駆け落ちした王太子様に今更戻って来られても困ります。

木山楽斗

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13.事実を捻じ曲げるのは

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「イグルス殿下は平民であるラルルに、今回の件の責任を全て押し付けるつもりですか?」
「……そうするかどうかを断言することはできない。もちろん、ある種の言い訳は必要であると考えているが、ファナティアが考えているようなことかはわからない」

 私の質問に対して、イグルス殿下は曖昧な回答を返してきた。
 その口振りというものは、怪しいものである。やはり私が考えているようなことを、彼は実行しようとしているということだろうか。

「……イグルス兄上、言っておきますが、僕もラルルに責任を押し付けるということには反対です」
「ほう?」
「こういったことに関して、隠蔽したり事実を捻じ曲げたりすることが良いことであるとは思えません。そもそも既に王城に勤める多くの者達が、二人の失踪については把握しています。それらの者達を全て制御することは難しいことです」

 ウルグドは、どちらかというと私側の意見であるようだった。
 それはありがたいものである。彼の協力があれば、イグルス殿下の考えというものを覆せるかもしれない。

「ウルグド、私がどのような決定を下すかはともかくとして、お前の意見には反論できる。王家の権力があれば、この程度の事態は丸く収めることができるということだ。もちろん、お前の言う通り人の口に完全に蓋をするのは難しい。だが、噂などというものは自然と消え去るものだ」
「嘘をついていると知られれば、国民の印象は悪くなります。無論、今回の件だけで何かが起こるとは思いませんが、積み重なっていけばどうなるかわかりません」

 イグルス殿下は、真実を権力によって抑えつけようとしている。それは王族や貴族がよく使う手段だ。
 それが有効であるかどうかは、微妙な所である。場合によっては、真実を公表するよりも反感を買うかもしれない。
 今回がどちらの方が良いかは、正直わからない。ただ私としては、ラルルの名誉を守りたいというのが正直な所だ。

「イグルス殿下、エーファイン王国では平民の聖女というものは珍しいものです。ラルルの就任というものは、多くの国民達の興味を引いたことでしょう」
「……それがどうかしたのか?」
「彼女を今回の件の首謀者にして、万が一にもそれが漏れた場合、国民の反感は大きくなるということです。もしかしたらその事実だけで、反乱が起きるかもしれません」
「ふむ……」

 私の言葉に、イグルス殿下は今までと少し違う反応をした。 
 それは私の言葉が、留意するべきことであると思われたということだろう。
 そこで私は、ウルグドと顔を見合わせた。お互いに思ったのだ。イグルス殿下を説得することは、可能であると。
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