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第四部 吸血鬼の異種族
第66章 ヴァルラーナの姫たち
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ラヴィナに導かれ、僕は古びた石の廊下を進んだ。彼女の背に揺れる黒翼が、時折ちらりと現れては、すぐに霧のように消える。
まるで幻のようなその姿に、僕は現実感を失いそうになる。
「それじゃ、まずは姫……あたしの、可愛い妹の一人を紹介するわ」
彼女が立ち止まり、重厚な扉を開ける。その向こうには──。
「やっと来たのね、姉様。それと……“人間”」
その声は甘やかで、どこか艶めいていた。
立っていたのは、深い黒のドレスを纏った女。
髪は黒のロングストレート。整った眉と、長い睫毛に縁取られた瞳がこちらを射抜いてくる。
その瞳が、ふと赤く染まった瞬間、僕は息を飲んだ。
「紹介するわ。この子は〈第六の姫〉、セリュム・ヴァルラーナ。」
ラヴィナの言葉に、女……セリュムは軽く会釈した。
「性癖は……そうね、痛みと快楽の境界を曖昧にすることかしら。あんたのような優しげな男が、どこまで壊れてくれるか……楽しみね」
セリュムは僕に近づき、細く長い指で僕の顎を持ち上げた。 その手はしなやかで、けれど、氷のように冷たかった。
豊満な胸がドレスの布地を張らせ、腰は引き締まり、逆に尻は肉感的に丸みを帯びていた。
まさに、“男”の目を惑わすように作られた肢体。 だがその美しさには、どこか刃のような鋭さがあった。
「……姉様、例の“儀式”には私も立ち会っていいのよね?」
「ええ、構わないわ。というかむしろ……積極的に“参加”してもらおうかしら」
ラヴィナが唇に笑みを浮かべる。
セリュムは僕の耳元で囁いた。
「ふふ……楽しみね。どんな味がするのか。あなたの“血”も、“声”も、“本音”も……全部、私のものにしたいな」
その声に、僕の背筋は震えた。
けれどなぜか、怖くなかった。 それどころか……胸の奥が、熱くなる。
“夜”は、確実に近づいている。
そして、それはただの夜ではない。 きっと、この運命すらも変えてしまう夜になる。
そんな気がした。
ラヴィナとセリュムに挟まれるようにして、僕は塔の奥へと進んでいた。
廊下の先には、仄暗い灯火が揺れている。
壁には奇妙な紋章が刻まれていて、目を合わせた瞬間、胸の奥にチクリとした痛みが走った。
「ここは〈永劫の間〉。姫たちが、“男”を迎える儀式の前に通る場所よ。って言っても、もう長いこと使われてないんだけどね」
ラヴィナが囁くように言った。 セリュムがくす、と笑う。
「緊張してるのかしら?でも……そういう顔も、悪くないわ」
二人の美女に挟まれて歩くという状況は、平静でいられるはずもなく、僕の鼓動はどんどん速くなっていく。
やがて広間の中央に着くと、ラヴィナが静かに手を掲げた。 それに呼応するように、周囲の燭台が一斉に炎を灯し、幻想的な光が辺りを包む。
そして──
「お初にお目にかかります、“選ばれし男”よ」
響いたのは、まるで鈴のように澄んだ声。
現れたのは、少女とも、女とも形容しがたい不思議な雰囲気を持った存在だった。
透き通るような白肌と、淡く輝く銀の髪。そして……氷のような青色の両眼。
真っ白なドレスを着ていて、ラヴィナたちとは雰囲気がだいぶ違う……でも、とても綺麗だ。
<i961158|46536>
「この子は〈第二の姫〉、ミレティア・ヴァルラーナ」
ラヴィナが紹介する。
「あなたが来る夢を、何度も見ていた……だから、ずっと待っていたの。わたくしたちが、また“生”を得るその日を」
ミレティアがそっと手を伸ばす。触れられた指先は、まるで羽のように柔らかかった。
その瞬間、僕の頭の中に、無数の声と映像が流れ込んできた。
──悲しみ、渇き、願い、疼き──
「……ミレティアの“魔眼”は、触れることで相手の記憶と感情を共有できるの。だから、あなたのことも……わかってしまう」
セリュムが甘く囁いた。
「ふふ、可哀そうに。そんなに寂しいのね、あなた」
ミレティアの声は、優しくて、残酷だった。
「……“儀式”の夜には、ミレティアも参加する予定よ。あんたは選べるわ、誰を抱きたいか。もちろん……全員でもいいけれど」
ラヴィナが微笑む。唇の端に、挑発めいた色が滲んでいた。
僕は、息を飲むしかなかった。
美しくも妖しい吸血鬼たちの間に立ち、僕の役目は、たった一つ。
彼女たちの未来を決めること。
そして、セリュムがそっと僕の耳元で囁く。
「ねえ……最初は、私にしてみない?」
「……っ」
「あなたの痛みも、快楽も、全部わたしに任せて……あなたが壊れる音、聴いてみたいの」
吐息が首筋を撫でた瞬間、背筋が震えた。
それでも、逃げる気にはならなかった。
ラヴィナも、ミレティアも、セリュムも──なぜだろう、ただ“恐ろしい”だけではなかった。
僕は、塔に捕らえられたのではない。
──自分から、この場所に、堕ちていこうとしている。
