グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第五章

No.057

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 サンダーブロンド家の宮殿を後にし、俺たちはGPA本部へ向かっていた。
 その道すがら、隣を歩くメリーナがつぶやくように言う。

「お父様との話、随分と長かったわね」
「何を話してたか気になるか?」
「ううん。私が聞く必要があるなら、お父様は同席させたと思うもの」
「そうか。それならいいけど……」
「ウソ! やっぱり聞きたい!」

 そう言いながら、メリーナはぐっと顔を近づけてくる。
 金色の瞳をキラキラと輝かせながら。

「ちなみに、メリーナが気になるようなことは話してないぞ」
「そうなの? お父様は、その……わたしとライの関係について聞きたかったんじゃないの?」
「関係って、どんな関係だ」
「わたしがライに恋してる関係よ!」

 メリーナは堂々と言い切る。
 まだこの辺りは人通りが少ないとはいえ、誰かに聞かれたらどうするつもりなのか。

「そういう話は一切なかった……って、ん? もしかしてその話、父親にも言ってるのか?」
「わたしがライに恋してるって話? もちろんよ。お父様だもの」

 メリーナはさも当然だと言わんばかりに胸を張る。
 そういうのって、あんまり一般的なことじゃないと思うんだけどな……。
 
 しかし娘も娘なら、父親も父親だ。
 自分の娘が恋してるとか言う相手が目の前にいたのに、ブルトンは話どころか態度にすら出していなかった。
 それほど俺の正体やら過去のことが気になったのか?

 あるいは、メリーナの恋が叶わないと、知っていたからなのかもしれないが……。

「ねぇ、ライ。私たちのことじゃないなら、お父様とはなんの話をしてたの?」

 メリーナが俺の顔を覗き込み、聞いてくる。穏やかな微笑みを浮かべながら。
 その顔を見ていると、今日は少しだけ罪悪感を覚える。

「大した話はしてない。でもあの人は、メリーナのことを心配してたよ」
「そうなんだ……。じゃあ、早く安心させてあげないとね。お父様の病状も、あまりよくないみたいだし」
「……こんなことを言うのもなんだけど、父親のそばにいてやったほうがいいんじゃないか?」
「ううん。そばにいてもできることはないから……。今はわたしにできる精一杯の親孝行がしたいの」
「親孝行?」
「大帝王になることよ」
「父親が果たせなかった夢を代わりに果たすということか」
「もちろん、わたしの意志でもあるけれどね。ただ、それでお父様が喜んでくれたら、少しは親孝行になるかなって思うの」

 メリーナはあまりに純粋だった。
 それだけに俺は心のどこかで、彼女に大帝王になってほしくないとも思ってしまう。

 グランダメリス大帝王という地位は人を変えてしまう。
 過去の記録を振り返ってみてもわかる。初めは純粋な心を持っていた者も、グランダメリス大帝王になれば、次第に汚れていくのだ。
 たとえメリーナであっても……。

 そんなことを考えて、俺が難しい顔をしていたからだろうか。ふいにメリーナが俺の手を取り、歩く速度を早めた。

「真面目な話は終わり! ほら、あと少しでボルトストリートよ。早く行きましょう」
「そうだな……気分転換するか」

 少し歩くと、ふいに開けた通りに出た。
 大きな通りは、左右に派手な外観の商店が並び、人であふれている。
 特に目につくのは、様々なタイプの衣料品店や、ジュエリーショップ、派手な服装をした通行人たちだ。

「うわぁ……すごい! お店も人もキラキラしてる!」

 メリーナは通りの様子を眺めて、目を輝かせていた。

「初めて来たのか? 自分の家の近くなのに」
「うん。たまに車から見かけただけで、こんなふうに歩いたことはなかったから」

 ニュールミナス市は、十三継王家つぐおうけそれぞれの宮殿が、市内に散らばるように建っている。その周りは、いわば継王家のお膝元の地区として発展し、それぞれ独自の個性を発揮する街となっていた。

 このボルトストリートと呼ばれる一画は、特にファッション関連で有名なオシャレスポットらしい。
 俺もほとんど来たことはないが。

「ねぇ、ライ。ここからは……デートでいいのよね?」

 メリーナが顔を真っ赤にし、上目遣いで見つめてくる。
 さっきメリーナの家を出る時には、そんな話はしてなかったが……。

『メリーナさんとデートですか?』

 ふと、アイマナのキレまくった顔が脳裏に浮かんだ。
 まあでも、今日だけは忘れることにしよう。

「それじゃデートするか」

 俺がそう答えると、メリーナは飛び跳ねて喜んでいた。


 ◆◆◆


 しばらく俺たちは、華やかな通りを見て回った。
 特に何かを買ったりするわけじゃないが、メリーナは楽しそうにしていたので、俺としても言うことはない。

 とはいうものの、さっきから妙に視線を感じる。
 どうやら周りの通行人から、注目を浴びているようだ。
 彼らの話に耳を澄ませてみると――。

「あそこにいる人、もしかしてメリーナ・サンダーブロンド様じゃない?」
「それってアレでしょ? なんかすごい事件を解決した人!」
「えっ、本物? オレ、初めて見たよ! めっちゃキレイじゃん!」
「サインとかもらえるかな? 頼んでみようかな?」
「おい、誰か確かめてこいよ」

 やはり目当てはメリーナか。最近は注目を浴びまくりで、すっかり有名人になってしまったからな。
 こうして人前に出ると、よりいっそう実感するよ。

 もちろん、これは喜ばしいことではあるんだが……。

「ねぇねぇ、ライ。そろそろお腹がへってきてない?」

 メリーナ本人は周りの視線など気にすることもなく、のん気に楽しんでいる。
 こんなことになるなら、帽子くらい持ってくればよかったな。
 
 しかし後悔しても遅い。
 気がつけば、俺たちは群衆に囲まれていた。

 そして群衆の中から、一人の女性が声をかけてくる。

「あのぉ……メリーナ・サンダーブロンド様ですよね?」
「そうだけど、何か用かしら?」

 待て、と声をかける前にメリーナが返事をしてしまう。
 そして群衆は、本人の確認が取れた瞬間、大いに沸き立った。

「よっしゃー! やっぱり本物じゃん!」
「あたしは最初から知ってたけどねー」
「うわぁ……こんなに近くで見れてラッキー!」
「次の大帝王様だもんな。サインもらわないと」

 彼らは堰を切ったように、メリーナに話しかけたり、握手を求めたり、写真まで撮ろうとしてくる。
 放っておけば、大騒ぎになるのは確実だ。
 いや、すでに大騒ぎになってるな……。

「行くぞ!」

 俺はメリーナの手を引き走り出す。

「えっ? どこ行くの?」
「人がいない場所だよ」
「それって、もしかして……ライ……」

 メリーナが耳まで真っ赤にしている。
 なんか盛大に勘違いしているようだが、素直についてきてくれているので、良しとしよう。
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