グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第六章

No.068

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<ニュールミナス市/サンダーブロンド家王宮>

 俺とプリがサンダーブロンド家の王宮に着くと、そこには物々しい光景が広がっていた。

 普段は華やかな雰囲気の王宮前広場も、大勢の護衛兵によって厳重な警戒態勢が敷かれている。中には、剣や銃を携えている護衛兵までいる。おかげで、往来の人は近づくどころか、目を向けようともしない。

「今すぐ戦争でも始めそうな雰囲気だな……」

 俺は思わずつぶやいた。すると、頭の上に乗っているプリが反応する。

「メリちゃん、戦争するわね?」
「メリーナはそんなことしないよ」

 ただ、本当に他の継王家つぐおうけによる襲撃なら、すでに戦争は始まってると言ってもいいのかもしれない。

 俺は護衛兵に自分の名前を伝え、王宮の中に入ろうとした。
 しかし彼らは門を開けてくれない。

 護衛兵の一人が、まるで信じていない目で、俺の顔をジロジロ見てくる。

「メリーナ様の知り合い? 本当か? 貴族でもないようだが。身分を明かせ」
「身分を明かすことはできないが、彼女とは友人なんだ」

 メリーナがGPAと関係を持ってることは話せないので、そう答えるしかなかった。
 だが当然、護衛兵は納得してくれない。

「誰も通すなと命令を受けている。友人だろうが、例外は認められない。そもそも、お前のような胡散臭い奴が、メリーナ様の友人のわけがないだろ。さっさと立ち去れ」
「とりあえず、連絡をとってみてくれないか?」
「断る。下賤の輩のことで、あの方の耳を煩わせたくない。私はメリーナ様のためなら、命を懸ける覚悟だ。まだ居座る気なら、力ずくで排除するぞ」

 随分な言われようだ。まあ、護衛兵としては信頼できるのかもしれないが。

 しかし、どうしたものか。連絡をとってもらえないと、さすがに困る。ここから大声でメリーナの名前を呼んでやろうか。

 そんなことを考えていると、耳の奥からいつもの声が聞こえてくる。

『センパイって、初対面の男性に嫌われやすいですよね。やっぱり見た目の雰囲気がチャラすぎるんじゃないですか?』
「こんな時になんの分析をしてるんだ? それより、アイマナの方からメリーナに連絡できないのか?」
『あいにく、プレゼントのイヤリングに無線機能を仕込むのは、ギリギリで思いとどまったんです。それはやりすぎだって』
「位置情報だけでもやりすぎなんだよ」
『おかげで、王宮の中にいることは把握できてますよ。それに、メリーナさん本人からも了解を得てますから。事後ですが』
「あのなぁ……」

 俺がさらに注意しようとした時だった。

「あっ、ライ!」

 呼びかけられ、俺は声のする方を振り返った。
 メリーナだ。彼女が小走りで近づいてくる。長い金髪をたなびかせ、全身がキラキラと光っているように見えた。今日は普段よりもフォーマルな格好だ。

