魔剣士と光の魔女(完結)

わたなべ ゆたか

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魔剣士と光の魔女 第五章 忌み子の少年と御使いの村

エピローグ

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 エピローグ


 俺たちが破壊神アラートゥを退けてから、二日が経った。
 そのあいだ、クレアさんがエイミール・シンドウル嬢への依頼完了と村で起きたことの詳細、そしてステフは魔術師ギルド本部へ破壊神復活の連絡をした。
 双方から、こちらへ出向くという返答があったようだ。そんなわけで、俺たちはタイクの小屋で彼らの来訪を待つことになった。
 そして今日、ダンコ村で彼らと会う予定となっていた。
 申し合わせたかのように、彼らはほぼ同時に現れた。

 虹色の魔力を吹き荒れさせながら、濃緑色のローブに金髪の魔術師が転移してきた。ブルーの目をした魔術師は、魔術師ギルドの連絡員――いや、魔術師ギルドの長である、オーレン・カルシ・サムカ、その人だ。
 今は姿を変えているけど、本来は銀髪で赤目の吸血鬼――という噂である。

 もう一人は、白い客車を持つ二頭立ての馬車だ。騎馬に護られた馬車は俺たちの前で停まると、客車からエイミール嬢が出てきた。
 村人たちが少し遠巻きに見守る中、エイミール嬢と長は互いに自己紹介――長は偽名だったが――をしたあと、俺たちに近寄って来た。
 口を開いたのは、長が先だった。


「色々と言いたいことはあるが……ひとまずは、ご苦労だった。たったこれだけの人数で、よく破壊神を退けてくれた。ただ、一つ不満があるとすれば、すぐに応援要請が欲しかったところだな」


「御言葉ですが、破壊神はわたくしたちの目の前で復活致しました。悠長に応援を――」


 弁明をするステフを片手で制した長は、小さく溜息を吐いた。


「慌てるな。責めているのではない。破壊神アラートゥは、遙か昔にも現れた。そのときは、人間や妖精族などが総力をあげて、破壊神に抵抗した。当時は魔術師たちの秘儀を使い、破壊神を退けたのだ。そのときは、魔術師ギルドの長――も参加したようだ」


 長の言葉に、僅かだけど希望が芽生えてきた。
 再び魔術師ギルドと帝国――そして周辺諸国が手を組めば、破壊神に対抗できるかもしれない。

「それじゃあ、その秘儀をまた使えば、また破壊神を追い返せるってことですか。すぐにでも準備を始めて――」


「落ち着け、ジン・ナイト。そう簡単ではないのだよ」


 長は溜息を吐くと、「へ?」という顔をした俺から視線を逸らした。


「破壊神が前回降臨したのは、遙か昔だと言っただろう。当時の記録というか、魔術書といいうかだな……探すのに少し手間取りそうだ」


「いや、あの……当時、居たんですよね?」


 近くにいるエイミール嬢に気を配りながら、少し小声で質問すると、長は気まずそうな顔をした。


「居たが……そんな大昔のことまで、詳細に覚えておらん。だから、三〇日とはいえ、時間が稼げて助かったと思っている」


 この人……秘儀を忘れたな?
 俺を含め、状況の飲み込めていないタイクとウーイ以外の全員が、半目で長を見た。


「そろそろよろしいかしら?」


 一礼して下がった――俺たちの視線から、逃げたのかもしれないが――長の前に、エイミール嬢が進み出た。


「さて。この村の付近を荒らしていたという野盗は、おまえですね?」


 クレアさんから聞いていたのだろう。エイミール嬢は、タイクとウーイに険しい目を向けた。


「一つお聞きしますが――あなたがたは、なぜ殺しをしなかったのです?」


「いや……だって、ウーイに殺しなんか見せたくないし……あ、いや、ないです」


 俺よりも怪しい敬語のタイクが答えると、エイミール嬢は無表情で頷いた。しかし、その口に少し笑みが浮かんだ気がするけど……一瞬だったから気のせいかもしれない。


「野盗になった経緯、それに状況も聞いています。申し開きもあるでしょうが、罪は罪。公正な裁きを以て罪を償って頂きますわ」


「エイミール様……その二人は、キャッスルツリー領にて更生をと思っております。どうか、ここでの処罰は、お考え直しを」


 ステフの懇願に、エイミール嬢は小さく首を振った。


「いいえ。我が領地で起きた罪は、領地内で裁かなくてはなりません。そちらで勝手に決めるというのであれば、越権行為として然るべき対処を取らせて頂きますわ」


 エイミール嬢の苦言に、ステフは一礼しながら「失礼致しました」と謝罪した。
 そんなやり取りを聞いていたのか、三人の村人が近寄って来た。


「御領主の御息女様とお見受けいたしました……どうか、あの盗人野郎を処刑して下さい。この兄妹は、大きくなるまで村で世話してたんですが、その恩を仇でかえし――」


「お黙りなさい」


 村人の言葉を、エイミール嬢は強い口調で遮った。


「この兄妹が野盗になった経緯は、魔術師ギルドの者たちから聞いておりますわ。病に伏したこの兄妹の両親を見殺しにしたのは、許されることでは御座いません。領民たちの私的制裁は認めていないこと――まさか、知らないとは言わせませんわ」


「で、ですが……忌み子を」


「反論など許しません。その兄妹は野盗に身をやつしましたが、殺人は侵しておりません。その一点においては、おまえたちより罪は低いですわ。さて後日にはなりますが、おまえたちにも公平な裁きが行われるでしょう。覚悟しておきなさい」


 村人たちへ言い放ったあと、エイミール嬢はタイクたちへと向き直った。


「さて……そこの兄妹。野盗として民の財を奪った罪、決して軽くはございません。おまえたちは我が領土から、キャッスルツリーへ追放いたします。そして……そこの女。貴女はこの兄妹が野盗であると知りつつ、援助をしていましたね? おまえも同罪とします」


「謹んで、お受けします」


 頭を下げるミーアの横で、ステフもエイミールに一礼をした。


「寛大な処置、感謝しかございません」


「畏まらないで下さいまし。わたくしは、領主の娘としての責務――いえ、そうですわね。感謝して頂きますわ。これは貸しとしておきましょう」


「貸し……ですか?」


「ええ。わたくしの貸しは高いですわよ? ステファニー様、そしてジン・ナイト様。あなたたちには、破壊神から世界を救って頂くことで、貸しを返して頂きますわ」


 エイミール嬢の言葉に、俺とステフは顔を見合わせた。
 少しだけ互いに微笑んだあと、俺はステフと一緒に、エイミール嬢へ頭を下げた。
 もちろん、喋るのはステフだ。


「畏まりました。尽力いたしましょう」


「ええ。尽力して下さいまし。期待しておりますわ。それに、協力も。女帝陛下や帝国軍への連絡は、お任せ下さいませ。あなたがたは、破壊神への対処法を」


 優雅に微笑むエイミール嬢は、なにかを思い出したように、ポンと手を叩いた。


「そういえば、女帝陛下が心配しておいででしたわ。あなたがたが夫婦になるのはいいとして、妾はどうするつもりか――と。領主の跡継ぎを絶やさないためには、妾は必要ですものね。最悪、女帝陛下自らお選びになるそうですわ」


 エイミール嬢から言われた内容は、俺とステフにとって青天の霹靂だった。
 妾……いらないよなぁ。
 それはステフも同意見だったようで、困ったような顔をしていた。俺は肩を竦めると、「必要ない」と答えようとしたけど――。


「女帝陛下には、ご安心下さいとお伝え下さい。わたくしが候補ですわ」


 クレアさんの声に、俺は驚いた。それはステフも同じようで、見開いた目でクレアさんを見ていた。
 エイミール嬢が「畏まりました。伝えておきますわ」と応じて、馬車の周囲にいた騎馬たちに、村人たちが逃げ出さないよう見張りを命じ始めた。
 俺たちの視線を受けたクレアさんは、頬を染めながら苦笑してみせた。


「これが一番いい方法でしょ? ステフからジンを奪うでもなく、女帝陛下にも言い訳できるし」


「でも……」


「じゃあ、女帝陛下から誰かを宛がわれたほうがいい?」


「あ……う……そういうわけでは……」


 しばらく悩んだステフは、数十分後に項垂れながら折れた。
 破壊神との対決が迫る中、こんなことで悩むんでいる暇はないかもしれないけど……いや、これは悩むわ。マジで。

 とにかく、決戦は三〇日後である。
 それまでに、準備が間に合うか……限られた時間で、できることをやるしかない。そう思いながら、俺は固く拳を握った。

                                    完

――追記。

 この日、俺がクレアさんに話しかけたとき――。


「ああ、そうだ。言っておくけど、ジンから手を出してきたら拳骨で殴るから」


 こんなことを言われたわけですが。
 今後、クレアさんと喋るのが、ちょっと怖くなった今日この頃です。

                             今度こそ、本当に完

---------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、ありがとうございます!

これにて、第五章は終幕です。あとは第六章ですね。

ただ、これから少しのあいだ、おまけが続きます。

第六章のプロットは、これからです……。


しばしお待ち下さいませ。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


次回もよろしくお願いします!
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