グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第六章

No.073

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 監視カメラの映像があるので、俺を拘束するというのはわかる。
 だが、ウチのメンバーまで拘束する必要はないはずだ。
 そもそも帝国魔法取締局マトリが、簡単にこのオフィスに入って来ている時点でおかしい。

 となると、俺たちはGPAから切り捨てられた可能性が高いな……。

「これがサリンジャーの出した条件か?」
「上でどんな交渉があったのか、私は知らないし、どうでもいい。お前たちさえ尋問できればな」

 やはり、すでに話はついているようだ。
 腹は立つが、しかたない。サリンジャーもGPAを守ることを優先したのだろう。

「……尋問と言ったが、その中にメリーナは入ってないよな?」
「当然じゃないか! まさか十三継王家の次期当主ともあろうお方を、私たちが尋問するなど、畏れ多いこと。メリーナ様の処遇は、いずれ枢密十三議会にて決められるはずだ」

 スネイルは大げさな身振りを交え、芝居がかった口調で話す。
 あまり信用できないが、さすがにこいつも、直接メリーナに手を出せるほどの力はないはずだ。

 しかしメリーナは、俺の手を握りしめていた。その手が、かすかに震えている。

「団長……」

 ソウデンが剣を抜こうとする。
 しかし俺は黙ったまま、首を横に振った。

「ライライ、大人しく拘束されるってことでいいのよね?」

 ロゼットが確認してくる。
 俺はそれに対しては、とりあえず小さくうなずいておいた。

 するとスネイルは、喜色満面で喋り出す。

「安心してくれ。ウチの連中は拷問好きだが、女性には優しいからな。しばらくの間は、レディーには手を出さないはずだ。しばらくはなぁ」

 スネイルはねっとりとした口調で言いながら、ロゼット、アイマナ、プリの顔を順々に見ていく。
 ロゼットたちは三人とも、全身に緊張感をみなぎらせていた。だが、怯えなはない。さすがにこの仕事を続けているだけあって、三人とも覚悟は決まっている。

 一方、ジーノは情けない声を上げていた。

「ボス~、本当に捕まって大丈夫なんすか? オレ、拷問なんてされたら全部ゲロっちゃいますよ~」

 まあジーノは、そうなるだろうなとは思っていた。
 だが、ここで俺たちが力づくで反抗すれば、それこそメリーナの立場が危うくなってしまうのだ。下手すれば、サンダーブロンド家そのものが、消滅させられる可能性だってあり得る。

 ただ、そうかといって、このまま大人しく従うつもりもない。
 と、俺はスネイルに声をかける。

「連行されるのは構わないが、その前にスミス・タイトマン本部長へ連絡してくれ」
「なぜだ?」
「俺たちの直接の上司なんだが、彼はこのことを知らないだろ? もし急に俺たちがいなくなれば、不審に思って何かしらの行動に出るかもしれない」

 そんな取り決めはないし、俺たちが消えてもタイトマンは何もしないだろう。
 しかしスネイルは、こっちの内情など理解してないはずだ。

「お前らの内部事情に付き合う必要はない」
「十三継王家の命令で来てるんだろ? 現場を掌握できてないとみなされるのは、あんたにとってもマイナスなんじゃないか?」
「……具体的に何が起こるというんだ?」
「いきなり仲間を消されたとなれば、さすがにGPAウチも黙っていない。枢密十三議会に乗り込んでいく奴もいるかもな」

 もちろん、そんなことはない。しかしこの男は、自分の行動で十三継王家に迷惑がかかることを嫌うはずだ。

「なるほどな……」

 そうつぶやくと、スネイルは床を見つめて考え始めた。

「…………」

 10分以上が経っても、スネイルは床を見つめていた。

 ダメか?
 俺がそう思ったところで、スネイルがおもむろに口を開いた。

「さすが私を騙していた腐れ探偵だ。往生際が悪い。それで、お前の上司はどこにいる?」
「このビルの最上階、13階だ。呼んでこようか?」
「くくっ……その手は想定済みだ。甘く見るなよ? ウチの部下に行かせるに決まってるだろ。そんな姑息な手で逃げられると思ったら、大間違いだ」

 スネイルはそう言うと、周りのローブ集団に指示を出し始める。
 おかげで奴の注意は、完全に俺から外れた。
 このわずかな隙こそ求めていたものだ。

 俺は誰にも聞こえないほどの小声で囁く。

「プリ、アイマナだけ連れて逃げろ」

 プリが俺の顔を見る。目が合い、うなずく。
 そして次の瞬間――。

「行くわね!」

 プリは一言だけ声を上げると、そばにいたアイマナを担ぎ上げる。

「プリちゃん!?」

 アイマナは突然のことに驚き、何かを言おうとする。しかし彼女が次の言葉を発する前に、プリは窓を突き破って外へと飛び出していった。

「貴様!」

 スネイルが泡を食って俺に掴みかかってきた。
 だが、俺は極めて冷静に対応してやる。

「申し訳ない。部下に裏切られてしまったらしい」
「なんだと……」
「あいつらは、俺と一緒に捕まるのが嫌だったんだろうな」
「貴様が逃したわけじゃないと言うのか?」
「いつ俺がそんな指示を出した?」
「このゴミが!」

 スネイルが拳を振り上げる。
 その動きは、まるでスローモーションのように、ゆっくり見えた。
 でも俺は、よけることはしなかった。

 ゴンッ!

 骨まで響く衝撃音が耳の奥から聞こえ、頬に鈍い痛みが走った。
 口の中に、じんわりと鉄の味が広がる。

「ライライ!」
「団長!」
「ボス!」

 ロゼットたちが口々に声をあげる。
 メリーナは、握りしめる手にさらに力を込めてきた。

 それでも俺は、感情を抑えながら話す。

「いいから、そのままにしていろ。俺たちが抵抗しなければ、これ以上揉めることはないはずだからな」

 俺は、目の前に立つ水色ローブの男を睨みつけた。
 すると奴は、少しだけたじろいだ様子を見せる。その顔には、わずかに悔しそうな表情が浮かんでいた。

「くっ……いいだろう。冷静に考えれば、お前のような無能が、部下に裏切られるのは不思議なことではない。あの二人は勝手に逃げたことにしてやる。その代わり、お前だけは死ぬほどいたぶってやるからな」

 こうして、俺と、ロゼット、ジーノ、ソウデンは帝国魔法取締局マトリによって連行されることになった。

 しかし俺たちが縄で縛られても、メリーナは最後まで俺の手を離そうとしない。
 なので俺は、心配させないように笑ってみせた。

「すぐにまた会える」
「ライ……」

 繋いでいた手は解かれ、メリーナの目から涙がこぼれ落ちた。

 その視界を遮るように、スネイルが間に立ち、俺を睨みつけてくる。

「女を騙すのだけは得意みたいだが、もう二度と会うことはできないぞ。下賤なゴミ野郎が。ほら、さっさと歩け!」

 縄で引かれ、俺は歩き出す。

「ライ! わたし、イヤだから! これが最後なんて、絶対にイヤだから!」

 メリーナの悲痛な声を背後に受けながら、俺たちはオフィスを後にした。
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