20 / 21
19
しおりを挟む「シンを助けてほしいの。お願いします」
朝食の時にクレアさんにお願いをされた。するとサクさんも頭を下げた。
「俺からも頼む」
二人にお願いされて、私とダンテさんは慌ててしまった。
「サク、頭なんて下げるなよ、協力するって言っただろう?」
ダンテさんの後に私も言葉を続けた。
「そうですよ! 協力します。私もシン君を助けたいです」
シン君は、この辺り一帯の瘴気をその身に吸収し、ダンジョンを作ることで意識を保っている。そのため、絶対にダンジョンから出られないだけではなく、身体が段々と瘴気に侵されている。
もともとは真っ白なフェンリルだったらしいが、黒くなっているらしい。
ダンジョンを作ることで、周辺からは魔物が減り、冒険者は効率よくレベルを上げることができる。つまりみんなにとってダンジョンは有難いものなのだ。
「ありがとう、じゃあ、早速どうするのか説明するわ」
クレアさんの言葉に私たちはうなずいた。クレアさんは、空間の裂けを作り、中から古びた杖と、サクさんが持ってた首輪を2つ取り出した。
「その首輪、2つあったんだ」
ダンテさんの言葉にサクさんがうなずいた。
「ああ、2つ作ってもらった」
クレアさんが、首輪を指差しながら言った。
「これは、私が魔導士長だった時に討伐したドラゴンが持っていた爪が練り込んであるの」
私はドラゴンの爪とはどんなアイテムなのかわらなかった。
「ドラゴンの爪って、具体的にどんな物なんだ?」
ダンテさんの問いかけにクレアさんが答えてくれた。
「ドラゴンの爪はとにかく頑丈になるの。破壊や破損は不可能と言えるほど強靭よ」
そして、クレアさんが杖を手に取りながら言った。
「そして、この『隠者の杖』は『代替』という能力が使われているわ。本来の使い方はこの杖は、魔物から魔力を奪って自分の魔力として使っていたようね」
私は驚いて声を上げた。
「魔物から魔力を奪う? そうすれば自分の魔力は消費せずに魔法攻撃が可能なのですね」
ダンテさんがゴクリと息を呑んだ。
「そんな貴重な杖をよく、譲ってくれたな……」
「この杖はもうその『代替』の能力に耐えられなかったのよ。もう、使えないわ。でも、代替の能力はこの杖の中に確実に眠っている」
そしてクレアさんが私を見た。
「だからライラさんの分解で、この杖の能力を復活させてほしいの」
「え!? 私?」
クレアさんが真剣な顔でうなずいた。
「手順はこうよ。まず、ライラさんの『分解』でこの杖の中に眠る『代替』の能力を抜き取る。そして、私の『構築』で『代替』の能力を二つに分ける。そしてサクの『付与』でこの2つ首輪に『代替』の能力を付与する。最後にダンテに両方の首輪を『強化』してもらうの」
順番をまとめると……
① 私の『分解』で隠者の杖から『代替』という能力を取り出す。
② クレアさんの『構築』で『代替』能力を2つに分ける。
③ サクさんの『付与』で『代替』能力を2つの首輪に付与する。
④ ダンテさんの『強化』で首輪を強化する。
「聞いたことないけど、最強の魔道具になりそうだ」
ダンテさんが呟くと、クレアさんがうなずいた。
「ええ、現存する中でこれほどの魔道具は存在しないわ」
私はいつの間にか手に汗を握っていた。
歴史に残るような魔道具の制作に関われることが、少し怖くて、誇らしくもあった。
「魔道具を作って、どうするんだ? しかも2つも……」
ダンテさんの問いかけにクレアさんは真剣な顔で言った。
「それはね……」
クレアさんはシン君を助けるための作戦を説明してくれた。
そして私には――とても重要な役目が与えられた。
◇
「まずは、この魔道具を完成させるか!!」
説明が終わると、サクさんが楽しそうに言った。
「そんなまるで料理するみたいに……」
ダンテさんが息を吐くと、サクさんが笑いながら言った。
「緊張してたら、旨い飯なんてできないからな。肩の力抜いてやるぞ!」
サクさんの言葉を聞いていると自然と口角が上がった。
「そうですね」
私が笑うと、クレアさんが私に『隠者の杖』を差し出した。
「お願い」
「はい」
私は杖を受け取ると、杖に魔力を流した。すると杖の中央にあたたかな魔力を感じた。
「見つけたこれだ。では行きます」
(出て来て、表に出て来て、出て来て)
私は真剣に念じた。だが、なかなか取り出せない。
(早く、出て来て、お願い、お願い)
段々と不安になっていると、背中にあたたかい感覚を覚えた。
ふと隣を見ると、ダンテさんが背中に手を添えて優しく微笑んでくれた。
「大丈夫。焦らなくてもいい」
その瞬間、身体から余計な力が抜けた。
(そうだ、ゆっくりでいい。ゆっくり)
ダンテさんに魔力を流した時のことを思い出して、ひたすらその時の感覚を思い出して神経を研ぎ澄ます。
ポン!
