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あのキャラじゃないですか!
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赤塚千冬。アラフォーで派遣で働く独り暮らしの女。それが私だった。
交差点で信号待ちをしている間、暇つぶしにスマホでネット小説を読んでいたら、居眠り運転か酔っ払い運転か知らないけれど、車がこっちに突っ込んできて――あとは何も覚えていない。
その記憶が蘇ったのは、娼館らしい場所で同僚っぽい女の子達に階段から突き落とされた時だった。
「父親が侯爵だからっていい気にならないでよね」
父親が侯爵。娼館育ち。なんか、直前までそんなキャラのいる小説を読んでいたような……。
痛む身体を抑えて、自分の住む部屋に戻る。先程から大量の見知らぬ記憶が流れ込んで、自分なのか赤塚千冬なのか分からない。部屋に戻れば、確か、母がいるはず……。
ガチャリと部屋の扉を開けると、簡素な寝台にやせ細った母の姿があった。
「……お帰り。私はご飯はいらないから、お前が全部お食べ」
その瞬間、自分の意識はこの身体の少女になった。
「そう言って昨日も食べなかったでしょう。今持ってくるから……」
「いいのよ。それより、私はもう長くないから、お前に言っておきたいことがあるの。周りが噂しているように、お前の父親は侯爵様なのよ。血筋を大事にする方でね。私がそれなりの身分だったら、お前も貴族になれたのに……」
その言葉に赤塚千冬としての意識が強くなる。
「身分で人を判断する父親なんかこっちから願い下げよ。私は自分が可哀想とは思っていないし、お母さんは女手一つで私を育ててくれた立派な人だと思っているわ」
「……良い子に、育ってくれたわね。けれど、最近噂で聞いたのよ。その侯爵様のたった一人の子供、お前の妹にあたるセレスティアという方が、ここ数日危篤状態だと」
セレスティア。
その名前を聞いてさらに千冬としての意識が増した。
その名前は、あのネット小説の悪役令嬢では……?
「私には学が無いから、詳しいことは分からないんだけど、そのセレスティアという方は聖女召喚の際に同行者の役目があったとかで……。でもセレスティア様は危篤でしょう? それに侯爵様には他に子供がいないのよ。だからもしセレスティア様が亡くなるようなことがあったら、お前が呼ばれるんじゃないかって」
この身体の少女の意識としては、物心つくまで実子を放っておくような父親が今更迎えにくるもんかという気持ちがある。けれど赤塚千冬としての意識は、必ず迎えが来るということを確信している。
「どこにいてもお前が幸せでいてくれることが一番だけど、それだけは伝えようと思っていたの……ゴホッ」
二つの意識の間で葛藤していると、母親が苦しそうな咳をしたと思ったら、血を吐いた。
「お母さ……!」
胸が酷く痛んだと思ったら、急激に身体の持ち主の意識が消えていくのを感じた。そして私は見知らぬ少女の身体を事実上乗っ取ったのだ。
◇
人を呼んで来た時には母はもう息を引き取っていた。死体は出入りの業者がさっさと娼館の外へ連れて行ってしまった。葬式とかはしないのだろうか?
娼館の主にあたる老婆は「葬式? 金を出せばやってやるよ。お前は初物だから客を選ばなければ良い値がつくだろうねえ」 と足元を見る。
千冬はまだ半信半疑だが、もしかしなくてもここがあのネット小説の世界じゃないかと感じていた。
その通りであるなら、ここで客を取った直後に侯爵家から迎えの馬車が来るはずだ。
「葬式は……しません。お客を取るのは一日待ってください」
「そうかい。あんたも薄情だね。一日なら待ってやるが。早めに覚悟は決めるんだね。あんたの母親の借金はまだ残ってるんだから」
あの母親の女性には気の毒かもしれないが、それでも娘の身体が不幸になるのは望んでいない、はず。とにかく一日待った。すると――原作通りに迎えの馬車が現れた。
◇
冷遇された聖女の結末。
事故で死ぬ直前まで読んでいたネット小説だ。
主人公は毛利ラナという女の子で、この子は地球の日本に居た頃から不幸だった。
実はそれは魂が異世界人だったからで、年頃になると聖女として呼び戻され、力が弱まり眠りについた女神を起こす使命を託される。
ラナも中々ミーハーな子で、身体の魔力をこの世界に馴染ませるために各地の精霊に会いに行く旅。それに付き添う同行者がイケメン揃いなのを見て「ラノベのヒロインみたい!」 と浮かれるのだが……彼らはラナを冷遇、というよりもはや虐待した。
その元凶こそ悪役令嬢セレスティアだった。
旅には聖女の側仕えに必ず女性を付き添わせる決まりがあった。その一人がセレスティアだったのだ。
妹が無くなったからと代わりにと客を取った直後に引き取られ、旅が終わったらおそらく侯爵家からも放逐される予定。
自分がこんな運命なのは聖女のせいだと逆恨みして男達を誘惑し、聖女を冷遇するように仕向けた。
本編では心身ともに疲れ果てたラナは自死を選択。旅の同行者達は聖女に何てことをしてくれたと世界から責められる。流行りのざまぁだ。
けれどifルートも存在して、セレスティアを含む同行者三名、他に隠れキャラみたいなキャラとラナが幸せになる話もあった。
問題はセレスティアルート以外、セレスティアは死ぬまで幽閉されて、さらにその幽閉生活も半ば見世物のようにされて惨めに死ぬのだ。
何の因果でそのセレスティアにならなければいけなかったのか……。千冬は絶望した。
◇
馬車の中では家庭教師の女がずっとぐだぐだと当て付けを言っていた。
「セレスティア様がお亡くなりになられたからしょうがなく貴方を呼びにきた」
「母親が娼婦のお前には身に余る光栄だろう」
「だが過去は全て捨てろ。今日から貴方がセレスティアになるのだ」
何で父親はこんなの雇っているんだろう。立場を笠に着たパワハラじゃんこんなの。元のセレスティアだったら心を病んだであろうそれを千冬は長年の社畜人生で習得したスルー力でかわす。
侯爵家についてからやっと実の父である侯爵に会ったが、千冬的にはコメントしづらい男だった。
ぬぼーっとしていて、大きな人形が歩いているような感じで、一言で言うと愚鈍っぽい。元のセレスティアだったら身分に圧倒されて貴族とはこういうものと思ったかもしれないが。
「処女か?」
開口一番答えにくいことを質問してきた。精神大人の千冬はアルカイックスマイルで流す。
「はい。あと一日迎えが遅れていればそうではなかったでしょうけれど」
「そうか。……」
「……」
「……」
「……あの……」
「……」
原作では乱暴な客にあたって顔を腫らしたセレスティアを気に留める様子もなく、聖女の側仕えの役目を果たせよと言うだけだったらしい侯爵。あの時はひっどい性格だなーと思ったものだが、もしかして性格が酷いのではなく。
「まあどちらにせよ娼館育ちでは未来が無いな。これからはお前が亡くなった妹になって、聖女様の側仕えをやってくれ」
「は、はい」
「あと何かあるか?」
「あの家庭教師を首にしてください。ここに来るまでに散々無礼なことを言われました」
千冬的にはここは譲れなかった。原作でも長年にわたってセレスティアをいびりぬいたらしいし。
「先祖代々うちに仕えてくれている。だから無碍には出来ない」
「じゃあ首にしなくていいから直接私に教える家庭教師を変えてください」
「その方法があったか。ならそうするか」
「……ありがとうございます」
違和感はずっとあった。それが間違っていなかったと確信するのは、この館にいるおしゃべりなメイド達のお陰だった。
◇
「……にしても、本物のセレスティア様がお可哀想だわ。娼婦の娘である姉が自分の名前と立場を乗っ取ってるのですもの」
原作のセレスティアは父や家庭教師のみならずメイドからも冷たくされていたらしい。まあ、陰口だけならどうということもないが。それどころか貴重な情報源だ。他の貴族の様子は? 世界の情勢は? 実際の自分達の評判は? 知りたいことは山ほどある。たまにこうして陰口を言われるが、正直安心してほしい。偽者セレスティアの中身も乗っ取られててアラフォーのおばちゃんです。
一人の勝気なメイドがそう文句を言っていたが、他のメイドは何とも言えない顔でそれをやんわりと否定した。
「……でも、本物のセレスティア様からしたらようやく解放されて幸せかもしれないわよ」
「ずっと身体が弱かったしねえ」
「側仕えのお役目を果たしたい気持ちはあったようだけど、誰が見ても長くなかったと思うわ」
原作で元々のセレスティアたる妹のことはあまり書かれていない。なのでそうだったのか、と新鮮な気持ちで千冬は話を聞く。
「けど私はあの娼婦の娘に聖女の側仕えが務まるとは思えないのよ。だって……駄目でしょあれは……」
「駄目って何が?」
「美人すぎるじゃない。言っちゃなんだけど、聖女の側仕えって代々ブスが選ばれてるのに」
千冬は仰天した。なんだそれは。そんな裏設定? があったのか。でも確かにこの身体は美人だけど、父親や家庭教師は容姿に言及しなかったぞ?
