グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第六章

No.071

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 俺たちはGPAのオフィスに戻り、話し合いをしていた。
 プリにアイマナ、ロゼット、ジーノ、ソウデン、おまけにメリーナまでいる。

「いいのか、あいつを見張ってなくて」

 俺は一応尋ねてみる。サンダーブロンド家の王宮では、まだスネイルと帝国魔法取締局マトリが捜査しているのだ。

 しかしメリーナは、大きく首を横に振った。

「わたし、あの人とは一緒にいたくないから」

 メリーナにしては珍しく、はっきりと奴のことを嫌っていた。
 まあ、その気持ちは痛いほどわかるが。

「メリーナ様が命じて下されば、僕が奴を細切こまぎれにして差し上げます」

 ソウデンが物騒なことを言い出す。
 その言葉に、明らかにメリーナは引いていた。

「アハハ……ありがとう、ソウデンさん……。でも、そこまではしなくていいかな」
「これは出過ぎた真似を……。お許しください」

 ソウデンはわざわざ立ち上がり、大仰に頭を下げる。
 こいつ最近、俺よりメリーナに忠誠を誓ってないか……? 

「それで、これからどうするのよ? 誰かさんのおかげで、面倒なことになっちゃったけど……」

 ロゼットはため息混じりに言うと、ジーノを睨む。
 それに対して、ジーノは必死に抗議の声を上げる。

「いやいや、待ってくれよ! オレのせいじゃなくない? オレは悪くないって」
「あんたが喋らなければ、帝国魔法取締局マトリもあんなに早く来なかったでしょ」
「一応オレだって少しは抵抗したんだからな! けど、十三継王家つぐおうけの署名まで出されたらしょうがないじゃん!」

 ジーノが開き直るせいで、ロゼットの表情がどんどん険しくなる。
 とはいえ実際のところ、ジーノにはどうしようもなかっただろう。

「もういい。ジーノを責めても意味がない」
「わかってくれるんすか、ボス! 一生ついてきますー!」

 ジーノはうるさいくらい大げさに喜んでいた。その姿をロゼットが鬼のような顔で睨んでいる。
 とりあえず、この二人は放っておこう。

「それよりアイマナ。監視カメラの映像はまだ見られないのか?」

 俺は隣の分析室にいるアイマナに声をかけた。
 すると、開け放したドアの向こうから声だけが返ってくる。

「それが、データに掛かってるロックが特殊で……あと少しで解除できるとは思うんですけど……」
「たかが監視カメラの映像に、そんな厳しいロックをかけるものなのか?」

 俺はちらりとメリーナの方を見る。
 しかし彼女は、何も知らないようだった。

「わたしは護衛部の人から、データをもらってきただけだから……」
「いや、気にしなくていい。充分、助かってるよ」

 俺がそうフォローすると、メリーナは安心したように微笑んだ。
 すると隣の部屋から、冷たい声が聞こえてくる。

「なんかメリーナさんにだけ優しくないですか? マナにもその優しさをください」
「カメラの映像が見られたらな」
「本当ですね? 約束ですよ」
「ああ、わかったよ」

 俺が答えると、隣の部屋から白銀髪の少女がひょっこりと顔を出す。
 そして彼女は、にんまりと笑いながら言うのだった。

「終わりました」
「お前なぁ……終わってたんなら、さっさと言えよ」
「違います。センパイがご褒美をくれるって言ったから、マナ、チョーがんばって、爆速で解析を完了させたんです」

