Emotion

NADIA 川上

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帰宅途中の出来事②

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 で、結局、あれよあれよという間に大通りまで連れて行かれ、
 レクサスLFA(500万台しか生産されなかった
 限定販売車。価格はおそらく中古でもうン千万は
 下らない)の助手席へ押し込まれ ――、
 
 何かやけに弾んだ口調で、
 
   
「さぁさ、シートベルト締めて~」

  
 それでも悠里は乗ってから気が付いた。
  
 この車……うちの会社の社用車よか、
 よっぽど乗り心地ええかも。
  
 車はとても滑らかに走り出したが。

 イザって時すぐに逃げられるよう、  
 悠里の手はシートベルトを外すスイッチと
 ドアノブにずっと掛けられたままだ。
  
 傍目にも緊張しているのがはっきり分かる。
  
  
「参ったなぁ。俺ってそんな信用ない?」

「(はっきり即答)はい」


 沈黙…………
  
 こんなおっさんと共通する話題などないと思うが、
 この沈黙には耐えられない……。
  
 何か喋らないと……。
 頭の中、グルグルさせながらあれこれ考えていると
 向こうから提案された。 
 
 
「まっすぐアパートでいいんだよな?」

「……ほんなら、途中コンビニに寄って下さい」

「……もしかして、晩メシまだだったりする?」

「もしかしなくてもまだですが」

「……そっか」


 なん、なんだ?? 
 
 
 車が停まるまでスマホで営業メールを送信しているうちに
 車は国道沿いの住宅街で停まった。
 
 ここは、どう見ても私のアパートの近くじゃないし、
 コンビニの近くでもない。
 

 その沿道にはこじんまりとした隠れ家的なレストランがあって、 
 ドアマンらしいロマンスグレーの
 小父さんが車外からドアを開けてくれた。
  
 えっ ―― ドアマンなんているの?
  
 少し、焦りつつ、降り立った目の前にあるその
 レストランの外観を見て、足が動かなくなった。
  
 どう見ても私が好む ”安くてボリューム満天系”の
 庶民的なお店ではない。
  
  
「あ、あの ―― このお店、
 ドレスコードとかは……」

「服着てりゃあ充分だ」


 どんどん歩いて、先を進む各務に、
 ただペットのようについて行くしかなかった。
  
  
 ***  ***  ***
  
 
「いらっしゃいませ、各務様。
 ようこそおいで下さいました」


 気持ちの良いマネージャーの挨拶。
 まるで、上得意客にでもなったかのような
 出迎えだった。
 悪い気分ではない。
  
  
「こちらへどうぞ ――」


 案内された席は、間違いなくこのお店で
 1番良いお席。
  
 完全な個室ではないけど、一般のお客がいる
 スペースとはお洒落な衝立で隔たれていて。
 目の前には手入れの行き届いた、
 見事なイングリッシュガーデンが広がっている。  
  
  
「わぁ ―― キレイ……」


 思わず、感嘆の言葉が洩れた。
  
  
「実はココ、羽柴が新たな試みとして始めた店なんだ」


 あと二・三歩踏み外したらホームレス生活だった
 私をすんでのとこで救ってくれた羽柴さんの事は
 常日頃から尊敬していたが、 
 彼への尊敬の念を、また新たにした。   
  
 そして、各務の意外にも端正な顔立ちと、
 無邪気そうにキラキラ光る澄んだ瞳に……
 思わず見惚れる。
  
 これがデートなら、お伴のパートナーは
 間違いなくイチコロだろう。
  
 あぁ、危ない 危ない……危ない?! 
 一体何が?
  
 危うく、私までもが勘違いしちゃうところだった、
 課長と私はそんな関係ではない。
  
 と、言いながらも、
 私は課長の大人な立ち振舞いに
 すっかり惹き込まれていた。
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