疎かの果てに

夏目 透

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無題

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「???●●●」
ざわつく教室、話された瞬間確かに言葉の音は通る。そのはずなのに頭に残らない。
それが昔から変わらず在る僕だ。

SNSが普及し、資格なんてなくてもネット上に自分の情報を簡単に載せられるようになった。誰でも見られるは、誰かがどこかで見てくれているという安心感や希望になったのか、個々人の承認欲求の高まりに拍車をかけた。目の前のクラスメイトも自身の生活を垂れ流し誰かしらの評価をもらっている。

正直僕はSNSについてはいけていなかったけど、あまりに目の前の彼の投稿が多いものだから、通知と共に内容の確認をしていた。会話の支障を可能な限り記憶に残った情報で頷きを繰り返し、対応。そんな日々を繰り返し、気が付けば僕は彼の都合のいい聞き手として認知されてしまっていた。


だけどある日それは崩れた。
「おい、テキトーに返してんじゃねーよ」
偶然にタイミング合ったものが合わなくなると、関係が変わるのはあっという間だ。最初は笑いながら返してくるだけだった。でも回が増える事に彼の俺を見る目が変わった。
「お前本当は俺の話なんて興味なかったんだろ」
そうなのかもしれないと何も返せなかった。
彼は悲壮な顔を向けた後、俺の前を立ち去った。
一方的な会話では何も産まないことに。ようやく彼が気づいたようだった。

翌日から、俺に話しかけていた彼は別の誰かと笑い合う。
一人の休み時間が増えた。
俺は彼しか話せる相手がいなかったけど、彼にはいたんだな。

そう思っていたはずなのに。
「君、一人?」
「誰?」
知らない男子生徒が、俺に語りかけていた。
「全然興味なかったの?」
さらに続ける。
「なんの事?」

「彼だよ、スポーツ刈りの。いつも一緒に居たでしょ翠君」
なんで下の名前知ってるんだ。
「ああ、興味って言われるとよくわかんないかな。というか、君は誰?」
俺はなぜよく知らない彼と会話を続けているんだろう?
「僕はむら  澄晴すみはる、転校してから名簿見させてもらってクラス全員の名前暗記したんだけど、きれいな名前だなー、話してみたいなって思っていたんだよ」
名前か、それだけですごい行動力だな。
「改めて言うのもなんだけど、ご存知の通り俺の名前は東雲しののめ  すい。名前程の人でもないから、できれば苗字で呼んで欲しい。」
「なんでさきれいな名前だし珍しいのに。」
なんでそこまで必死なんだ。下の名前なんて俺には合ってないし、呼ばれる仲でもないはずだろ。
「東雲だって滅多に居ない。」
「でも、やっぱり綺麗だしせっかくだから翠って呼ばせてよ」
どうやらこの男諦めるつもりはないみたいだ。
「わかった。好きに呼べばいい。」
「じゃあ、僕のことも澄春って呼んでいいよ。」
「いや、邑でいい。」
「何でだよ。そこは澄晴呼びするとこだろー。」
こうして、むら  澄晴すみはると俺の関係が始まった。

後で気がついた事だけど、こんなにスムーズに言葉が聴けたのは初めてだった。頭に残る何かしらの条件はあるのかもしれない。
そんな期待が俺の中で少し芽生えたそんな一日だった。

                                                                  ー 終 ー
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