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第3章 鳥頭野郎が、売れっ子シナリオライターになるまで
3-3 鳥頭野郎は、パシリ奴隷としても実力不足なようです
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それから数日が経過した。
僕はいつものように、だいぶ遅刻して出社した。
「…………」
僕が好きだった経理の子『サラ』は、隣にはいなかった。
代わりにぶっきらぼうなサイクロプスの中年男性が、何も言わずに伝票を整理していた。
「お、おはようございます……」
「ん……」
その男はこちらを一瞥だけすると、すぐに自分の仕事に戻った。
だが見たところ、伝票の数字は間違いが目立つ。
種族の特性から考えて、サイクロプスは細かい計算をあまり得意としないためだろう。
そう考えていると、ご主人様がやってきた。
「おい、パシリ。頼んでたもん、よこせよ」
「え?」
それを言われた瞬間、なにを言われているか分からなかった。
だが、ご主人様は少し驚いたような表情をした。
「あのさあ、昨日の夜、伝えたよね! 隣町で、限定の美少女フィギュアが朝売られるから、買ってこいって!」
「あ……」
その瞬間僕は思い出した。
確かに昨夜ご主人様の家に行かされた時に、そう命令をされていた。
だが、本当に怖いのはそれではない。
「ったく、しょうがないな。とりあえず、金、返せよ!」
「……えっと、その……」
そう、僕は限定グッズの代金をご主人様から持たされていたのだ(元々はイグニスさん達の稼いだお金だが)。
だが、今朝になった時点でそれが「なんの金だったか」を忘れてしまっており、新しい服を衝動買いしてしまったのだ。
僕はそのことを伝えると、信じられないと言ったような表情をした。
「はあ……。なんだよお前! パシリ奴隷にしようと思ったのに、そんなことも出来ないんだな!」
「けど、あんな夜中に命令されても、眠くて覚えてられませんよ?」
「口答えすんなよ? お前は僕のパシリ奴隷だろ~?」
ご主人様はそう怒鳴った。よほどその限定グッズとやらを楽しみにしていたのだろう。
一緒に居たサラは、僕に侮蔑の目を向けながら答える。
「だから言ったじゃないですか。このクソミケルは、言われたことも満足にこなせない『鳥頭』野郎ですって!」
「全く……飛べる奴は、パシリに使えると思ったのになあ……」
「じゃあ、また催眠をかけちゃいましょうよ! 私、もうこいつがどうなっても全然気にしませんし!」
それを言われて、ご主人様はまだ怒りがおさまらない様子だったが、僕に向き直った。
「性奴隷3号ちゃんの言う通りだね。おい、ミケル。『お前は、自分の鳥頭な特性をどうにかすることと、自己中な考えを改めること』! ……これでよし。次は気をつけろよ?」
また、頭にキイイイン……と言葉が響いた。
そしてその夜。
僕はご主人様に言われて、小さなシェアハウスに移り住むようになった。
ここにはニルセン社長とイグニスさんも住んでいる。
なんでも『労働奴隷を管理しやすくするため』という理由で、ご主人様は彼らをその建物に住まわせているそうだ。
「ただいま、イグニスさん」
僕がそう言うと、イグニスさんは笑顔で出迎えてくれた。
全く、サラが僕の帰りを出迎えてくれること、いつか夢見ていたんだけどな。
会社の同僚と家でも一緒じゃ、気が休まらない。
イグニスさんはフライパンを片手に尋ねてきた。
「おお、おかえり、ミケル。ところで頼んでいたものは?」
「え?」
それを言われて、僕は首を傾げた。
「帰りがけに、塩が切れていたから買ってきてって、今朝言ったじゃんか……」
「あ……忘れていました……」
けど、それは頭が回らない朝にお願いした、イグニスさんが悪……
そう思おうとしたが、僕の思考はそこで中断された。
代わりに頭に浮かんだのは、
(いや……。何言ってんだ。言われたことを守れなかったのは僕の方だろ?)
