お互いの幸せのためには距離を置くべきだと言った旦那様に、再会してから溺愛されています。

木山楽斗

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14.彼のもてなし

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「えっと……」
「む、どうかしたのか?」
「ああいえ、そのですね。これは全てヴィクトール様が作ったのでしょうか?」

 私は、目の前に並んでいる料理の数々を見ながら驚いていた。
 ヴァングレイ伯爵家にやって来たのが丁度昼過ぎであり、食事がまだだったため、いただくことになった。
 そこでヴィクトール様は、せっかくだから手料理を振る舞いたいと申し出て来たのだ。そもそもその提案に驚いたのだが、思った以上にきちんとした料理が出て来て驚いてしまっている。

「まあ、そうだな。一応、家のコックから習ったものだ。味はそれなりであるだろうが……」
「すごいですね……」
「コックの教え方が上手かったということだろう。是非とも、アムリア嬢に食べてもらいたかった。すまないな、俺のわがままを聞いてもらって」
「いいえ、謝るようなことではありませんよ。その、嬉しく思います」

 コックの方が料理の腕は上であるだろう。そのことをヴィクトール様は、気にしているようだ。
 ただ、私としては彼が私のためにこれを作ってくれたという事実に対して、途方もない喜びを抱いていた。
 目の前にあるものは、彼の思いやりの結晶ともいえる。お近づきの印とでも言うべきだろうか。今の彼が、私と分かり合おうとしていることが伝わって来る。

「それでは、いただいてもよろしいのでしょうか?」
「もちろんだ」
「いただきます」

 私は、手を合わせてから目の前のステーキにナイフを入れた。
 抵抗というものは感じられない。かなり柔らかいことが伝わってきた。
 見た目だけでは、ないということだろう。彼の料理の腕というものは、信じられるものであるらしい。

「美味しい、ですね……焼き加減も丁度良くて」
「そうか? そう言ってもらえると、俺としてもありがたい限りだ」
「……そうですか」

 ステーキを食べる私のことを、ヴィクトール様は優しい目で見つめてきていた。
 そうやって見つめられるのは、少々恥ずかしい。とはいえ、その優しい笑みはなんだか安心できる。こちらも思わず、笑みを浮かべてしまう。

「……所でこうして改めて見てみると、量が多いような気がしてしまいますね」
「うん? ああ、その辺りは気にする必要はない。あなたが望むだけ食べれば良いのだ」
「なんだか悪いですね……残さず食べたいとは思いますが」

 ヴィクトール様は、手厚いおもてなしで私を迎え入れてくれた。
 どうやらこれからのヴァングレイ伯爵家での暮らしというものは、楽しいものになりそうだ。それを感じながら、私は食事するのだった。
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