「あれねえ……。露骨よね。なんとしても役目を果たしてもらわないといけないからって」
「しょうがないんじゃない。過去には美人な側仕えと同行者の男が恋仲になって、聖女が嫉妬して役目をしない! って怒ったことが実際にあったらしいし」
「そもそも本物のセレスティア様が側仕えに選ばれたのも、見た目が良くないからって理由だものね……。正直言うと、セレスティア様のご容姿って見てて不安になったわ」
……千冬は何とも言えない気持ちになったが、世界を救うという大義名分の前では、些細なことかもしれないと自分を納得させる。ちょっと感じ悪いけど。
「侯爵様も家を存続させたかったら美人でも引き取るしかなかったんじゃないの。今まで何人も妻を迎えたのに、実子はもうあの子一人しかいないのよ。世界が衰退期に入ると、必ずいくつかの貴族の家門が消えるしね。庶民でいう口減らし」
「側仕えの話だけ断ればいいんじゃないの?」
「女神様が無事復活なさると、聖女のみならず同行者達も一躍時の人になるのよ。その名誉を逃したくないんでしょう。同行者同士で繋がりもできるし……この家門みたいなお金はあるけど子孫が少なすぎる落ちぶれかけたところでは特に」
「私まだ新人だから分からないんだけど、どうしてここは親戚も子供も少ないのかしら? 普通分家とかあるわよね?」
メイド達が一斉に黙った。相当言いにくいらしい。逆に言えばそれだけの秘密があるということ。千冬は物陰からしっかり聞き耳を立てた。
「……あまり大きな声で言っちゃ駄目よ? この侯爵家は……血筋を尊ぶあまり今まで近親婚ばかりしていたの」
「侯爵様は両親が叔父と姪でしたし、本物のセレスティア様にいたっては両親の関係が異母兄妹ですもの」
「セレスティア様の身体が弱かったのも、侯爵様がああなのも……ねえ?」
千冬は絶句した。なんだその呪われた家系図。本物のセレスティアが生きてさえいればラナちゃんはつらい目に合わずに済んだだろうなって妄想したことあるけど、絶対有り得ない未来だったのか。そして父親の愚鈍っぷりも納得した。原作の悲劇の元凶ともいえるセレスティアを引き取った侯爵。なんでこいつに天罰が当たらないんだと思ったが、女神的にも天罰を当てにくいものだったのかな……責任能力云々言うなら先祖の方が罪が重そうだし。
◇
千冬にはすることがあまりなかった。元がアラフォーで身体が少女だから礼法作法は簡単に覚えた。新しい家庭教師の教え方がいいのもあるかもしれない。元のセレスティアは文字通り死ぬ気で覚えて、余った時間を聖女の旅の同行者である男達の誘惑に使ったらしいけど……千冬はそんなことをするつもりはない。そもそも原作でもあれは自爆行為みたいなものだった。どのみち旅が終わればすべてが発覚して罪に問われる。元々何も無かったセレスティアには痛くも痒くもなかったようだが。
けれど中身が千冬の今は違う。原作知識を活用して綺麗な身体のままだし、旅が終われば庶民になって自由を謳歌すればいい。男達を騙す気も何の罪もないヒロインを苛める気もさらさらない。
なので余った時間を使って、原作にはいなかった使用人を雇い入れた。元は違法な手段で人身売買されていた少年だ。ナタンというその少年を買ったのは、いずれ庶民になる時に力になってほしかったからだ。
「いい? ここで最低限の礼儀作法さえ覚えてくれれば、あとは自由よ。でもここだけの話、侯爵家も長くなさそうだから、市井に働き場所を見つけておくといいかもね」
ナタンは素直な少年で、礼儀作法を身につけると街を歩いて情報を得るようになった。
「……この家に何かあったら、俺がセレスティアお嬢様を助けます」
「ふふ、ありがとう」
恩に着せるようなやり方はどうかと思うが、一応貴族のお嬢様となった身分では、それ以外に取れる手段も限られてくる。使える手段は多い方がいい。それだけだ。
ボロ姿で競売にかけられている姿に、かつてのセレスティアを見たのかもしれないなんてことは決してない。自分はそんなセンチメンタルじゃない。……きっと。
◇
やがて聖女召喚が行われる日がやってきた。
同行者の男達にはその日初めて会うことになる。
「初めまして。セレスティアです。今日からよろしくお願いいたします」
そう言って千冬が笑うと、三人の男達は一様にボーっとしており、どうやら見惚れたようだった。
ふと千冬の脳裏にあの言葉が蘇る。
『美人すぎるじゃない。言っちゃなんだけど、聖女の側仕えって代々ブスが選ばれてるのに』
急に嫌な予感がしてきたが、いくらなんでも顔だけで判断するような人達じゃない、はず。男達が原作でヒロイン苛めをしたのは、散々セレスティアが誘惑してけしかけたからだし。
やがて召喚陣からヒロインであるラナが現れた。セレスティアは美人だけどラナはそうじゃないって原作で散々言われてたけど、こうしてみると彼女も可愛い系だと思う。異世界から現れるというドラマティックな少女に男達も心を奪われたんじゃないか、と千冬がちらりと男達を見やると、その顔には失望が浮かんでいた。
「……普通すぎる」
「セレスティア嬢のあとだと……」
「カリスマも威厳もないじゃないか……」
