子持ちオメガはもう恋なんてしないのに~一途な年下アルファと幸せ紡ぐ日々~

有村千代

文字の大きさ
25 / 78

第4話 きっと思い出になる一日(2)

しおりを挟む

「パパと一緒に、写真撮りたい人ーっ?」

「はーい!」

 抱っこしていた優の身体を下ろすと、あらためて湊はこちらに目を向けてくる。
 春陽はスマートフォンを渡しかけて、ふと手を止めた。

「あ、待って。……湊くんって、自撮りとかできる?」

「自撮り? まあ、それなりには」

 湊が目を丸くする。
 かたや春陽は、微妙に視線を逸らしながら言った。

「今日は湊くんもいるんだから、三人一緒がいいな……って。優もその方がいいよねっ?」

「うん! みーくんもいっしょがいいっ」

 優がぱたぱたと駆け寄って、湊の足に抱きつく。
「ということなので」とばかりに春陽がスマートフォンを渡すと、湊はクスッと笑みをこぼした。

「わかった。じゃあ、三人で撮ろっか?」

 湊がスマートフォンを構えて、インカメラを起動させる。
 その一方で春陽は優を抱っこし、そっと湊の方に身を寄せた。……意識せずとも、肩と肩が自然と触れ合ってしまう。

「撮るよー?」

 どぎまぎしているうちにも、三人が画面に収まったところで、すぐにシャッターが切られた。

「よし、いい感じかも!」

「見せて――ほんとだ! 湊くん、上手っ」

 写真を確認すれば、全員の笑顔がしっかりと映っていた。
 春陽はつい感慨深げに見入ってしまう。自分と優が写っているのはもちろん、湊も一緒に写っているのが、なおさら嬉しく思えてならなかった。

「だけど、さすがにキリンは入らなかったね?」

「あっ」

 言われて気がつく。
 背後にそびえ立つキリンは、あまりにも大きすぎて、残念ながら画角には入っていなかった。

「ははっ、俺もそこまで手伸びないや。誰かにお願いしよっか?」

 湊の笑顔につられて、春陽もまた微笑みを浮かべてみせた。

「だね……!」


 その後も三人は、賑やかに園内をあちこち巡っていった。

 キリンがいたアフリカエリアを抜けて、猛獣エリアに鳥類エリア。昆虫や爬虫類の展示コーナーも見て回った。
 昼時には動物を模した可愛らしいランチプレートを食べ、優に付き合ってソフトクリームも半分こした。

 そうして、午後の柔らかな陽射しの下。三人が最後に立ち寄ったのは、園の一角にある「ふれあいコーナー」だった。

 ブースの中にはモルモットやウサギなどの姿があって、子供たちの明るい声がいたるところから聞こえてくる。
 係員の指導を受け、優の膝にモルモットを乗せてもらうと、恐る恐る小さな手が添えらえた。

「優しく撫でてあげてね」

 係員に促され、優はおっかなびっくりといった様子でモルモットの身体を撫でる。次第に、その手つきが柔らかくなっていくのがわかった。

「ふわああ~、かあいいっ!」

 うっとりとした表情でモルモットを愛でる優。

 呼吸に合わせて微かに上下する身体の動きが、命の重みをそっと教えてくれているようだった。
 か弱いながらに、ちゃんと〝生きている〟という確かな存在感。自分よりも小さな命を慈しむ姿といったら、見ているこちらの胸まで、じんわりと温かくなってくる。

(なんだかお兄ちゃんの顔してるや。優も、日に日に成長してるんだなあ)

 春陽はしみじみと浸りながら、我が子の様子を見守る。また、傍らでは湊も同じように、温かな眼差しを注いでいた。
 互いに気がつくと、何となしにアイコンタクトを交わす――のだが。

 そのとき、近くにいた係員が笑顔で声をかけてきた。

もよかったらどうぞー」

「おと……っ!?」

 思いがけない言葉に、湊が過剰なまでに反応した。
 誤魔化すように咳払いしつつも、耳がほんのりと赤くなっていて、なんともあからさまな態度だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない

潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。 いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。 そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。 一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。 たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。 アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

【オメガバース】替えのパンツは3日分です

久乃り
BL
オメガバースに独自の設定があります。 専門知識皆無の作者が何となくそれっぽい感じで書いているだけなので、マジレスはご遠慮ください。 タグに不足があるかもしれません。何かいいタグありましたらご連絡下さい。 杉山貴文はベータの両親の間に生まれたごく普通のベータ男子。ひとつ上の姉がいる29歳、彼女なし。 とある休日、何故か姉と一緒に新しい下着を買いに出かけたら、車から降りてきたかなりセレブな男と危うくぶつかりそうになる。 ぶつかりはしなかったものの、何故かその後貴文が目覚めると見知らぬ天井の部屋に寝ていた。しかも1週間も経過していたのだ。 何がどうしてどうなった? 訳の分からない貴文を、セレブなアルファが口説いてくる。 「いや、俺は通りすがりのベータです」 逃げるベータを追いかけるアルファのお話です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...