という考えだった。
「す、すみませんイグニスさん!」
そして僕はすぐに頭を下げると、イグニスさんは苦笑しながら答えた。
「アハハ、まあいいよ。そんなこともあろうかと……」
「ただいま。今帰ったぞ」
今度はニルセン社長が帰ってきたようだ。
「おかえりなさい、ニルセンさん」
イグニスさんは家に居るときには彼のことをさん付けで呼ぶ。
本人曰く『家に居るときまで社長と呼ばれるのは気が落ち着かない』ということらしい。
「ほら、頼まれてたもの買っておいたぞ」
「ありがとうございます」
ニルセンさんは、カバンの中から塩の袋を取り出した。
「あれ、僕以外にもお願いしてたんですか?」
「ああ。正直お前が覚えていないと思ったからな。二つあって困るもんでもないし、ニルセンさんにお願いしてたんだ」
だったらニルセンさんだけにお願いすれば……
とも思ったが、やはりその思考は中断された。
そもそも、社長として毎日多忙なニルセンさんに「お使い」をさせるのは適切じゃない。
彼がたまたま今日、早く帰ってこれたから、よかっただけだ。
何でイグニスさんが僕だけじゃなく、ニルセンさんに頼んだのか。
……それは簡単で、僕が周りから信用されていないということだ。
そう思った僕は、急に自責の念がこみ上げてきた。
「おい、どうしたんだ、ミケル?」
「その……僕、本当にダメですよね……」
「塩のことなら気にすんなよ。有翼人は忘れっぽいんだろ?」
イグニスさんはそう言ってくれた。
昨日までの僕だったらその言葉、即ち『種族の特性』という言い訳に甘え、何もしなかっただろう。
けど、今の二人の僕に対する考え方が分かってしまった以上、もうそんな甘えはしたくない。
「その考えはダメなんです! ……前クーゲルさんが言っていました。『有翼人でも、工夫をしてきちんと仕事をしている人がいる。工夫しないで他人に配慮ばかり求めるのは、間違ってる』って……」
「ほう……」
「だから……僕も少しでもまじめに働かないと、周りに迷惑をかけると思うんです」
「なるほどな」
けど、過去にも何度もそう考えて色々試行錯誤し、そのたびにうまく行かなかった苦い記憶がよみがえった。
だからこそ、自分のために細かい面倒を見てくれていた、サラに惹かれていたんだとも思った。
……なるほど、僕は自分勝手な奴だった。
仮にご主人様が現れなくとも、遅かれ早かれサラを誰かに取られていたんだろうな、というのはよくわかる。
イグニスさんはそんな僕のフォローをするように、慰めてくれた。
「けどさ。種族の特性ってのは、努力で何ともなんないぞ? 俺だってどんなに頑張っても、玉ねぎ食ったらひっくり返るからな」
「私も似たようなものだ。私たち湿地タイプのリザードマンは暑いところに居続けると、体調をすぐに崩す。だから海水浴などは行くことが出来ない」
「う……」
確かに、種族の特性は努力では直せない。
だが、出来ることなら改善をしていかないといけない。
そう考えていると、ニルセンさんはポツリとつぶやく。
「……クーゲルだな」
「ですね」
クーゲルさんのことか?
