グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第四章

No.035

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「ロゼットさん、怒ってるみたいですけど、なぜですか? マナはただセンパイに朝食を用意してあげただけなのに」

 アイマナはにこにこ笑顔で状況説明をする。
 間違ってはいないが、それでロゼットの怒りが収まるわけがなかった。

「わざわざライライに食べさせてあげる必要はあるのかしら?」
「センパイって、自分からはあんまり食べないんですよ。だから、マナが食べさせてあげないとダメなんです」
「……マナ、焦る気持ちはわかるわよ。メリーナちゃんっていう強力なライバルが現れちゃったものね。今まで二番手だったポジションが奪われそうになってるんだものね」
「マナはロゼットさんと違って、そんなことを比較対象にしませんよ? ロゼットさんは自分を何番手だと思ってるんですか?」
「はぁ? それはもちろん……」

 言葉に詰まりながら、ロゼットがちらりとこっちを見る。
 喉の詰まりはとっくに取れているが、ここは何も言わないでおこう。

 それよりも、目の前に積まれたホットケーキを、そろそろ片付けたいんだが……。

 ちょうどそう思った時だった。

 バンッ!

 大きな音とともに、突然オフィスの奥の扉が開かれた。

 そこにいたのは、オレンジ色の寝間着を着た少女だった。
 彼女の長いオレンジ髪は、爆発したかと思うほど乱れていた。

 その少女に、アイマナが驚いた様子で声をかける。

「プリちゃん、もう起きたんですか?」

 声をかけられてもプリは無反応だった。眠そうにまぶたをこすっている。

「プリー、もう起きたの? それじゃ、あたしと一緒にホットケーキ食べる?」

 プリの姿を見るなり、ロゼットが猫撫で声を出して近づいていく。さっきまでの不機嫌な顔も一転して、にこにこ笑顔になっている。

「うぅ……」

 しかしプリは大した反応もなかった。
 と思ったら――。

「うるさいわね!」

 ぷんすか怒ってた。
 どうやら、こっちの部屋が騒がしかったせいで、起きてしまったらしい。

 プリは俺の膝の上に座ると、テーブルの上のホットケーキに手を伸ばす。

「はむっはむっ、バクバクバクバクバク――」

 目にも止まらぬ速さで、プリが大量のホットケーキを食べていく。

 なんとありがたいことだろうか。
 プリはものの数分で、テーブルに山積みになっていたホットケーキを、全て食べきってくれたのだ。

「眠いわね……」

 そしてプリは一言だけつぶやき、オフィスの奥にあるベッドルームへと戻っていった。


 ◆◆◆


 オフィスの窓から明るい日が差し込む時間になった。
 GPA本部も人の出入りが多くなり、騒がしくなってくる。

 俺はソファーに座り、アイマナが集めた資料に目を通していた。
 資料に書かれているのは、名の売れた凶悪犯罪者や、テログループ、違法勇者、有害魔獣なんかのリストだった。

 それらを討伐し、メリーナに栄光値ポイントを稼がせるのが、俺たちの基本方針なのだが。

「もっと効率よく、大量に栄光値ポイントを稼ぐ方法はないもんかね」

 資料の紙をめくる途中で、俺は無意識にぼやいてしまった。
 すると横に座るアイマナが、当然のごとくムッとした声で言ってくる。
 
「センパイ、マナがまとめてあげた資料に文句を言うんですか?」
「悪い。資料に文句があるわけじゃないんだよ。ただ、これまで通りのやり方をしてても、任務の達成は難しいだろうなって思って……」
「そんなことはわかりきってますけど? その話は朝もしたじゃないですか」
「じゃあ、対策を考えてくれよ……」

 俺がため息をついていたら、ロゼットが近づいてくる。

「ライライ、任せて。あたしに良い考えがあるわ」

 彼女は自信満々な笑顔で言う。それが逆に恐かった。
 でも無視するわけにはいかないし、俺は一応聞いてみる。

「どんな考えだ?」
「<太古の魔獣>を討伐するのよ!」

 ロゼットが声高らかに宣言する。
 その言葉を聞いて、アイマナはわざとらしくため息をついていた。

「マナ、なにか文句でもあんの?」

 ロゼットはアイマナを睨みつけ、ドスのきいた声で話しかける。
 それに対して、アイマナはあからさまな作り笑顔で応じるのだった。

「いえ、きっとロゼットさんならできると思います。いってらっしゃい」
「ええ、行ってくるわ――って、あたしだけ行ってどうすんのよ!」

 アイマナのフリに、ロゼットが全力でノっていた。
 こいつら、本当に仲いいな……。

「ね、ライライはどう思うの? あたしのアイディア、けっこうイケてると思わない?」

 ロゼットが目を輝かせながら確認してきた。
 本気で提案してるのはわかるのだが、一つ重要なことを忘れているようだ。

「メリーナも連れていくことになるんだぞ?」
「そっか……。まあ、でも大丈夫よ。あたし、魔獣の相手は結構慣れてるし。最後にメリーナちゃんにトドメの一撃を譲ってあげればいいんでしょ?」

 確かにそれができたら理想的だ。
 ただ、口で言うほど簡単じゃないのは、俺はもちろんアイマナだって理解している。

「魔獣の討伐ってことは、<禁足地きんそくち>に行くんですよね? あそこは、通常の無線は使えませんよ」

 この世界のおよそ三割の地域は、普通の人間が立ち入れない禁足地となっている。
 理由は様々あるが、その原因の一つが<魔獣>である。

 魔獣を討伐するには、基本的に魔法を使うしかない。
 しかし世の中のほとんどの人間は魔法なんて使えないので、魔獣に出会えば命を落とすことになる。
 そのため魔獣が生息する場所は、禁足地として指定されているのだ。

 そこは、現代文明の利器も存在しない、不可侵の魔境と言ってもいい。

「念のため聞くが、太古の魔獣を狙うつもりなのか?」

 俺はロゼットに重要な部分を確認してみた。
 すると彼女は胸を張って言うのだった。

「そりゃ普通の魔獣なんて職業ギルド勇者ゆうしゃでも討伐できるんだから、相手にしてもしょうがないでしょ。狙うは、太古の魔獣よ!」

 それを聞いたアイマナは、極めて冷静な指摘をする。
 
「ロゼットさん、太古の魔獣と呼ばれる種は、一つの街を簡単に壊滅させるほど強大な力を持ってるんです」
「知ってるわよ! なめないでくれる? これでも、<レッドリング王立魔法学院>を首席で卒業した<王宮魔法士>なのよ!」
魔法士ですよね?」
「うっ……いいのよ、そんな過去のことは」
「言い出したのは、ロゼットさんですよ」
「うぅ……この……」

 ロゼットはアイマナとの舌戦に負けると、わざとらしく泣き顔を作り、俺の方を見る。

「うわあああああん! ライライ、なぐさめてー」

 ロゼットが勢いよく俺に抱きついてきた。
 強めのフローラルな香水が鼻をつき、頭がふらつく。

「あっ! 卑怯ですよ、ロゼットさん! 最初からソレが狙いだったんですね!」
「さあて、なんのことかしら」

 俺を挟んで、また二人がやり合っている。

 このソファーはかなり大きいのに、なんでわざわざ真ん中でおしくらまんじゅうみたいなことをしてるのか……。

 でも、こんなことはもう慣れたものだ。

 俺は両側から揉みくちゃにされながら、ロゼットの提案を少し真面目に検討してみることにした。

「太古の魔獣討伐ねぇ……」
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