!? 私?」

 クレアさんが真剣な顔でうなずいた。

「手順はこうよ。まず、ライラさんの『分解』でこの杖の中に眠る『代替』の能力を抜き取る。そして、私の『構築』で『代替』の能力を二つに分ける。そしてサクの『付与』でこの2つ首輪に『代替』の能力を付与する。最後にダンテに両方の首輪を『強化』してもらうの」

 順番をまとめると……

① 私の『分解』で隠者の杖から『代替』という能力を取り出す。
② クレアさんの『構築』で『代替』能力を2つに分ける。
③ サクさんの『付与』で『代替』能力を2つの首輪に付与する。
④ ダンテさんの『強化』で首輪を強化する。

「聞いたことないけど、最強の魔道具になりそうだ」

 ダンテさんが呟くと、クレアさんがうなずいた。

「ええ、現存する中でこれほどの魔道具は存在しないわ」

 私はいつの間にか手に汗を握っていた。
 歴史に残るような魔道具の制作に関われることが、少し怖くて、誇らしくもあった。

「魔道具を作って、どうするんだ? しかも2つも……」

 ダンテさんの問いかけにクレアさんは真剣な顔で言った。

「それはね……」

 クレアさんはシン君を助けるための作戦を説明してくれた。
 そして私には――とても重要な役目が与えられた。









「まずは、この魔道具を完成させるか!!」

 説明が終わると、サクさんが楽しそうに言った。

「そんなまるで料理するみたいに……」

 ダンテさんが息を吐くと、サクさんが笑いながら言った。

「緊張してたら、旨い飯なんてできないからな。肩の力抜いてやるぞ!」

 サクさんの言葉を聞いていると自然と口角が上がった。

「そうですね」

 私が笑うと、クレアさんが私に『隠者の杖』を差し出した。

「お願い」

「はい」

 私は杖を受け取ると、杖に魔力を流した。すると杖の中央にあたたかな魔力を感じた。

「見つけたこれだ。では行きます」

(出て来て、表に出て来て、出て来て)

 私は真剣に念じた。だが、なかなか取り出せない。

(早く、出て来て、お願い、お願い)

 段々と不安になっていると、背中にあたたかい感覚を覚えた。
 ふと隣を見ると、ダンテさんが背中に手を添えて優しく微笑んでくれた。

「大丈夫。焦らなくてもいい」

 その瞬間、身体から余計な力が抜けた。
 
(そうだ、ゆっくりでいい。ゆっくり)

 ダンテさんに魔力を流した時のことを思い出して、ひたすらその時の感覚を思い出して神経を研ぎ澄ます。

 ポン!

 そして光の玉が出たと同時に、木の杖がバラバラに砕けた。

「杖が……」

「砕けた」

 私とダンテさんが声を上げると、クレアさんは動揺することも無く言った。

「もともとこの杖はもう限界だった。能力を失って壊れたのね。それじゃあ、今度は私ね。『構築』」

 クレアさんはすぐに光の玉を2つにすると、今度はサクさんに渡した。

「お願いね」

「任せろって! 『付与』」

 そしてサクさんは、首輪の1つに光の玉を埋め込んだ。

「次はこっちな。『付与』」

 サクさんも素早く首輪に能力を付与した。そしてクレアさんがダンテさんに二つの首輪を渡した。

「ダンテ、あなたの可能な限り強固に、しかも全く均等に強化して。この行程に全てがかかっているわ」

 最大限に強固に、しかも全く力が均等になるように強化する!?
 とても厳しい条件に私の方が緊張してしまう。
 ダンテさんは大きく息を吸うと、首輪に触れた。

「わかった。最大限強化する。均等に」

 そしてダンテさんは首輪に魔力を注いだ。ここまでダンテさんの魔力を感じる。
 
(ああ、きっと大丈夫だ)

 ダンテさんの魔力を感じた途端、私の中から心配する心が消えた。
 みんなが見守る中、ダンテさんの額に汗が浮かんだ。

 そして、ダンテさんはゆっくりと、魔力を止めた。

「出来た……確認してくれるか?」

 そしてダンテさんが、クレアさんに首輪を差し出した。
 クレアさんは2つの首輪を見て、嬉しそうに笑った。

「凄いわ、ダンテ!! 完璧よ。強化も申し分ないわ。想定よりもずっと強固になっているわ」

 こうして無事にシン君を助けるための魔道具が完成したのだった。
 





「クレア、サク!! 久しぶりだな」

 それから2日後、3人の男性がやってきた。この3人が元ランキング1位の冒険者パーティー『時雨』のメンバーだ。私はサクさんと二人でお迎えした。

「シリウス、グラッド、レイ!! 久しぶりだな」

 サクさんが声を上げると、双剣の男性が私を見て声を上げた。

「可愛い~~サク、この子、誰!? 紹介して!!」

 するとサクさんが私を後ろに隠しながら言った。

「ダメだ。グラッド冒険者に紹介したくない」

「ええ~~どうして? 俺、すげぇ一途だし、大事にするよ? 結構稼いでるし、今はのんびりと暮らして、あんまりダンジョンとか行ってないから寂しい思いもさせないし」

「え? そうなのか? シリウス」

 サクさんは、グラッドさんではなく、一番背の高い男性に尋ねた。

「うん。今は『どうしても』って頼まれた依頼だけ受けてる。俺も家族が出来たからね~~妻と娘と過ごしたい」

「は? シリウス結婚したのか?」

「うん」

「なんだよ、言えよ。水くさいな!! じゃあ、呼び出して悪かったな」

「はは、そんなことは気にするなって。むしろ、呼んでくれてありがとう。活躍するから期待して?」

「ああ、頼りにしてるぜ」
 
 サクさんは『時雨』のメンバーとかなり仲がいいようだった。

「君は、恋人とかいる?」

 サクさんとシリウスさんを見ていると、グラッドさんに声をかけられた。
 恋人と言って、私は首を振った。

「いえ……婚約破棄されたばかりなので……」

 すると、グラッドさんが大きな声を上げた。

「ええ!? 何、それ運命?? やった~~!! もう、俺。幸運確定!!」

「え?」

 大抵の人は婚約破棄をされたと言って同情するので、喜ばれるとは思わなかったので驚いてしまった。
 予想外のことに戸惑っていると、誰かにそっと手を握られた。しかも指を絡める握り方だ。
 振り向くと、ダンテさんが真顔で立っていた。そして、『時雨』のメンバーを見ながら言った。

「ようこそ、『時雨』のみなさん。部屋の用意出来てる。作戦開始までゆっくりくつろいでくれ。これ、部屋の鍵」
 
 そして私の手を握ったまま、シリウスさんに3室分の鍵を手渡した。そして私の顔を覗き込んで微笑んだ。

「行こうか」

 いきなり手を握られただけではなく、至近距離でダンテさんの謎の色気のある笑顔を見てしまって、私は顔が熱くなる。

「はい」

 そしてダンテさんが、サクさんや『時雨』のメンバーに向かって言った。

「それではどうぞ、ごゆっくり……」

 私はダンテさんに手を引かれて、住居棟に向かったので、残された人たちの声は聞こえなかった。

「へぇ~~ダンテ、やるな……」

 サクさんの呟きに、グラッドさんががっかりと肩を落とした。

「なんだよ、彼氏……いるじゃん……ぐすん」


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