そして光の玉が出たと同時に、木の杖がバラバラに砕けた。
「杖が……」
「砕けた」
私とダンテさんが声を上げると、クレアさんは動揺することも無く言った。
「もともとこの杖はもう限界だった。能力を失って壊れたのね。それじゃあ、今度は私ね。『構築』」
クレアさんはすぐに光の玉を2つにすると、今度はサクさんに渡した。
「お願いね」
「任せろって! 『付与』」
そしてサクさんは、首輪の1つに光の玉を埋め込んだ。
「次はこっちな。『付与』」
サクさんも素早く首輪に能力を付与した。そしてクレアさんがダンテさんに二つの首輪を渡した。
「ダンテ、あなたの可能な限り強固に、しかも全く均等に強化して。この行程に全てがかかっているわ」
最大限に強固に、しかも全く力が均等になるように強化する!?
とても厳しい条件に私の方が緊張してしまう。
ダンテさんは大きく息を吸うと、首輪に触れた。
「わかった。最大限強化する。均等に」
そしてダンテさんは首輪に魔力を注いだ。ここまでダンテさんの魔力を感じる。
(ああ、きっと大丈夫だ)
ダンテさんの魔力を感じた途端、私の中から心配する心が消えた。
みんなが見守る中、ダンテさんの額に汗が浮かんだ。
そして、ダンテさんはゆっくりと、魔力を止めた。
「出来た……確認してくれるか?」
そしてダンテさんが、クレアさんに首輪を差し出した。
クレアさんは2つの首輪を見て、嬉しそうに笑った。
「凄いわ、ダンテ!! 完璧よ。強化も申し分ないわ。想定よりもずっと強固になっているわ」
こうして無事にシン君を助けるための魔道具が完成したのだった。
◇
「クレア、サク!! 久しぶりだな」
それから2日後、3人の男性がやってきた。この3人が元ランキング1位の冒険者パーティー『時雨』のメンバーだ。私はサクさんと二人でお迎えした。
「シリウス、グラッド、レイ!! 久しぶりだな」
サクさんが声を上げると、双剣の男性が私を見て声を上げた。
「可愛い~~サク、この子、誰!? 紹介して!!」
するとサクさんが私を後ろに隠しながら言った。
「ダメだ。グラッドに紹介したくない」
「ええ~~どうして? 俺、すげぇ一途だし、大事にするよ? 結構稼いでるし、今はのんびりと暮らして、あんまりダンジョンとか行ってないから寂しい思いもさせないし」
「え? そうなのか? シリウス」
サクさんは、グラッドさんではなく、一番背の高い男性に尋ねた。
「うん。今は『どうしても』って頼まれた依頼だけ受けてる。俺も家族が出来たからね~~妻と娘と過ごしたい」
「は? シリウス結婚したのか?」
「うん」
「なんだよ、言えよ。水くさいな!! じゃあ、呼び出して悪かったな」
「はは、そんなことは気にするなって。むしろ、呼んでくれてありがとう。活躍するから期待して?」
「ああ、頼りにしてるぜ」
サクさんは『時雨』のメンバーとかなり仲がいいようだった。
「君は、恋人とかいる?」
サクさんとシリウスさんを見ていると、グラッドさんに声をかけられた。
恋人と言って、私は首を振った。
「いえ……婚約破棄されたばかりなので……」
すると、グラッドさんが大きな声を上げた。
「ええ!? 何、それ運命?? やった~~!! もう、俺。幸運確定!!」
「え?」
大抵の人は婚約破棄をされたと言って同情するので、喜ばれるとは思わなかったので驚いてしまった。
予想外のことに戸惑っていると、誰かにそっと手を握られた。しかも指を絡める握り方だ。
振り向くと、ダンテさんが真顔で立っていた。そして、『時雨』のメンバーを見ながら言った。
「ようこそ、『時雨』のみなさん。部屋の用意出来てる。作戦開始までゆっくりくつろいでくれ。これ、部屋の鍵」
