11 / 16
11.実家に戻って
しおりを挟む
「それで、姉さんはこっちに帰ってきたということかい?」
「うん」
「なるほど、姉さんらしい啖呵の切り方だね」
「そう言われると、少し恥ずかしいかも……」
アノート男爵家の屋敷に帰って来た私は、弟のイグニスに事情を話していた。
包み隠さず話してしまったが、もう少し言いようがあったのかもしれない。弟にからかわれて顔を赤くしながら、私はそう思っていた。
「まあ、僕は姉さんのそういった所には敬意を覚えているけれどね」
「またそうやってからかって」
「からかってなんかいないさ。姉さんは誇り高き人だと心から思っているよ。それはきっと、ヴィクトール義兄上にも伝わるはずさ」
「そ、そうかな?」
弟のイグニスは、微笑という表情を変えずに言葉を発していた。
この弟の感情の機微というものは、どうにもわかりにくい所がある。意図的に表情を変えないために、読み取り辛いのだ。
姉である私がここまで苦労するのだから、イグニスの妻になる人は大変であるだろう。もしもの時のために、色々と弟のことを紙にでも書き留めて残しておいた方が良いかもしれない。
「とはいえ、ヴィクトール義兄上も難儀なものだね」
「難儀……まあ、そうかもしれないね」
「僕などからすれば、レスカティア様の行為というものは輪を乱すものでしかなかったと思ってしまう。もちろん、病で倒れたことは可哀想だとは思うけれど、それで彼女の行いというものが正当化される訳でもないからね」
イグニスは、前妻であるレスカティア様のことを痛烈に批判した。
その言葉には、私も正直な所同意である。ただ、彼女のことはヴァングレイ伯爵家寄りであるエフェリア嬢から話を聞いただけだ。それを全て受け入れることは、ヴィクトール様の言っていた通り危険なことかもしれない。
「貴族なんてものは、酸いも甘いも噛み潰していくものだと僕は思っているけれど……」
「けれど?」
「そういうものでもないものなのかな? まあ、僕にはまだ婚約者もいない訳だし、わかることではないのかもしれないね」
「……私も完全にヴィクトール様の気持ちがわかる訳ではないかな」
どうやらイグニスは、話を聞いて自分をヴィクトール様の立場に置いて考えていたようだ。
それはもしかしたら、自分の未来に対するシミュレーションだったのかもしれない。
その結果、弟は少し揺れていた。実際に直面してみなければ、判断ができないと思ったのだろう。
それは当然のことだ。ヴィクトール様の気持ちなんてものは、当人の立場でなければわからない。エフェリア嬢だって、本当に状況を理解していた訳ではないのだ。
結局の所、本人の中で割り切りがつくのを待つしかない。今回の問題というものは、そういうものなのだろう。
「うん」
「なるほど、姉さんらしい啖呵の切り方だね」
「そう言われると、少し恥ずかしいかも……」
アノート男爵家の屋敷に帰って来た私は、弟のイグニスに事情を話していた。
包み隠さず話してしまったが、もう少し言いようがあったのかもしれない。弟にからかわれて顔を赤くしながら、私はそう思っていた。
「まあ、僕は姉さんのそういった所には敬意を覚えているけれどね」
「またそうやってからかって」
「からかってなんかいないさ。姉さんは誇り高き人だと心から思っているよ。それはきっと、ヴィクトール義兄上にも伝わるはずさ」
「そ、そうかな?」
弟のイグニスは、微笑という表情を変えずに言葉を発していた。
この弟の感情の機微というものは、どうにもわかりにくい所がある。意図的に表情を変えないために、読み取り辛いのだ。
姉である私がここまで苦労するのだから、イグニスの妻になる人は大変であるだろう。もしもの時のために、色々と弟のことを紙にでも書き留めて残しておいた方が良いかもしれない。
「とはいえ、ヴィクトール義兄上も難儀なものだね」
「難儀……まあ、そうかもしれないね」
「僕などからすれば、レスカティア様の行為というものは輪を乱すものでしかなかったと思ってしまう。もちろん、病で倒れたことは可哀想だとは思うけれど、それで彼女の行いというものが正当化される訳でもないからね」
イグニスは、前妻であるレスカティア様のことを痛烈に批判した。
その言葉には、私も正直な所同意である。ただ、彼女のことはヴァングレイ伯爵家寄りであるエフェリア嬢から話を聞いただけだ。それを全て受け入れることは、ヴィクトール様の言っていた通り危険なことかもしれない。
「貴族なんてものは、酸いも甘いも噛み潰していくものだと僕は思っているけれど……」
「けれど?」
「そういうものでもないものなのかな? まあ、僕にはまだ婚約者もいない訳だし、わかることではないのかもしれないね」
「……私も完全にヴィクトール様の気持ちがわかる訳ではないかな」
どうやらイグニスは、話を聞いて自分をヴィクトール様の立場に置いて考えていたようだ。
それはもしかしたら、自分の未来に対するシミュレーションだったのかもしれない。
その結果、弟は少し揺れていた。実際に直面してみなければ、判断ができないと思ったのだろう。
それは当然のことだ。ヴィクトール様の気持ちなんてものは、当人の立場でなければわからない。エフェリア嬢だって、本当に状況を理解していた訳ではないのだ。
結局の所、本人の中で割り切りがつくのを待つしかない。今回の問題というものは、そういうものなのだろう。
70
あなたにおすすめの小説
他人の婚約者を誘惑せずにはいられない令嬢に目をつけられましたが、私の婚約者を馬鹿にし過ぎだと思います
珠宮さくら
恋愛
ニヴェス・カスティリオーネは婚約者ができたのだが、あまり嬉しくない状況で婚約することになった。
最初は、ニヴェスの妹との婚約者にどうかと言う話だったのだ。その子息が、ニヴェスより年下で妹との方が歳が近いからだった。
それなのに妹はある理由で婚約したくないと言っていて、それをフォローしたニヴェスが、その子息に気に入られて婚約することになったのだが……。
この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです
珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。
でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。
加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。
結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?
宮永レン
恋愛
没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。
ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。
仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……
私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)
侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
一年付き合ってるイケメン彼氏ともっと深い関係になりたいのに、あっちはその気がないみたいです…
ツキノトモリ
恋愛
伯爵令嬢のウラリーは伯爵令息のビクトルに告白され、付き合うことになった。彼は優しくてかっこよくて、まさに理想の恋人!だが、ある日ウラリーは一年も交際しているのにビクトルとキスをしたことがないことに気付いてしまった。そこでウラリーが取った行動とは…?!
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる