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「ここは異世界だよ」編

四話めぇ~ 「ヒツジよ、クマと戦え」

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 現在、俺とぷるんの二人、言い直すと一人と一匹は草原を歩いている。

 アルプスの草原っていうのかな。
 某アニメで見たことがあるようなのどかな雰囲気だ。
 空は青く、雲は綺麗で、草木はつやつやしておる。

「ねえ、あれ富士山かな?」

 ぷるんが指さした先にはひときわ大きな山があった。
 山は大きく、頂上付近は雲にまで突っ込んでいる。

 それに光の輪のようなものまであって、個人的には「魔神英雄伝ワ〇ル」の世界に出てきた山っぽい。
 真っ先に目に入るものなので俺も気になっていたが、富士山ではないだろう。でかすぎる。

「じゃあ、やっぱり異世界なんだね。やったー! 楽しそう!」
「俺は楽しくないがな」

「えー、どうして?」
「あの世界に不満はなかったぞ」

 もともといた世界に特に不満はなかった。
 そりゃ俺だって異世界に行けたらと思うことは一回くらいはあったかもしれないけど、中二だぜ?
 面白いことは山ほどあったし、毎日が楽しかったけどな。

 こういう場所に来たいやつってのは、だいたい世の中がつまらなくて嫌になって~ってやつだろうと思うんだわ。
 俺は違ったね。

「わかるか? 人生ってのは大変だから価値があるんだぜ?」

 そうだ。何の努力もなく、人生のすべてが自分の思い通りになったら三日で飽きるだろう。
 しかし、日々努力して苦労して身につけるから人生は・・・

「人が愚かでも?」
「やめろ! これが『十二英雄伝』の番宣のために作られたみたいな言い方はやめろ!」

 けっして違うぞ。愚者を焼くためにとかの目的はない。
 そんな世界だったら嫌すぎる。

 それにあれの作品の主旨は違うぞ。
 人の可能性を語る物語だぞ。勘違いするなよな。
 どんな人間にでも良心がある。
 その心の中の光を描く物語だ。

 以上、番宣は終わりだ。
 現在連載中なので見るといいぞ。


「おい、あれを見ろ」

 俺が斜め後方の茂みに落ちてあった【靴】を見つける。
 ちょっと小さめの赤い靴だ。

「シゲキ君、よく見つけたね。後ろだよ?」

 あれ? 言われてみればそうだな。
 普通あの場所は見えないよな。何でだ?

「昔図鑑で見たけど、ヒツジさんって首を曲げなくても後ろのほうが見えるらしいよ」

 えええええええーーー!?

 気がつかなかった。
 たしかにパノラマのように後ろのほうまで見える。

 俺も歩いていて後ろのぷるんが見えるし、ちょっとおかしいなとは思ったんだ。
 そんな能力便利だけど、ヒツジだってことを認めなくちゃいけないから欲しくなかった。

「スキルにはなかったね。ヒツジさんにはあって当たり前のスキルだからかな」

 捨てたい。そのスキル全部捨てたい。
 でも全部捨てたら、役立たずのヒツジが生まれて終わりだから我慢しよう。

「きゃああー、誰かー!」

 すると左手の林の中から可愛い声が聴こえてきた。
 声の感じからすると小さい子かな?

「シゲキ君、来たよ! お助けフラグだよ!」

 なんだフラグって。そりゃ冒険にはイベントが付き物だよな。
 俺としてはロマサガの「これは全部私のだよ!」とか言って強欲な人間が海に落ちていったイベントのほうが楽しかったが。

「ほら、行こうよ! 助けよう!」
「助けようたって、俺ヒツジだよ。いわば食べられる側だぜ。無理だって」
「一生臭いままでいいの!? そんなシゲキ君は嫌いだよ!」

 たぶん、助けても助けなくても臭いんだろうな。
 俺が悪いんじゃない。ヒツジが悪いんだ。

 しかし、ぷるんだって人助けがしたいから言っているんだし、見捨てるわけにもいかないか。

「ほら、行こう♪」

 楽しそう!!!??
 嬉しいのか!! 人の不幸が楽しいのか!!!

 仕方ない。
 イベントらしく助けに行くか。


「ガオーガオー」

 林に入っていくと、なんかガオガオ言っている熊がいる。
 ガオガオ言っているがでかい。
 立てばたぶん三メートル以上はあるぞ、あの熊。

「あっ、ジャイアントクマーだ。『牧場物語』に出てくるモンスターだよ」
「なんだ、それ?」

 名前からすると穏やかなゲームだが・・・

「牧場を経営しながら魔王を倒すというゲームだよ」

 どっちかにしようぜ!!!
 なあ、どっちかにしないと無理だって!!