僕はそう考えると、かなり嫌な気持ちになった。彼女には何度も叱られてきたからだ。
「そう言えばお前は、よくクーゲルに叱られていたんだったっけな」
「は、はい……」
「なら、私も口添えをしよう。彼女は同僚には口が悪いが、まじめ……いや、まじめすぎるな奴だからな。お前が真摯に頭を下げたら、しっかりと考えてくれるだろう」
「ありがとうございます!」
勿論、彼女に知恵を借りただけでも僕の『鳥頭』で人に迷惑をかけないようになれるとは思わない。
だが、二人はクーゲルさんのことをよほど信頼しているようだ。どうやら彼女は、ニルセンさんが会社を立ち上げる前からずっと知っている人だと聞いている。
僕は、この二人とクーゲルさんに賭けてみることにした。
その翌日。
僕はニルセン社長と一緒に、クーゲルさんの前で頭を下げた。
「……と言うわけでな。こいつの特性を何とか直す方法を考えてくれないか?」
「え? はい、わかりました」
いつも僕に対して強く当たるクーゲルさんだったが、意外なことに快くニルセン社長の依頼を引き受けてくれた。
ニルセン社長がその場を去ると、クーゲルさんは、ニコニコと笑みを浮かべてきた。
「ねえ、ミケル」
「は、はい!」
彼女はとても珍しい種族だ。
そのこともあり、穏やかそうな糸目の表情とは裏腹に、怒るとすごい迫力がある。
そのため、どうしても彼女の前では委縮してしまう。
「ミケル、ようやく改心したんだね? 私も嬉しいよ。……これからビシビシ叩き直してあげるから、覚悟しておいてね!」
「は、はい……」
「それじゃあ、まず一つ!」
そう言うとクーゲルさんは、僕にメモを渡してきた。
「ここにあるものを買ってきて!」
そう言って手渡してきたのは、買い物用のメモだ。
こういうメモを持たせてくれれば、僕も忘れずに済む。クーゲルさんらしい配慮だ。
「はい」
そう言うと、僕は空に向かって飛び立った。
そしてしばらくして僕は買い物を済ませ、戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「思ったより早かったね。……うん、書いたものは全部そろってる! やればできるじゃないか!」
「あ、ありがとうございます……」
正直こんなことは小さな子どもでも出来ることだ。
だがそれでも、こうやってしっかり褒めてもらえると、僕も嬉しくなる。
「寄り道もしなかったみたいだね。……私が怖かった?」
「そ、そうじゃないです。クーゲルさんが折角自分のために色々考えてくれているのに、寄り道するなんて、ダメだと思ったんです……」
「フフ、そうだよね? けどね。ミケルはほかの人にも、そう考えなきゃダメだよ?」
それを言われて僕は少しショックを受けた。
何となく「自分はフクロウの有翼人だから、許されて当たり前」と思っていたからだ。
だが、今まで僕に用事を振っていた人には、約束を忘れてしまうことで相当嫌な思いをさせていたんだなと感じたからだ。
僕はそう言われて、少し落ち込んでいると、クーゲルさんは笑みを浮かべた。
「ま、これから頑張っていこう。次はそれを屋上に運んでしっかりと種を植えておいてね」
そう言われた僕は、クーゲルさんに言われて買った「プランターと土、そして種」を運び込んだ。
僕はいつものように、だいぶ遅刻して出社した。
「…………」
僕が好きだった経理の子『サラ』は、隣にはいなかった。
代わりにぶっきらぼうなサイクロプスの中年男性が、何も言わずに伝票を整理していた。
「お、おはようございます……」
「ん……」
その男はこちらを一瞥だけすると、すぐに自分の仕事に戻った。
だが見たところ、伝票の数字は間違いが目立つ。
種族の特性から考えて、サイクロプスは細かい計算をあまり得意としないためだろう。
そう考えていると、ご主人様がやってきた。
「おい、パシリ。頼んでたもん、よこせよ」
「え?」
それを言われた瞬間、なにを言われているか分からなかった。
だが、ご主人様は少し驚いたような表情をした。
「あのさあ、昨日の夜、伝えたよね! 隣町で、限定の美少女フィギュアが朝売られるから、買ってこいって!」
「あ……」
その瞬間僕は思い出した。
確かに昨夜ご主人様の家に行かされた時に、そう命令をされていた。
だが、本当に怖いのはそれではない。
「ったく、しょうがないな。とりあえず、金、返せよ!」
「……えっと、その……」
そう、僕は限定グッズの代金をご主人様から持たされていたのだ(元々はイグニスさん達の稼いだお金だが)。
だが、今朝になった時点でそれが「なんの金だったか」を忘れてしまっており、新しい服を衝動買いしてしまったのだ。
僕はそのことを伝えると、信じられないと言ったような表情をした。
「はあ……。なんだよお前! パシリ奴隷にしようと思ったのに、そんなことも出来ないんだな!」
「けど、あんな夜中に命令されても、眠くて覚えてられませんよ?」
「口答えすんなよ? お前は僕のパシリ奴隷だろ~?」
