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迷うこと無く
9.記憶と愛情が
しおりを挟む姫宮家に響いた靴の音はそのまま吸収されたように消えていく。この家はその形が城だ。映画でしか見たことないような広さの建物に涼は未だに慣れることはない。
出迎えた使用人を何人も見たが敬紫は何も反応せずどんどん奥へと進んでいく。
何も言わずに着いていく晫斗も手慣れたものだった。涼も清ももちろんこの家に入ったことはあるがここまで奥に行ったことはない。
大きな赤い絨毯が敷かれた階段を1番下まで降りると重厚な扉が見えてきた。金属の擦れる鈍い音が響いてドアが開く。デザイン上古く感じるが自動開閉のシステムだ。おそらくこの家の人間がいなければ出入りできない高システムの厳重な部屋。
一歩そこに入れば音もなく、柔らかい光が点灯していく。ここからでは部屋の端はまだ見えない。
「昔4人で集まる時はいつも書庫だったんだ。雛野が本を記憶していたから」
雛野にとって本は読むものではなくそのまま知識として埋め込むための行為だ。スキャンして一生消えることのないデータを保存する。
「その時は零蘭も古典にはまっていて。放っておくと時間を忘れてしまうから、俺たちも一緒にいた」
この人たちの莫大な知識はこう言ったきっかけがあるのだろうか。ぼんやり考えたがどうもそれだけではない。本を読むという行為で晫斗や敬紫のようになれるのであれば自分だって少しは近づいているばずだった。
さらに部屋の奥に進んでいく。広さは市営図書館のレベルではない。国か、いやそれよりもありそうだ。この家にしかないものすら存在しているのではないか。
「雛野さんはちなみにここは全て記憶したんですか?」
「俺が三分の一を読み終わる頃には」
書庫の広さに三分の一だけでも、人間が一生で読む分の100倍に近いと涼は思った。
「あの子にとって目に着けば記憶になるから時間は十分だったよね晫斗」
「ああ、本を5冊並べてめくってやった時もあった」
「え、晫斗さん達がめくってあげたんですか」
「零蘭が大爆笑してたよ」
どうも敬紫と晫斗だけでは人間味が薄いが、話だけでも雛野と零蘭が出てくるとやっとそこで人間らしさを感じる。微笑ましい話に清はクスリと笑った。
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