お前ら顔で判断するのかよ! と千冬は心の中で盛大なツッコミを入れたが、こういうことを未然に防ぐためにあえての醜い世話係という今までのやり方が間違っていなかったのだと思い知らされて複雑な気分にもなった。
◇
「クレマンさんって王子様なんですね。普段はどんなことをしてらっしゃるんですか?」
「……それを聞いてどうするつもりだ?」
「あ、ごめんなさい……。そうですよね。国家機密とかありますよね」
「ファブリスさんは大商人だって聞きました。やっぱり普段は世界中をまわってるんですか?」
「そのお陰でこんな役目を与えられたよ。拒否権は無かった」
「あ……私のせい、ですよね。ごめんなさい」
「ドミニクさんは騎士団長だとか。剣を振るう姿を見てみたいです!」
「戦うような事態が訪れればいいって思ってるのか? 聖女のくせに」
「ご、ごめんなさい……」
千冬の胃がキリキリ痛んだ。セレスティアがけしかけないから彼らは積極的にラナを苛めたりはしない。しないが大切にもしなかった。仲良くなろうと話しかけるラナに揃ってこの対応。仮にも大切にするように周りから言われてるんだろうにどうして、と思ったが、どうやら彼らはセレスティアのほうに気があるからそうしているようだった。
「聖女様がお気の毒です。もう少し優しく出来ないのですか?」
千冬がそう咎めると、彼らはバツの悪そうな顔をしてこう言った。
「悪いけどどう見ても普通の少女で、聖女らしくないから敬おうという気になれない。あとあの子、自分が物語の主役みたいに浮かれてるみたいだし。何より君と比べるとどうにも見劣りして……」
実際そうなんだよ、と千冬は思う。ラナはネット小説のヒロインだ。そのネット小説の中でも容姿は普通で環境に恵まれない少女という設定だったから、物語みたいな華やかな展開に最初は浮かれるって話があったんだよな。そして鼻っ柱を盛大に叩き折られるという。ぶっちゃけ今も折られてる気がするけど。
しかしセレスティアが誘惑してもいないのにこの有り様。世話係が誰であっても彼らがラナを冷遇するのは避けられないことだったのだろうか。
「分かりました。貴方達がそう仰るなら、私が貴方達のぶんまでラナ様をお世話します」
自分の幽閉フラグを叩き折るためにはもはやそうするしかない。千冬は男達を徹底的に無視して甲斐甲斐しくラナを世話した。
「ラナ様、馬に乗っていると足がつることがありますから気をつけて」
「ラナ様。この先は寒くなりますから毛皮の服をどうぞ」
「ラナ様。時間が空いたら二人で買い物をしましょう。男の人の前では買いにくいものもあるでしょう?」
原作では聖女召喚は何百年も続いている儀式だとあった。……これ感想欄で見たんだっけ? まあいいや。ともかく先代も先々代も世話係がしたであろう献身をラナに捧げる。
「ラナ様。このお菓子、美味しいですよ」
ある時、千冬がそう言ってお菓子を差し出すと、ラナはポロリと涙を零した。
「ご、ごめんなさい。なんか……友達みたいだなって思って……」
ラナは故郷で中身が異世界人なばかりに周りに一切馴染めなくて苦労した、と原作に書いてあったんだっけ。千冬はそれを思い出してちょっとラナをからかうことにした。
「ラナ様、酷いです!」
「え? え?」
「私達、友達じゃなかったんですか? 私は会った時から友達だって思ってたのに!」
「え!?」
「友達、ですよね?」
「あ、あの……セレスティアがそう言うなら……うん。友達だね」
「わあ、やりました! うふふ」
気分は保育士だ。ラナはちょろい。詐欺師に引っ掛からないか心配になるほど操りやすい。……原作はそれで苦労したんだろうなあ。
◇
魔力を現地に馴染ませる旅は順調だった。
水、土、火、風と来てあとはもう帰るだけというところで、千冬からすればアクシデントが起こった。
「セレスティア嬢、この度が終わったら、自分との交際を真剣に考えてくれないだろうか。決して容姿だけではない、献身的に聖女に尽くす貴方を見て素晴らしいと思ったのだ」
急に呼び出されて、しぶしぶ付き合った先でこう言ってきたのはクレマン王子だった。
悪役令嬢ものにある、本当ならヒロインと結ばれるはず高スペックの王子が自分に……! というロマン溢れるシーンが千冬の身に起こった。が。
萌えない。
全く萌えない。
原作の描写もそうだが、他の女の子に冷たい男が自分だけ優しいってDV男の素質があるようにしか見えんわ。少なくとも自分のタイプではない。
そもそもこの男は自分の何に好意を持ったんだ? 我ながら仕事に熱中するだけの可愛くない女だったと思うぞ? 顔は綺麗だけど、そもそもこの身体は借り物みたいなもので……あ。
千冬はせっかくだからと、前々から転生もののヒロインがヒーローにこう言ったらどうなるのだろうと思っていたことをぶつけてみることにした。
「実は私、前世の記憶があるの」
「……え?」
クレマンの顔が強張った。
「子供の頃に階段から落ちたことがきっかけで蘇って、それからは前世の人格が主人格になったわ」
「へ、へえ……」
「前世では39歳の独身だったけれど、転生したら王子様に交際を申し込まれるなんて嬉しい! 」
クレマンの顔が恐怖に満ちた。
「39って……中身バアサンじゃないか!」
千冬は思った。
顔じゃなくて中身で惚れたんならこういう反応する? しねーよなあ?
