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エピローグ いつか番になる、そのときまで(2)
しおりを挟む「え……」
「番になって、俺と春陽さんの間にも、子供ができたらいいなって」
春陽はハッと顔を上げる。
湊の顔は、思った以上に真剣だった。いつものように優しく笑っているけれど、眼差しの奥には、決意のようなものが宿っている。
未来を見据えた言葉に、眼差しに、胸がいっぱいになるのを感じた。
「あのね、湊くん」
「うん?」
「実は……同じこと、考えてた」
真っ直ぐに湊の瞳を見つめながら、鼻先が触れそうな距離まで近づいていく。
そして、気持ちを込めるかのように、春陽は柔らかく唇を重ねてみせた。
しばらくして名残惜しむように唇を離すと、ふわりと微笑みを浮かべる。
「湊くんといると、いろんなこと考えられるんだ。すごく幸せな将来のこと。……少し前の俺からしたら、ちょっと信じられないくらい」
言いながら、ゆっくりと身体を戻した。くるりと反転するようにして、湊の腕の中へと収まる。
「優を産んだときもね? 周りの妊婦さんが、パートナーや親と幸せそうにしてるのが、正直羨ましかった。……でも次は、俺もあんなふうに子供を迎えられるんだって思うと、嬉しくてたまらない気分になっちゃうや」
春陽は自分でも驚くほどに、明るく笑っていた。
が、その一方。黙って耳を傾けていた湊が、抱きしめる腕の力を強めてくる。
「どうして、春陽さんが一番大変だったときに……俺はいなかったんだろう」
こちらの肩口に額を押し当てながら、湊はぽつりと呟く。
慌てて、春陽は振り返った。
「えっ? あ、そういうつもりで言ったわけじゃっ」
「大丈夫、わかってる」
湊は言葉を遮るように言った。
何も返せなくなった春陽は、ただ湊の腕に手を添える。いろんな感情の混ざった、せめてもの気持ちだった。
すると湊は深く息をつき、神妙な面持ちで顔を上げる。
「俺、春陽さんにも、優にも――生まれてくるだろう子にも、当たり前の幸せをたくさんあげたい」
決意に満ちた声が、静かなリビングに響いた。
春陽は呆然として湊のことを見つめる。その一言があまりにも真っ直ぐで、思わず息を呑んで固まった。
「湊くん……」
「みんな、みんな守っていきたい。誰一人として、悲しませたくない」
呟くように、祈るように、湊の声は続く。
「もっと大人になって、春陽さんに相応しい男に必ずなるから」
そう告げると同時に、春陽のうなじに柔らかな温もりが触れる。
不意にかき上げられた髪の下。むき出しになったそこへと湊の舌先が這い、ついで――力を込めて吸い上げてきた。
「っあ……!」
甘く痺れるような鈍痛。直後、春陽の口から吐息まじりの喘ぎが漏れた。
唇が離れたかと思えば、すぐにまた慈しむような口づけが落とされる。
……そこには、唇でつけられた鬱血の痕がくっきりと残って、その存在を主張していた。
「だから――春陽さんのここ、先約させて」
湊の声は真剣で、それでいてひどく穏やかだった。
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