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「牧場を拡張しよう」編

二十九話めぇ~ 「ウマウマ言えよ」

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「あ~あ、シゲキ君のせいで余計に2万円使っちゃったよ」
「お前のせいだ!!」

 この2万というのは、ぷるんの鮫歯のスニーカーの威力によって引き裂かれた鮫革の帯の修理代である。
 そりゃヒツジ戦士の脚力で蹴られたらひとたまりもないよな。
 引き裂かれて当然だ。

「装備に耐久値とかあるのか?」
「うーん、どうだろう。ゲームじゃなかったけど、ニッキーだってサンドシャークに飲まれたしね」

 そういえばそうだな。
 結局、投擲したナイフは戻ってこなかったし、実際の世界になった今はそういうもんかもしれん。

 しかし、サガみたいに武器に回数があるとゲームでは楽しいが、いざ自分がそうなると面倒だな。
 いろいろと考えて使わないといけないし…

「殺されたことに対するコメントはないんだね」
「自覚はあったんだな、お前」

 一応、俺を蹴り殺したという自覚はあるらしい。
 当然だが反省はまったくしていないので抗議しても無駄だろう。
 俺もそれに慣れきってしまっているのが怖いわ。

「ところで今回のやつでどれくらい金を使ったんだ?」
「んーと、武器屋のも含めると…」

・ウサドリルホーン改造(ヒレ使用) 10万
・投擲用ナイフ 10本 4万円
・純正ワルサーP99(弾丸付き) 15万
・鮫革の帯 8万円+修繕費2万 10万
・鮫歯のスニーカー 5万円

 計44万円


「って感じかなー」

 ふむ。素材の売り上げがあるので、まだ余裕はあるな。
 まさに年金様様って感じだ。
 それにしてもこの調子だと、金ばかりかかるな。

「武器や防具は仕方ないよね。生命線だし」

 そうぷるんは言うが、正直こいつは防具とかいらない気もするんだよな。
 意外と攻撃も防ぐからさ。

「なあ、俺も攻撃防ぎたいよ」

 こうバシッと防御したら格好いいよな。
 せっかく鮫革の帯を巻いたんだから、俺もあんなふうに防御したいぜ。

「さっき防いだじゃん」
「死んだじゃねえか!!」

 防ぐと攻撃をもらうは紙一重の表現だ。
 防ぐといっても実際はどこかに当たっているわけで、そこの耐久値が弱ければ直撃と同じだ。
 結局、俺の帯では斬撃にはあまり効果がないようだ。

「まっ、噛みつきくらいなら耐えられるよ。痛いだろうけど」

 痛いのかよぉおおーー!
 たしかに歯が通らなくても圧迫されるだけで痛いよな。
 案外、身体ってすぐ痛みを感じるもんだから仕方ないけどさ。

「じゃっ、次は道具だねー」



 その後、俺たちは以前買った店で道具を仕入れた。
 買ったものはこんな感じだ。

・水色の水筒
・回復ドリンコ 10個
・ユンケル 5個
・食料一週間分
・野宿用品 簡易寝袋 たき火セット

 計7万円

 このあたりは前回と同じだ。
 変わったところといえば、食料が保存食メインではなくなったことだろうか。

 今は牧場があるので保管する場所があるのが大きい。
 料理を食べに牧場に行ってもよいのだ。

 何があるかわからないし野宿用品も買った。
 これはこれで利便性が高いし、ダンジョンなどで牧場が使えないときに役立つだろう。

 それと念願の水色の水筒を手に入れた!
 これに回復ドリンコを入れておけば俺も簡単に飲むことができる。
 これは嬉しいよなー!!

 だが、そう思えば思うほど、かつてTと呼ばれた人を思い出してならない。
 すべてはあそこから哀しい運命は始まったのだ。
 無職が色気を出した結果はつらいものだった。
 まだ使えない無職のままならば使い道もあったのにな。

 いや、もうこの話はやめよう。
 そんな人はいなかったんだ。
 そのほうがみんな幸せになれる。

「あとは足かな」
「そうだな。次は哀しい思い出にならないものにしようぜ」
「あそこのマントヒヒとかはどうかな?」
「もうネタはいい!」

 変なところでネタを増やすのはやめろ!!
 いいかげん進まないとこの小説終わるぞ!!
 ただでさえ余談で半分とか使うんだから、特に今回はサクサクいくぞ!!

「ちぇっ、面白味がないなー」

 こいつは変なところで盛り上げようとする悪癖がある。
 ああ、普通の小説に憧れるぜ。

 普通の小説って何気に貴重だよな。
 つーか、なんで作者が異世界を描くとこんな感じになるのか理解不能だ。

「異世界ものってさ、作者と読者のくだらない優越感を満たすために劣った世界を描くことが多いじゃん。あれって愚かだよね」

 やめろよぉおおおおおお!!!
 お前それ、絶対に言っちゃいけない領域だぞ!!
 駄目それ袋叩きに遭うから、駄目!!!

 こんな恐ろしい発言を許してはいけない。
 早く進もう。本当の意味で死んでしまう。

 たしかにうちの作者ならば逆に進歩した世界を描いて、「おや、あなたがたの世界ではこの程度のこともできていないのですか?」とか言いそうで怖い。
 あいつ皮肉大好きだからさ、もうやめようぜ!



 次に俺たちがやってきたのは馬車屋である。
 やはり長距離移動するには馬が必要だしな。

 さっそく厩舎のほうを覗いてみると、馬車用の馬が十頭程度並んでいた。

「んー、どれがいいかなー」
「どれでもいいんじゃないのか? 馬なんてどれも同じだろう」

 この店には馬は数種類しかいないようだし、迷うようなことでもないだろう。
 とりあえず足になればいいんだしさ。

「馬ってとってもデリケートなんですよ。世話も大変ですし」

 が、リーパが馬についていろいろと教えてくれた。
 リーパの専門はヒツジだが、一応家畜業をやるうえで馬のことも学ぶらしい。

 当然ながら馬の命は足だ。
 足の管理、蹄鉄ってやつも必要だし、身体の手入れもしてやらないといけない。
 もともと臆病な生き物なのでモンスターと出会ったときパニックにもなりやすい。

 移動中に足を怪我したらもう一緒には連れていけないし、最悪は荷台を捨てねばならないこともある。
 その意味でもちゃんと選ぶ必要があるという。

「ヒツジと違って面倒臭いやつらだな」
「あら、ヒツジみたいな家畜と一緒にされちゃ困るわね」
「なんだと! ヒツジをなめるな!」

 ヒツジは最高の生物だ!
 HITUJI! HITUJI!!
 HI・TU・JI~~~~!!
 IEE========I!!

「あれ? シゲキ君、いつからヒツジ好きになったの?」

 …たしかに。
 俺はいつヒツジを認めるようになったのだろうか。
 わからない。俺の記憶の中にそんなものは…

「って、ヒツジを馬鹿にするな!」
「私はしてないよ」

 なに? お前しかいないだろう!
 リーパは牧場やっていたからヒツジを馬鹿にすることはないだろうし、ぷるんしかいない!
 ビバッ、ヒツジ!!

「んー?」
「え?」

 ぷるんは俺を変なやつを見るように訝しむ。
 ぷるんは暴言は吐いても、あくまで俺という相方が拾うから言っているのであって、単独でボケることはない。

「わっ、ひどい。ボケているわけじゃないよ。素なんだよ」
「もっとひどいわ!」

 素で暴言吐いたり、いきなり人を刺したりするやつのほうがこえーよ!

 って、ぷるんじゃなければ誰だ!!

「ふふ、あなたってヒツジのくせに面白いのね」
「なにぃ…!」

 俺の目の前には、ぷるんとリーパ、そして馬しかいない。
 そしてぷるんとリーパが違うとなれば、まさか…!

「誇り高きわたしは、馬よ!!」
「自分で馬とか言うなよ!」

 馬って種族じゃねえか!
 そこは普通、名前だろう!!
 と、ついツッコんでしまったが、俺に話しかけたのは馬だった!!

 十頭くらいいる馬の中でも一番白い、葦毛(あしげ)の馬が俺にしゃべっている。
 声からしてどうやら女のようだ。

「おいおい、なんだ。揉め事か?」
「いいのよ。ヒツジが一匹紛れ込んだだけのこと。騒ぐほどのことじゃないわ」
「ふっ、ヒツジか。足の遅いやつらだったな」

 その葦毛馬の隣にいた褐色色の鹿毛(かげ)の馬、こっちは雄だろうが、そいつが俺を上から見下ろしている。
 お、おい、マジかよ!
 馬がしゃべってやがるぜ!
 こいつはとんでもねぇことだぜ!

「そりゃしゃべるわよ。生きているもの」

 まあ…そうなんだが。
 それを素直に受け入れていいのか俺としては葛藤があるわけだ。

 一応、ヒツジだしさ。
 動物同士、言葉がわかるってのは…

「いや、言葉の通じるヒツジなんて初めて見たぞ。すごいな、こいつは」
「わたしもよ」

 うそだろぉおおおおおおーーーー!!
 え? だって、ヒツジってしゃべるんだよな?
 リーパが前にそう言ってたじゃねえか!?

「シゲキさん、もしかして馬としゃべっているんですか?」

 俺の挙動を不審に思ったリーパが首を傾げながら聞いてくる。

「お、おう。ヒツジって馬としゃべられるんだな」
「…え? そうなんですか?」
「だって、前に…」

「わたしは白ヒツジ族だからヒツジの言葉がわかりますけど、他の種族の動物同士は普通しゃべれないですよ」

 衝撃ぃいいーーーーーーー!!
 そうなの!? 白ヒツジ族だから話が通じたのか?
 じゃあ、もしかしてぷるんも白ヒツジ族だから俺と会話できるのか!?

「シゲキ君は普通にしゃべってるよ。だってモヒカンとかともしゃべっていたじゃん」

 たしかに!!
 俺、普通にモヒカンたちとしゃべっていたよな。

 ってことは…ん?

「お前ら、馬の言葉わからないのか?」
「だって、人間だもん」

 身も蓋もない発言だな、おい!
 そうやって言われると俺がおかしいみたいじゃねえか!
 ハブるのやめろよ!!

「ずっと思ってたんだけどさ、シゲキ君のそれ、スキルなんじゃないの?」
「え? スキル?」
「うん。ヒツジの目みたいな常時発動タイプのスキル」

 それはあれか? 言語翻訳とか、ああいうやつか?
 そういえば俺はジャイアントクマーの言葉も理解できた。
 サンドシャークが何を言っていたかもわかった。
 今もこうして馬と会話している。

 ってことはまさか…
 動物やモンスターと会話できる能力が俺のスキル!!?

「十分ありえるよ。異世界だもん」
「いや、なんかおかしい! 俺はもっと違うものが欲しかった!!」

 こういう能力はさ、ロマサガのクローディアとかが持つから綺麗なんだよ。
 心優しい女の子だからこそ映えるんだ。
 それが俺みたいな中二のエロ男子が持ったところで何の美徳でもないぞ!!

「動物っぽくていいじゃん」
「だからそれが嫌なんだよ!」

 動物っぽいというか、動物臭がするわ!!
 自分がとことんヒツジであることを痛感してやまない!

「ところでお前ら馬は、人間の馬車になることに違和感はないのか?」

 ずっと気になっていたんだよな。
 馬ってさ、人間に体よく使われているじゃんか。
 あれって馬側から見るとどうなんだろうなーと思うわけよ。

「人間に使われるのは嫌じゃないわよ。走るのは好きだものね」

 葦毛の雌馬がそう答える。

 綺麗!!
 すごい綺麗な答え!!

 馬のなんと純粋なことか!
 聞いたか、お前ら人間どもよ!!

「シゲキ君、あっちで馬肉の串焼きも売ってたー。美味しいよー」
「お前ら人間はぁぁあぁあああ!!!」

 なんだよ、人間め!!
 俺たち動物を文字通り食い物にしやがって!
 わかった。こうなりゃ反乱だ!!
 人間に対して反乱を起こしてやるぞ!!

「まあ、待て。お前の気持ちもわかるが、ここは穏やかにいこう。たとえ言葉はわからずとも同じ尊い命だ。互いに尊重するのが筋だろう」

「そうね。争うなんて野蛮よ。短所には我慢して、お互いの長所を合わせて一緒に生きていくのが理想よ」

 お前ら聖人か!?
 俺は感動で涙が止まらない!!

 聞いたか?
 おい、ぷるん、聴こえたか!?
 馬のほうが人間性が高いってどういうことだよ!
 馬すげーよ、なあ!?

「ほれ、ニンジン食って、ウマウマ言ってみろ。あはは、馬がウマウマ言ってるよ~」

 ぷるんんんんんーーーーーーーーー!!

 駄目だ。こいつの頭は腐っている。
 ぷるんに人間性を求めるのは諦めよう。
 もういいからさっさと馬決めてくれ。

「そういえばさ…」
「俺は引かないぞ」
「まだ何も言ってないよ」

 どうせあれだろ?
 シゲキ君が引けばいいんじゃね?
 とか言い出すんだろう。

 せっかく馬がこう言っているんだ。
 引いてもらえばいいじゃないか。なあ。

「草原に野良ジープがいるから捕まえれば無料だって」

 ジーーーーープ!?
 ジープって車の??

 すでに馬ですらねえよ!
 メカだよ、それ!!

 メタルマーーーーーーーックス!!
 IEEEEEEEEEEEEEEEE!!


 めっちゃやる気出てきた!!
 じゃあ、次回は…

 あぶねええええええ!
 また死ぬところだった!

 意外と作者はこのオチが気に入っているらしいから、また罠にかかるところだったぜ。



 それじゃまたな。






 ボンッ


 シゲキの腹が爆発した








 シゲキは死んだ







「シゲキくーーーーーーん!!」


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