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一話 再会
しおりを挟む暗闇に、黒い影が散っていた。
青年が一人、そこにぼうと立っていた。足元には、生き物の残骸。
彼の手も、その手に持つ刃も、赤く染まっている。それほどに何度も切りつけた。
「兄さん……!」
青年に、子が縋った。白い顔は青ざめ、涙に濡れている。青年はただ、低く呟いた。
「こうするしかありませんでした」
と――。
◇
閉ざされた牢に、ひたひたと気配が降りたのは、ゆうに百年ぶりのことだった。
自分のもとへくるのは、肉をついばむ死鳥くらいだろうに。
しかし、どうやら、これはただごとではない。
気配の物々しさは、抑えていてもあたりに息さえ許さぬようだ。現に何人かは血を吐き、息絶えている。
灯は身を起こすと、座り込んだ。
自分もかつては位をいただいた身だ。無様は起こすまい。それが、自分の矜持でもあったし、今きたるものへの誠意でも合った。
さて、どれほどにやんごとなきお方であろう。
これほどに高位の鬼ばかり供に連れ、そろって気配を殺させているのだから、王か、それにつらなるものと見て間違いなかった。
ぴたりと足が止まる。
灯は静かに傅いた。
「久しいな、灯」
思わず、灯は目を見開いた。
その声は、かつての自分の先輩のものであった。
「金輪さま」
金輪は笑った。そうして、指図したのがわかった。金輪より下のものが、灯の牢の錠を断ち切る。重々しい音を立てて、牢が開いた。おおよそ、百年ぶりのことだ。
金輪は前に進みいで、灯の様子をかがみ眺めた。
「ひどい顔だな」
笑い混じりの言葉に、灯は羞恥に頬を染めた。上等な着物を着た兄役に、これほどまでに落ちぶれた姿を見られるは、やはり屈辱であった。
その様子をみて、金輪は満足そうに頷く。
「相変わらずで安心したぞ。腑抜けていては、わが主に相応しくないからな」
「主……?」
金輪の主と言えば、紅蓮様以外にありえないが……ずいぶん、もったいぶった言い方をする。灯の不審を感じたらしく、ははと笑った。
「紅蓮様ではない」
「は」
「お前もよく知っているお方だ」
そう言って、金輪は脇に避け、跪いた。
鈴の音が鳴るような、強い鬼気が、あたりに満ちる。
黒の衣が、しずかにたなびく。長い髪が闇に溶けるように揺れる。赤い瞳は、王の証。しかし、その瞳を持つものの容貌を見て、灯は目を見開いた。
「白さま……?」
記憶の中の白い顔と漆黒の髪の少年が、眼の前の青年に重なる。違うのは瞳の色ばかりだ。
白は、笑みを浮かべて、灯を見下ろしていた。
「やっとお助けできます。ぼくの兄さん」
凄艶なまでの、美しい微笑だった。
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