魔剣士と光の魔女(完結)

わたなべ ゆたか

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短編

短編 第三話 後編

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 短編 第三話 冒険者と 後編


 戦い終わって。
 俺とステフは、廃墟の外壁に凭れながら腰を下ろしていた。
 少し離れたところには、オーガの骸が四つ。二体を斃したあと、廃墟からもう二体出てきた――情報より一体多かったが、こういうことは良くあるらしい。
 壁の上にいたゴブリンたちは、ギルダメンとガルボが斃してくれた。
 死骸から離れたところで休んでいると、ギルダメンと若い冒険者が近づいて来た。


「ジンに、ステフ」


 集めたらしい枯れ木を脇で抱えながら、大袈裟に手を振ってきたギルダメンに、俺たちは小さく手を振り返した。
 鎧に返り血のついたギルダメンは、俺たちの前に腰を下ろすと破顔してみせた。


「いや、はや――たった二人でオーガを四体も斃すか。流石だな」


「ありがとう、お爺ちゃん」


「……どうも、です」


 ステフに遅れて礼を言った俺は、ギルダメンたちの背後を見回した。


「他の二人は、どうしたんです?」


「廃墟の中だ。念のため、取りこぼしがいないか見ているな」


「あ、本当に? 俺たちも――」


「いや、おまえたちは休んでいろ――だと。オーガを斃してくれただけで、充分だとさ」


「……わかりました。それじゃあ遠慮無く」


「焚き火くらいしよう。少し待っておれ」


 ここに来るまでに集めた枯れ枝に、ギルダメンが火口箱の火種で火を点けているあいだ、若い冒険者は俺とステフから離れた場所に佇んでいた。
 炎が大きくなると、ギルダメンは若い冒険者を焚き火の前へと促した。


「しかし、二人の戦いは何度見ても圧巻だ。魔術師だけで終わらせるのは惜しいが……士官などの話はないのか?」


「いや……士官とか興味がないので」


 俺が肩を竦めると、ギルダメンは戯けたような表情で口元を歪めた。


「ガルボやローラが、おまえさんたちを冒険者に誘うか話しておったがな……それも興味なしか」


「うん。ごめんね、お爺ちゃん」


 ステフは答えながら、俺の腕に手を添えた。
 ギルダメンは鼻から息を吐くと、隣に座っていた若い冒険者の背を叩いた。


「まあ、そうれなら仕方ない。若い衆に頑張ってもらうとしよう。なあ?」


「え? あ――はい、その」


 若い冒険者はぎこちなく応じながら、俺をチラチラと見てきた。
 その理由は、容易に察しがつく。忌み子の俺といることに対抗がある、もしくは不安で仕方ないのだ。

 ……もう慣れてるから、別に良いけど。

 俺が諦めに似た感情を抱いたとき、ギルダメンは若い冒険者に見せるように、俺へと親指を向けた。


「おまえさんもジンの戦いっぷりは見たろう? こんなに頼もしい助っ人は、そうはおらんぞ」


「え……あ、そうですね」


「ふむ……若いの。冒険者でやっていくなら、外見なんぞで人を判断するでない。色々な国から来た者、そして色々な種族がおるからな。そうした毛色の違うヤツが、おまえさんの命を救ってくるかもしれんのだ。容姿を褒めるな、技術と人柄を褒めよ――地母神の教えでもあるだろう?」


「それは――頭ではわかっています。いるのですが……」


 続きの言葉を言い淀んだままで沈黙した若い冒険者に、ギルダメンは笑顔で腰袋から取り出した干し肉を差し出した。


「まあ、ゆっくりやってけばいいさ。だが、今は最大の功労者に対して嫌悪ではなく、賛辞を送るのが礼儀ってものだ」


 ギルダメンから干し肉を受け取った若い冒険者は、躊躇いながら顔を上げた。


「あの……お二人の戦い、凄かった、です。その、ありがとう……ございました」


「……どういたしまして」


「うん」


 若い冒険者のぎこちない礼に、俺とステフが目配せしながら苦笑していると、廃墟から出てきたローラとガルボが駆け寄ってきた。


「よお。戻ったぜぇ。依頼は終わりだな。魔物はもう、一匹もいねぇよ」


「中にはいたのか?」


「……ゴブリンが一体だけね」


 ギルダメンに答えたローラは、項垂れるように腰を下ろした。


「あーあ……あたし、今回はなーんもしてない気分だよ」


「そんな……私を護ってくれたではありませんか」


 どうやら、ゴブリンの伏兵がいたらしい。護衛として近くにいたローラが、ゴブリンから若い冒険者を護った様子は、俺にも見えていた。
 若い冒険者にパタパタと手を振りながら、ローラは溜息を吐いた。


「あたしが斃したの、その一体だけだしさ。廃墟の中にいたゴブリンも、結局はガルボが斃しちゃうし」


「そういうときもあるだろう。気にするでない」


 ギルダメンが苦笑しながら、煙管に火を点けた。楽しむように紫煙を吐き出したギルダメンは、ローラとガルボに意味ありげな視線を向けた。


「それで……廃墟の中には、なにもなしか?」


「ああ――いや、あるにはあったけどよ、しけたもんだぜ」


 ガルボは背負っていた袋を地面に置くと、中から一握り分の貴金属を取りだした。貴金属の中から、合計で七枚の銀貨を取り出すと、ガルボは少し悩みながら一枚を摘まみ上げた。


「とりあえず、山分けできそうなのはこのあたりだ。一人一枚、そこの魔術師は二人で三枚ってのはどうだ?」


「妥当だな」


「そーねー。いいんじゃない?」


 ギルダメンとローラが同意すると、ガルボは銀貨を投げながら分配し始めた。
 手前に落ちた三枚の銀貨に、俺は言って良いのか悩みながら、口を開いた。


「あの……これってもしかすると、犠牲者の?」


「ああ、遺品だぜ? 多分というか、間違いなくな。けどさ、死人には無用の代物だ。ああ――押し入りした気分っていうなら、安心しな。先に強盗したのは、ゴブリンやオーガだ。俺たちが犠牲者を殺したわけじゃねぇ」


「それに、全部を貰うわけじゃないしね。身元が分かりそうな貴金属類は、ギルドに持って行くんだよ。行方不明者の捜索依頼とかあったときに、こうした遺品が役に立つんだってさ」


 ガルボのあとを引き継いで、ローラが俺にそんな説明をした。
 だからといって、遺品の銀貨を貰うのことには抵抗がある。俺が躊躇っていると、ローラが嘆息するような息を吐いた。


「気にせず受け取りなよ……っていうか、受け取っておけ。じゃないと、あたしらが貰いにくいだろ?」


「でも……俺たちはギルドから報酬でるし」


「あたしらだって出るんだよ。ただでさえ、今回は報酬が安いんだ。オーガを四体も斃したにしては、銀貨三枚なんて安すぎるくらいなんだよ。ほら、拾え拾え」


「ああ……」


 俺は曖昧に頷きながら、躊躇いがちに銀貨を拾い上げた。
 手の平の銀貨を眺めていると、ギルダメンが気遣わしげに声をかけてきた。


「やはり、気になるか?」


「少し……こうやって稼いだことがないから」


「なるほどな。だが、ここはローラの言うとおりにしけおけ。怒らせると怖いぞ?」


 ギルダメンはそう言って俺に片目を――不器用に――瞑ってみせると、立ち上がった。


「それでは、戻るとしようか。早く酒が飲みたいしの」


「そうだね。ちょっとは贅沢してもいいかな、今日は」


 ローラやガルボは手早く荷物を纏めると、土をかけて焚き火を消した。
 俺は銀貨をどうするか悩みながら、ステフが立ち上がるのに手を貸した。


「宿に入ったら、まずは湯浴みがしたいなぁ。砂と泥まみれだしさ」


「そうだね……一緒に湯浴みする?」


「しないってば」


 にひひ、とした笑みを浮かべるステフを横目で見ながら、俺は溜息交じりに答えた。

 そんなことしたら、理性ぶっ飛ぶってばさ。

 俺とステフは、ローラに「イチャイチャすんじゃないよ」と言われながら、冒険者たちのあとを付いて宿場町への帰途に就いた。

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本作を読んで頂き、ありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

 四月になりましたね。
 ブルース・ウィリスが引退したり、フー・ファイターズのテイラー・ホーキンスが急逝したり……ショッキングなニュースが多かった三月末。
 ブルース・ウィリスの引退は、ニュースを見たのが四月一日だったこともあり、エイプリルフールネタに見えてしまい「さすがに不謹慎だろう」と思ったくらい。マジだったか……。
 テイラー・ホーキンスは薬物が死因ではと言われてますので、ちょっと複雑です。芸能界ってやつは……多いですねぇ、こういうの。


閑話休題

 第三話は、第三章でトロール戦のあとに入れようとしたのですが、二つの理由でやめました。
 一つ目は、話が冗長になるのでは……と。
 二つ目は、秋アニメで範馬刃牙がやることを知ったので、ネタ被りしちゃうと思ったので……オーガ的な意味で。


 短編ですが、第四話までになります。

 第四章のプロットは、もうすぐ完成。資料が見つからなかったので、話を大幅に変えちゃいました。捨ててないと思うんですけどね……魔道書的な本。どこいったんだろう?

 少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

 次回もよろしくお願いします!    
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