お互いの幸せのためには距離を置くべきだと言った旦那様に、再会してから溺愛されています。

木山楽斗

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16.過保護な彼と

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 ヴィクトール様が良い方向に考えを改めてくれたことは、嬉しいことである。
 その気持ちは、今でも変わっていない。本当に良かったと思っているのだ。
 ただなんというか、想像していなかったというか、想定していなかったことが起きているといえる。ヴィクトール様はどうやら、私が想像していたよりもずっと愛が深い人だったのだ。

「ヴィクトール様、私はもう大丈夫ですから……」
「アムリア嬢、無理は良くない。風邪というものは馬鹿にならないものだ」
「風邪という程ではありませんよ。少し大袈裟過ぎます」

 私は思わず、ため息をついていた。
 ヴィクトール様が大変優しい人であるということは、よくわかっている。
 ただ、私が少し咳をしたくらいでお医者様を呼びつけるというのは、いくらなんでも大袈裟だ。私は全然元気であるというのに。

「安静にしていてくれ。あなたにもしものことがあったらと思うと、胸が痛くなってくる。俺はあなたと、良き未来を築いていきたいと思っているんだ」
「それは私も同じです。でも、そういうことならもう少しだけ過保護をやめていただきたいと、思ってしまいます」
「用心に越したことはないだろう」
「いいえ、あります。あるんです」

 ヴィクトール様の気遣いというものは、決して嫌なものではない。それだけ私のことを、大切に思ってくれているということだからだ。
 とはいえ、今後のためにもこれにはきちんと反発しておかなければならない。無闇に受け入れられることではないことだけは、確かだ。

「……まあ、お兄様は大袈裟ですからね」
「エフェリア嬢……」

 そんな風にヴィクトール様と不毛な争いをしていると、エフェリア嬢がやって来た。
 彼女は、苦笑いを浮かべている。まさか妹であるエフェリア嬢も、この愛に触れたことがあるのだろうか。

「大袈裟などということはない。必要な措置をしているというだけだ」
「まあ、こんな感じだとは思いますが、どうか家の愚兄をよろしくお願いしますね。悪い人ではないんですよ?」
「あ、うん。それはよくわかっているから、大丈夫」

 エフェリア嬢の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 もちろん、これからもヴィクトール様とは良い関係でいたいと思っている。それについては、特に迷ってすらいない。私の中での確定事項だ。

 しかしながら、良い関係とは甘やかす甘やかされる関係ではない。その点において、履き違えてはならないのだ。
 もちろん甘やかすことも時には必要であるが、それが過度なものであるべきではないだろう。何事にも、限度というものが存在しているのだから。

「ヴィクトール様、あくまでも限度というものを考えてくださいね」
「俺は考えているつもりなのだが……」
「考えてこれなのですか……それなら、考えを改める必要があるということですね。まあ、その辺りは私もお手伝いしますから、問題はありません」
「そうか。迷惑をかけてすまないな……しかし、今日は休んだらどうだ?」
「休みません」

 ヴィクトール様の優しさに触れながら、私は思わず笑っていた。
 少々問題はあるものの、このような会話さえも楽しい。ヴィクトール様が心を開いてくれて、本当に良かったと思う。

 彼とならきっと良い未来に歩んでいける。それを私は確信していた。
 ただやはり、過度な甘やかしは厳禁だ。その点について、私はヴィクトール様にしっかりと教えていかなければならない。
 それはそれで楽しい時間になりそうだ。少し肩を落としているヴィクトール様を見ながら、私はそんなことを思うのだった。


END
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