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第六章:蛍の苦悩
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蛍里は得も言われぬ不安に駆られ、慌ててパソコンを
開いた。専務の連絡先はわからないが、あのサイトから
彼にメールを送れば、何か返事をくれるかもしれない。
蛍里は、お気に入りに保存してある詩乃守人の小説サイト
をクリックした。そうして、出てきたページに目を見開く。
そこに映し出されたのは、真っ黒な背景にちらちらと淡色
の花びらが舞う、見慣れた表紙ではなかった。
-----真っ白な画面の左上に「404NotFound」の文字。
「このURLは存在しない」、または「すでにページが削除
された」というエラーメッセージだ。
「えっ、なんで……?」
蛍里は信じられない思いで、もう一度、彼のサイトを開いた。
けれどそこにはエラーメッセージが表示されるばかりで、
詩乃守人のサイトは存在しない。蛍里はわけがわからず、
震える手を握りしめた。彼が詩乃守人だと知ってから、
あの緑道公園で彼に会った日から、このサイトは見ていな
かった。だから、いつサイトが削除されたのかも、わからない。
「どうして……」
蛍里は会社での彼の様子を必死に思い起こした。
最後に彼と話したのは、傘を貸したあの雨の日だ。
けれど、あれからもう半月以上が過ぎている。それに、
社内で顔を合わせれば彼は笑みを見せてくれたし、
仕事を頼まれたことだって、何度もあった。ひとつだけ、
気になることがあったとすれば、彼の不在が多かったと
いうこと。専務室で彼の姿を見ることが、少なくなっていた
のだ。ただ純粋に、仕事が忙しいのだと思っていた。
周囲も、特にそのことを気にしている様子がなかった。
蛍里は、はたと思い至って彼のSNSを開いた。
こちらも、あの日からずっと見ていなかったが、もしかしたら
彼が何か書き込んでいるかも知れない。けれど、SNSに
彼のアカウントは存在していたものの、更新日時はひと月も
前で途切れていた。蛍里は肩を落として、パソコンを閉じた。
彼と連絡を取るすべは、なかった。明日、早めに出勤すれば、
或いは、彼と話せるチャンスがあるかも知れないけれど……
蛍里はコートを脱ぎ、ハンガーにかけた。そうして、そのまま
うつ伏せでベッドに倒れ込んだ。
どうして急に、合併などという話になったのだろう。こういう事態
を回避するために、専務は秋元紫月との結婚を決めたのでは
なかったか?少しだけ冷静さを取り戻した頭で、蛍里は考えた。
そして、一つの可能性に思い至る。もしかしたら……
彼が秋元紫月との婚約を破棄したのではないかという、可能性。
-----まさか。
蛍里は、ゆっくりと体を起こした。急激に口の中が渇き、心臓は
どきどきと、早鐘を打っている。
開いた。専務の連絡先はわからないが、あのサイトから
彼にメールを送れば、何か返事をくれるかもしれない。
蛍里は、お気に入りに保存してある詩乃守人の小説サイト
をクリックした。そうして、出てきたページに目を見開く。
そこに映し出されたのは、真っ黒な背景にちらちらと淡色
の花びらが舞う、見慣れた表紙ではなかった。
-----真っ白な画面の左上に「404NotFound」の文字。
「このURLは存在しない」、または「すでにページが削除
された」というエラーメッセージだ。
「えっ、なんで……?」
蛍里は信じられない思いで、もう一度、彼のサイトを開いた。
けれどそこにはエラーメッセージが表示されるばかりで、
詩乃守人のサイトは存在しない。蛍里はわけがわからず、
震える手を握りしめた。彼が詩乃守人だと知ってから、
あの緑道公園で彼に会った日から、このサイトは見ていな
かった。だから、いつサイトが削除されたのかも、わからない。
「どうして……」
蛍里は会社での彼の様子を必死に思い起こした。
最後に彼と話したのは、傘を貸したあの雨の日だ。
けれど、あれからもう半月以上が過ぎている。それに、
社内で顔を合わせれば彼は笑みを見せてくれたし、
仕事を頼まれたことだって、何度もあった。ひとつだけ、
気になることがあったとすれば、彼の不在が多かったと
いうこと。専務室で彼の姿を見ることが、少なくなっていた
のだ。ただ純粋に、仕事が忙しいのだと思っていた。
周囲も、特にそのことを気にしている様子がなかった。
蛍里は、はたと思い至って彼のSNSを開いた。
こちらも、あの日からずっと見ていなかったが、もしかしたら
彼が何か書き込んでいるかも知れない。けれど、SNSに
彼のアカウントは存在していたものの、更新日時はひと月も
前で途切れていた。蛍里は肩を落として、パソコンを閉じた。
彼と連絡を取るすべは、なかった。明日、早めに出勤すれば、
或いは、彼と話せるチャンスがあるかも知れないけれど……
蛍里はコートを脱ぎ、ハンガーにかけた。そうして、そのまま
うつ伏せでベッドに倒れ込んだ。
どうして急に、合併などという話になったのだろう。こういう事態
を回避するために、専務は秋元紫月との結婚を決めたのでは
なかったか?少しだけ冷静さを取り戻した頭で、蛍里は考えた。
そして、一つの可能性に思い至る。もしかしたら……
彼が秋元紫月との婚約を破棄したのではないかという、可能性。
-----まさか。
蛍里は、ゆっくりと体を起こした。急激に口の中が渇き、心臓は
どきどきと、早鐘を打っている。
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