盛大なビンタをかましてやったが、私悪くない。
◇
左頬を腫らしたクレマンと、バアサンと呼ばれて涙目のセレスティアが戻ってきたのを見たラナはあらぬ誤解をした。
「ティア!? 一体どうしたの!? まさかクレマン様に何かされたんじゃ……。クレマン様、いくら貴方でも私の友人のティアに何かしたら許しませんから!」
「違う! 何かされたのはこっちのほうだ! こいつ諸々詐称して聖女の旅に同行なんか……」
「大丈夫よラナ。でも伝えたいことが出来たから、ちょっといいかしら」
クレマンがラナに何か言いたげだったが無視する。伝えるなら自分の口からがいいだろう。……戻ったら残りの二人にも自分の中身のこと知られてるんだろうなあ。
ひと気のないところに来て、ようやくラナに話はじめる。
「私、ラナに秘密にしていたことが二つあるの」
「え……? う、うん」
「私、侯爵家の令嬢となっているけれど、本来貴方の側仕えになるはずだった子は亡くなっていて、その子の代わりに娼館から引き取られて側仕えになったのが私なのよ。この名前も、本当は妹の名前なの」
ラナは驚いたようだが、すぐ困った顔になった。
「そ、そうなんだ。でもそれの何が問題なの? 何か旅に不備があった訳でもないし」
「貴方が娼婦の娘が側仕えだったなんて気持ち悪い、と言えば私は罰される。そういうことよ」
「そんなのしない! 私はセレスティアがいてくれて良かったって思ってるもの!」
「……ありがとう」
「それで、あと一つは?」
千冬は覚悟を決めた。前世の話をする。けれど話がややこしくなるから、ここがネット小説の世界だという話はやめておこう。
「私、前世の記憶があるの」
「前世?」
「そう。ここに来る前は、スマホを弄りながら交差点で信号待ちをしていた」
「え……それって」
「その時の私は……39歳の派遣社員だった。昔、階段から落ちた時に記憶が蘇って、それからは前世の人格がメインになってる」
友達だと思ってたのに母親みたいな年齢なんて詐欺! と怒られても仕方ないかもしれない。現にクレマンはそうだった。
「そうだったんだ……。それであんなに色々気のつく人だったのね」
「……ん? 嫌じゃないの?」
「嫌? どうして?」
「中身と外見が違うなんて詐欺、とか」
「よく分からないけど、他に例も知らないし……私は、ティアと会えたことを嬉しいとしか言えない。今のティアに救われたもの」
「うぐっ」
これがヒロイン力か。ヒロインに攻略されるキャラの気持ちか。どんなに頑張っても年齢だけで否定されて傷ついた心が癒されていく。
「ラナ、私はずっとラナの味方だからね」
「私こそ!」
◇
アクシデントはあったが、聖女の旅は無事に終わった。
さてこれからどうしようかと千冬が思っていると、話したいことがあると個別に女神に呼び出された。
『まず……貴方、私の世界の人間じゃない魂を持ってるわよね。誰?』
弱いと言っても女神か、と観念して女神にだけは真実を話す。ここが小説の世界で、いち読者が転生してしまったこと。
『ああそう。害は無さそうだし、それくらいなら別にいいわ』
あっさりしたものだった。でもそういえば元から異世界召喚とかしてる女神だし、驚くことでもないのかも。
『それより今回の聖女、ラナのことよ。誰とも恋人になっていないってどういうこと? 一番親しかった貴方なら何か知ってるでしょ? 旅が終わる頃には誰かと結ばれているのが今までの聖女だったのに』
そっち? と千冬は前世のお見合いおばさんのような女神に嫌気がさすが、黙っている理由も無いので、この身体の美貌に参ったらしい男達がラナには振り向かなかったことを正直に話した。
『……だから「控えめ」 な子を側仕えにしろって厳命してるのに、もう! 訂正しなかった人間も金に目がくらんだわね! もう!』
「やっぱりあれ女神の命令だったんですね……」
『そりゃあそうでしょう。出来る限り、聖女には子孫を残してもらう必要があるのだもの』
「え、女神がマタハラですか?」
『何言ってるのよ! 私だって不幸な少女をわざわざ作るこの方法は好きじゃないのよ。けどそうしないと世界が危ないんだもの。私が深い眠りにつくたび世界の人口が半分になるのよ。その意味が分かる?』
「想像はつきます。それで、何で聖女が子孫を作らないといけないんです?」
『異世界で生まれ育った聖女の膨大な魔力は少ないながらも子孫に受け継がれる。そうやってこの世界に魔力が満ちれば、わざわざ異世界召喚なんてしなくても済む。そういうことよ』
原作にはそんな話は無かった。でもまあ、書かれてなかったというだけだろう。そうでもないと何百年と続ける理由がない。
『仲が良いんでしょう? 貴方の言うことなら聞くでしょうし、適当な男を見繕ってラナと結婚させてちょうだい』
「え!? 何で私が!?」
『女神から新たな使命を与えられたと言えば、貴方は侯爵家を追い出されないで済むでしょう。それに、ラナを一人で宮廷に放り出す気?』
「……」
◇
新たな使命が与えられた。ほぼ無理矢理。
「ラナ。誰か良い人いないの?」
「良い人? 良い人ってティアでしょう?」
「そういう意味じゃなくて、彼氏にしたい人とかいない?」
「……いや、全然……」
「そっかあ……」
こうなったら原作知識活用して何とか結婚させるか? でもなあ。
原作と違って冷遇が無かったから、庶民からの絶大な支持も無くなったし、貴族がラナに気を遣う理由もない。
それなのに恋人もいないのだから、あらゆる人間がラナを利用しようと近づいてくる。貴族社会に未練はないけど、ここで生きることになるラナにはしっかりした後見をつけておきたい。
一応原作ではクレマン達と結婚するルートもあった訳だけど……。冷遇が無かったから反省する機会も無くなってる。考え物だ。
そういえばジョエルっていう隠しキャラみたいな人いたよね? と思ったけど、庶民出身の彼が貴族社会に来るのは厳しいだろう。あと彼がラナを助けたのはラナが可哀想だったからっていうのが大きいけど、今回はそうでもないし。念のため土の神殿近くの村にいるジョエルってもしかして王族だったりしません? と女神に聞いたけれど『そんな事実は無い』 だった。……薄々思ってたけど、王族って女神の捏造だったのね。
原作ではマルセルという貴族の青年もラナが好きだったことを思い出したが、冷遇事件がないからか他の貴族を敵に回してまで結婚したくはない、とのこと。悲しいなあ。
他に誰かいないだろうかと探していたある日、ラナが見知らぬ少年といるのが見えた。
「あ、ティア!」
「ラナ、その子は?」
「エクトルくんっていって、ファブリスさんの遠縁なんだって」
「初めまして、貴方が聖女を最後まで守ったセレスティアさんですね」
「あ、はい。どうも、ティアです」
思い出した。確かファブリスルートで出てきた……当て馬。彼もラナが好きだったらしいけど、いかんせん思い込みが激しいキャラだったからなあ。
「僕、昔から聖女に憧れていたんです。ラナ様は思ったとおりの人でした」
「そんなこと言われたの初めて……。私、ティアみたいに綺麗じゃないし、カリスマもないし」
「それは周りの人の見る目がないからです。僕はその、ラナ様はとても素敵な方だと思います」
千冬はふと考えた。どっかで見たエクトルが暴走したのはラナに会えた時、ラナが義父ファブリスの嫁という立場だったから脳破壊されてああなった、という話。最初見た時笑った。
……でも、それが本当なら、恋人もいない今のラナとなら上手くやれるってことじゃないだろうか? 隣にいるセレスティアの美貌に微塵も動揺しないし、良い線いってるわ。
エクトルが純粋にラナを慕うと、ラナも頬を染めて満更でも無さそうだ。
とりあえず第一候補にしておこう。
◇
数年後、ラナは無事に想い人と結婚した。
無事に式を見届けたあと、千冬も侯爵家を出て行こうとする。結局、最後までここは千冬にとっては居心地の悪い家でしかなかった。
出発しようとする千冬を遮るように現れた影があった。昔拾って従者にした男、ナタンだ。
「お嬢様。お出かけならお供します」
「あー……ごめんね。今からお嬢様じゃなくなるんだわ」
「……昔から不穏なことを言う方だと思っていましたが、こうして出ていくためだったのですか?」
「うん。そもそも出自が捏造入ってるしね」
「俺、昔言いましたよ。何かあったらお嬢様を守ると。どこまでもついて行きます」
「へー。……実は中身がおばさんって分かっても?」
「貴方が俺を拾ってくれた人である限り、俺の気持ちは変わりません」
千冬はその言葉に絆された。そのまま手を取り合って二人で侯爵家を出ていった。
ラナは時折彼女から手紙をもらって、幸せそうであるのを確認してホッとしている。
交差点で信号待ちをしている間、暇つぶしにスマホでネット小説を読んでいたら、居眠り運転か酔っ払い運転か知らないけれど、車がこっちに突っ込んできて――あとは何も覚えていない。
その記憶が蘇ったのは、娼館らしい場所で同僚っぽい女の子達に階段から突き落とされた時だった。
「父親が侯爵だからっていい気にならないでよね」
父親が侯爵。娼館育ち。なんか、直前までそんなキャラのいる小説を読んでいたような……。
痛む身体を抑えて、自分の住む部屋に戻る。先程から大量の見知らぬ記憶が流れ込んで、自分なのか赤塚千冬なのか分からない。部屋に戻れば、確か、母がいるはず……。
ガチャリと部屋の扉を開けると、簡素な寝台にやせ細った母の姿があった。
「……お帰り。私はご飯はいらないから、お前が全部お食べ」
その瞬間、自分の意識はこの身体の少女になった。
「そう言って昨日も食べなかったでしょう。今持ってくるから……」
「いいのよ。それより、私はもう長くないから、お前に言っておきたいことがあるの。周りが噂しているように、お前の父親は侯爵様なのよ。血筋を大事にする方でね。私がそれなりの身分だったら、お前も貴族になれたのに……」
その言葉に赤塚千冬としての意識が強くなる。
「身分で人を判断する父親なんかこっちから願い下げよ。私は自分が可哀想とは思っていないし、お母さんは女手一つで私を育ててくれた立派な人だと思っているわ」
「……良い子に、育ってくれたわね。けれど、最近噂で聞いたのよ。その侯爵様のたった一人の子供、お前の妹にあたるセレスティアという方が、ここ数日危篤状態だと」
セレスティア。
その名前を聞いてさらに千冬としての意識が増した。
その名前は、あのネット小説の悪役令嬢では……?