 メリーナは門を開けると、勢いよく俺に飛びついてくる。

「よかった! 来てくれたのね!」

 彼女の温もりを感じ、俺はなんだかほっとした。報告は受けていたが、本当に無事だったことを実感できる。

 ただ、この場所でメリーナが俺に抱きついてきたのは、ちょっとまずかったかもしれない。

 周りの護衛兵たちが皆、顎が外れるくらい大口を開けて固まっている。
 中には、持っていた武器を落とす者までいた。

「メリちゃん、プリもいるわね!」

 俺の頭の上から、弾むような声が聞こえてくる。
 メリーナはそちらに顔を向け、心から嬉しそうな笑顔を見せた。

「プリちゃん、歓迎するわ。ウチに来るのは初めてよね?」
「……そうわね?」

 プリが俺の頭をペシペシと叩いてくる。なので代わりに答えてやった。

「そうだよ、プリは初めてだ」
「プリは初めてわね!」

 なぜ二重に返事をするんだ、こいつは。
 まあ、メリーナが楽しそうだからいいけどさ。

「それじゃ案内してあげるわね。行こう」

 メリーナが俺の腕を引く。その顔には、実に平和そうな笑みが浮かんでいる。周りの物々しい雰囲気とは別世界のようだ。

「あの……メリーナ様……本当によろしいのですか? 今は警戒を強化していますので……もう少し慎重になられた方がよいかと思いますが……」

 護衛兵の一人がメリーナに声をかけた。さっき俺に厳しいことを言ってきた人物だ。彼は、俺たちを中に入れることが納得できない様子だ。

 でも、メリーナにはその真意は通じていなかった。

「ごめんなさい。護衛隊のみんなに、早朝から見張りばかりさせちゃって」

 メリーナが申し訳なさそうに言うと、護衛兵は背筋をピンと伸ばして返事をする。

「いえ、自分はサンダーブロンド家を守るためなら、何日でもここに立ち続ける所存です!」
「ありがとう。でも、あんまり無理しないでね」

 メリーナはそれだけ言って、また俺の腕を引いて歩き出す。
 おかげで護衛兵の彼は、見えなくなるまでずっと俺のことを睨んでいた。


 ◆◆◆


 サンダーブロンド家の王宮内にも、かなりの数の護衛兵がいた。前に来た時はほとんど見なかったが、さすがに警戒を強めているようだ。

 俺とプリは、応接室に通された。
 ここには護衛兵がいないので、ようやく人目を気にせず話せそうだ。

「無事で何よりだよ」

 ソファーに座るなり、俺はメリーナに声をかけた。
 すると彼女は、少し複雑そうな表情を見せる。

「心配かけてごめんね。でも、わたしは大丈夫だから」
「正直、あまり状況を把握してないんだ。さっそくで悪いが、詳しいことを聞いてもいいか?」
「うん……今日の3時くらいかな。わたしは当然寝てたんだけど、突然家の中に警報が鳴り響いて……。部屋を出ると、護衛兵たちが騒いでるのに気づいたの。どうやら、何者かが侵入したっていうのはわかったわ」
「侵入者の姿は見たのか?」
「ううん。わたしが駆けつけた時には、もう荒らされた後だった。護衛兵が何人も倒れていて、魔法が使われた痕跡があったわ」
「侵入者は何人だった?」
「一人だって聞いた」
「一人だと……?」

 にわかには信じがたい話だ。仮にもここは、十三継王家の王宮。普段の護衛体制だって、首相官邸よりも厳重なくらいだ。入るだけでも難しいが、発見されて逃げきるなんて、まず考えられない。ましてや一人なんて……。

「犯人の目的はわかるか?」
「うん……古代魔法書だったんだと思う……」

 メリーナの表情が暗くなる。さすがに、その重大性は理解しているか。

「盗まれたんだな? どれくらいだ?」
「それが、サンダーブロンド家には、数千冊以上の古代魔法書があるから、まだ盗まれた魔法書の特定ができてなくて……。ただ、数十冊に上ると思うわ」
「そうか……」

 俺は一縷の希望を持っていたが、完全に打ち砕かれた。
 サンダーブロンド家が古代魔法書を紛失したのは確定だ。

「ライ、どうしたらいいの? お父様は、可能な限り秘匿するって言ってるけど……」
「そういえば、彼は大丈夫なのか?」
「ええ、無事よ。侵入者とは接触しなかったわ。ただ、ここのところ特に体調が良くなくて……」
「話を聞くのは難しそうだな」
「ごめんなさい。わたしも、GPAを頼れと言われただけで、ほとんど話ができてないの」
「じゃあ、メリーナがGPAに連絡したのか?」
「ううん。わたしは何もしてないわ。そういうのは、サンダーブロンド家の執政部が担当してるんだけど……彼らも<枢密十三議会>の打診をしただけよ。GPAのことは、わたしとお父様以外は知らないはずだから……」

 それなら、GPAに通報したのは誰なんだ?
 他の十三継王家が情報を漏らしたのか?
 しかし今のGPAは、サンダーブロンド家の味方のようなものだ。わざわざ情報を与えるのもおかしい。

 何か嫌な予感がするな……。

 その時、一人の執事が部屋に入ってくる。
 彼はメリーナに、門の外に訪問者がいると伝えてきた。

「シャルトルーズウィング家に仕える<ミンティーノ家>の者だと名乗っております。その男性が、赤い髪の女性を連れ立って、メリーナ様にお取り次ぎをと申しております」
「ミンティーノ……」

 メリーナは執事から伝えられた名前を復唱しながら俺を見る。

「ソウデンと、たぶんロゼットも一緒だ。入れてやってくれ」

 メリーナはそこでようやく気づいたらしく、ポンと手を打っていた。
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