恋に焦がれて鳴く蝉よりも

橘 弥久莉

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第五章:蛍の心

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途端に結子が口を尖らせる。くるくると、フォークに

パスタを巻き付けていた手を止め、蛍里を睨んだ。

「ねぇ、話聞いてる?」

「えっ?……っと、あれ……何でしたっけ?」

肩を竦めながら蛍里がそう答えると、結子は「もう」

と頬を膨らませ、再びフォークにパスタを絡め始めた。

「谷口さんの話。誰を呼んで、誰を呼ばない、っていう

線引きが難しいから、結婚式は本社の女子社員を

全員呼ぶんだって。確かにそうかも知れないけど、

たいして仲良くないのにお祝儀回収される子は

災難よね。折原さんだって、彼女と話したのなんて

ほんの数回でしょう?」

「まあ、そうですけど……」

ぱくぱく、と口紅が剥げないように上手にパスタを

口に運びながらそう言った結子に、蛍里はマルゲ

リータにタバスコを振りながら、複雑な顔をした。






あれから、滝田とは顔を合わせていなかった。

座敷に戻ってみたら、彼はすでに帰っていたのだ。

どうやら、急な仕事が入ったらしいと、結子は言って

いたけれど………真偽のほどは定かではない。

そして、しばらくして戻ってきた専務とも、蛍里が

言葉を交わすことはなかった。斜め前に座って

いても目が合うことすらなく………けれど彼は、

見ていないをしながら、ちゃんと自分のこと

を気にかけてくれていたわけで……

そういった事を、ぐるぐる頭の中で考えてしまえば、

結子の話はぜんぜん耳に入ってこなかった。

蛍里はタバスコを振りながら、ため息をついた。

このまま滝田と気まずくなってしまうのは嫌なのに、

どうすればいいかわからない。避けられていると

思っていた専務は、実はそうではないようで……

彼の心中もよくわからない。そして、詩乃守人。

彼からの返事も、未だ届いていなかった。

こういう状況を、二進にっち三進さっちかない、と、

言うのだろうか?とってもモヤモヤする。





「ちょっと、折原さん!」

また、思考のスパイラルに陥っていた蛍里の耳に、

突然結子の声が飛び込んできた。蛍里はピタ、と

手を止める。結子は眉間にシワを寄せている。

「それ……かけ過ぎじゃない?」

「……えっ」

結子にそう言われピザに目をやれば、罰ゲームの

ような光景が目の前にある。蛍里は「あああ」と

声を上げ、泣きそうな顔をした。

「あーあ。何やってんだか」

結子は苦笑いしながら、透かさずペーパーナプキン

を蛍里に差し出す。このペーパーで余分なタバスコ

を除けば、少しはマシになるということだろう。

「すみません……」

蛍里はペーパーナプキンを受け取って、ちょん、ちょん、

とそれにタバスコを染み込ませた。
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