「私には学が無いから、詳しいことは分からないんだけど、そのセレスティアという方は聖女召喚の際に同行者の役目があったとかで……。でもセレスティア様は危篤でしょう? それに侯爵様には他に子供がいないのよ。だからもしセレスティア様が亡くなるようなことがあったら、お前が呼ばれるんじゃないかって」
この身体の少女の意識としては、物心つくまで実子を放っておくような父親が今更迎えにくるもんかという気持ちがある。けれど赤塚千冬としての意識は、必ず迎えが来るということを確信している。
「どこにいてもお前が幸せでいてくれることが一番だけど、それだけは伝えようと思っていたの……ゴホッ」
二つの意識の間で葛藤していると、母親が苦しそうな咳をしたと思ったら、血を吐いた。
「お母さ……!」
胸が酷く痛んだと思ったら、急激に身体の持ち主の意識が消えていくのを感じた。そして私は見知らぬ少女の身体を事実上乗っ取ったのだ。
◇
人を呼んで来た時には母はもう息を引き取っていた。死体は出入りの業者がさっさと娼館の外へ連れて行ってしまった。葬式とかはしないのだろうか?
娼館の主にあたる老婆は「葬式? 金を出せばやってやるよ。お前は初物だから客を選ばなければ良い値がつくだろうねえ」 と足元を見る。
千冬はまだ半信半疑だが、もしかしなくてもここがあのネット小説の世界じゃないかと感じていた。
その通りであるなら、ここで客を取った直後に侯爵家から迎えの馬車が来るはずだ。
「葬式は……しません。お客を取るのは一日待ってください」
「そうかい。あんたも薄情だね。一日なら待ってやるが。早めに覚悟は決めるんだね。あんたの母親の借金はまだ残ってるんだから」
あの母親の女性には気の毒かもしれないが、それでも娘の身体が不幸になるのは望んでいない、はず。とにかく一日待った。すると――原作通りに迎えの馬車が現れた。
◇
冷遇された聖女の結末。
事故で死ぬ直前まで読んでいたネット小説だ。
主人公は毛利ラナという女の子で、この子は地球の日本に居た頃から不幸だった。
実はそれは魂が異世界人だったからで、年頃になると聖女として呼び戻され、力が弱まり眠りについた女神を起こす使命を託される。
ラナも中々ミーハーな子で、身体の魔力をこの世界に馴染ませるために各地の精霊に会いに行く旅。それに付き添う同行者がイケメン揃いなのを見て「ラノベのヒロインみたい!」 と浮かれるのだが……彼らはラナを冷遇、というよりもはや虐待した。
その元凶こそ悪役令嬢セレスティアだった。
旅には聖女の側仕えに必ず女性を付き添わせる決まりがあった。その一人がセレスティアだったのだ。
妹が無くなったからと代わりにと客を取った直後に引き取られ、旅が終わったらおそらく侯爵家からも放逐される予定。
自分がこんな運命なのは聖女のせいだと逆恨みして男達を誘惑し、聖女を冷遇するように仕向けた。
本編では心身ともに疲れ果てたラナは自死を選択。旅の同行者達は聖女に何てことをしてくれたと世界から責められる。流行りのざまぁだ。
けれどifルートも存在して、セレスティアを含む同行者三名、他に隠れキャラみたいなキャラとラナが幸せになる話もあった。
問題はセレスティアルート以外、セレスティアは死ぬまで幽閉されて、さらにその幽閉生活も半ば見世物のようにされて惨めに死ぬのだ。
何の因果でそのセレスティアにならなければいけなかったのか……。千冬は絶望した。
◇
馬車の中では家庭教師の女がずっとぐだぐだと当て付けを言っていた。
「セレスティア様がお亡くなりになられたからしょうがなく貴方を呼びにきた」
「母親が娼婦のお前には身に余る光栄だろう」
「だが過去は全て捨てろ。今日から貴方がセレスティアになるのだ」
何で父親はこんなの雇っているんだろう。立場を笠に着たパワハラじゃんこんなの。元のセレスティアだったら心を病んだであろうそれを千冬は長年の社畜人生で習得したスルー力でかわす。
侯爵家についてからやっと実の父である侯爵に会ったが、千冬的にはコメントしづらい男だった。
ぬぼーっとしていて、大きな人形が歩いているような感じで、一言で言うと愚鈍っぽい。元のセレスティアだったら身分に圧倒されて貴族とはこういうものと思ったかもしれないが。
「処女か?」
開口一番答えにくいことを質問してきた。精神大人の千冬はアルカイックスマイルで流す。
「はい。あと一日迎えが遅れていればそうではなかったでしょうけれど」
「そうか。……」
「……」
「……」
「……あの……」
「……」
原作では乱暴な客にあたって顔を腫らしたセレスティアを気に留める様子もなく、聖女の側仕えの役目を果たせよと言うだけだったらしい侯爵。あの時はひっどい性格だなーと思ったものだが、もしかして性格が酷いのではなく。
「まあどちらにせよ娼館育ちでは未来が無いな。これからはお前が亡くなった妹になって、聖女様の側仕えをやってくれ」
「は、はい」
「あと何かあるか?」
「あの家庭教師を首にしてください。ここに来るまでに散々無礼なことを言われました」
千冬的にはここは譲れなかった。原作でも長年にわたってセレスティアをいびりぬいたらしいし。
「先祖代々うちに仕えてくれている。だから無碍には出来ない」
「じゃあ首にしなくていいから直接私に教える家庭教師を変えてください」
「その方法があったか。ならそうするか」
「……ありがとうございます」
違和感はずっとあった。それが間違っていなかったと確信するのは、この館にいるおしゃべりなメイド達のお陰だった。
◇
「……にしても、本物のセレスティア様がお可哀想だわ。娼婦の娘である姉が自分の名前と立場を乗っ取ってるのですもの」
原作のセレスティアは父や家庭教師のみならずメイドからも冷たくされていたらしい。まあ、陰口だけならどうということもないが。それどころか貴重な情報源だ。他の貴族の様子は? 世界の情勢は? 実際の自分達の評判は? 知りたいことは山ほどある。たまにこうして陰口を言われるが、正直安心してほしい。偽者セレスティアの中身も乗っ取られててアラフォーのおばちゃんです。
一人の勝気なメイドがそう文句を言っていたが、他のメイドは何とも言えない顔でそれをやんわりと否定した。
「……でも、本物のセレスティア様からしたらようやく解放されて幸せかもしれないわよ」
「ずっと身体が弱かったしねえ」
「側仕えのお役目を果たしたい気持ちはあったようだけど、誰が見ても長くなかったと思うわ」
原作で元々のセレスティアたる妹のことはあまり書かれていない。なのでそうだったのか、と新鮮な気持ちで千冬は話を聞く。
「けど私はあの娼婦の娘に聖女の側仕えが務まるとは思えないのよ。だって……駄目でしょあれは……」
「駄目って何が?」
「美人すぎるじゃない。言っちゃなんだけど、聖女の側仕えって代々ブスが選ばれてるのに」
千冬は仰天した。なんだそれは。そんな裏設定? があったのか。でも確かにこの身体は美人だけど、父親や家庭教師は容姿に言及しなかったぞ?
