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愛し愛される
45.お散歩か依頼か
しおりを挟む恐らく恋人が居る、というのはイガルも分かっては居たがこちらの世界にいるなんて聞いていない。
「そういうのは先に言え!!」
「マスターが察し悪すぎなんだよ~」
けらけらと横で笑うウルエラが茶化していく。久しぶりにイガルのその額に青筋が入れば、見守っていた男達はたちまち青ざめた。
彼の怒り方はその髪のように烈火のごとく恐ろしいもの。ギルドメンバーは誰も彼を怒らそうとはしない。
ウルエラ、雛野、零蘭を除いては。
零蘭があごにその細い指を重ね、考えるように首を傾げた。
「何となくね、こっちに向かっている気がするのよ。だから、多分依頼を受けていけばちょうどよく出会える」
「……何言ってんだ?」
またしても零蘭にしては珍しく、打算的なものの言い回しだ。いつもは何となくとか多分、という理由で動いたりしないのだ。
「まあ、兎に角私達は依頼を受けるわね。雛野どれやりたい?」
「おいおい、許すわけねぇだろ」
「お仕事のおススメもらったよ」
「……あ?」
雛野のその手にはいつのまにか依頼書が数枚握られていた。イガルは依頼受付を睨むと、その男はヒッと情けない声を出してカウンターの下に隠れる。イガルは小さく舌打ちして、雛野の依頼書を取り上げた。
「イガル……」
たちまち雛野が悲しげに眉を下げた。その結われた髪すら元気がなさそうにしぼんで見える。どんなに心が痛んだとしても、この世界そのものが2週間ほどの初心者に依頼を受けさせるなんてマスターとしては許せなかった。
眉間にしわを寄せて耐えるイガルに何故かウルエラまでも雛野達を味方し始める。大げさな演技で悲痛な声を上げた。
「ああ、可哀想に!如何してマスターはこんなに堅物なんだろうね」
「本当にパパったら心配症なんだから」
当然、零蘭もそれに乗った。
「パパじゃねぇ……」
重い声でイガルがなんとか反撃していく。
ウルエラが慰める中で依頼書越しにひょこりと雛野が顔を出した。
「その中に危険じゃないのもあるでしょう?」
たしかに依頼書は初心者向けの依頼が多いが、ここに来る依頼のほとんどが上級者向けだ。その中でもやりやすい、と言った程度なのだ。あまり安心は出来ない。
あまりにもいい返事がこないので零蘭は少し考えてみた。自分たちだけで心配ならば他の人がいれば良いのではないか。
「そんなに心配なら、ウルエラも来てくれないかしら」
「ああ、イイね!もちろん!」
「わあ、お出かけだ!イガル、それなら良いでしょう?」
だから依頼書を返して欲しい。
その声が響いた時、イガルは猛烈に寂しさを感じてしまった。それは、手厚く育てたペットが自分も必要とせずに散歩に行こうとしている気分だった。
「俺も行く……」
「え?」
「……俺も行くつったんだよ!依頼はこれだ!」
泣く泣く、手に持った依頼書の一枚を差し出した。
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