そして、扉の向こうから、また一人の姫の気配が近づいてくる。
彼女たち……ヴァルラーナとの“夜”は、もう始まっているのかもしれない。
まるで幻のようなその姿に、僕は現実感を失いそうになる。
「それじゃ、まずは姫……あたしの、可愛い妹の一人を紹介するわ」
彼女が立ち止まり、重厚な扉を開ける。その向こうには──。
「やっと来たのね、姉様。それと……“人間”」
その声は甘やかで、どこか艶めいていた。
立っていたのは、深い黒のドレスを纏った女。
髪は黒のロングストレート。整った眉と、長い睫毛に縁取られた瞳がこちらを射抜いてくる。
その瞳が、ふと赤く染まった瞬間、僕は息を飲んだ。
「紹介するわ。この子は〈第六の姫〉、セリュム・ヴァルラーナ。」
ラヴィナの言葉に、女……セリュムは軽く会釈した。
「性癖は……そうね、痛みと快楽の境界を曖昧にすることかしら。あんたのような優しげな男が、どこまで壊れてくれるか……楽しみね」
セリュムは僕に近づき、細く長い指で僕の顎を持ち上げた。 その手はしなやかで、けれど、氷のように冷たかった。
豊満な胸がドレスの布地を張らせ、腰は引き締まり、逆に尻は肉感的に丸みを帯びていた。
まさに、“男”の目を惑わすように作られた肢体。 だがその美しさには、どこか刃のような鋭さがあった。
「……姉様、例の“儀式”には私も立ち会っていいのよね?」
「ええ、構わないわ。というかむしろ……積極的に“参加”してもらおうかしら」
ラヴィナが唇に笑みを浮かべる。
セリュムは僕の耳元で囁いた。
「ふふ……楽しみね。どんな味がするのか。あなたの“血”も、“声”も、“本音”も……全部、私のものにしたいな」
その声に、僕の背筋は震えた。
けれどなぜか、怖くなかった。 それどころか……胸の奥が、熱くなる。
“夜”は、確実に近づいている。
そして、それはただの夜ではない。 きっと、この運命すらも変えてしまう夜になる。
そんな気がした。
ラヴィナとセリュムに挟まれるようにして、僕は塔の奥へと進んでいた。
廊下の先には、仄暗い灯火が揺れている。
壁には奇妙な紋章が刻まれていて、目を合わせた瞬間、胸の奥にチクリとした痛みが走った。
「ここは〈永劫の間〉。姫たちが、“男”を迎える儀式の前に通る場所よ。って言っても、もう長いこと使われてないんだけどね」
ラヴィナが囁くように言った。 セリュムがくす、と笑う。
「緊張してるのかしら?でも……そういう顔も、悪くないわ」
二人の美女に挟まれて歩くという状況は、平静でいられるはずもなく、僕の鼓動はどんどん速くなっていく。
やがて広間の中央に着くと、ラヴィナが静かに手を掲げた。 それに呼応するように、周囲の燭台が一斉に炎を灯し、幻想的な光が辺りを包む。
そして──
「お初にお目にかかります、“選ばれし男”よ」
響いたのは、まるで鈴のように澄んだ声。
現れたのは、少女とも、女とも形容しがたい不思議な雰囲気を持った存在だった。
透き通るような白肌と、淡く輝く銀の髪。そして……氷のような青色の両眼。
真っ白なドレスを着ていて、ラヴィナたちとは雰囲気がだいぶ違う……でも、とても綺麗だ。
<i961158|46536>
「この子は〈第二の姫〉、ミレティア・ヴァルラーナ」
ラヴィナが紹介する。
「あなたが来る夢を、何度も見ていた……だから、ずっと待っていたの。わたくしたちが、また“生”を得るその日を」
ミレティアがそっと手を伸ばす。触れられた指先は、まるで羽のように柔らかかった。
その瞬間、僕の頭の中に、無数の声と映像が流れ込んできた。
──悲しみ、渇き、願い、疼き──
「……ミレティアの“魔眼”は、触れることで相手の記憶と感情を共有できるの。だから、あなたのことも……わかってしまう」
セリュムが甘く囁いた。
「ふふ、可哀そうに。そんなに寂しいのね、あなた」
ミレティアの声は、優しくて、残酷だった。
「……“儀式”の夜には、ミレティアも参加する予定よ。あんたは選べるわ、誰を抱きたいか。もちろん……全員でもいいけれど」
ラヴィナが微笑む。唇の端に、挑発めいた色が滲んでいた。
僕は、息を飲むしかなかった。
美しくも妖しい吸血鬼たちの間に立ち、僕の役目は、たった一つ。
彼女たちの未来を決めること。
そして、セリュムがそっと僕の耳元で囁く。
「ねえ……最初は、私にしてみない?」
「……っ」
「あなたの痛みも、快楽も、全部わたしに任せて……あなたが壊れる音、聴いてみたいの」
吐息が首筋を撫でた瞬間、背筋が震えた。
それでも、逃げる気にはならなかった。
ラヴィナも、ミレティアも、セリュムも──なぜだろう、ただ“恐ろしい”だけではなかった。
僕は、塔に捕らえられたのではない。
──自分から、この場所に、堕ちていこうとしている。
そして、扉の向こうから、また一人の姫の気配が近づいてくる。
彼女たち……ヴァルラーナとの“夜”は、もう始まっているのかもしれない。
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