「あれねえ……。露骨よね。なんとしても役目を果たしてもらわないといけないからって」
「しょうがないんじゃない。過去には美人な側仕えと同行者の男が恋仲になって、聖女が嫉妬して役目をしない! って怒ったことが実際にあったらしいし」
「そもそも本物のセレスティア様が側仕えに選ばれたのも、見た目が良くないからって理由だものね……。正直言うと、セレスティア様のご容姿って見てて不安になったわ」
……千冬は何とも言えない気持ちになったが、世界を救うという大義名分の前では、些細なことかもしれないと自分を納得させる。ちょっと感じ悪いけど。
「侯爵様も家を存続させたかったら美人でも引き取るしかなかったんじゃないの。今まで何人も妻を迎えたのに、実子はもうあの子一人しかいないのよ。世界が衰退期に入ると、必ずいくつかの貴族の家門が消えるしね。庶民でいう口減らし」
「側仕えの話だけ断ればいいんじゃないの?」
「女神様が無事復活なさると、聖女のみならず同行者達も一躍時の人になるのよ。その名誉を逃したくないんでしょう。同行者同士で繋がりもできるし……この家門みたいなお金はあるけど子孫が少なすぎる落ちぶれかけたところでは特に」
「私まだ新人だから分からないんだけど、どうしてここは親戚も子供も少ないのかしら? 普通分家とかあるわよね?」
メイド達が一斉に黙った。相当言いにくいらしい。逆に言えばそれだけの秘密があるということ。千冬は物陰からしっかり聞き耳を立てた。
「……あまり大きな声で言っちゃ駄目よ? この侯爵家は……血筋を尊ぶあまり今まで近親婚ばかりしていたの」
「侯爵様は両親が叔父と姪でしたし、本物のセレスティア様にいたっては両親の関係が異母兄妹ですもの」
「セレスティア様の身体が弱かったのも、侯爵様がああなのも……ねえ?」
千冬は絶句した。なんだその呪われた家系図。本物のセレスティアが生きてさえいればラナちゃんはつらい目に合わずに済んだだろうなって妄想したことあるけど、絶対有り得ない未来だったのか。そして父親の愚鈍っぷりも納得した。原作の悲劇の元凶ともいえるセレスティアを引き取った侯爵。なんでこいつに天罰が当たらないんだと思ったが、女神的にも天罰を当てにくいものだったのかな……責任能力云々言うなら先祖の方が罪が重そうだし。
◇
千冬にはすることがあまりなかった。元がアラフォーで身体が少女だから礼法作法は簡単に覚えた。新しい家庭教師の教え方がいいのもあるかもしれない。元のセレスティアは文字通り死ぬ気で覚えて、余った時間を聖女の旅の同行者である男達の誘惑に使ったらしいけど……千冬はそんなことをするつもりはない。そもそも原作でもあれは自爆行為みたいなものだった。どのみち旅が終わればすべてが発覚して罪に問われる。元々何も無かったセレスティアには痛くも痒くもなかったようだが。
けれど中身が千冬の今は違う。原作知識を活用して綺麗な身体のままだし、旅が終われば庶民になって自由を謳歌すればいい。男達を騙す気も何の罪もないヒロインを苛める気もさらさらない。
なので余った時間を使って、原作にはいなかった使用人を雇い入れた。元は違法な手段で人身売買されていた少年だ。ナタンというその少年を買ったのは、いずれ庶民になる時に力になってほしかったからだ。
「いい? ここで最低限の礼儀作法さえ覚えてくれれば、あとは自由よ。でもここだけの話、侯爵家も長くなさそうだから、市井に働き場所を見つけておくといいかもね」
ナタンは素直な少年で、礼儀作法を身につけると街を歩いて情報を得るようになった。
「……この家に何かあったら、俺がセレスティアお嬢様を助けます」
「ふふ、ありがとう」
恩に着せるようなやり方はどうかと思うが、一応貴族のお嬢様となった身分では、それ以外に取れる手段も限られてくる。使える手段は多い方がいい。それだけだ。
ボロ姿で競売にかけられている姿に、かつてのセレスティアを見たのかもしれないなんてことは決してない。自分はそんなセンチメンタルじゃない。……きっと。
◇
やがて聖女召喚が行われる日がやってきた。
同行者の男達にはその日初めて会うことになる。
「初めまして。セレスティアです。今日からよろしくお願いいたします」
そう言って千冬が笑うと、三人の男達は一様にボーっとしており、どうやら見惚れたようだった。
ふと千冬の脳裏にあの言葉が蘇る。
『美人すぎるじゃない。言っちゃなんだけど、聖女の側仕えって代々ブスが選ばれてるのに』
急に嫌な予感がしてきたが、いくらなんでも顔だけで判断するような人達じゃない、はず。男達が原作でヒロイン苛めをしたのは、散々セレスティアが誘惑してけしかけたからだし。
やがて召喚陣からヒロインであるラナが現れた。セレスティアは美人だけどラナはそうじゃないって原作で散々言われてたけど、こうしてみると彼女も可愛い系だと思う。異世界から現れるというドラマティックな少女に男達も心を奪われたんじゃないか、と千冬がちらりと男達を見やると、その顔には失望が浮かんでいた。
「……普通すぎる」
「セレスティア嬢のあとだと……」
「カリスマも威厳もないじゃないか……」
お前ら顔で判断するのかよ! と千冬は心の中で盛大なツッコミを入れたが、こういうことを未然に防ぐためにあえての醜い世話係という今までのやり方が間違っていなかったのだと思い知らされて複雑な気分にもなった。
◇
「クレマンさんって王子様なんですね。普段はどんなことをしてらっしゃるんですか?」
「……それを聞いてどうするつもりだ?」
「あ、ごめんなさい……。そうですよね。国家機密とかありますよね」
「ファブリスさんは大商人だって聞きました。やっぱり普段は世界中をまわってるんですか?」
「そのお陰でこんな役目を与えられたよ。拒否権は無かった」
「あ……私のせい、ですよね。ごめんなさい」
「ドミニクさんは騎士団長だとか。剣を振るう姿を見てみたいです!」
「戦うような事態が訪れればいいって思ってるのか? 聖女のくせに」
「ご、ごめんなさい……」
千冬の胃がキリキリ痛んだ。セレスティアがけしかけないから彼らは積極的にラナを苛めたりはしない。しないが大切にもしなかった。仲良くなろうと話しかけるラナに揃ってこの対応。仮にも大切にするように周りから言われてるんだろうにどうして、と思ったが、どうやら彼らはセレスティアのほうに気があるからそうしているようだった。
「聖女様がお気の毒です。もう少し優しく出来ないのですか?」
千冬がそう咎めると、彼らはバツの悪そうな顔をしてこう言った。
「悪いけどどう見ても普通の少女で、聖女らしくないから敬おうという気になれない。あとあの子、自分が物語の主役みたいに浮かれてるみたいだし。何より君と比べるとどうにも見劣りして……」
実際そうなんだよ、と千冬は思う。ラナはネット小説のヒロインだ。そのネット小説の中でも容姿は普通で環境に恵まれない少女という設定だったから、物語みたいな華やかな展開に最初は浮かれるって話があったんだよな。そして鼻っ柱を盛大に叩き折られるという。ぶっちゃけ今も折られてる気がするけど。
しかしセレスティアが誘惑してもいないのにこの有り様。世話係が誰であっても彼らがラナを冷遇するのは避けられないことだったのだろうか。
「分かりました。貴方達がそう仰るなら、私が貴方達のぶんまでラナ様をお世話します」
自分の幽閉フラグを叩き折るためにはもはやそうするしかない。千冬は男達を徹底的に無視して甲斐甲斐しくラナを世話した。
「ラナ様、馬に乗っていると足がつることがありますから気をつけて」
「ラナ様。この先は寒くなりますから毛皮の服をどうぞ」
「ラナ様。時間が空いたら二人で買い物をしましょう。男の人の前では買いにくいものもあるでしょう?」
原作では聖女召喚は何百年も続いている儀式だとあった。……これ感想欄で見たんだっけ? まあいいや。ともかく先代も先々代も世話係がしたであろう献身をラナに捧げる。
「ラナ様。このお菓子、美味しいですよ」
ある時、千冬がそう言ってお菓子を差し出すと、ラナはポロリと涙を零した。
「ご、ごめんなさい。なんか……友達みたいだなって思って……」
ラナは故郷で中身が異世界人なばかりに周りに一切馴染めなくて苦労した、と原作に書いてあったんだっけ。千冬はそれを思い出してちょっとラナをからかうことにした。
「ラナ様、酷いです!」
「え? え?」
「私達、友達じゃなかったんですか? 私は会った時から友達だって思ってたのに!」
「え!?」
「友達、ですよね?」
「あ、あの……セレスティアがそう言うなら……うん。友達だね」
「わあ、やりました! うふふ」
気分は保育士だ。ラナはちょろい。詐欺師に引っ掛からないか心配になるほど操りやすい。……原作はそれで苦労したんだろうなあ。
◇
魔力を現地に馴染ませる旅は順調だった。
水、土、火、風と来てあとはもう帰るだけというところで、千冬からすればアクシデントが起こった。
「セレスティア嬢、この度が終わったら、自分との交際を真剣に考えてくれないだろうか。決して容姿だけではない、献身的に聖女に尽くす貴方を見て素晴らしいと思ったのだ」
急に呼び出されて、しぶしぶ付き合った先でこう言ってきたのはクレマン王子だった。
悪役令嬢ものにある、本当ならヒロインと結ばれるはず高スペックの王子が自分に……! というロマン溢れるシーンが千冬の身に起こった。が。
萌えない。
全く萌えない。
原作の描写もそうだが、他の女の子に冷たい男が自分だけ優しいってDV男の素質があるようにしか見えんわ。少なくとも自分のタイプではない。
そもそもこの男は自分の何に好意を持ったんだ? 我ながら仕事に熱中するだけの可愛くない女だったと思うぞ? 顔は綺麗だけど、そもそもこの身体は借り物みたいなもので……あ。
千冬はせっかくだからと、前々から転生もののヒロインがヒーローにこう言ったらどうなるのだろうと思っていたことをぶつけてみることにした。
「実は私、前世の記憶があるの」
「……え?」
クレマンの顔が強張った。
「子供の頃に階段から落ちたことがきっかけで蘇って、それからは前世の人格が主人格になったわ」
「へ、へえ……」
「前世では39歳の独身だったけれど、転生したら王子様に交際を申し込まれるなんて嬉しい! 」
クレマンの顔が恐怖に満ちた。
「39って……中身バアサンじゃないか!」
千冬は思った。
顔じゃなくて中身で惚れたんならこういう反応する? しねーよなあ?