ご主人様はそう怒鳴った。よほどその限定グッズとやらを楽しみにしていたのだろう。
一緒に居たサラは、僕に侮蔑の目を向けながら答える。
「だから言ったじゃないですか。このクソミケルは、言われたことも満足にこなせない『鳥頭』野郎ですって!」
「全く……飛べる奴は、パシリに使えると思ったのになあ……」
「じゃあ、また催眠をかけちゃいましょうよ! 私、もうこいつがどうなっても全然気にしませんし!」
それを言われて、ご主人様はまだ怒りがおさまらない様子だったが、僕に向き直った。
「性奴隷3号ちゃんの言う通りだね。おい、ミケル。『お前は、自分の鳥頭な特性をどうにかすることと、自己中な考えを改めること』! ……これでよし。次は気をつけろよ?」
また、頭にキイイイン……と言葉が響いた。
そしてその夜。
僕はご主人様に言われて、小さなシェアハウスに移り住むようになった。
ここにはニルセン社長とイグニスさんも住んでいる。
なんでも『労働奴隷を管理しやすくするため』という理由で、ご主人様は彼らをその建物に住まわせているそうだ。
「ただいま、イグニスさん」
僕がそう言うと、イグニスさんは笑顔で出迎えてくれた。
全く、サラが僕の帰りを出迎えてくれること、いつか夢見ていたんだけどな。
会社の同僚と家でも一緒じゃ、気が休まらない。
イグニスさんはフライパンを片手に尋ねてきた。
「おお、おかえり、ミケル。ところで頼んでいたものは?」
「え?」
それを言われて、僕は首を傾げた。
「帰りがけに、塩が切れていたから買ってきてって、今朝言ったじゃんか……」
「あ……忘れていました……」
けど、それは頭が回らない朝にお願いした、イグニスさんが悪……
そう思おうとしたが、僕の思考はそこで中断された。
代わりに頭に浮かんだのは、
(いや……。何言ってんだ。言われたことを守れなかったのは僕の方だろ?)
という考えだった。
「す、すみませんイグニスさん!」
そして僕はすぐに頭を下げると、イグニスさんは苦笑しながら答えた。
「アハハ、まあいいよ。そんなこともあろうかと……」
「ただいま。今帰ったぞ」
今度はニルセン社長が帰ってきたようだ。
「おかえりなさい、ニルセンさん」
イグニスさんは家に居るときには彼のことをさん付けで呼ぶ。
本人曰く『家に居るときまで社長と呼ばれるのは気が落ち着かない』ということらしい。
「ほら、頼まれてたもの買っておいたぞ」
「ありがとうございます」
ニルセンさんは、カバンの中から塩の袋を取り出した。
「あれ、僕以外にもお願いしてたんですか?」
「ああ。正直お前が覚えていないと思ったからな。二つあって困るもんでもないし、ニルセンさんにお願いしてたんだ」
だったらニルセンさんだけにお願いすれば……
とも思ったが、やはりその思考は中断された。
そもそも、社長として毎日多忙なニルセンさんに「お使い」をさせるのは適切じゃない。
彼がたまたま今日、早く帰ってこれたから、よかっただけだ。
何でイグニスさんが僕だけじゃなく、ニルセンさんに頼んだのか。
……それは簡単で、僕が周りから信用されていないということだ。
そう思った僕は、急に自責の念がこみ上げてきた。
「おい、どうしたんだ、ミケル?」
「その……僕、本当にダメですよね……」
「塩のことなら気にすんなよ。有翼人は忘れっぽいんだろ?」
イグニスさんはそう言ってくれた。
昨日までの僕だったらその言葉、即ち『種族の特性』という言い訳に甘え、何もしなかっただろう。
けど、今の二人の僕に対する考え方が分かってしまった以上、もうそんな甘えはしたくない。
「その考えはダメなんです! ……前クーゲルさんが言っていました。『有翼人でも、工夫をしてきちんと仕事をしている人がいる。工夫しないで他人に配慮ばかり求めるのは、間違ってる』って……」
「ほう……」
「だから……僕も少しでもまじめに働かないと、周りに迷惑をかけると思うんです」
「なるほどな」
けど、過去にも何度もそう考えて色々試行錯誤し、そのたびにうまく行かなかった苦い記憶がよみがえった。
だからこそ、自分のために細かい面倒を見てくれていた、サラに惹かれていたんだとも思った。
……なるほど、僕は自分勝手な奴だった。
仮にご主人様が現れなくとも、遅かれ早かれサラを誰かに取られていたんだろうな、というのはよくわかる。
イグニスさんはそんな僕のフォローをするように、慰めてくれた。
「けどさ。種族の特性ってのは、努力で何ともなんないぞ? 俺だってどんなに頑張っても、玉ねぎ食ったらひっくり返るからな」
「私も似たようなものだ。私たち湿地タイプのリザードマンは暑いところに居続けると、体調をすぐに崩す。だから海水浴などは行くことが出来ない」
「う……」
確かに、種族の特性は努力では直せない。
だが、出来ることなら改善をしていかないといけない。
そう考えていると、ニルセンさんはポツリとつぶやく。
「……クーゲルだな」
「ですね」
クーゲルさんのことか?
