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愛し愛される
43.全てが2人の
しおりを挟む夜のために力を込める障壁は、時折ある一定以上の魔力で破られる。込めた魔力に達しない限りは破られることはないがまれに存在するのだ。
今日は鳥の形をした影だった。そう見えただけかもしれないが4人はそう思った。雄叫びとも鳴き声とも取れる奇声をあげて障壁を食い破る。
「読書の邪魔、しないでもらえますか」
清がゆっくりと立ち上がり腰の剣に手をかけると、鳥は威嚇するように羽を広げた。カチン、と音がした時にはもうその影に光の線が落とされ悲痛な叫びを上げて地面に転げ落ちた。
その鳥から紫の光がにじみ出ると姿形もなく分解するように消えていく。
見守っていた涼が剣に視線を向けた。
「随分剣にも慣れたな」
「どうにも魔法だけを使う攻撃は手応えがありませんからね」
衝撃や痛みが無ければスリルも無く、つまらないのだ。
「倒したやつが消えて無くなるのがいまだに不思議だけどな」
「夜の魔物に魂はなく、魂を奪いにくる。魂が無いものは体も残らない……でしたね」
すっかり丸ごと知識が入った清は記憶の中の知識を読む。辛かった記憶作業も習慣になればなんてことは無い。
障壁を貼り直した涼を横目に再び寝る体制をし直すカインに問いかける。
「カイン、まだ俺たちは人間を相手にはしていませんがその方達の目的は何でしょうか?」
魔物が魂を欲しがるならばヒトは何を望むのか。カインが寝転ぶと晫斗がすぐにその上に横になった。数秒で目を閉じる。
「……人を倒すと言うことは、その魔力を丸ごと受け継ぐ事になる」
「ああ……」
単純でわかりやすい。なんて馬鹿らしい。
清は綺麗に微笑むとお礼を言ってまた本を読み始めた。涼がへえと笑い代わりに話を広げる。
「なるほど、だからひたすら俺たちに魔法を教えてたわけか」
清が戦っている中でも食事をしていた敬紫が不思議な形の果物を口に運んだ。その実は甘く食べやすい。
「でも強ければ強いほど狙われる……」
敬紫のつぶやきに表情は相変わらずの真顔だが、清も涼も敬紫の考えはすぐに察した。零蘭と雛野が魔力が低い、という気がしないのだ。あの性格上、確実にこちらの予想を遥かに超えた魔力量のはず。
「お前達の連れが王都にいるならば、問題は無い。そう簡単に破られる障壁を張っていない」
カインがそういうと敬紫は特に頷きもしなかった。2人に不安な気配など全く無いのだ。今でも楽しんでいるのがよく分かる。どちらかと言えば心配なのは。
「王子が姫よりも弱かったら笑えないね」
「まったくだな」
眠っていたと思っていた晫斗が敬紫に返事をする。いつも眠そうなその顔が楽しそうだった。
その時また障壁にヒビが入り、やがてガラスが割れるように破られた。
敬紫と晫斗が立ち上がりもせず、二本の指だけを掲げた。こうして破られる回数が多くなっていると言うことは自分たちに力がついてきたと言う事だ。
無数の影、獰猛なケモノ、数は数十、細かいのも合わせれば100はくだらない。
その全てがその命をその魂を欲している。
だが、魔法陣からでた水と火が矢のように細くなるとやがて分裂し星の速さで獣を撃ち抜いていく。もうその場には何も残らない、綺麗な星と静かな空間。
「悪いが、この身も魂もすべて捧げている」
晫斗が不敵に笑った。
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