 牧場を経営しながら魔王と戦うのは難しいと思うぞ!
 しかもついうっかり牧場経営ゲームが好きなやつが間違って買いそうなタイトルだ。

 帰ってプレイしてみたら魔王とかいてびっくりするよ!
 絶対にするよ!

「うちのおばあちゃんが買ってきたんだ」

 おばあちゃん、間違えちゃったよぉお!!!
 ゲームの名前は正しくつけようよ!
 犠牲者増えるぞ。

「おばあちゃん、魔王を三ターンで倒せるって」

 やりすぎ!!! おばあちゃんやりすぎ!!!
 レベルカンストとかやめてくれ!
 興味がすでに魔王を何ターンで倒せるかに移ってるじゃねえか!

 そういえば、ぷるんの家に行ったときにあった気がするな。
 たしか牧場経営とドラクエとFFとロマサガと動物の森と、その他なんか色々な要素が混ざったようなゲームと聞いたことがある。

 つーか、まさかこの世界ってそうなのか!?

「FFはファイナルファイトだよ」

 そっちかよおおおお!!!
 ファンタジーじゃねえのかよ!

 市長が裸で来るぞ、マジで。
 知らない人は画像検索してみるといい。
 カオスな光景が見られるだろう。

 個人的にはアンドレがトラウマだな。

「あう、あうあう・・・」

 熊に襲われている女の子がいる。
 やはりまだ小さい子だ。あの靴の持ち主だろうな。

「匂いでわかったの? きっと女の子の靴の匂いを嗅いだんだね」
「それくらい頭でわかるわ!!!」

 その言い方が気に入らん。俺が変態みたいな言い方しおって。
 しかもヒツジの嗅覚ってどうなんだ?
 犬じゃないし無理じゃないかと思うが。

 ただ、襲われているといっても、熊は女の子の周りをぐるぐる回っているだけだ。
 熊って本当はいいやつなんだぜ。

 臆病だから追いかけるって話だ。
 かといって死んだふりも意味ないらしいが。

「シゲキ君、助けよう!」
「落ち着け、ヒツジが熊に勝てると思うか? ここは落ち着いて話し合って…」

 そうだよな。まずは人間話し合いだ。
 いきなり攻撃を仕掛けるなんて獣以下…

「シゲキ君、行け!!!」

 どんっ! と背後からぷるんにタックルされ、俺は熊に突撃する。

 当然だがヒツジだ。熊にダメージはない。
 それどころかそいつの注意が俺に向いた。

 ちょっと待てーーー!
 これって俺がやばいんじゃないのか!?

 だがここで動じるほど俺は甘ちゃんじゃない。
 こういうとき【漢(おとこ)】がなんて言うか知っているか?

 では、見せてやろう!
 こう言うんだ!

「早く行け! ここは俺が…」

 シ――――――ンッ。

 背後にはもう誰もいなかった。
 ヒツジの視野でかすかに見えたのは、女の子を連れて全力で逃げているぷるんの姿だった。
 こっちを振り返りもしない。

 ぷるんんんんんんんんん―――!!

「ガオッ!」
「待って、話し合おう!」

 そうだ。交渉だ!!
 もし俺にできることがあれば何でもするぞ!
 相手を満足させれば未来は開ける!

「ガオオオ!(オレの愛した世界を返せ!)」

 クマもっと俺にできそうな要求しろよぉぉおおお!
 つーか、クマ語わかっちゃったよ!!

「ガオオ!(世界が泣いている!!)」
「ひぃいいいい! お助けぇえぇええ!」

 シゲキは逃げた。
 しかし、敵に囲まれた。

 囲まれたって相手一人じゃねえか!!!!
 もっと細部を作り込もうぜ、牧場物語!!
 回り込まれたとかにしろよ!

「ガオオ!(批判許さん!!)」
「いやぁああああ!」

 ジャイアントクマーの攻撃。
 ガスッ!
 シゲキは三十五のダメージを受けた。

 シゲキは死んだ。

 ガスッ! バリッ! グチャッ!
 ジャイアントクマーはシゲキを挽きラム肉にした。

 バクバクッ!
 ジャイアントクマーはラム肉を食べた。

 ゲフッ。
 ジャイアントクマーは満足して去っていった。



「シゲキ君、無事…?」

 三十分後、ぷるんがおそるおそる様子を見に来た。
 そのとき現場にあったのは、ぐちゃぐちゃになったラム肉であった。

 それを見てぷるんは驚愕した。




「あ―――!! ラム肉だー♪ ラッキー!」




 ぷるんはラム肉をゲットした。


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