僕はそう考えると、かなり嫌な気持ちになった。彼女には何度も叱られてきたからだ。
「そう言えばお前は、よくクーゲルに叱られていたんだったっけな」
「は、はい……」
「なら、私も口添えをしよう。彼女は同僚には口が悪いが、まじめ……いや、まじめすぎるな奴だからな。お前が真摯に頭を下げたら、しっかりと考えてくれるだろう」
「ありがとうございます!」
勿論、彼女に知恵を借りただけでも僕の『鳥頭』で人に迷惑をかけないようになれるとは思わない。
だが、二人はクーゲルさんのことをよほど信頼しているようだ。どうやら彼女は、ニルセンさんが会社を立ち上げる前からずっと知っている人だと聞いている。
僕は、この二人とクーゲルさんに賭けてみることにした。
その翌日。
僕はニルセン社長と一緒に、クーゲルさんの前で頭を下げた。
「……と言うわけでな。こいつの特性を何とか直す方法を考えてくれないか?」
「え? はい、わかりました」
いつも僕に対して強く当たるクーゲルさんだったが、意外なことに快くニルセン社長の依頼を引き受けてくれた。
ニルセン社長がその場を去ると、クーゲルさんは、ニコニコと笑みを浮かべてきた。
「ねえ、ミケル」
「は、はい!」
彼女はとても珍しい種族だ。
そのこともあり、穏やかそうな糸目の表情とは裏腹に、怒るとすごい迫力がある。
そのため、どうしても彼女の前では委縮してしまう。
「ミケル、ようやく改心したんだね? 私も嬉しいよ。……これからビシビシ叩き直してあげるから、覚悟しておいてね!」
「は、はい……」
「それじゃあ、まず一つ!」
そう言うとクーゲルさんは、僕にメモを渡してきた。
「ここにあるものを買ってきて!」
そう言って手渡してきたのは、買い物用のメモだ。
こういうメモを持たせてくれれば、僕も忘れずに済む。クーゲルさんらしい配慮だ。
「はい」
そう言うと、僕は空に向かって飛び立った。
そしてしばらくして僕は買い物を済ませ、戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「思ったより早かったね。……うん、書いたものは全部そろってる! やればできるじゃないか!」
「あ、ありがとうございます……」
正直こんなことは小さな子どもでも出来ることだ。
だがそれでも、こうやってしっかり褒めてもらえると、僕も嬉しくなる。
「寄り道もしなかったみたいだね。……私が怖かった?」
「そ、そうじゃないです。クーゲルさんが折角自分のために色々考えてくれているのに、寄り道するなんて、ダメだと思ったんです……」
「フフ、そうだよね? けどね。ミケルはほかの人にも、そう考えなきゃダメだよ?」
それを言われて僕は少しショックを受けた。
何となく「自分はフクロウの有翼人だから、許されて当たり前」と思っていたからだ。
だが、今まで僕に用事を振っていた人には、約束を忘れてしまうことで相当嫌な思いをさせていたんだなと感じたからだ。
僕はそう言われて、少し落ち込んでいると、クーゲルさんは笑みを浮かべた。
「ま、これから頑張っていこう。次はそれを屋上に運んでしっかりと種を植えておいてね」
そう言われた僕は、クーゲルさんに言われて買った「プランターと土、そして種」を運び込んだ。
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