盛大なビンタをかましてやったが、私悪くない。
◇
左頬を腫らしたクレマンと、バアサンと呼ばれて涙目のセレスティアが戻ってきたのを見たラナはあらぬ誤解をした。
「ティア!? 一体どうしたの!? まさかクレマン様に何かされたんじゃ……。クレマン様、いくら貴方でも私の友人のティアに何かしたら許しませんから!」
「違う! 何かされたのはこっちのほうだ! こいつ諸々詐称して聖女の旅に同行なんか……」
「大丈夫よラナ。でも伝えたいことが出来たから、ちょっといいかしら」
クレマンがラナに何か言いたげだったが無視する。伝えるなら自分の口からがいいだろう。……戻ったら残りの二人にも自分の中身のこと知られてるんだろうなあ。
ひと気のないところに来て、ようやくラナに話はじめる。
「私、ラナに秘密にしていたことが二つあるの」
「え……? う、うん」
「私、侯爵家の令嬢となっているけれど、本来貴方の側仕えになるはずだった子は亡くなっていて、その子の代わりに娼館から引き取られて側仕えになったのが私なのよ。この名前も、本当は妹の名前なの」
ラナは驚いたようだが、すぐ困った顔になった。
「そ、そうなんだ。でもそれの何が問題なの? 何か旅に不備があった訳でもないし」
「貴方が娼婦の娘が側仕えだったなんて気持ち悪い、と言えば私は罰される。そういうことよ」
「そんなのしない! 私はセレスティアがいてくれて良かったって思ってるもの!」
「……ありがとう」
「それで、あと一つは?」
千冬は覚悟を決めた。前世の話をする。けれど話がややこしくなるから、ここがネット小説の世界だという話はやめておこう。
「私、前世の記憶があるの」
「前世?」
「そう。ここに来る前は、スマホを弄りながら交差点で信号待ちをしていた」
「え……それって」
「その時の私は……39歳の派遣社員だった。昔、階段から落ちた時に記憶が蘇って、それからは前世の人格がメインになってる」
友達だと思ってたのに母親みたいな年齢なんて詐欺! と怒られても仕方ないかもしれない。現にクレマンはそうだった。
「そうだったんだ……。それであんなに色々気のつく人だったのね」
「……ん? 嫌じゃないの?」
「嫌? どうして?」
「中身と外見が違うなんて詐欺、とか」
「よく分からないけど、他に例も知らないし……私は、ティアと会えたことを嬉しいとしか言えない。今のティアに救われたもの」
「うぐっ」
これがヒロイン力か。ヒロインに攻略されるキャラの気持ちか。どんなに頑張っても年齢だけで否定されて傷ついた心が癒されていく。
「ラナ、私はずっとラナの味方だからね」
「私こそ!」
◇
アクシデントはあったが、聖女の旅は無事に終わった。
さてこれからどうしようかと千冬が思っていると、話したいことがあると個別に女神に呼び出された。
『まず……貴方、私の世界の人間じゃない魂を持ってるわよね。誰?』
弱いと言っても女神か、と観念して女神にだけは真実を話す。ここが小説の世界で、いち読者が転生してしまったこと。
『ああそう。害は無さそうだし、それくらいなら別にいいわ』
あっさりしたものだった。でもそういえば元から異世界召喚とかしてる女神だし、驚くことでもないのかも。
『それより今回の聖女、ラナのことよ。誰とも恋人になっていないってどういうこと? 一番親しかった貴方なら何か知ってるでしょ? 旅が終わる頃には誰かと結ばれているのが今までの聖女だったのに』
そっち? と千冬は前世のお見合いおばさんのような女神に嫌気がさすが、黙っている理由も無いので、この身体の美貌に参ったらしい男達がラナには振り向かなかったことを正直に話した。
『……だから「控えめ」 な子を側仕えにしろって厳命してるのに、もう! 訂正しなかった人間も金に目がくらんだわね! もう!』
「やっぱりあれ女神の命令だったんですね……」
『そりゃあそうでしょう。出来る限り、聖女には子孫を残してもらう必要があるのだもの』
「え、女神がマタハラですか?」
『何言ってるのよ! 私だって不幸な少女をわざわざ作るこの方法は好きじゃないのよ。けどそうしないと世界が危ないんだもの。私が深い眠りにつくたび世界の人口が半分になるのよ。その意味が分かる?』
「想像はつきます。それで、何で聖女が子孫を作らないといけないんです?」
『異世界で生まれ育った聖女の膨大な魔力は少ないながらも子孫に受け継がれる。そうやってこの世界に魔力が満ちれば、わざわざ異世界召喚なんてしなくても済む。そういうことよ』
原作にはそんな話は無かった。でもまあ、書かれてなかったというだけだろう。そうでもないと何百年と続ける理由がない。
『仲が良いんでしょう? 貴方の言うことなら聞くでしょうし、適当な男を見繕ってラナと結婚させてちょうだい』
「え!? 何で私が!?」
『女神から新たな使命を与えられたと言えば、貴方は侯爵家を追い出されないで済むでしょう。それに、ラナを一人で宮廷に放り出す気?』
「……」
◇
新たな使命が与えられた。ほぼ無理矢理。
「ラナ。誰か良い人いないの?」
「良い人? 良い人ってティアでしょう?」
「そういう意味じゃなくて、彼氏にしたい人とかいない?」
「……いや、全然……」
「そっかあ……」
こうなったら原作知識活用して何とか結婚させるか? でもなあ。
原作と違って冷遇が無かったから、庶民からの絶大な支持も無くなったし、貴族がラナに気を遣う理由もない。
それなのに恋人もいないのだから、あらゆる人間がラナを利用しようと近づいてくる。貴族社会に未練はないけど、ここで生きることになるラナにはしっかりした後見をつけておきたい。
一応原作ではクレマン達と結婚するルートもあった訳だけど……。冷遇が無かったから反省する機会も無くなってる。考え物だ。
そういえばジョエルっていう隠しキャラみたいな人いたよね? と思ったけど、庶民出身の彼が貴族社会に来るのは厳しいだろう。あと彼がラナを助けたのはラナが可哀想だったからっていうのが大きいけど、今回はそうでもないし。念のため土の神殿近くの村にいるジョエルってもしかして王族だったりしません? と女神に聞いたけれど『そんな事実は無い』 だった。……薄々思ってたけど、王族って女神の捏造だったのね。
原作ではマルセルという貴族の青年もラナが好きだったことを思い出したが、冷遇事件がないからか他の貴族を敵に回してまで結婚したくはない、とのこと。悲しいなあ。
他に誰かいないだろうかと探していたある日、ラナが見知らぬ少年といるのが見えた。
「あ、ティア!」
「ラナ、その子は?」
「エクトルくんっていって、ファブリスさんの遠縁なんだって」
「初めまして、貴方が聖女を最後まで守ったセレスティアさんですね」
「あ、はい。どうも、ティアです」
思い出した。確かファブリスルートで出てきた……当て馬。彼もラナが好きだったらしいけど、いかんせん思い込みが激しいキャラだったからなあ。
「僕、昔から聖女に憧れていたんです。ラナ様は思ったとおりの人でした」
「そんなこと言われたの初めて……。私、ティアみたいに綺麗じゃないし、カリスマもないし」
「それは周りの人の見る目がないからです。僕はその、ラナ様はとても素敵な方だと思います」
千冬はふと考えた。どっかで見たエクトルが暴走したのはラナに会えた時、ラナが義父ファブリスの嫁という立場だったから脳破壊されてああなった、という話。最初見た時笑った。
……でも、それが本当なら、恋人もいない今のラナとなら上手くやれるってことじゃないだろうか? 隣にいるセレスティアの美貌に微塵も動揺しないし、良い線いってるわ。
エクトルが純粋にラナを慕うと、ラナも頬を染めて満更でも無さそうだ。
とりあえず第一候補にしておこう。
◇
数年後、ラナは無事に想い人と結婚した。
無事に式を見届けたあと、千冬も侯爵家を出て行こうとする。結局、最後までここは千冬にとっては居心地の悪い家でしかなかった。
出発しようとする千冬を遮るように現れた影があった。昔拾って従者にした男、ナタンだ。
「お嬢様。お出かけならお供します」
「あー……ごめんね。今からお嬢様じゃなくなるんだわ」
「……昔から不穏なことを言う方だと思っていましたが、こうして出ていくためだったのですか?」
「うん。そもそも出自が捏造入ってるしね」
「俺、昔言いましたよ。何かあったらお嬢様を守ると。どこまでもついて行きます」
「へー。……実は中身がおばさんって分かっても?」
「貴方が俺を拾ってくれた人である限り、俺の気持ちは変わりません」
千冬はその言葉に絆された。そのまま手を取り合って二人で侯爵家を出ていった。
ラナは時折彼女から手紙をもらって、幸せそうであるのを確認してホッとしている。
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