そして私の手を握ったまま、シリウスさんに3室分の鍵を手渡した。そして私の顔を覗き込んで微笑んだ。
「行こうか」
いきなり手を握られただけではなく、至近距離でダンテさんの謎の色気のある笑顔を見てしまって、私は顔が熱くなる。
「はい」
そしてダンテさんが、サクさんや『時雨』のメンバーに向かって言った。
「それではどうぞ、ごゆっくり……」
私はダンテさんに手を引かれて、住居棟に向かったので、残された人たちの声は聞こえなかった。
「へぇ~~ダンテ、やるな……」
サクさんの呟きに、グラッドさんががっかりと肩を落とした。
「なんだよ、彼氏……いるじゃん……ぐすん」
481
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?
あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。
理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。
レイアは妹への処罰を伝える。
「あなたも婚約解消しなさい」
「役立たず」と婚約破棄されたけれど、私の価値に気づいたのは国中であなた一人だけでしたね?
ゆっこ
恋愛
「――リリアーヌ、お前との婚約は今日限りで破棄する」
王城の謁見の間。高い天井に声が響いた。
そう告げたのは、私の婚約者である第二王子アレクシス殿下だった。
周囲の貴族たちがくすくすと笑うのが聞こえる。彼らは、殿下の隣に寄り添う美しい茶髪の令嬢――伯爵令嬢ミリアが勝ち誇ったように微笑んでいるのを見て、もうすべてを察していた。
「理由は……何でしょうか?」
私は静かに問う。
「価値がない」と言われた私、隣国では国宝扱いです
ゆっこ
恋愛
「――リディア・フェンリル。お前との婚約は、今日をもって破棄する」
高らかに響いた声は、私の心を一瞬で凍らせた。
王城の大広間。煌びやかなシャンデリアの下で、私は静かに頭を垂れていた。
婚約者である王太子エドモンド殿下が、冷たい眼差しで私を見下ろしている。
「……理由を、お聞かせいただけますか」
「理由など、簡単なことだ。お前には“何の価値もない”からだ」
その支払い、どこから出ていると思ってまして?
ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。
でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!?
国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、
王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。
「愛で国は救えませんわ。
救えるのは――責任と実務能力です。」
金の力で国を支える公爵令嬢の、
爽快ザマァ逆転ストーリー!
⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
追放した私が求婚されたことを知り、急に焦り始めた元旦那様のお話
睡蓮
恋愛
クアン侯爵とレイナは婚約関係にあったが、公爵は自身の妹であるソフィアの事ばかりを気にかけ、レイナの事を放置していた。ある日の事、しきりにソフィアとレイナの事を比べる侯爵はレイナに対し「婚約破棄」を告げてしまう。これから先、誰もお前の事など愛する者はいないと断言する侯爵だったものの、その後レイナがある人物と再婚を果たしたという知らせを耳にする。その相手の名を聞いて、侯爵はその心の中を大いに焦られるのであった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる