魔剣士と光の魔女(完結)

わたなべ ゆたか

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四章 魔王激突

四章 その4

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    4

 俺の魂は、今まさに風前の灯火だった。
 ジン・ナイトという存在は、すでに半分以上も魔王の魂に飲み込まれていた。抗おうにも、迫り来るヘッドライトの幻影が何度も現れては、俺の意思を削いでいった。
 しかし、それ以上に魔王が身体に巣くっていたという事実が、俺を打ちのめしていた。
 忌み子ということで、差別を受けてきた。しかしそれは、この世界の文化が遅れているからだと思っていた――それなら、まだマシだった。

 結局は俺が間違っていて、忌み子を忌避してきた彼らが正しかったのだ。

 愛する少女と平温に過ごすなど、おこがましい。元から俺には、そんなことを願う資格すらない――そんな絶望感が、俺から生への執着や気力を根こそぎ奪っていた。
 少し前から、微かにステフの声が聞こえていた。しかし、それも今の俺には、さらなる苦痛を与えるだけだった。
 声を聞いて沸き起こる、ステフに会いたいという渇望。そして、こんな身体でステフに会うことはできない――このまま魂ごと消え去るべきだ、という諦め。この相反する二つの想いがせめぎ合い、俺は臓腑から搾り出すような、狂気に満ちた絶叫をあげ続けた。

 為す術も無く、今まさに俺の魂が消滅しかけたとき、辺りを暖かな光が包み込んだ。視界が光に包まれた世界で、俺は向き合っている一組の男女を見た。
 男はたてがみのあるライオンのようなた風貌で鎖帷子や脛当て、籠手を身につけた――魔王ヴィーネ。
 そして女性のほうは、白銀の髪を後ろで金糸のネットによって束ね、白いドレスのような衣に身を包んでいた。
 ヴィーネは女性を前に、僅かに目を細めた。

〝シャプシャ――なぜ、ここに?〟

〝器である少女の強い願いが、わたくしをここに導いたのです〟

 女性――女神シャプシャは、たおやかに微笑むとヴィーネへと近づいていった。

〝ジン・ナイトをお助け下さい。貴方も彼を犠牲にすることは、本意では無いはず〟
〝それは――できぬ相談だ。なぜ魔王の一柱である俺が、人間の魂などに情けをかけねばならぬ〟

 ヴィーネが吐いた否定の言葉に、シャプシャは微笑みながら首を左右に振った。

〝自分に嘘を吐いてまで、魔王であり続ける必要はありません。今では神話の時代と呼ばれている遙か昔、貴方は人の世に興味を持って――わたくしは人々に太陽の恵みを与えるために、現世に転生していましたね。運命の巡り合わせから、わたしたちは出会い、惹かれ合い――そして愛し合いました〟

 衝撃の真実を語るシャプシャは、両手をヴィーネの頬に添えた。

〝わたくしが愛した貴方は、他者を犠牲になど出来ない、高潔さを持ち合わせておりました。今でもそうなのだと、信じております〟

〝昔の――話だ〟

〝いいえ。時の流れなど、わたくしたちにとって如何ほどの意味がありましょうか。今でも、わたくしはあなたとの絆を感じています。あなたは――今でも、あの頃のまま〟

 慈しむようなシャプシャの表情から目を背けるように、ヴィーネは虚空を見上げた。

〝忘れろと――言ったはずだ。そうすれば、幸せになれると〟

〝どうして、忘れることができましょう。あの頃に感じた幸せは、貴方と共にあったのですから。そして今――器となった少女と少年を介しているとはいえ、再び貴方と共にいられる幸せを、奪わないで……愚かなわたくしの願い、どうか聞き届けて下さい〟

 シャプシャの懇願を黙って聞いていたヴィーネが、不意に彼女の身体を抱きしめた。

〝愚かなのは……俺のほうだ。この想い、未だ忘れることが出来ぬ〟

 しばらく無言で抱きしめあったあと、ヴィーネはシャプシャの身体を離した。
 惜しむようにヴィーネから離れたシャプシャは、憂いのある美しい顔を俺に向けた。

〝ジン・ナイト――悔いることも、自身の運命を嫌悪することもありません。どうか、貴方を愛し、そして貴方が愛す少女を信じて――二人で、幸せを紡いで下さい〟

 俺はその意味を訊こうとしたが、声が出なかった。
 女神の姿が霧散するかのように消えたあと、ヴィーネもまた、俺を見た。

〝……その、なんだ。女神と少女に免じて、此度は身体を返そう〟

 居心地が悪そうに視線を背けると、空中に描いた魔方陣を俺に投げてよこした。
 俺の中に魔方陣が入るのを満足そうに眺めてから、ヴィーネは自らの身体を黒い渦の中に包み込んだ。

〝餞別に知識を一つ、くれてやる。強くなれ! 少なくとも、俺が二度と表に出ることがない程度にはな。そして、幸せを掴め。その資格は充分にある〟

 神魔の言葉に背中を押され、自ら科した束縛という呪いが解けていくのを感じたとき、俺の魂は光の世界から引き戻されていった。

   *

 俺やヴィーネが光の世界に居たのは、一秒に満たない時間だったようだ。
 モロークがメイスを構え直す前で、ヴィーネがアストローティアへと首を向けた。

「公爵殿――わたくしは、また身を潜めたく存じます」

「は? ちょっと待って。王が、あんたを探してるんだけど――っていうか、あたしは行方不明の魔王たちを探してるんだし。ここで消えて貰ったら、困るんだけど」

「魔王をすべて集める……と。王はこの世界の破滅――カスタトロフィーがお望みか?」

「知らないわよ、そんなの」

「左様で――しかし、申し訳ありませんが、今しばらくお待ち戴きたい。せめて、この器が朽ちるまでは。それは、貴女も望んでおられるはずですが」

「な、なんでそんなこと」

 あからさまに狼狽えるアストローティアに、ヴィーネは微笑みながら告げた。

「貴女には、裏切りの気配がない。それが理由です」

 ヴィーネが顔をモロークへと戻したとき、身体の支配権は俺の魂に戻っていた。
 身体の中から精霊たちが抜けていくのが、わかる。異形となっていた姿が元に戻り、たてがみが、はらはらと抜け落ちた。身につけていたはずの胴鎧はない。左の小手とブーツは、まだ残っていた。右手には負傷の影響か、微かな違和感が残っている。
 モロークを睨みながら、まだ新品である短剣を抜くと、俺はデフォルメサイズに戻った精霊たちを見た。

「力を貸してくれ」

 今なら、不可能だったこともできる気がしていた。それは、魔女たちの指導による技術の上達。それとヴィーネがくれた、知識からくるものだ。

〝人間に戻ったか――愚かな〟

 ゆっくりと迫ってくるモロークに、俺は口元に笑みを浮かべてみせた。

「さて――反撃の時間だ。四大精霊よ、我が四方に!」

 命令に従い、精霊たちが四方に分かれながら俺の周囲に集まり、儀式としての体制を整えた。俺は精霊たちから流れ込む力を制御しながら、短詠唱を唱えた。

「四大精霊よ、我が剣に宿れ! ムヒカン・バース――エ・サ、ウ、シ、ノ!」

 四大精霊が短剣の周囲で渦を巻く。四大精霊の魔剣術は、消費する魔力も桁違いだ。しかし、俺は無呼吸で二〇〇秒は全力疾走できるだけの肺活量を持っている。それは呼吸で気を取り込む量――すなわち魔力の供給量が、それだけ多いことを意味する。
 加えて、転生者は体内に蓄える魔力の量が多い。俺の体内にある魔力は、枯渇するぎりぎりのところで、魔剣術の行使に耐えた。
 俺の魔力を糧に形の解けた精霊たちが互いに絡み合い、一つの力――四つの属性から外れた第五の元素、エーテルの刃へと変化した。

「魔剣――空」

 俺は袈裟斬りに短剣を振るうと、天井近くまで伸びたエーテルの刃で、モロークの身体に斬りつけた。
 いや――正確には空間ごと、モロークの身体を切り裂いていた。痛覚は感じていないようだが、モロークの身体は次第に、空間の切れ目に吸い込まれ始めた。

〝こ――くそ、覚えておれ! 次にまみえた暁には、貴様らを叩き潰してくれるぞ!〟

 その怒鳴り声に、アストローティアの目が据わった。      

 「――は? あんた、あたしに喧嘩売る気?」

 目の据わったアストローティアは、身体の半分を空間の切れ目に吸い込まれたモロークの前で、漆黒の渦に身を包んだ。
 黒い渦から姿を現したのは、元の姿に戻った魔王アストローティアだ。憤怒の炎をその身に纏いながら、モロークへと歯を剥いた。

〝妾が公爵の第五位、アストローティアと知っての暴言か!?〟

〝まさか――め、めめ、滅相もございません。あのようなお姿でしたので――お許しを〟

〝言い訳などいらぬ〟

 卑屈な懇願をひと言で切り捨てると、アストローティアは空間の切れ目に消えゆくモロークに、怒気をはらんだ声で告げた。

〝半端な貴様など、魔界にはいらぬ。このまま六次元の彼方に消え去ってしまえ〟

〝そ、そんな――〟

 巨躯に似合わぬか細い声をあげながら、モロークは空間の切れ目に消えていった。
 モロークが消える光景を目の当たりにし、イミョウバンが声を震わせた。

「な……ば、馬鹿な……こんな小僧が、魔王を斃すなど……」

 俺は短剣を鞘に収めると、畏怖の表情を浮かべるイミョウバンへと歩を進めた。

「アストローティア。あとは俺がやる」

〝じゃあ任せた〟

 軽い口調で応じると、アストローティアは魔槍を退いた。その横を通り過ぎた俺は、両手を固く握りしめた。

「さて、あんたが最後の障害だ」

「く――サグドラン、バグラス――」

 短詠唱を唱え始めたイミョウバンへ、俺は素早く距離を詰めた。ヤツの視線がこちらを追ったとき、すでに俺は渾身の力を込めた拳を叩き込んでいた。
 なんの小細工もない、ただ真っ直ぐに突き出した俺の拳が、イミョウバンの左頬にめり込んだ。両足で踏ん張って体重を乗せた拳を受け、イミョウバンの身体は一マールほど吹っ飛んだ。

「ぐぎゃはっ!!」

 短詠唱を中断したイミョウバンは、短い悲鳴をあげ、壁に凭れかかった。
 俺はイミョウバンを睨み付けながら、右の拳を顔の前まで挙げた。

「さて……さっき、ステフをどうするって言った?」

「な――貴様、こんなことをして、ただで済むと思うなよ!」

「え? ああ――俺のことなんか、どうでもいいんだよ。ステフを娶るだの、服従させるだの、巫山戯るな。あんたなんかに、ステフは渡せない」

 俺がさらに拳を握り締めたとき、背後でアストローティアが身じろぎした。

「もう、音を封じる魔術は切れてるから多分、今の会話はステフたちに聞かれてると思うんだけど……まあ、いいか」

 このときの俺は、背後のことなどまったく気にしていなかった。

「ステフや迷宮のことは、諦めると誓え。今、ここでだ」

「忌み子風情が――貴様如きに、誰が従うか」

「あ、そう」

 言うなり、俺はイミョウバンに殴りかかった。
 右で、左で、イミョウバンが床に倒れたら馬なりになって、目が腫れ、顔の形が変わり、歯が折れるのも構わずに、ひたすら殴り続けた。
「ふぁ、ふぁへぇ……はひぃはへる、はひぃふぁひぇるふぁら……ほう、ふぁめてふへぇ――」

 すでに、まともに喋れなくなっているのだろう。恐怖で萎縮したイミョウバンは、ろれつが回らないまま、なにかを告げた。

 しかし完全に頭に血が上っていた俺は、その言葉の意味を掴もうとはしなかった。

「……なにを言ってるのか、わからないな」

 トドメとばかりに、渾身の一撃を顔面の中央に見舞うと、鼻血を出しながらイミョウバンは床に伸びた。
 立ち上がった俺は、背後にいたアストローティアを仰いだ。

「こいつに、どんな形であれ魔術に関わらない、どんな形であれステフに危害を加えず、近寄れなくする――そんな束縛とかできる?」 

「あんたねぇ……あたしを誰だと思ってるのよ?」

 アストローティアは踏ん反り返ると、尻尾の先端をイミョウバンの胸板に突き刺した。
「そんなの出来るに決まってるし。面白そうだから、やるに決まってるじゃない」
 そう言って口元に笑みを見せた直後、アストローティアの尻尾が脈打った。
 そのショックで覚醒したイミョウバンに、アストローティアは告げた。

「イミョウバンだっけ。今後、魔術を使ったり関わろうとしたとき。ステフに何かしらの悪さをしようと画策や実行したとき。ついでに、チーズを食べたときと嘘を吐いたとき、異性と交わった瞬間に、あんたの魂はゴキブリに転生するから。そのつもりでいることね」

「ふぉ――ほんはぁ……ほんふぁふぉほふぁ……」

 愕然と全身の力が抜けるイミョウバンの姿に、俺は少し引き気味にアストローティアを見上げた。

「ゴキブリとか……えげつな」

 俺の非難を聞いて、魔槍を持ってない手をワキワキと動かしながら、アストローティアは叫んだ。

「顔が変形するまでボコボコにした、あんたがそれを言う!?」

「いや……どっちが酷いかと言われれば、そっちのが酷いと思うけど。チーズとかさ」

「あんたねぇ――じゃあなに、呪いを解けっていうの?」

「いや……いいや。なんか、不幸な……事故だったってことにしとく」

 色々と諦めて貰おう。自業自得なんだし。

「ふぁらしふぉ、ふぃんふぇいふぁ……ふぁいなふぃに……」

 なにかを呟き続けているイミョウバンを強引に立ち上がらせると、俺は拾い上げた長剣をヤツの背中に突きつけた。

〝でも試験官を殴っちゃってさあ。試験、受かるかしらねぇ?〟

 現状を楽しんでそうな声でそう言うと、アストローティアは腕を組んだ。

「さあね。正直、今はどうでもいいや。とりあえず、ステフの危機は無くなったんだし」

〝まーね。でも感謝してよ? あたしがいなかったら、やばかったんだからね〟

 ――きたか。

 ある程度は覚悟をしていたが、ここで借りを作ってはいけない――本能的な部分が、俺にそう告げていた。

「感謝って言われても、モロークだっけ? あいつを斃せてないじゃん。結局は俺が追い払ったんだしさ。それで借りって言われてもなぁ」

〝な――なによその言いぐさっ!! ほかにも色々とやってあげたじゃん!〟

「そこは、契約の範疇でしょうに」

 俺の反論に、アストローティアは通路全体に響くような大声で怒鳴った。

〝あんた、契約を反故にする気!? 魔王を裏切るリスク、わかってるんでしょうね!〟

「契約を反故にするなんて、言ってないよ。ただ、最初からその姿だったら、モロークとの一戦は無かったかもしれないでしょ。前から思ってたけど、そういうところ抜けてるっていうか――馬鹿?」

〝誰が馬鹿よ! 馬鹿って言うほうが馬鹿なんだからね! バーカ、バーカ!〟

「せめて、もっとマシなこと言い返しなよ……魔王のくせに情けないなぁ。そんなレベルだったら、俺も程度合わせるよ? おまえの母ちゃんでーべそ」

〝な――なんで出べそのこと知ってるのよ!? お母様を馬鹿にしないで!〟

 ……マジか。

 煽りだけならともかく、見た目のことを馬鹿にするのは、よろしくない。そこは反省しなきゃ――というか、魔族が出べそだなんて想像できないんだけど。
 とはいえ、ここで退くつもりは一切無い。俺は態とらしく、盛大な溜息を吐いた。



 このとき、魔術師ギルド本部の広間では、魔術師たち――ステフやクレアらを除いた――が、恐れおののいていた。
 それは魔王アストローティアや、忌み子に潜む魔王ヴィーネに対してではない。

「もしかして、裏で駄目魔王とか言われてない? 略して駄王とか」

〝はあぁぁぁっ!? むかつくーっ!! むかつくっ! むっかつく! あんた、絶対にモテないからね!〟

「そんなこと、とっくに自覚してるし。へーきだし」

 魔王相手に、平然と低俗な言い争いを続けるジン・ナイトという少年に、魔術師たちは混沌たる深淵を覗き込むような、名状しがたい恐怖と狂気を感じていたのだ。

   *

 罵詈雑言大会は、五分間の勝負ののち、引き分けで終わった。

 ……くそっ。次は勝ってやる。

 その誓いを胸に、俺はイミョウバンを先に歩かせながら、通路の奥を目指した。もちろん、長剣はヤツの背中に向けている。
 イミョウバンが突き当たりにある扉を開けると、そこは上り階段になっていた。
 薄暗いが、視界は確保できる程度には、魔術による光が灯されていた。イミョウバンを先頭に階段を上る途中で、俺の身体がふらつき始めた。
 先ほどの魔剣術・空で体内の魔力がほぼ尽きかけていたのか、この前のステフと似た症状――スタミナ切れを思わせる身体のふらつきと、思考力の低下が起きていた。
 ヴィーネの魔力で負傷を固定していた右手も、再び痛み出していた。
 俺はイミョウバンに身体の不調を悟られないよう、痛みを我慢しながら、剣を握る手に力を込めた。
 今の体調では、魔力を視ることは難しい。先ほどの呪いがあるから魔術を使われることはないだろうが、不意の反撃に対応できそうになかった。
 そんな緊張せねばならない場面だったが、俺の中に状況に不釣り合いな、強烈な欲求が沸き上がっていた。それは試験が終わった安堵からくるものか、それともイミョウバンの一件があった所為か――。
 俺は少しでも早くステフに会いたいと、そればかりを考えていた。
 脳裏に、ステフの笑顔がいくつも思い浮かぶ。思考が鈍っているせいか、それを振り払おうという考えも起きず、俺は現実と虚像を交互に見る羽目になった。
 しばらくして、直角に左へ曲がる階段を上がると、すぐに両開きの扉があった。
 イミョウバンに扉を開けさせると、その中は広間になっていた。多くのローブを着た魔術師たちの視線を感じたとき、ふらつきながらイミョウバンが前へと進んだ。

「た――たすふぇてくふぇぇ! ふぉのおふぉこが、わらひにふぁんほうを!」

 イミョウバンは叫ぶように訴えたが、誰も反応しなかった。なおも助けを求めるイミョウバンだったが、横から飛び出した人物によって取り押さえられた。

「……久しぶりだな、《影の牙》」

 スターリングに睨まれ、イミョウバンは露骨に狼狽えていた。しかし、すぐに首を振りながら、愛想笑いを浮かべるように口を歪めた。

「な、なんふぉことで――」

「誤魔化さなくともよい。数日ではあるが、貴様に操られていたのだ。声や仕草はしっかりと覚えているぞ? 貴様はキャッスルツリー領内での誘拐未遂、村への襲撃の首謀者として、手配がかけられている」

 顔を上げたスターリングは、周囲にいる魔術師たちへと告げた。

「この者は、キャッスルツリー領にて拘束、裁きを受けさせる。異存がある者は後日、御領主へ異議を申し立てよ!」

 拘束されたイミョウバンから視線を外したとき、俺は辺りを見回しながら歩いているステフと目が合った。俺が手を挙げた途端、ステフは今にも泣きそうな顔で駆け出した。

「ジンっ!」

 まるで吸い込まれるように、ステフが俺の胸に飛び込んできた。

「怪我はない? 意識は……ジンの意識は戻ってる?」

 不安げなステフの言葉をどこか遠くで聞きながら、俺は帰宅したときにする挨拶のことを思い出していた。
 もはや習慣だった挨拶をするべく、俺はステフの頬に顔を寄せてチークキスをした。

「……ただいま」

「――え? あ、ジン、あ、あの……」

 普段と違う、狼狽えたステフの表情をぼんやりと眺めていた俺に、ステフは察したように目を瞬いた。

「ジン、もしかして魔力を使いすぎた?」

「うん? ああ……そうみたい」

 素直に頷くと、ステフは少し目を細めながら、俺の右頬にチークキスをした。

「お帰り、ジン」

 ステフの言葉を聞いて、俺はようやく帰って来たという実感が沸いた。

 ホッと息をついた俺は、ここでようやく、周囲のざわめきに気づいた。俺とステフを囲む魔術師たちが、俺たちを見ては驚き、なにかを話し合っていた。
 この衆人環視の中でチークキスしたことに、今更ながら気づいた俺は、顔を真っ赤にさせながらステフへと向き直った。

「……えっと、みんなが居るって、言ってくれてもいいんじゃ」

「そんなこと言われても……有無を言わさずチークキスをしたのは誰?」

「……俺です。ごめんなさい」

 素直に謝りはしたが、一つだけ疑問点が残った。

「それなら、なんでチークキスをやり返してきたの?」

「え? だって……あ、いいんだって思って」

 少し照れながら、ステフは答えた。そして……クレアさんはきっと、俺の左斜め後ろにいるはずだ。さっきから、殺気がヒシヒシと伝わってきていた。

 ……あとで、殺されないといいなぁ。

 若い男の声が広間に響き渡ったのは、丁度そんなときだった。

「皆、静粛に!」

 北側にあるバルコニーに、年若い男が立っていた。白いローブに、頭髪も白い。線の細い美形だが、目が赤い。どこの国かはわからないが、かなり珍しい人種だった。
 男の声で、広間にいた魔術師たちが、一斉にひざまずいた。周囲と一緒にひざまずいたステフが、「ジンもひざまずいて」と囁いてきた。
 俺もひざまづくと、男は良く通るバリトンの声で、高らかに告げた。

「若き受験者のために、よく集まってくれた。さて、ジン・ナイトよ。立ち上がるがいい」

 言われるまま、俺は立ち上がって男を見た。

「若き魔術師よ。見事に試練を突破した今、おまえは魔術師ギルドに入門する資格を得た」

「……本当ですか?」

 ぼんやりとした俺の問いに、男は口元に笑みを浮かべた。

「導師たちから色々と異論はでそうだが、試験には合格だ。予想以上の結果だったぞ。魔術師ギルド内に潜んでいた、不届き者を炙り出すこともできた」

「あの、まさか……そいつを炙り出すために、俺を利用したってことは……?」

「結果的には、そうなるな。もっとも、当初はそういうつもりではなかったが」

 この返答に俺が絶句としていると、男は苦笑した。

「そんな顔をするな。その代わり、手助けもしてやっただろう?」

「手助け?」

「そうとも。ふむ……少し待て」

 男がなにやら呟くと、その顔が徐々に変わっていった。瞳は赤から青、髪も金髪に変わった。そして、顔の輪郭も見覚えのあるものへと変化していった。

「これなら、納得するかな?」

「連絡員の魔術師――」

 驚きすぎて唖然としていた俺の隣で、ステフが擦れた声をあげた。
 そんな俺たちの反応に、「してやったり」という顔をして、男は両手を広げた。

「そうとも。ジンには、本来なら知り得ないはずの名を伝えておいた。オーレン・カルシ・サムカ。魔術師ギルドの長である、私の名をな」

 男――いや、長の言葉を聞いて、俺の中に一つの疑念が浮かんだ。

「あれ? あの、オーレンって創設者って言われた気が……すごく若いですけど」

「そうとも。わたしが創設者にしてギルドの長、オーレン・カルシ・サムカだ。言っておくが、見かけよりも長く生きているのだよ。私は」
 長の返答を聞いて戸惑っていた俺に、ステフがそっと小声で告げてきた。

(ジン……長の口元をよく見て)

 言われるままに長の顔を凝視した俺は、その口元から鋭利な犬歯が見え隠れしていることに気づいた。

(なんか、ドラキュラみたいだね)

(ほとんど正解。長は、吸血鬼って噂よ)

 ……マジか。

 俺が驚いているあいだにも、長の言葉は続いていた。

「ジン・ナイトよ。今後も師匠とともに、魔術師として精進せよ。期待しているぞ?」
 長の言葉に頷いたあと、俺は横にいるステフに肩を竦めながら、囁き声で話しかけた。

(だってさ)

(あはは……)

 俺たちが苦笑いを浮かべ合ったとき、長の視線が俺たちの横方向――スターリングとイミョウバンに向けられた。そちらに気を取られた俺は、ステフの瞳が陰ったことに、気がつかなかった。

「さて、イミョウバン導師。貴様の裁きはキャッスルツリー領に任せるが、魔術師ギルドとしての処分を下す。人を攫い、売る。その行為は魔術師ギルドの理念とは、遠くかけ離れたものである。よって、理の杖を没収。ギルドから除名とする」

「お……お待ちくだひゃい……わたふぃは、お役にに立てまひゅ……除名ふぁけは……除名だふぇは、どうふぁ、お許しくだふぁい……」

「ほお……貴様のしてきたことを許せと? ならば、条件がある。貴様が攫い、売り払ってきた者たちを、すべて故郷へと戻せ」

「そ、それふぁ……不可能で……。わらひはただ、研究費のふぁめに……どうか、お許しふぉ。わたしの人生が、すべて無駄にふぁってふぃまいます……」

「研究費のため……か。だが、今では欲望が優先ではなかったか? 散々、他者が送ってきた人生を無駄にしてきたのだ。ならば貴様の人生が無駄になるのも、当然のことと知れ」

 長の通告を聞いて、がっくりと項垂れたイミョウバンは、魔術師の一人に理の杖を取り上げられ、さらにスターリングの手によって縛り上げられた。

「それにだ。トスティーナの迷宮を奪い、魔術師ギルドの一員である魔女を無理矢理に娶るとか言っていたな? あの迷宮の意味も知らずに、よくも言えたものだ。あの迷宮は、わたしと、ジュザブロー老師とで完成させたものでな。予言にある二人の子――つまり、忌み子と光の魔女が人外へと変貌したとき、彼らを封じる檻となる。貴様程度が、手に入れていい代物ではない」

 この言葉で俺は、ステフが迷宮のことを牢獄と言っていたのを思い出した。
 顔に戸惑いの色を浮かべていた俺に、長が声をかけてきた。

「元に戻るのがあと五分も遅れたら、魔王ヴィーネは迷宮に召喚され、永久に封印されただろう。ジン・ナイト、今の話を聞いて驚いたか?」

「あ……いえ、まあ、そうだろうなと、今なら理解できます」

「そうか。ならばよい」

 長は頷くと、魔術師たちに指示を出して、イミョウバンと彼を捕らえたスターリングを広間から退室させた。
 それを目で追ってから、長は改めて俺を見た。

「ジン・ナイトよ、今日は泊まっていくといい。破損した鎧を修復させよう。あれには、魔王の力を弱める効果がある。今回の魔王化は、鎧の破損も原因の一つだろう」

「特別製って、そういうことだったのか……」

 俺が納得した顔をすると、長は改めて高らかな声をあげた。

「さて、皆に告げる。此度は首謀者のみの罰としたが、協力者がいることは把握済みだ。己の欲で背信行為に及ぶことを、我は許さぬ――次はないと心せよ!」

 長が広間全体に響くように告げると、魔術師たちは一斉に頭を垂れた。

「さて、このあとはキャッスルツリー領の領主より、祝辞がある。しばし待たれよ」

 広間を見回してから、長はバルコニーの奥へと退いていった。
 そのあと、俺は魔力枯渇の反動のせいか、しばらくのあいだ広間で呆けていた。気分が落ち着いてから辺りを見回すと、ステフとクレアさんが居なくなっていた。

「……あれ?」

 俺が周囲を見回していると、緑色を基調とした、小綺麗な衣服に身を包んだクレアさんがやってきた。首から、葉っぱをモチーフにしたペンダントもしている。

「黒髪君……あなた、なにをやってるのよ。そんな格好で領主と謁見する気? 早く着替えてきなさいな」

「え? ああ、そっか。清潔な服って、ここで着替えるのか」

「そうよ。ぐずぐずしないで。あまり時間はないんだから」

「……そこにいたのか、クレア――クーレアントニース」

 両手を腰に当てたクレアさんに、金髪の男が声をかけてきた。緑色を貴重にした衣服に、濃緑色のマント、それにクレアさんとお揃いの、葉っぱをモチーフにしたペンダント。
 耳が少し尖っているのが特徴的だ。
 男を見て、クレアさんは柔らかな笑みを浮かべた。

「あら、お父様。お久しぶりです」

「息災で何よりだ。少々、はしゃぎすぎていた感は否めぬが」

「あら、見てらしたの。意地の悪いこと」

 苦笑いを浮かべるクレアさんに、男は口を曲げた。

「あの、クレアさん。こちらは?」

「父よ」

 クレアが紹介すると、金髪の男は俺に会釈をした。

「直接まみえるのは、二度目か。わたしはアブールの森に住む、森の民の王、アンフェルスと申す者。予言の忌み子、ジン・ナイトよ。娘が世話になっているようだな」

 軽く会釈をするアンフェルスに、俺は会釈を返した。

「王様……ということは、クレアさんは、お姫様?」

「まあ、そうなるかしら。あまり、気にしたことはないけれど」

「……もう少し、気にして欲しいところだが」

 複雑な顔をするアンフェルスから、気まずそうに目を逸らしたクレアさんが、取り繕うように俺に言った。

「ええっと――それより黒髪君、早く着替えてこないと。本当に時間が無いわよ?」

 クレアさんが俺を急かしたとき、広間にラッパの音が響いた。
 バルコニーには如何にも貴族らしい、中肉中背で茶色い髪をした、中年の紳士が立っていた。上質な生地を使った衣服に身を包み、髪は後ろで束ねている。
 あいつが領主か――と思った矢先、クレアさんが苦虫を噛み潰したような顔をした。

「後見人殿ね」

「……あれが、例の?」

「そ。例の。それより、ステフはまだ来てないのね」

「あ、そういえば……着替えが遅れてるみたいですね、この様子じゃ」

 俺たちがそんな会話をしていると、その後見人、ダグドは高らかに告げた。

「オタール帝国、キャッスルツリー領、領主。ステファニー・アーカム・キャッスルツリー女伯のおなりである!」

 ダグドの宣言を、俺は背筋が凍り付くような気持ちで聞いた。
 今しがた耳にした名に、言いしれぬ既視感と、同時にある種の確信めいた予感が脳裏を過ぎったのだ。
 バルコニーを見上げる俺の前に、理の杖を持ち、紺色のドレスに身を包んだ女性が現れた。仮面とヴェールで素顔は見えない――だが、俺にはその体つきに見覚えがあった。
 俺の隣では、クレアさんも唖然とした表情をしていた。
 ステファニー女伯は椅子に座ると、ヴェール、そして仮面の順に外していった。白い仮面の下から出てきたのは、俺がよく知る少女の顔、そして俺とお揃いのイヤリング。

「ステフ――?」

 俺の呟きが聞こえたのか――聞こえるはずはないのだが――、ステファニー女伯は俺を見下ろしながら、手にした理の杖の底で床を叩いた。

「若き魔術師よ。魔術師ギルドへ入門できたこと、領主として喜ばしく思います」

 ステフの声で――しかし感情の籠もっていない、まるで石のように固い口調で、ステファニー女伯は祝辞を述べ始めた。

「今後も修練を積み、領地に住む人々のために、その力を振るってほしい。あなたなら、出来ると信じています」

 信じられないものを見るような俺の顔を見て、ステファニー女伯は目を伏せた。
 まるで、下唇を噛むようにステファニー女伯が口を閉ざすと、ダグドが女伯の姿を隠すように前へ出た。

「これにてオタール帝国、キャッスルツリー領、領主。ステファニー・アーカム・キャッスルツリー女伯の謁見を終了する」

 ダグドが宣言すると、ステファニー女伯は再び仮面とヴェールを身につけ、バルコニーから去って行った。
 そのあとも、俺は呆然とバルコニーを見上げていた。
 ステフが領主――貴族だなんて、俺は今まで知らなかった。今まで一緒に暮らしてきて、そんなことは一度たりとも伝えられていない。

『――幸せなんだよ』

 あの言葉も含めて、これまでの生活は虚構だったのか? 女神シャプシャは信じてと言っていたが――こんなの、どうすればいいんだ、俺は。
 あまりの衝撃に、頭の中が真っ白になっていた。
 誰も居なくなったバルコニーを見上げたまま、クレアさんに声をかけられるまで、俺はただ立ち尽くしていた。


 この日――いや、翌日になって帰りの飛行船が出航してもなお、ステフは俺たちの元に戻って来なかった。
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