 とんでもなく嘘くさいが、まあいい。どうせ真実は誰にもわからないのだ。

「それじゃ、映像をこっちに出してくれ」

 俺はこの部屋にあるスクリーンのスイッチを入れた。
 すると、アイマナが近づいてくる。

 てっきり映像の準備をするのかと思ったのだが、アイマナは俺に向けて頭を下げた。

「……なんのつもりだ?」
「ご褒美です。撫でてください」
「正気か?」
「正気です。約束です。早くしてください」

 周りを見回すと、みんな、なんとも言えない顔をしていた。
 ロゼットは鬼の形相で睨みつけてくるし、メリーナは苦笑いを浮かべているし……。

 なぜかジーノがウィンクをしてくる。「オレに任せてくれ」とでも言いたげな感じだ。
 それなら任せよう、と俺はうなずいた。

 そしてジーノがアイマナに声をかけたのだが……。

「マナちゃん、それじゃオレが代わりに撫でてやろうか?」
「セクハラで訴えますよ?」

 アイマナにあっさり拒否され、ジーノはがっくりと肩を落としていた。
 何やってんだか……。

「センパイ、小細工はいいから約束を守ってください」
「わかったよ……」

 俺はアイマナの頭を撫でてやった。思ったよりも髪はふわふわしていて、頭は小さく感じる。

「うふふふふ……マナ、嬉しいです」
「上機嫌になってくれたようで何よりだ。それじゃ、さっさと映像を見せてくれ」

 俺はアイマナに頼んだのだが、今度はなぜかオレンジ髪の少女が近づいてくる。
 その顔を見ると、瞼がすでに閉じかけていた。

「ねむたいわね……」

 それだけ言うと、プリは俺の膝の上で丸まり、さっそく寝息を立て始めた。
 そしてそのオレンジ色の髪を、横からメリーナが撫でる。

「プリちゃんって、猫みたいよね」

 ここは動物カフェか何かか?
 のどかなのはいいが、少しは状況を考えてほしいものだ。

 俺が呆れてると、ふいにオフィスの入口からノックの音が聞こえてきた。
 そしてドアが開かれ、一人の男が顔を覗かせる。

「キャッチーくん、ちょっといいかな」

 そう声をかけてきたのは、どこか浮世離れした青年風の男だ。長めの黒髪が、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。

 その男の登場には、部屋にいる全員(プリ以外)が驚いていた。

「サリンジャー長官がなんで……?」

 ロゼットがつぶやくように言う。
 その疑問はもっともだ。今までサリンジャーがこのオフィスに姿を現したことはなかったのだ。

 俺は寝ているプリをメリーナに預け、サリンジャーと二人で廊下に出た。
 すると、さっそく奴の方から口を開く。

「キャッチーくん、任務についてだが……」
「今さら中止なんて言わないよな? フィラデルのテロ事件の後、念を押してきたのは、あんただぞ」
「もちろん覚えてるよ」
「たとえ何が起ころうと、俺はメリーナを大帝王にする」
「私もそう願っていた。だが、もはやGPAの存亡に関わる事態だ」

 サリンジャーは、普段の余裕ぶった雰囲気を無くし、ことさらに深刻な顔をしていた。
 俺も、奴のこんな顔を見るのは初めてだ。

「なぜGPAの話になる? 古代魔法書を紛失したせいで、サンダーブロンド家が存亡の危機って言うのならまだわかるが」
「監視カメラの映像は見たか?」
「……なんでそのことを知ってる?」

 いや、報告が上がっていてもおかしくはないか。
 恐らく帝国魔法取締局マトリも調べただろうからな。

「とりあえず私は枢密十三議会に行ってくるよ」
「十三継王家に呼び出されたのか? GPAの長官は、そんなものに応じる義務はないはずだぞ」
「もはや、GPAの独立性などと言ってられる状況じゃない。とにかく君も、早く監視カメラの映像を見るんだ」

 サリンジャーはそれだけ言うと、足早に去っていった。

 俺がオフィス内に戻ると、みんなが心配そうな顔をしていた。
 深刻な雰囲気を察したらしい。

「まずは監視カメラの映像を見よう。話はそれからだ」

 俺はそう声をかける。と、アイマナが機器を操作する。
 程なくして、巨大なスクリーンに映像が映し出された。

 映像は、サンダーブロンド家の宝物庫を、上の方から映したものだった。
 少し引いた位置にカメラがあるらしく、屋上全体がよく見えるようになっている。
 夜だが、屋上や庭の外灯のおかげで、ある程度の明るさが保たれていた。

 しばらくして、屋上の端に何者かが現れる。
 その人物は、警戒した様子もなく、堂々と屋上を歩いていた。

 まだローブを被る前らしく、服装と顔がはっきりと映っている。
 青っぽいスーツを着て、背は高め。クセのある前髪が特徴的だ。
 
 その姿を見た瞬間、俺は目の前が真っ白になるのを感じた。
 とても信じられないどころか、夢でも見ているような気分だ。
 
 みんなの顔が俺を見つめていた。彼女たちの表情もよくわからないほどに、俺の視界は狭まっていた。
 
 いったい、何が起きているというのか。
 理解が追いつかない。

 ただ一つ確かなのは、この侵入者は――。

「ライ……」

 メリーナが、映像に映った人物の名前をつぶやいた。
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