【R18】どうか、私を愛してください。

かのん

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涙のキス。②

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「いや…今日は君に話があって。」



「私に…ですか?」



「その……」



お忙しいお義父様がいらっしゃるぐらいだ。
そのお義父様がいきなり訪問してきてどもりながら話すというのは
よっぽど話しにくいことなのだろう。



「誠二の……ことなんだが。」



「え……?」



久しぶりに名前を聞いたせいか
用意していたカップを床に落としてしまった。



「すいません…ごめんなさい。」



「お茶はいいから、ここに座ってくれないか?」



「……はい。」



片づけをやめてソファに座ると下を向いて頷きながら私のほうを真っすぐ見てくる。
やっぱりお義父さまの目は誠一さんに似ている。




「どこにいるか……知っているか?」



「……え?」



「誠二がここを出てから、私たち夫婦は全く連絡が取れない。誠一もとっていないというし……」



「私は…知りません。」



「……それは誠一に誓えるのか?」



「誓えます。」



そっか……
誰も誠二さんの話をしなかったのは
私が誠二さんを匿っているって思ってたんだ。
1度は寝た2人、永一の父親でもある誠二さん。
どこに行ってしまったの……?



「妻が誠二に会いたがっている。」



「あの……具合はいかがなんでしょうか?永一を産んでからずっとお会いしていないので。永一も会いたいと言っています。」



「心の病だ。」



ココロの病といえば紗英さんのことを思い出す。
このままの状態にしておいてお義母様は大丈夫なのだろうか…?



「私に…何かできることはありますか?」



もう二度と……誠一さんにも誠二さんにも大切な人を自らの手で終わらせる姿を見せたくない。



「私にも……誠一や永一にも会いたくないらしい。ただ、誠二に会いたいらしい。」



「そんな……」



今まで誠二さんのことはあまり触れずにきたはずなのに
急にどうして誠二さんに会いたくなるの…?



「とにかく、誠二がきたら連絡してほしい。直接私にだ。」



「はい…」



「誠二さん……」



誠二さんの絵が置いてあるこの部屋に
一日一回訪れる。
紗英さんの絵の他にも風景がなどがたくさんあるこの部屋は
誠二さんの匂いに包まれている気がして安心した。



「元気…しているんですか?」



この家にいるのは誠一さんへの罪の償いもあるけど
誠二さんがいつか帰ってくるんじゃないかって淡い気持ちも抱いているから。
この家を出てしまえばもっと誠二さんとの繋がりがなくなってしまう……



ロッキングチェアに座って
風に揺れている白いカーテンを見る時間が大好きで
風が止まってカーテンが鎮まったら
少女漫画のように誠二さんが現れるんじゃないかって想像していた。



細長い指で唇を触り、頬から髪の毛をかきあげられてキスされるのが大好きだった。
そこから耳を触り顎先に戻ってもう一度、キス――
誠一さんとは違ってブラックコーヒーが好きな誠二さんとのキスは苦いけど
キスしているって実感がある。



「お母様。」



「え……?」



「こんなところで何をしているの?」



いつの間に寝てしまったのだろう。
永一に起こされるなんて……



「ごめん……ね……」



「お母様?」



夢かと思ったけど、唇がほんのり苦い。
そして私の頬には自分ではない涙がついている。




嘘、まさか誠二さん…?
さっきの夢の中でのキスは誠二さんなの?



開けていた窓の淵を見ると土で汚れている。
きっと……誠二さんだ。



「永一…誰かこの部屋にいるの見た?」



「ううん…ただ……」



「ただ?」



「お母様の寝顔が笑っているように見えた。」



誠二さん……私誠二さんに会いたい。
でも永一のこともあなたに見せたい。
こんなにもあなたの子供大きくなったんだよって……



「美緒!!」



「え…誠一さん?」



息を切らして、額から汗を流した誠一さんが部屋に入ってくる。
まだ夕方なのに帰ってくるなんて珍しい。



「お父様?どうしたのこんな時間に?」



「あ……永一もうすぐ家庭教師の先生が来る時間だから部屋に行っていなさい。」



「誠一さん、どうしたの……?」



永一が部屋を出ていくのを送り届けてから誠一が呼吸を整えてゆっくりと話し出した。



「誠二が……いや似た人かもしれないが誠二を見たんだ。」



「誠二さんを…本当なの?」



「一瞬だったけど目が合ったんだ。ただ……女性と一緒にいたんだ。」



「女性…?」



たとえ女性と一緒にいたって
誠二さんが元気ならいい。
このときは本当にそう心から思っていた。



「それでこの家に来ていないかと思ってきてみたんだ。」



「あ……来ていないです。」
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