2 / 104
第一章:詩乃 守人
1
しおりを挟む
「まだ起きてたの?」
深夜の自室で。
もう、誰も起きてはいないだろうと思っていた蛍里は、
背後から突然かけられた声に、びくりと肩を震わせた。
振り返る前に、慌ててタイトルバーの×印をクリックする。
パソコン画面がデスクトップに切り替わるのを確認すると、
蛍里は口を尖らせて声の主を向いた。
「ちょっと。部屋に入る時はノックくらいしてよ」
タオルでがしがしと頭を拭きながら部屋に入ってきた
弟の拓也にそう言うと、蛍里は努めて自然に髪を掻き上げた。
拓也が隣りに立つ。
「ドアが開いてたんだって。廊下に光が漏れてるから、
まだ、起きてるんだと思ってさ。ねーちゃん、何見てたの?」
親指でドアの方を指しながらそう言うと、拓也はノートパソコンを
覗き込んだ。蛍里は思わず、言葉に詰まる。検索画面でもなく、
どこかのホームページでもなく。風景画にいくつかのファイルが
張り付いているだけのデスクトップが表示されているのは、
返って不自然だったかもしれない。蛍里は少々ぎこちなくパソコンに
向かうと、検索エンジンをクリックした。
「別に。何か良い本ないかなーって、見てただけ」
「ふうん。また、本買うんだ」
「うん。悪い?」
「別に。ぜんぜん悪くないけどさ……」
何か言いたげにそう呟きながら、拓也は振り返って部屋の本棚を見た。
背の高いアンティーク調の本棚には、ぎっしりと本が詰まっていて、
新たに本が増えるならば、本と棚の隙間に寝かせて入れることになるに
違いない。それでも、また新たに本を探したいと思っていたのは、
本当のことだった。蛍里は自他共に認める、読書家なのだ。睡眠よりも、
3度の飯よりも、本を読んでいる時間が一番楽しい。そうして、本を読ん
でいれば寂しさを感じることもなかった。どちらかと言うと、蛍里は人と
接するのが苦手で、休日を共に過ごせる友人も少ない。もちろん、
それは男性に対しても同様で、まったく恋愛経験がないわけでは
なかったが、特定の恋人がいた時期は人生のごくわずかだった。
けれど………いまは密かに心をときめかせている相手が、いる。
蛍里は彼からの返事を思い返して、知らず、頬を緩めた。
-----その本を見つけたのは、偶然だった。
昼休みを終え職場に戻った蛍里は、自分のデスクの上に
見慣れぬ本が一冊、置いてあることに気付いた。誰のものだろう?
周囲を一度窺うと、蛍里は首を傾げながらその文庫本を手に取って、
パラパラとめくった。そうして、最後のページで手を止めた。
深夜の自室で。
もう、誰も起きてはいないだろうと思っていた蛍里は、
背後から突然かけられた声に、びくりと肩を震わせた。
振り返る前に、慌ててタイトルバーの×印をクリックする。
パソコン画面がデスクトップに切り替わるのを確認すると、
蛍里は口を尖らせて声の主を向いた。
「ちょっと。部屋に入る時はノックくらいしてよ」
タオルでがしがしと頭を拭きながら部屋に入ってきた
弟の拓也にそう言うと、蛍里は努めて自然に髪を掻き上げた。
拓也が隣りに立つ。
「ドアが開いてたんだって。廊下に光が漏れてるから、
まだ、起きてるんだと思ってさ。ねーちゃん、何見てたの?」
親指でドアの方を指しながらそう言うと、拓也はノートパソコンを
覗き込んだ。蛍里は思わず、言葉に詰まる。検索画面でもなく、
どこかのホームページでもなく。風景画にいくつかのファイルが
張り付いているだけのデスクトップが表示されているのは、
返って不自然だったかもしれない。蛍里は少々ぎこちなくパソコンに
向かうと、検索エンジンをクリックした。
「別に。何か良い本ないかなーって、見てただけ」
「ふうん。また、本買うんだ」
「うん。悪い?」
「別に。ぜんぜん悪くないけどさ……」
何か言いたげにそう呟きながら、拓也は振り返って部屋の本棚を見た。
背の高いアンティーク調の本棚には、ぎっしりと本が詰まっていて、
新たに本が増えるならば、本と棚の隙間に寝かせて入れることになるに
違いない。それでも、また新たに本を探したいと思っていたのは、
本当のことだった。蛍里は自他共に認める、読書家なのだ。睡眠よりも、
3度の飯よりも、本を読んでいる時間が一番楽しい。そうして、本を読ん
でいれば寂しさを感じることもなかった。どちらかと言うと、蛍里は人と
接するのが苦手で、休日を共に過ごせる友人も少ない。もちろん、
それは男性に対しても同様で、まったく恋愛経験がないわけでは
なかったが、特定の恋人がいた時期は人生のごくわずかだった。
けれど………いまは密かに心をときめかせている相手が、いる。
蛍里は彼からの返事を思い返して、知らず、頬を緩めた。
-----その本を見つけたのは、偶然だった。
昼休みを終え職場に戻った蛍里は、自分のデスクの上に
見慣れぬ本が一冊、置いてあることに気付いた。誰のものだろう?
周囲を一度窺うと、蛍里は首を傾げながらその文庫本を手に取って、
パラパラとめくった。そうして、最後のページで手を止めた。
0
あなたにおすすめの小説
恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-
プリオネ
恋愛
せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。
ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。
恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
夢見るシンデレラ~溺愛の時間は突然に~
美和優希
恋愛
社長秘書を勤めながら、中瀬琴子は密かに社長に想いを寄せていた。
叶わないだろうと思いながらもあきらめきれずにいた琴子だったが、ある日、社長から告白される。
日頃は紳士的だけど、二人のときは少し意地悪で溺甘な社長にドキドキさせられて──!?
初回公開日*2017.09.13(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.03.10
*表紙イラストは、イラストAC(もちまる様)のイラスト素材を使わせていただいてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる