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魔剣士と光の魔女 第五章 忌み子の少年と御使いの村
間話 その2
しおりを挟む間話 その2
神話の時代――。
まだ、帝国が形を成していなかった頃。当時は異国だった土地に、巨大な神殿が建てられていた。
神殿の周囲には、胸部を象った胴鎧を身につけた兵士が並んでいる。木製の盾と槍を構える兵士たちは、まるで壁のようだ。
夕刻になると神殿の周囲、外壁にある階段――至る所に篝火が焚かれた。
やがて騎馬の列に囲まれ、黒いローブと黒い杖を持つ一団が現れた。集団の中央には両手を縛られた、白い衣を着た幼い少年がいた。
ふらふらと覚束ない足取りの少年は、虚ろな表情で、虫の羽音のような笑い声を漏らしていた。口の端から涎が垂れているが、気にする者は誰も居ない。
一団が近づくと、兵士たちは道を空けた。
真っ直ぐに階段を登った黒い一団は、少年を連れて神殿の中へと入ってく。南側にある出入り口しか、開口部のない儀式場だ。中央には緩やかに窪んだ丸い台、その北側には女神の石像が奉られた祭壇がある。
丸い台には中央から女神像へ、一本の溝が刻まれている。
黒いローブの男に背中を押され、少年が台に乗せられた。
「我らが神よ――こちらにあるのは、我らからの捧げ物に御座います」
黒いローブの男は杖を従僕に渡すと、代わりに短剣を受け取った。
「さあ――幼き魂を受け取り給え! そして我らが宿敵を滅ぼ――」
「神官殿!」
祈りの途中で、兵士の一人が儀式場へ飛び込んできた。
「……なにごとだ。我らが破壊神への祈りの途中である」
「空に魔物が!」
神官と呼ばれた黒いローブの男の目が、見開かれた。
太陽と月が浮かぶ空は、夕暮れと夜とに別れていた。その境界線は赤黒く、どこか異界の空を思わせる。
そんな神殿の上空に、一つの影があった。
黒い馬に跨がった、鎧に身を包んだ獅子だ。その前足――いや、鋭い爪はそのままに、人に似た両手には、漆黒の槍と炎を纏った大蛇が握られていた。
その獅子――魔王は、漆黒の矛先を神殿へと向けた。
「エアリス、風を」
〝はい! 御主人様!!〟
半透明の少女――風の精霊エアリスが笑顔で手を振った途端、嵐のように吹き荒れる風が神殿を襲った。
「砂塵を巻き上げよ! 我らに仇を成す者たちを滅ぼせ!!」
魔王の命で、風の精霊の操る風が巻き上げた砂塵が、神殿や兵士たちを包み込む。
〝聞こえる――音が。すべてを滅ぼす音が!! 我が風は船を沈ませ、石をも崩す破滅の風なり。沈静の空気、炎すら打ち消さん!!〟
風の精霊が叫んだ途端、神殿に亀裂が走った。
儀式場のある最上部が崩れるのを切っ掛けに、神殿の崩壊が始まった。風に当たる表面から、積まれた巨石が粉々に崩れていく。
近くにいた兵士たちは、逃げ惑うばかりだ。すべての篝火が消え、神殿の階段が崩れ落ちた頃、その兵士の中に正気を失った者が出始めた。
「ひ、光がこっちに来る! 魔物だ! 魔物が襲って来たぞ!!」
光など、どこにも見えない。兵士たちは、幻覚や幻聴に恐慌をきたしていた。薄暗がりの中、無茶苦茶に槍を振るう兵士たちが、同士討ちを始めていた。
凄惨な光景を眺める獅子の横に、黒い渦が巻き上がった。
「大将軍殿――終わりましたか」
現れたのは、人の顔を持つ牛だ。雄牛のような角を生やしてはいるが、その目には明らかな知性を感じさせた。
半分以上が瓦礫と化した神殿や、虐殺が行われている光景を眺める牛の魔王が、ほうっと息を漏らした。
「邪神の召喚など、我ら七二柱の魔王に仇成す行為ですからな。天空神らの手助けになるのは気に入りませんが、放ってもおけませぬ」
「些末なことを気にするな。この世界は、まだ我らにも必要だ。人間とて利用価値はある、が――まさか、空気の質を変えただけで簡単に狂うとは」
「脆弱な存在ですからな。精霊の風一つで、あの有様とは。この部族は、これで終わりですな。放っておいても、攻め込まれて滅びるでしょう」
「そうだな。我らの仕事は終わりだ」
その言葉を最後に、二柱の身体は漆黒の渦に包まれた。
すべてが終わったあと、かつては神殿だった瓦礫から、白い影が這い出てきた。埃で汚れた白い衣を着た、生け贄の少年だ。
儀式のために飲まされた薬の効果が薄れてきたのか、もう笑顔は浮かべていない。屍と瓦礫に覆われた場所で、少年はただ夜空を見上げていた。
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本作を読んで頂き、ありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
早出出勤のために、休日も関係なく早起き生活を続けています。土日の早起きは、正直あまり利点はなかったりするのですが……数少ない利点は、ポケモンGOのジムが落としやすいこと。
4時台とか、マジで邪魔が入りません。フルメンバーが揃ってても、体力みたいなものが減ってますので、五分くらいで落とせます。
まあ、平日はそんなことやってる暇ないんですけどね……。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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